『ジャック・・・・・・』







立ち尽くすへカズからの通信が入ったのは





クリサリスを倒し・・・しばらく経ってからだった。





「あの女にまんまとやられた。」


『気にするでない、まだ挽回は出来るぞ。』


『・・・・ジャックにその意志があればな。』


「俺の意志は決まっている。」


『そうネ、何も迷う事はないアル。』





無線でヒューイから"ピースウォーカーの場所を
確認した"とサニーは続ける。


『最終実験基地は、その研究施設から北に15マイル。
岩石採掘場に偽装している地下基地だって。』


「わかった。ありがとうサニー。」


『ジャック・・・本当にアレを壊せるのか?』


「ああ。」


『カズさん、何が言いたいんですか?』





新八の疑問に、カズは淡々と答える。





『人間には、出来る事と、出来ない事がある。』


「大丈夫だ、今度はしくじらない。」


ビッグ・ママを殺したのはお前だ。
AIの破壊は、もう一度、その過去をなぞることになる。』





そう言われ、は少し顔を強張らせる。





「・・・あれはただの機械だ。」


『カズさんどうしたんです?』


『・・・ジャック、心配なんだ。』


『心配って・・・何がです?』


『CIAが核発射をAIに委ねたのも、それが理由だ。

人間、重責を担う覚悟があるなら、罪人の1人や2人の
死刑宣告は出来るだろう。


だが、数十億の罪のない民間人を殺せる人間は?
何千年も築いてきた人類の歴史を、一瞬で灰に出来るか?』


『んな事生きた人間に出来るわきゃねぇだろパチモンの俺。』


けだるそうに言う銀時とは裏腹に、カズは真剣に語りだす。





そうだ出来る筈がない!一人の人間が、人間という
種の終末を負う事なんか出来ない。


だからこそ臆病な人類はこの数千年もの間、生き延びてきたんだ
・・・しかし、機械なら意志の力は関係ない。』


「カズ、何が言いたい?」





遠回しに発言するカズに 彼は苛立ちながら疑問を投げかける





『お前は英雄だ・・・でも、機械ではない。』


「俺にはあのAIを破壊出来ないと?」


『あの機械の問題じゃない、お前の中で
未だ「ビッグ・ママ」死んでないってことだ。』












第13話 人の気持ちは複雑怪奇…本人でもね











図星だったが、今のには受け入れられない言葉だった





瞬間的に頭に血が上り、無線越しに当人は強く怒鳴る。


「っ馬鹿な事を!!!


ジャック!!
認めなければならない。ビッグ・ママの死を。』





言葉を切り出させないの心情を思ってか

カズの方から、冷静に話を切り出す。





『言葉を換えよう、ジャック。お前はこの依頼を受けることで
国も身分も過去も理想も、何もかも棄てた・・・・・

だが、お前には棄て切れてないものがある。』





繰り返される遠まわしな言い方に、彼の中の苛立ちが再燃する





「・・・どういう意味だよカズ。」


ビッグ・ママだ。お前は、彼女を棄て切れていない

だからこそ、彼女の真実を知るのを恐れている。』


『カズさん・・・私達はあの時、のお母様の意志を
教えてもらったんです。ビッグボスに。』


『それは、あくまで語られたモノだろう。
本人の意志を全ては知り得ない。』


『で、何が言いたいアルか?』


『恐らく・・・それがあいつの行動を
未来を抑止している主因だ。』







そのまま無線越しの沈黙が続き、カズが重い口を開く。





『ジャック、彼女が亡くなって1年になる。

いつまで亡霊と生き続けるつもりなんだ?


「・・・・カズ。俺は彼女の全てを知っているつもりだった
しかし彼女の最期に何があったかは、未だに分かっていない。」


『その点はあの博士と同じだな。』


「彼女に疑われて初めて意識した。俺が聞いた
"デ・ブリーフィング"は奴らが創ったカバーストーリーの
一つだったのかもしれない。


・・・俺も 今となってはママの本意は分からない。

彼女が何故、あの任務を引き受けたのか?
彼女はどういう想いで死んだのか?何故俺が選ばれたのか?



