研究施設の奥にあったのは、巨大なAIポッドだった。
「これが・・・私が産み落とした"モルフォ蝶"」
そのAIから、ガルベスが渡したテープに
録音されていた"あの歌"が聞こえてくる。
「蛹でも繭でもない。
完全の名を享受した成虫(イメイゴ)だ。」
『誰かいるの?』
突然しゃべりだしたAIポットの音声は・・・
もはや、疑いようが無かった
「っ、ママ・・・・!」
「客だ。紹介する。」
答えてからストレンジラブは、隣へ釘を刺す。
「妙な真似はするなよ、この部屋に居る限り
ボタン一つでお前を炭素の塊に変える事が出来る。」
『・・・あなたは誰?』
ビッグ・ママの声で訊ねるAIポッドの元へ
は・・・ゆっくりとした足取りで歩み寄っていく
『男の人・・・戦士・・・』
声と共にAIポッドの外壁が上がっていき
本体が露出されてゆく。
「ママは・・・?これが、ママなのか・・・?」
「私は『ママルポッド』と呼んでいる。」
「ママルポッド?」
ストレンジラブは、手元の資料を見ながらこう言った
計画への協力と引き換えに・・・自分は
ビッグ・ママのあらゆる情報を要求した
生い立ち・従軍記録・身体データ・全作戦ファイル
通信記録・いかなる状況下でいかなる判断を下したか
奪ったもの・奪われたもの・感じた苦痛と快楽
喜びと悲しみ・生と死の全て・・・
そうして勿論 のことについても
第12話 傷痕っつーのは本人の中で
深いほど向き合えず、捨てきれない
CIAが知りうる全てのデータを求めた彼女へ
「何故そんなことを?」
訊ねた彼へ、淡々と言葉が返されていく。
「コールドマンの要求はこうだった。
仮想敵からの核攻撃に対し、最適な地点に効果的な
報復を与えるための相互確証破壊に基づいた人工知能。
人間に出来ない判断と行動を成し遂げる
抑止力としての、無人装置の創造・・・」
それに対して博士が出した結論は・・・
相手が次なる核攻撃に出られぬよう早急に
確実に、徹底的にその相手を潰す。
そのために冷徹なる機械のプログラムを作成すること
「だが あの男にはあえて違う答えを用意した。」
「何?」
「地球規模で思考し、未来と過去を熟慮し
苦痛の先に最善の判断を下す。
最も優れた共感脳の思考パターンが必要だ・・・・と。」
その一言に、は先程の彼女のセリフの意図に気付く
「そのためにビッグ・ママの全てを求めた?」
「・・・・間違いではない。全人類の喉首を
委ねられる人物は、私の知る限りただ一人だ。」
「だが・・・本当の目的は何だ。」
途端、グラサン越しの瞳が鋭い光を放つ
「ビッグ・ママの汚名をそそぐ事だ。」
伝説と謳われた彼女の裏切りと、最愛の弟子の手に
かかって死んだ最後を 疑問に思う口調は冷静だが
端々に・・・強い憤りが覗いて見えた。
「創られた虚構ではなく・・・ママの真実・・・
最後のママの意志を確かめたい。
それこそ、お前が知りたい事でもあるはずだ。」
問われるまでも無くは・・・ビッグ・ママの
最後の意志を知っていた。
けれどそれと同時に・・・彼女が汚名を着てまで
自らの手にかかった決意も理解し
その意志を・・・志を継いでいるからこそ
今の彼女には 教えられないと感じていた。
「いや、ママは・・・国を、俺達を棄てたんだ。」
「ほう・・・彼女の気持ちが解るのか?」
「お前は・・・ビッグ・ママのあの時の
最後の思考を再現しようと?」
「本人に直接聞くがいい・・・ジャック。」
『ジャック・・・・』
その単語に反応し、ママルポッドの反応が変わる。
『ジャック・・・!』
「ママ・・・!?」
『ジャック・・・!』
近づいたへ、ママルポッドは・・・
生前の彼女のような強い口調で叫ぶ。
『ジャック!帰れ!もはやお前のボスは私ではない!』
「ママ・・・!」
『帰れ!』
「いや違う!俺は・・・・」
「目的を果たせ、 ・・・もう一度
その尊い魂を奪うことができるのなら。」
ストレンジラブの言葉を合図に外壁が下り
は ママルポッドの中に閉じ込められる。
『ジャック・・・!
