―6日目・午前―
本日、MSFの医療ベースでは
「みんな、ちゃんと予防接種は済ませておけよ。」
新規加入した隊員のワクチン接種が行われており
銀時達も接種に参加していた。
「ったく、こんなところまで来て
何で予防接種なんて受けんなきゃなんねーんだよ。」
眉をしかめて呟く銀時に、ため息をついて
は忠告を繰り返す。
「言っただろう?ここには世界中から兵士が来るから
どんな病気が蔓延するかわからないんだ。
だからこうして予防策を取ってるんだって」
「そうよ、しっかり受けておきなさい。」
話に割り込み、アマンダも厳しく忠告する。
「私のかかった熱マラリアになったら大変よ?
冗談抜きで生死を迷うことになるから。」
「そうか、アマンダ殿も大変だったな。」
「がかかったら三途逝き放題アルな。」
「神楽ちゃん不謹慎すぎるからやめて笑えない。」
医務室に入ってきたパスへ挨拶をしようとしていたが
様子がおかしいのに気づき、近寄ってゆく。
「平気かパス、顔が赤いぞ?」
「だ、大丈夫・・・ちょっと熱っぽいだけだから・・・」
何でもないかのように振る舞うその顔は赤く
呼吸も苦しげで、明らかに具合が悪そうだった。
・・・その後 風邪を引いている事が判明し
医師から安静に寝ているように指示されたので
それにしたがってパスは自室に戻った。
ベッドで窓から見える風景と天井とを眺めながら
「苦しそうだニャ・・・パス、大丈夫かニャ?」
「大丈夫よニューク。」
側につきっきりでいてくれているニュークの頭を
撫でてパスはそう返事するけれども
その顔には寂しさが滲んでいた。
・・・と、ドアをノックする音がして
返事をすれば 神楽を先頭に万事屋トリオと
が水と果物を手に入室してくる。
第9話 弱り目祟り目他人の目
「パス、大丈夫アルか?」
「水、ここに置いておきますからね。」
「ありがとう、二人共」
「礼には及ばん。」
熱の様子や体の具合をひっきりなしに聞いたり
果物を食べるかどうか訊ねたり、神楽がダラダラ
ヨダレ垂らしている事にツッコミが入ったり
他愛ない会話で彼らはパスと歓談していた。
「やっぱ予防接種しといて正解だったみてーだな。」
「うぬ、私達も他人事では無いな。
パス殿も治ったら共に鍛錬してみぬか?」
「パスさん軍人じゃ無いですから誘っちゃダメ
てか、何でそんな誘いすんのさん!?」
「ピーマン語はスルー推奨ね、パス
何かあったらいつでも呼ぶアルよ。」
「うん、ありがとう神楽ちゃん。」
4人が退室してしばらくして、アマンダと
チコも見舞いに来た。
「パス具合はどう?薬草入りスープ作ってきたから
これを食べて元気になって。」
「ありがとう、アマンダ。」
「チコ、あんたも。」
「う、うん。」
アマンダの後ろから顔を出したチコが
花瓶に入れた小さな花を、パスのベット横に置く。
「これ、甲板で見つけたんだ。やるよ。」
少し素っ気ない言い方に 彼の姉は呆れて
同時に少し微笑んでいた。
「パス、元気か?」
二人が立ち去った後に、カズも見舞いに来ていた。
「ミラーさん。」
「今はゆっくり休め。俺が子守唄を歌ってやる。」
言いつつおもむろにギターを取り出して爪弾き
「ね〜んね〜ん、ころ〜り〜よ〜、おこ〜ろ〜り〜よ〜」
旋律に乗せて子守唄を熱唱するのだが
日本の子守唄が理解できないのと歌自体が
下手くそなので、パスが寝る様子はなかった。
「ミラーさん、何歌ってるの?」
「日本の子守唄だ、お袋によく
歌ってもらってたんだが・・・知らないか。」
息を吐き、少し考えてから何かを思いついて
カズは特徴的な形のクスリのカプセルを取り出す。
「な、何それミラーさん・・・座薬?」
「そう座薬だ 風邪には座薬が効く!
