平和


それは、人間にとって不自然な状態である。





長い歴史の中人々は絶えず争い・・・血を流してきた





哀しみ・喜び・祖国の為・家族を護るべく・・・

様々な理由を抱え、人々は銃を手にした。





戦うことは 人類にとって避けられない本能であり


ただの平和では・・・いずれ戦争は繰り返される。


しかし戦争を行い続けていればどのような強国も
いつかは疲弊し、ついには戦う力を失い滅ぼされる







―ならば如何にして平和を維持すべきか?







人間は考え・・・思考の末に戦争を起こさせぬ
抑止力を求める結論に辿り着いた。





そう、他国を圧し国を護る為の抑止力を・・・


決して何者も寄せ付けない"抑止力"を・・・・・・・











第1話 物事の始動と維持は同レベルで大変











雨粒がしとどに降り落ちる江戸の拠点で


MSFの隊員達がCQC訓練に励んでいた。





「ほらどうした!この程度か!」


「まだまだ!!」





司令官であるが直々に彼らを相手取り、一対一
或いは複数との対峙で流れるような体捌きを見せ


次々と隊員が投げ飛ばされ 地面へと伏せる。







手の返し方やタイミングなど、いくつか具体的な
アドバイスを織り交ぜながら組み手を続け





「・・・よし!今日はここまでだ!
今日はがすき焼きを用意してくれているぞ!」


彼は訓練終了の合図を発した。





その直後、居並ぶ隊員達のあちこちから歓声が上がる





「おお!ジャパニーズ・スキヤキ!」


「一度食べてみたかったんだ!」


「ありがとうございました!!」





軽く息を吐いても 彼女の待つ部屋へ足を向け







「ジャック!」





そこに、副司令官のカズが顔を見せる。





「どうした、カズ?」


「客人だ。」


「客人?」


「俺が連れてきた、尾行もない。」


「わかった。」


すぐに行く旨を伝えると、彼はその場から立ち去る。





客人の正体と用件について考え始めた所で
隊員の一人が駆け寄ってくる。





「ありがとうございました!ボス!」


「ジャックでいい。」


「あ・・・すいませんでした。勝利のボス。」


言い直された単語にどうしても慣れなくて


ため息混じりには口を開く。





「いいか、俺達に勝利はない。」


「勝利か・・・さもなければ死しかない?」


俺達には・・・そのどちらも許されない。戻るぞ。」





それだけを伝えて拠点へと向かう後ろ姿へ


隊員は無言のまま敬礼をし、共に踏み出してゆく。









一方、夕食の準備を行うべく別室にいただが





「案外大所帯だけあって、そこそこ量あんだな〜」


「軍隊だからね 食べれる時には食べないと」


「うむ、武士はまず身体が資本だからな
童ながらよいことを言う」





心底嫌そうな顔をして、視界に入る顔見知り達へ呟く。


「・・・・ねぇ、何で銀さん達までいるわけ?」





自分とサニーと それからMSFの隊員くらいしか
いない予定だったハズの室内には


お呼びじゃないのに万事屋トリオと桂とエリザベスが
辺りをうろうろと歩き回っていた。





「いーじゃねぇの、大人数で大変だと思って俺達
手伝いに来たんだって〜助け合い助け合い、なっ?