帰れ!もはやお前のボスは私ではない!帰れ!!』
彼女の声と、あの曲とが繰り返されるAIポッドの中
「こんなものが・・・・ママであるはずがない!」
は感情に任せ、記憶板を抜いていく。
『どうして・・・・戻ってきた?
帰れ!もはやお前のボスは私ではない!』
「こんな機械に・・・ママの魂が宿っているはずがない!
こんな作り物に・・・!」
がむしゃらに記憶板を抜いていくが、声も歌も止まず
突然 彼の視界が歪み始める。
『何・・・この反応は・・・!』
鳴り響いたエラー音に反応して
「ああ、まずい!止まれ!!」
モニターしたストレンジラブがママルポッドを
強制停止させた、その直後
・・・・・・は 気を失った。
目覚めると、辺り一面がオオアマナで広がっていた。
あの時・・・ザンジバーランドでビッグ・ママと
戦った場所と同じような場所
起き上がった俺の目の前には・・・・・
死んだはずの、ビッグ・ママがいた。
「何もかもあなたに教えた。後はあなたが自ら学ぶこと・・・」
「確かに技術は・・・しかし、兵士としての精神は・・・」
彼女は突然マントを脱ぎ捨て 猛スピードで
こちらへ距離を詰めてくる。
反射的に銃を向けて放つが紙一重で避けられ
すぐにナイフで切りつけ応戦したつもりが、それも見切られ
ママに腕を掴まれCQCでなぎ倒される。
「ぐあっ!」
すかさず立ち上がり・・・俺は再びビッグ・ママと対峙する
「東洋では『忠を尽くす』という言葉がある。
・・・意味わかる?」
「主君への・・・愛国心?」
「国への献身。」
照準を合わせた銃は、ママにより瞬時に解体され
CQCをかけようと手を伸ばすが、それも封じられ
ママに掴まり掛けられる直前、とっさに身を引き
俺は素早く後ろへと下がった。
「忠を尽くしている限り、私達に信じていいものはない
・・・たとえそれが愛した相手でも。」
再度掴みかかる手を、済んでの所で掴んで止め、訊ねる
「それが軍人としての精神?」
「ただ一つ、絶対に信じられるのは
・・・任務だけよ、ジャック。」
その瞬間、俺は宙を舞って地面に叩きつけられた。
「グハァ!!」
「私はソ連に亡命する。
ジャック・・・あなたは連れて行けない。」
後ろを向いたママの姿が・・・段々と遠ざかっていく
(待ってくれ・・・・・置いていかないでくれ・・・・!
俺を・・・一人にしないでくれ・・・!)
手を伸ばすが、振り返るコトなく彼女は・・・
俺の視界から 消えた。
(待ってよ・・・・・待ってくれよ、ママ・・・・!
いかないでよ・・・!)
