屋上での密談も終えて、彼女は

初の宇宙飛行に向けて訓練を続けていた。





「過酷な訓練に耐える彼女を全力でサポートしていた
日々は・・・ある意味、幸せでもあった。」





着々と準備も進んでいき・・・


ついに来る期日 宇宙飛行がとり行われ





彼女の乗った飛行船は大気圏の外へと出た。


僅か20分の弾道飛行とはいえ、前倒しされた
短い準備期間を鑑みれば それは奇跡と言ってよかった





人類初の宇宙飛行


天人の存在を知らない彼らにとって


とんでもない快挙に、ストレンジラブを含めた
全員が歓喜していた。





だが・・・・帰途に悲劇は起きた





再突入時に外壁が変形し、突入角が僅かにずれたのだ


「その原因って・・・」


急ごしらえの窓だ。分かりきっていたことだった。」







彼女の乗った宇宙船は、想定地点を大幅に外れて着水した。





祈るような気持ちで着水地点へ急行する
ストレンジラブ達へ追い打ちをかけるかのように


耳を疑うニュースがもたらされた。





「お、おい大変だ!」


「何だこんな時に!!」


「ボストーク・ロケットが・・・ソ連が!!





ボストーク・ロケット打ち上げ成功の報せ


それは・・・彼女の身を案じ叫ぶストレンジラブを
黙らせるには、十分過ぎるものだった。











第6話 だからZZZ弾幕打つなって!