「別に人手なら他の隊員に頼めますから
こんなには必要ないんですけど?」


「冷てー事言うなってちゃ〜ん、作業手伝って
家計を助けてもらうのが人同士の助け合いだろ。」


「それ単にすき焼き目当てで来ただけでしょ!?」


いいからさっさと準備するアル!
せっかくの肉が腐っちまうネ!もったいないヨ!」


「いっぱいあるから大丈夫だよ神楽。」


肉のパックを一つ取り出す彼女へ、サニーが
ほんわかとした様子でなだめつつ答える。





「頼むから生で食べないでね神楽ちゃん・・・
すみません、コンロ何処にあります?」


「奥の倉庫だ、俺も運ぶよ。」


「よしエリザベス、早くすき焼きにありつく為
俺達も共に手伝うぞ。」


『OK!』





コンロへ取りに行く新八と隊員の後を二人もついて行き


残る三人もギャーギャーと騒ぎながら
着々と下ごしらえなどを完遂させてゆく







招かれざる彼らを追い出せない事実を理解して





「私、お客さんにコーヒー出しに行ってくるわ。」


短く告げると彼女は部屋を出て行った。









応接室のテーブルにては、カズが連れてきた
客人二人と向き合っていた。





一人は対面に座る コートを羽織った初老の男


その袖口から飛び出た金属製の片手
僅かな水滴がこびりついている


控えるようにしてもう一人・・・赤い雨合羽を着た少女
男の少し後ろに佇んでいる。





背にした壁を通して響く喧騒に眉をしかめ、カズが言う





「すまんね・・・騒がしくって・・・
わざわざ遠い所から足を運んでくれたのに・・・」


「いえ、賑やかで楽しそうじゃないですか。」





男が苦笑した所で、入室した
湯気の立つコーヒーの入ったカップを一つ置く。





「どうぞ。」


「おお、ありがとう。」


彼女が控えたのと同時にカップが持ち上がり


コーヒーをすする音の後、男は顔を綻ばせる。





う〜ん、生き返る・・・
やはりコスタリカコーヒーは旨い。」


「ところで「オ〜イ!マジーよコレ
チャッカマン全っ然つかないんだけど!!」






話を切り出そうとしたの第一声を


入室ついでに割り込んできた銀時が遮る。





知るかよ!今大事な話してんだよ
頼むから邪魔しないでくれ出てってくれ!」


こっちだって大事な話だろがぁ!湿気てんのか
ガス欠か知らねぇが火ぃつかねぇんだよ!!」


早く煮込まないと肉が腐るネ!
またヤバイ肉で問題起こす気なら訴えるアルよ〜」


「やめてくんない!?同じ牛肉だからって
そのネタ蒸し返すのシャレになんないんだけど!!」



乱入した食いしん坊バカ2名を冷めた目で見て


カズは額に手を当てて、近くの隊員へ命令を下す。





「・・・連れてけ。」


「は、はい。」





すかさず彼らは腕をつかまれ





「おいちょっ!何しがやんだコノヤロ〜ぃ!!


「真っ当なすき焼きの権利を踏みにじるアルかぁ!
間借りのクセにお前ら最近態度デカすぎネェェェ!」



どーせ大事な話ってアレだろ!借りパクしてた
エロDVD返せとかその辺り・・・!」


引きずられるようにして退場させられていった。







一部始終を見守った客人2人の顔に立つ青筋を認め
が深く頭を下げる。





「・・・ホントに申し訳ない。」


「い、いえ・・・」


「話を戻そうか。アンタは確か
コスタリカから来たと聞いているが・・・・?」


「コスタリカ国連平和大学のガルベス教授だ。」





補足するようにカズが付け足し、ガルベスは一つ頷く。





「そうか・・・それでコスタリカ政府の高官が
何でわざわざ江戸に来たんだ?」


「実は・・・1年ほど前からコスタリカで武装集団
見かけるようになりました。

もちろん、正規軍ではありません。」


「コスタリカは・・・軍隊を持たない・・・」


「ええ。憲法12条:
「常設の組織としての軍隊はこれを禁止する。」





彼のそらんじた憲法に続くように





「平和憲法・・・」


少女もまた、呟きを口にする。







解せないと言いたげな口振りでは訪ねる。





「ニカラグアから逃れてきた反政府組織じゃないのか?」


「いやいや、ゲリラには見えません。もっと組織的です。」


「コスタリカ政府は何と?」





問いに、ガルベスはマグカップでテーブルを叩いて返す





「政府の見解では、コスタリカ開発公社に雇われた・・・
『多国籍企業の警備員』だと・・・勿論、出鱈目です。

彼らは最新鋭の兵器や設備を大量に運び込んでいます。」


「どこからそんな資金が?」


「恐らく・・・ラ・シーアが関与しています。」


直後、彼は自らの耳を疑った。





ラ・シーア・・・・・"CIA"の別名だ。





「CIA?」


「ご存じの通り、中南米はアメリカ合衆国の裏庭・・・

キューバ危機以降もアメリカ合衆国との
繊細なバランスをなんとか保っています。」


「だから・・・政府は奴らを追っ払えないと?」


「私達は、銃を握ることは出来ません。」





淡々と少女が呟いた言葉は


"武力行使は不可能だ"と暗に示していた。





いまだに合羽から水滴を滴らせ身を震わす彼女を見かね





寒いでしょ?コーヒーでも飲んで。」


が、コーヒーのカップを差し出した。





まだ微かに湯気を漂わせるそれと相手の顔を見比べ


少女はおずおずカップを手に取り、静かに口をつける





「あなた方は国家や思想に依らず、どんな相手とも
戦うと伺っています。」


「単に国から独立しただけだ。」





素っ気無く呟くへ、ガルベスはテーブル越しに
詰め寄りながら懇願する。





お願いです!軍隊を持たないコスタリカから奴らを
追い出して欲しいのです!あなた方・・・国境なき軍隊に!」





義手らしき手で壁に貼り付けてある軍旗を指され
彼は複雑な表情で返す。


「俺達を雇いたいと言うことか?」


「はい、あなた方に『抑止力』となっていただきたい。
報酬は・・・十分とは言えません。」





言ってガルベスは懐から写真を取り出し

テーブルの上へと提示する。





「ですが、あなた方の前線基地として
カリブ海沖にある洋上プラントを提供できます。」


「カリブ海・・・日本のほとんど裏側じゃない!?