は、手を空にかざしたまま目を覚ました。
その眼から涙が零れていく・・・
眼を拭って半身を起こし辺りを見回した彼がいたのは
オオアマナの花に囲まれた場所だった。
どうやらママルポッドの中で気絶した後
ここに放り出されたのだろう。
直後間もなく、ヘリのローター音が轟き
ママルポットを運び去っていくハインドが、視界に入る
起き上がったの前に、ハインドと入れ違うようにして
アマンダ達を襲っていた無人兵器が姿を現す。
同時に、カズからの通信が入ってくる。
『ジャック、ヒューイがクリサリスと呼んでいた兵器だ。
なんとか排除するんだ!』
『そうネ!ここでカタをつけちゃるね!』
「・・・・・・・カズ、対物ライフルは完成しているか」
『あ、ああ・・・確かに開発は終了している。
すぐにでも送ろう。』
伏せた顔で・・・彼は、静かにこう言った。
「カズ、決めた。俺は・・・・・・国を棄てる。」
その発言に、カズと銀時達が驚きをあらわにする
『本気ですかさん!?』
「ああ。」
『、あの様な目に合って動揺するのは分かる。
だが落ち着いて考えろ!お前の母上がそれを望んでいると』
桂の説得にも応じず、はクリサリスを睨みつける
その瞳は・・・いつもの蒼ではなく
既に燃えるような紅に染めら上げられていた。
「・・・・・いつまでもママの魂を
安らがせない国なんか、どうでもいい・・・!」
『!』
『やめとけヅラ・・・今のは誰にも止められねぇよ』
『・・・ジャック、ダンボール支援で対物ライフル
『PTRD1941』を送らせた。直に到着する。』
「ああ、わかった。」
通信を切った直後、クリサリスが攻撃態勢に入る
『レールガンチャージ!』
機械音声に従い、レールガンに電気が走り
弾丸がいくつか発射されるが
はその場から微動だにせず・・・身に電気を纏う
帯びた電流により、直撃コースだった弾丸は
全て逸れ その身に掠ることなく地面へ墜落する。
『チェインガン掃射』
今度はチェインガンの攻撃に切り替えるクリサリスだが
これも全て 避けるまでも無く弾が逸れていく
『ジャック!ダンボール支援が届くぞ!』
無線通り、空からダンボールが落下してくる
中には・・・PTRD1941が入っていた。
間髪いれずライフルを装備したは、無人兵器の
翼に照準を合わせて狙い撃つ。
当たり所がよかったのか爆発を起こし
怯んだクリサリスを見て装填を行い、追撃に移るが
『キッドナッパー射出』
無人兵器から彼の牽制として、チコをさらった
小型の兵器が二体ほど飛び出してくる。
しかし・・彼は自らに伸びるワイヤーを利用し
「はぁぁぁぁぁ!!」
飛び上がり、逆にキッドナッパーを足場に使って
クリサリス目がけて空を駆ける。
機体に飛び移り様ライフルをレールガンの接合部に
撃ちこんで本体から切り離し
「こんな機械に二度も・・・
世界を委ねられてたまるかぁぁぁぁぁ!!」
は、怒りに任せた鉄拳を
クリサリスのAIポッドへぶつけ
・・・・クリサリスは行動を停止した。
しかしAIポッドは先程の衝撃で外れた記憶板を
ハッチからばら撒いた後
本体から切り離されて、何処かへと射出されていった
残された機体が地面へと落下して完全に沈黙し
直前に着地して距離を取ったは・・・
蒼い眼と落ち着きを取り戻す
それでも、両の目からは・・・・静かに涙が流れていた
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後書き(退助様サイド)
退助「展開上仕方ないとはいえ、クリサリスを
あっさり倒させてしまいました。」
(リアルで5回クリサリスでゲームオーバーになってました)
カズ「まさかな・・・これで本当にジャックはノーマッド
・・・浮浪者になったわけか。」
神楽「あのスキン親父ムカつくアル!
のマミーやっと安心して眠れると思ってたのに・・・!」
新八「ストレンジラブさんもストレンジラブさんですよ!
何でワザワザ人の過去を探るような事・・・!」
ストレンジラブ「あの時の心境・・・お前達には
理解されなくても無理はない。」
銀時「やっぱまだ未練が残ってたんだな・・・の奴。」
桂「まぁ俺達も人の事は言えないがな
・・・未練があるのはお互い様、って奴だ。」
カズ「何だ、お前達にもあるのか?」
銀時「・・・人に言うこっちゃねーよ。」