『・・・その真実を知りたいか?』





疑問に思っていながらも、は内心
その真実の先を恐れていた。


そのせいで・・・・返答できずに黙り込む。





『真実を知っても、過去は変えられない。それでも?







答え返したのは・・・痺れを切らした銀時だった。





『オイ、テメェにその覚悟がねぇとでも言いたいのか?』


『今のあいつにあるとは思えない。』


『だろうな・・・俺らもそうだったよ。





思わぬ返答に、耳を傾けていた彼の表情が僅かに変わる。





『最初はあの人を追いやった国なんてどうでもよかったんだ。

けど・・・・その奥底にある魂を知ってたから、ここまで
俺達ゃ生きてこれたんだ。』


『そうだとも、俺も何度あの国を更地に変えてやろうと
考えたかも分からん。
・・・だが、それをあの人が望んでいるとも思えない。





言葉を切り、小さく笑んで・・・桂は次のように言う





だからこそ、は真実を知るべきかもしれん

・・・きっとお前ならどんな正面から受け止められるさ。』







二人のその言葉に多少なりとも心が晴れた


少しだけ、開き直るように切り出す。





「いや・・・そもそも俺がこの任務を引き受けたのは
"平和を信じる"コスタリカの少女のためだ。」







どう聞いても開き直りにしか聞こえない。


内心そう思いながらも・・・ため息一つついて

不本意ながらもカズはその意見を受け入れることにした。





『わかった この議論はもう止めるとするよ・・・

もうじき、ピースウォーカーは完成する。
国境近くの基地へ急ごう!・・・さあ、ボス。』


「了解した。」









返事をして通信を切ったは、国境近くの基地へ
急ぐべく歩み始める・・・





と、間もなくしてアンダルシアンがこちらへ身を寄せてきた。





「ブルルル・・・」


「まさか・・・乗れって言ってるのか?」





彼の記憶の中では・・・この白馬はビッグ・ママ以外の
人物には、背を預ける所か懐きもしなかった。


しかし白馬は今、その身を寄せている





(俺に・・・背中を預けてくれるのか?)







足をかけてがまたがったのを確認すると


アンダルシアンは、軽快な足取りで走り出す。





道のりを覚えているのか ほんの少しの指示だけで

馬はするすると目的地へ駆け進んでゆく





しばらくして、カズからの通信が入った。


『アンダルシアンの調子はどうだ?』


悪くない、もう20歳は超えてる老馬のはずだが。」


『彼女の馬だからな。』


「ああ・・・魂が乗り移ったようだ。」


少し微笑んで彼が首を優しく撫でると

アンダルシアンは嬉しげないななきをもらした。







木々を縫う岩山の崖へと出れば、遥か下に
採掘場らしき場所が広がってるのが見て取れる。


(あれが、ピースウォーカーのある地下基地か)