俺が手本を見せてやるから怖くないぞ〜」
にこやかに話しながら、いきなりズボンを脱ごうと
「いやぁぁぁ!!」
迷わず側にあったティッシュ箱を叩きつけて
パスはカズを部屋から追い出し
「うわちょっごめ・・・ブベラバァ!!」
頭から室外へ投げ出されたカズはしばし悶絶していた。
息を整え、ベッドでまどろむ内に眠気が
やって来たかなという辺りで
今度はストレンジラブが部屋に入ってきた。
「パス、具合はど?」
「ええ、大丈夫。」
若干警戒しつつも 言葉をかわす内に徐々に
パスとストレンジラブの距離が縮まってゆく。
そして十分な距離に達すると
「そうだ、風邪に良く効くインドの薬があるの。」
平静を装い 懐からチューブを取り出して
「ユーカリの薬のエキスが入っていて
胸に塗ると良く効くの。塗ってあげるわね?」
息を荒くしたストレンジラブが、パスの着ている
ジャージを脱がそうと電光石火の早業でチャックに手を
「きゃああああああ!!」
しかし悲鳴を上げたパスの、枕での殴打の方が早く
手加減抜きで殴り飛ばされたストレンジラブは
「おうふっ!!」
奇しくもカズと同じポーズで部屋から
追い出されてしまったのだった。
顔を真赤にして肩で息するパスへ ニュークは言う。
「こ、これ以上変ニャのが入らないように
オイラがパスの部屋の外を見張りするニャ!」
「・・・ありがとうニューク。」
―6日目・夜―
「具合はどうだ、パス?」
見舞いに訪れたへ、パスは半身を起こして言う。
「ありがとうジャック・・・みんなのおかげで
すぐに良くなりそう。」
「そうか、だが無理はするな。
今の身体は感染症にかかり易いからな。」
「ええ。」
今日、見舞いに来てくれた人達と話したことや
色々なやり取りなどを教えて
かわりにマザーベースで起きた出来事を聞いて
和やかに話し合っていた二人だったが
「ねえジャック、一度聞いてみたかったんだけど
・・・怒らないでくれる?」
「改まって何だ?」
「何で、国を棄てたの?」
パスが発したその問いに、が口をつぐむ。
沈黙が部屋を包んで・・・やがて重い口が開かれた
「俺は・・・戦うことしかできなかった。」
それ故に国に棄てられ、だとしても戦う以外の術を
知らなかった故に このMSFを組織した。
俯きながら淡々とそう答えていた彼は
「俺には戦いしかわからない。」
顔を上げ、パスを真っ直ぐに見据えて答えた。
「だが、平和を信じる者を否定しようとは思わない。」
すまなさそうな顔で、しおらしく彼女はうなだれる。
「そう・・・ごめんなさい、突然」
「いいんだ、パスが疑問に思うのも無理はない。」
長居をしてしまった、などと言いながら立ち上がり
「それじゃあ、まだ仕事が残ってるから。
これで失礼するよ。」
「ええ、ありがとう。」
出て行ったを、パスは手を振って見送る。
・・・直後に彼女がどこか悲しげな表情をしていたが
それを見ていた者は、やはり誰もいなかった。
が司令室に戻ると、扉の前にカズがいた。
「ジャック、お前に届け物だ。」
「届け物?」
「カセットテープだな、宛名は"EVA"だ。」
「エヴァからか・・・」
差し出された手の中には、カセットテープが
入っているであろう小さな段ボール箱が一つ。
何故送ってきたのかという疑問を抱きつつも
彼は頷いて箱を受け取る。
「わかった、預かろう。」
「だが、浮気はするなよ?」
「浮気って・・・エヴァと俺はそんな仲じゃ」
「今が俺達の組織にとって、大事な時期なんだからな」
「え、浮気ってそういう意味!?」
いつもと違った真面目なカズの返答に驚かされるも
「大丈夫だ、ローズにも連絡済み・・・
浮気の気はなしと診断された。」
「余計なことを・・・まあいいや。」
司令室に入り、はレコーダーをかける。
『ジャック、ニカラグアで
ずいぶん無茶をしたそうじゃない?』
「お見通し・・・か。」
早耳ぶりに苦笑いし、テープのエヴァに教えられ
同封された"オリジナル7"の写真を見る。
本来ならこれにはもう一人
ビッグ・ママが写っていなくてはならなかった。