タッチの差でソ連に先を越された





「研究仲間共々、ショックを受けたが・・・
それよりも 彼女を救う方が先だった。





研究者としての想いを押し殺しながら


早鐘を打つ心臓を落ち着かせ、着水地点に到着した時





既に宇宙船は・・・海中に飲みこまれていた







けれども 彼女は直前に脱出したのか
付近の海上に浮かんでいた。





「それから、救助はできたんだろ?」


「・・・正直、その時の事は覚えてないの。」







後から聞いた話によれば





彼女の姿を目にした、その瞬間


奇妙な叫び声を上げながら


肌が焼けるにも関わらず、人々を押しのけ


ストレンジラブは 海に飛びこんだそうだ。






「彼女は目を覚まさなかった。全身打撲、火傷
宇宙線被曝・・・生きているのが奇跡だった。」


「確かに、俺でも自信がないよ。」





それからもソ連は嫌がらせのごとく、自国の
輝かしい成果を誇るプロパガンタを流してきた。





しかし、なによりも堪えたのは


翌朝の政府機関紙(イスベチヤ)が伝えたルボだった。





「飛行士が発したと言われる、例の名言が
紙面にハッキリと書かれていた。」


「地球は青かった」・・・か。」


「本来なら、その言葉を語るべき人物は存在していた」





だが・・・彼女は床に横たわっていた。







結果を聞いたNASAは彼女のフライトを


「なかったこと」にした。





片や衛生軌道に乗って地球を一周し、その後
パイロットは無事帰還


一方でこちらは単なる弾道軌道による大気圏離脱


おまけにパイロットは満身創痍、宇宙船すら回収不能





・・・ヘタに発表すれば国家の威信に関わる





そう判断したのは、至極妥当とも言える。







「しかし、その頃ママはコスチノス湾事件に
参加してたはずだが・・・」


「捏造だ、そういう仕事はお得意だからな。」


「そこまでして糊塗したい記録だったのか・・・」





結局、1ヶ月後のアラン・シェパードによる
弾道飛行がアメリカ初の宇宙飛行とされ


ビッグ・ママの犠牲で得られた知見が


シェパードの飛行船に活かされた。





・・・たった、それだけの成果だった。





「だが、そんなことはどうでもよかった。


私はひたすら彼女の回復を祈った。
片時も その側を離れたくなかった。



「そうか・・・ありがとう。


「礼なんていい。」





こんこんとベッドの上で眠り続けていた彼女を


ストレンジラブは献身的に見守り、身の回りの
世話を勤めながら声をかけていた。





夏が終わり、色づいた葉も落ち始めて





冬へと差しかかろうとしていた頃に







「・・・・・・・・お水をちょうだい」





か細くも、確かに彼女の声を聞いた。





顔を見れば 固く閉じられていた目が開き


ゆっくりと・・・ビッグ・ママが半身を起こした







ストレンジラブは迷わずその胸へと飛びこみ





ビッグ・ママは それを受け入れ抱擁し返した。





彼女が生きていてくれた・・・その時の
私には、それ以外何もいらなかった・・・」





目を覚ました彼女の次の言葉を、ストレンジラブは
期待して待っていたという。





「宇宙について聞かせてもらえると思っていた。
星の瞬かない、本当の空について。」


「どうだったんだ?」


「彼女の口から出たのは・・・地球のことだった。」





宇宙から見た地球


儚く、そしてかけがえのない大地のこと・・・





穏やかな声音で語る彼女を見ていて


ストレンジラブは、自らを恥じたそうだ。





「私は星空に憧れるあまり、足元を見ようとしなかった。
自分が拠って立つ、この大地について」





そうして意識を取り戻した彼女は





リハビリを終えると同時に、姿を消した。







ストレンジラブに連絡があったわけでもなく


上層部からも、何一つ説明はなかった。


まさに・・・突然の別れ





「あの時の・・・俺と同じか・・・」


「でも、不思議と驚きはなかった。」





彼女は次の任務を果たしに行ったのだろう


忠を尽くすために・・・そう思っていたようだ。





しかし、真実は違っていた。
お前を救い出し、強くさせるためだった・・・」


あんな身体で俺に戦いを教えていたのか・・・」


はなんとも言えない顔でカップへ視線を落とす







それからストレンジラブは人工知能・・・
AIの研究に没頭した。





二度と彼女のような犠牲者を出さないために。





危険とわかっている任務を、わざわざ人間がこなすことはない


今度は 自分が誰かを照らすのだ・・・と。





「だが、ママは何でお前に打ち明けたんだ?
過去の事とはいえ、極秘の作戦だったのに・・・」


「私を信頼していたから・・・と思いたいが恐らく違う。
彼女は聞いてほしかったのだ それも、私ではない誰かに。」





記憶に残るママは、我が子に語るような口調
遠い目をして話を打ち明けていた


その様子が・・・雄弁にその事実を物語っていて


「私は・・・その"誰か"に嫉妬した。」





言うストレンジラブの、コーヒーカップを持つ手に力が入る。





「それは・・・」


「そうさ、私はお前に嫉妬していたことになる。」





研究に精を出している間も


攘夷戦争の終結や、数々の戦果を挙げる英雄の活躍など
色々な事が耳に入ってきていた。


そうして長い時が研究に費やされ・・・





ある時ストレンジラブは、彼女の訃報を知った。





・・・それも「売国奴の死」という形で。





アメリカから核を持ち出してソ連に亡命し


かつての弟子に殺されたのだ・・・と





信じられなかった 彼女がそんな事を
するはずがない・・・強くそう確信していた。」





そこでストレンジラブはあらゆる可能性を考えた。





彼女は、核防止による仮初めの平和に支えられた
この世界を"本来の姿ではない"と考えていた


その責任が自分にあるのだ、とも・・・





それで本気で東西を融和させようと試みたか


・・・あるいは、殺されること自体が望みだったか


ともかく彼女は、命を賭してそれを
償おうとしたのかも知れない。





彼女は、この世界への忠を尽くしたのだ







―それがストレンジラブなりに至った結論だった。





「その時 私の光は喪われた。同時に、とてつもなく
不合理な、自分自身の感情に戸惑っている。」





無意識に、ストレンジラブの身体が震え


溢れ出そうになる感情を抑えていた。







彼女が、自分の罪を伝えたかった相手・・・


真実を知って欲しかったであろう"誰か"





それが・・・・・彼女を殺した弟子だったのでは?





自分の中でその想像は、日に日に確信を増し


ストレンジラブを狂おしいまでの嫉妬へと駆り立てた





「例えそれが私の作り出した妄想であったとしても
いずれは、確かめなければならなかった。」



「それが、ピースウォーカー・・・だった・・・」


「そう・・・でも、やっとわかった。」





あの時見せたママルポッドの行動こそが
求めていた、答えだったと言って





うつむき気味だったストレンジラブの顔が上がる。


「私は・・・それが知れただけで、もう幸せ。」





そこにあったのは普段では考えられないほどに
綺麗で、美しい笑みだった。







呆けて見つめていたは、視線が合い





「・・・私は男に興味はない。
というより、お前は所帯持ちだろう?」


予期せぬ発言に思わず椅子から転げ落ちた。





「何でそうなるんだよ!?
大体からまだ結婚してないって!」



「フフフ、冗談だ。」





静かに笑って、ストレンジラブは席を立つ。





明日も早いんだろう?睡眠も兵士の仕事だ。」


「ああそうだな、お休み。」







そう言い残し、研究室の扉を開けたを見送り





「・・・ありがとう。」


彼に聞こえないように、その背にそっと
感謝の言葉が発された。







・・・どんな形であれ 二人は間違いなく


ビッグ・ママの意志を受け継いた人間だった








――――――――――――――――――――――――
後書き(退助様サイド)


退助「ここでストレンジラブの回想は終了です。」


ストレンジラブ「これで分かってくれたろう・・・
私が彼女に拘っていたわけを」


新八「事情は分かりましたが、ちょっと待って下さい
え、さんがお母さんと出会ったのが子供の頃で
この時のストレンジラブさんって・・・」


神楽「女に歳の話は厳禁ネ、でも確かに
海苔オヤジが30代だって言ってたアル」


ストレンジラブ「おかしいと思うだろうが
当時は20歳でNASAにいたからつじつまは合う。」


カズ「それから10数年もAI研究を続けていたのか」


ストレンジラブ「それしかなかったからな」


銀時「オイオイ性懲りもなく尺稼ぎした挙句
俺らは愚かの名前すら出なかったじゃねーか
これ一体どうなってんの?コラボ名乗っていいワケ?


退助「あっ・・・え、ええと、そのー・・・
まっ、あの管理人さんなら許してくれるよね?」


狐狗狸「ゆ゛る゛さ゛ん゛!!」


退助「ヒイィィィィィ!!?


新八「だからなんなんですかこの小芝居」