黙するとは対照的に、カズはその話に
気乗りした様子で食いついてくる。





いいじゃないか?ジャック、常々考えてはいたが
俺達には落ち着ける場所が必要だ。」


「非公式ではありますが・・・政府の協力を取り付けました。」


「出来れば、移動用にヘリが要るな。」


「掛け合いましょう!」





勝手に進んでいく話を、彼が立ち上がり様に止めた。





待て!俺達を『戦争の犬たち』か何かと勘違いしてないか?」


「ええ・・・私はこう聞きました。
国家に帰属しない軍隊だと・・・」


「俺達は・・・国から独立しただけだ。
バックには愛国者達がいる。」


聞いた次の瞬間、ガルベスは慌てたように縋ってくる。





「お願いします!助けてください!」


いいか!CIAが絡んでいるなら力では無理だ
政治で解決するしかない。」


「国は動けないのです!」


「帰って政府のお偉い方に伝えろ。
知り合いの交渉人なら紹介してやると。」





正論に勢いを殺がれながらも、しかし彼は
諦める様子を見せようとはしなかった。





「・・・いえ、私は政府の代行で来た訳ではありません。」


「じゃあ何のために・・・」


「私は大学で、数十年に渡って平和を説いてきました。
今夜ここには・・・"教育者"として来たのです。」





そこで初めて背後の少女へ視線が向けられ


気づいた彼女が、コップをへ渡して
雨合羽の帽子を取り払う。





その下から・・・ブロンドの髪と青い目の
落ち着いた雰囲気の顔が現れた


「私の教え子です。大学で平和について学んでいます。
名前はパス・・・パス・オルテガ。


「ラ・パス(平和)・・・・」


「へえ・・・俺と同じ名前だな。俺は和平(カズヒラ)
日本語で平和って意味だ。よろしくパス、カズって呼んでくれ」





にこやかに近寄ったカズが握手を求めるが


パスは、その場で微動だにせず佇んだままだった。





「あ・・・・あれ?」


「初対面だから怖がられてるんじゃないの?
アナタの外見、初見だとちょっと威圧感あるし」


「ひどい言い草だなローズ・・・」





軽くふて腐れて彼は壁際へと戻り、ガルベスは
おもむろに地図を取り出してテーブルへ広げる。





コスタリカ、ニカラグアを示した地図へ指を走らせ


「カリブ海の沿岸、ブエルト・リモンの北に
彼らの資材搬入港があります。


数日前・・・パスは行方不明の友人を探して
その施設に踏み込んでしまった。

そして・・・彼らに捕まったのです。


説明を交えながら彼は、やや言葉を濁らせる。





「パスは16歳の・・・まだ子供です。」





無言のまま頷き、彼女が右腕を上げ雨合羽ごと服をめくり







・・・晒された複数の生々しい注射痕


3人が 思わず息を呑む。







再び無言で雨合羽と腕を戻したのを見届けて
ガルベスは言葉を続ける。





「彼女は乱暴され、自力で逃げ出してきました。」


「・・・ひどいな。」


「こんな子供に・・・!」


「彼女は私生児(バスタード)なんです。
幼くして母親を亡くし、祖父母も内戦で・・・

彼女は戦争を憎んでいます。人一倍・・・





そこで、彼女が一歩足を踏み出す





私の名前は・・・ラ・パス(平和)。
私は平和を守り抜く。私はそのために生かされている・・・」





語りながらパスはの元へと歩み寄り


徐々に彼の表情が困惑したものに変わってゆく。





「お願い!私の国・・・
コスタリカからあいつらを追い出して!」






自らを見据えた青い瞳の真摯さを目の当たりにして







それでも、は首を縦には振らなかった





「・・・君には悪いが・・・」


「あなたを・・・あなたをかつての
『ビッグ・ボス』と知っての頼みだ。」





続けられたガルベスの台詞に驚きを見せるが


間を置いて、彼はただ静かにこう返すのみ。





「・・・悪い、一回外に出てくれないか?」


こんな雨の中なのに何てこと
わかりました。行こう、パス。」


立ち上がり、礼をするとパスを連れて
ガルベスは一度外へと出て行った。





不安げな視線を彼女から受け・・・は目を閉じて呟く


「しばらく、考える時間が欲しいんだ。」








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後書き(退助様サイド)


退助「さあ画面の前の閲覧者のみなさーん
お待たせしました、新章ピースウォーカー編!


銀時「お前アウター・ヘイヴン編で
シリーズ終わりにするとか言ってなかったっけ?」


退助「言ったっけ?」


神楽「すっとぼけんなヨ!確かに終わりって言ってたネ!
なのに何ちゃっかり長編二つも送り出してるアルか!!」


退助「・・・いや、MGS4でも完結とか言っときながら
シリーズ続いたし・・・いいかな〜なんて。」


カズ「まあ俺の出番も増えるからいいんじゃないか?」


新八「カズさんそれ目立ちたいから言ってるだけじゃん!」


銀時「にしてもの奴よぉ・・・日を追うごとに
人でなしになってね?そんな育て方した覚えねーぞ。」


桂「全くだ、一体どこで道を間違ったんだか・・・」


神楽「お前らエセ教育者に育てられたんじゃも終わりアルな
・・・まあ女の子外にほっぽり出した時点で外道アルけど」


カズ「いやいやソレは誤解だ、ジャックも
考えがあってああいう行動に出たんだ。」


新八「考えって何です?」


カズ「それは、次回のお楽しみって奴だ。」