もう一枚にはビッグ・ママも写っており
流れ続ける音声は、ストレンジラブから聞いた通りの
非公式の宇宙ロケット打ち上げの事実を語っていた
・・・真実が加えられていた事を除けば。
この情報は、賢者達のネットワークを使い
ソ連へ単独潜入して掴んだものだとエヴァは言う。
まず第2のスプートニク・ショックが起こる事を
彼女は事前に知っていた・・・ゆえにこそ
当時の研究員達に、あの言葉をかけられた。
そしてCIAのスリーパーがソ連に寝返る失態を
確保した彼女へ、"家族を人質にする等の
コントロールを行わなかった"と責任を全て押し付けた
「子を奪われたあの人に・・・そんなこと
出来るはずが無いのに・・・!」
NASAに彼女が来たのも
"有人宇宙開発のモルモットになれ"と
CIAからの指令があったから。
だから、あの時上層部の無茶苦茶な要求に応え
静まり返った会議室で・・・手を挙げた
『全て、決められたことだった。』
あの写真が撮られたのも"女性初の宇宙飛行士"と
プロパガンタに使うつもりがあっての事。
しかし実験は失敗、CIAは闇のミッションとして
事実を葬り"なかったこと"にした
公には、彼女は大戦の英雄・・・
しかし現実は 事実を捏造し、回復後も軍に
迎え入れずに彼女を"生ける亡者"へと仕立て上げ
真実を語ることを許しはしなかった。
『君は何故、ここにいるのかね?』
『あの時ガガーリンのように一端の名言でも吐いて
名誉の死を遂げていれば英雄として名を遺せたのに』
当時の高官の台詞は・・・死んでくれと
あからさまに言っているようなものであり
憤るエヴァの声に同調し、もまた歯を噛み締め
持っていたガラスコップを握り潰す。
「着陸実験の人形同然ってか・・・クソが!」
いきり立って当たり前の処遇に、しかし彼女は
『人形だろうと何だろうと、私の飛行が
計画成功の助けになったのから、それで本望よ』
・・・そう言ったそうだ。
スリーパーの裏切りは賢者達のネットワークでも掴めず
ソ連側の賢者達の介入か 反政府的な賢者達の懐柔か
ともかく賢者達の面子を保ち、落とし前をつけるべく
彼女はソ連へ再び潜入し
そして・・・ザ・ソローと対峙した。
『裏切ったスリーパーに偽情報を流したのは彼だったの
けどソローは彼女がスリーパーを送りこんだ事も
そこで対峙するのが彼女だとも、知らなかった。』
意図的にソ連側の賢者達が伝えなかった為に
愛し合ったもの同士の殺し合いになってしまった。
どちらかが生き、どちらかが死ぬ
『これは、ソ連側の賢者達による報復だった・・・』
彼女がソ連の反政府的な賢者達の力を借りて
諜報活動をしていた事は、ソ連側の賢者達に筒抜けで
二人が生き残れば・・・今度は二人の子供が
報復の対象になってしまう
選択の余地は なかった
彼女はソローを撃ち、彼もそれを受け入れた。
「そして・・・あの人は、俺と出会った。」
これがの知りえなかった 彼女の任務の全て
『このテープを送ったのは、彼女が何を見て
何を感じたかを知って欲しかったから。』
エヴァは最後に、この言葉で締めくくる。
『だからジャック、心に刻んで
彼女の軌跡を、忘れないでいて・・・・
この地上で彼女の真実を知る人間は
私と・・・あなただけなのだから』
テープが終わり、カチンと停止音が鳴る。
は・・・ただ静かに 涙を流していた
「ママ・・・・・・」
一人きりの司令室で彼は ある、決断をする。
「だが、それでも・・・俺は・・・」
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後書き(退助様サイド)
退助「はい今回はかなりの長文なのであとがき終了!
解説等は次回に持ち越し!!」
新八「ちょ待ってくださいよ!さんのお母さんの
真実とか色々語るトコありすぎでしょう!?」
カズ「俺の子守唄とか座薬のシーンとかな!」
ストレンジラブ「私のパスの甘々な展開とかな!」
新八「いやそれは要らない!」
退助「考えるな、感じろ!」
銀時「それただメンドくせぇだけzy(強制終了)