タイミングよくヒューイからの通信も入る





『本体とママルポッドがアセンブルされる場所は
採掘場に偽装した地下基地のはずだ。恐らく
既に本体とAIは到着し、最終実験の準備に入っている』





説明を聞きながら、は望遠鏡を使い
地下基地の偵察を開始する。





本体の破壊は難しい 接近してママルポッドの破壊を
試みるんだ。何としても、僕のピースウォーカーに
核を撃たせないでくれ。』


『言われるまでも無いさ。』


『・・・お願いだジャック、急いでくれ!』





アンダルシアンを安全な場所へ誘導を


彼は見張りを掻い潜り、採掘場までたどり着く。







と・・・ちょうどピースウォーカーが
地下基地へと降りてゆく所にかち合った


機体が収納され昇降口が閉じられたのを見届け・・・





動こうとした直後、その目の前にキッドナッパーが現れる


「げ」





撃ち落とそうとするが遅く、飛び去りながら機体は
警戒音を辺りに鳴り響かせ


それを聞きつけ遠くに見える扉から敵兵が次々飛び出す





ジャック、まずい!警備中の兵士に見つかった。
なんとしても奴らを排除するんだ!』


「ああ・・・ざっと確認した所キッドナッパーが数機
スナイパーと、重火器装備の兵士もいるな。」


『ちょ、ちょっとやばくないですか!?』


「正直な・・・だがこんな所で
止まっているわけにもいかないだろう。」


すぐにスナイパーライフルを送る!
それまで接近する兵士を優先的に排除するんだ!』


「了解だ。」





パトリオットを構え、は早速近づいてくる兵へ
確実に銃撃を加えて数名を倒す





遮蔽物を使い弾丸を防ぐ相手に対しては


その遮蔽物の両脇にグレネードを放り込んで





『ぐわぁぁぁ!!』


逃げ場をなくし、爆発によって兵士を吹き飛ばす。





『攻撃開始』





キッドナッパーが飛来し、攻撃を仕掛けてくるも

すぐさま対応したため数発服を掠める程度に留まり


パトリオットの反撃により機体はあっさり落ちていく。





「ぎゃあぁぁ!」


「お・・・キッドナッパーの爆発に巻き込まれたか。」


運の悪い事で、と不謹慎ながらも考えた所に





『スナイパーライフルが届いた!受け取れ!





空からのダンボール支援が落下してきた。





地面に叩きつけられた箱の中から出てきたSVDを
手に取ると、彼は構えて遠くのスナイパーを狙撃する。







あらかた片付いた辺りで増援の兵士が駆けつけ





「挽き肉になれ!」


一人が叫ぶと、バズーカを撃ちこんでくる。





すぐにその場を離れて爆発を避けると





「っと・・・沖田君より、動きにキレが無いな!


バズーカを持つ兵士達を次々と撃ち倒していく。





最後の一人が倒れた所で、眼と鼻の先まで
増援された兵隊達が接近してきていた





「直接倒せ!」





ライフルを構えて距離を詰める兵士達へ


は・・・地を蹴り逆に急接近する





「連続!」


言いつつ、一人の兵士を掴んで薙ぎ倒し





「C!」


流れるように隣の兵士の腕を捕らえて叩きつけ





「Q!」


更にその横にいる相手の胸倉を捕まえた後
足払いでバランスを崩して地面に伏せさせ






「C!」


踏み込んで後ろに回った兵士を後ろ手に掴むと

前方に残っていた兵士めがけて投げ飛ばし



・・・数秒で全ての者達を沈黙させた。





「・・・こいつらはフルトン回収しておくか。
なかなか優秀な兵士のようだし。」







辺りを見回し、増援が出てくる気配が無くなった事を知り





(ようやく敵を無力化できたか・・・)


息をついて彼は最下層の扉から地下基地へ侵入を試みる


・・・・・・その時、後ろから地響きが響き渡った。





「な、何だ!?





振り向くと 採掘場の最上部に


巨大な重戦車のような兵器が姿を現していた。





頭頂部のAIポッドを見る限り・・・恐らくはあれも
無人兵器の一つに違いない、と確信できる。







兵器は巨体に見合わぬ機動力で斜面を軽快に駆け下り


轢かれそうになる直前で高台に上がって
難を逃れたに向けて


巨体に張り巡らされた銃火器が一斉に照準を合わせる。





「あくまで邪魔するつもりか・・・」





こいつを突破しないと地下基地には潜入出来ない。



そう理解したは 眼前のAI兵器「コクーン」
ライフルを向け、戦闘態勢に入るが





この巨大な兵器相手に・・・勝ち目はあるのか・・・?








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後書き(退助様サイド)


退助「ここからは意外に駆け足で進んでいきます。
クリサリスから一気にコクーン戦まで行きました。」


新八「やっぱりさん・・・
まだ引きずってるみたいですね・・・」


神楽「マミー手にかけたから無理もないアル、けど・・・」


サニー「また、その過去をなぞることになるなんて・・・」


カズ「その議論はなしだと言ったはずだ。

今はコクーンを排除し、ピースウォーカーを何としても
阻止する一時に専念するんだ。」


銀時「するんだって、オメェがやるわけじゃねぇだろぃ。
よく分かんねぇ小難しい理論ぶちやがって」


カズ「いちいち揚げ足を取るな銀時!」


桂「まあまあ落ち着け銀時にカズ殿。」


銀時・カズ「黙っとけアズラン!」


「アズランじゃない桂だ!」