―3日目・朝―
朝の光が差し込むマザーベースの、糧食ベースにあるキッチンに
パスとアマンダとセシールがエプロン姿で立っていた。
「こうして並んでキッチンに立つのってはじめてね」
「そうね、たまにはこういうのも悪くないわ。
パスはどう?」
「ええ、私もそう思ってる。」
ガジョピントの作り方を教えてほしい、と
セシールがアマンダ達に言ったので
神楽との約束していたパスと
三人でレクチャーを兼ねての調理となっている模様。
なお 神楽とも手伝いを申し出ていたのだが
色んな意味で料理を台無しにしかねないため
周囲と、残る女子二人から強く説得されて
大人しく完成を待ってもらっている。
・・・この場を借りて解説させていただくが
ガジョピントは、中米一帯ではよく知られている
黒インゲン豆と米を合わせた 素朴な家庭料理である。
「玉ねぎが透き通ってから米を入れて炒めるの
・・・ってそんな火力強くちゃ焦げちゃう!」
「気にしすぎだって、私 料理は得意なんだから。」
アマンダがセシールに指示を出す合間、パスは切ったにんにくと
香草を、一晩水につけておいた豆に入れて煮ていた。
第5話 恋と故意は必ず人が関わる
米と玉ねぎが炒まったフライパンに水が入る
「こっちは炊き上がるのを待つの、豆は煮えたら
水を捨てて残りの野菜と一緒に炒めるのよ。」
「結構手間がかかるのね、パエリアみたい。」
「まあね、けどアタシの母さんね
よくコレやバオなんかを作ってくれたんだ。」
ソモサのせいで離れ離れになったが、お袋の味は
忘れられない・・・としみじみ語りながらも
アマンダは手際よく次の手順に備えて動く。
複雑な手順と用具の片付けなどで忙しくても
女三人寄ればなんとやら、料理の話から
思いつく限りの話題がとめどなく交わされ続け
そうして、なし崩しに恋愛トークへと移っていく。
「ねぇ、アマンダって付き合った人とかいないの?」
「何よ突然?」
「美人なのにもったいないなーって、私これでも結構
経験あるから、色々教えてあげようかしら?」
「あのさ、アタシ恋愛とかしてるヒマ無いんだけど」
お構いなしにアマンダへ自分の恋愛経験を
話していたセシールが
黙々と炊けた米に 豆とサルサリーノを加えて
炒めていたパスにも話を振ってきた。
「ねぇ、パスって好きな人とかいないの?」
「え、え〜と・・・」
「もしかしてジャックが好きなの?」
「・・・・・そうかも。」
苦笑いを浮かべるパスの答えを聞き、セシールは
とても嬉しそうに首を縦に振っていた。
「分かるわ〜彼、なかなかセクシーよね。」
「セクシーとは違うんじゃ・・・・」
「おいしそうな匂いだニャ〜」
アイルーのニュークがキッチンに入ってきたので
これ幸い、と言わんばかりにパスが駆け寄る。
「どうしたのニューク?」
「オイラ、もうお腹すいちゃってるニャ。」
「待ってて、もうすぐできるから。
そうしたらみんなで食べよう?」
「手伝うニャ!オイラに出来る事ある?」
それならば、とニュークは盛りつけた器を
運ぶ手伝いを命じられた。
出来上がったガジョピントは香ばしい匂いを
あたりに放って食堂へと運ばれてゆき
待っていた兵士や銀時達は料理の出来に大喜び
「キャッホー!いいニオイアル!
これがパスの言っていたガジョピントアルか!」
「うぬ・・・なかなかうまそうな料理だな。
だがあn「食う前からKY発動禁止だピーマン。」
いらんこと言いかけたに釘を刺し
温かい内にガジョピントへ匙が伸びる。
江戸の人達は初めて食べる味に歓心し
兵士達・・・特に中米出身者は懐かしい味を
口にしたからか、泣き出す者さえいた。
「ウマイな、これパスが作ったのか?」
「うん、おいしい?ジャック。」
「ああ、とてもな。」
の笑顔に、パスが動揺した素振りを見せる。
だが食堂へと勢いよく入ってきたカズに注目が
集まったので、それが指摘される事はなかった。
「ジャック、まずい!
拘留していたザドルノフが姿を消した!」
「おい またか!?」
「ったく、ちゃんと警備しとけよパチモンの俺。」
「いやおかしいんだよ。義手も封じて身体検査も
念入りにしていたし、警備も強化していた。」
「誰かが手引きを?」
「まさか。とにかく、KGBの工作員
ザドルノフを見つけ出してくれ!」
「わかった、すぐに行こう。」
食べかけのガジョピントを残し、は
ヘリポートへ移動するべく食堂を後にする。
「忙しそうだな、殿。」
「企業のトップも楽じゃねえなぁ。」
「万事屋のトップのくせに一番楽してる
天パに言われちゃおしまいアルな。」
そっから当然のように万事屋メンバーのケンカが
始まって、周りは爆笑の渦に巻きこまれた。
はザドルノフ捜索のため
カリブ海沿岸のジャングルへ足を踏み入れた。
葉に光もさえぎられ、かなり視界が悪い
・・・・だがしかし
「いたぞ。」
まともな偽装も施していないザドルノフを探すのに
さほど時間は掛からなかった。
壁に張り付いている状態のまま麻酔弾を撃って
眠らせ、フルトン回収を行いカズに通信を入れた。
「カズ、ザドルノフを確保した。」
『まさか、見つかるとは・・・』
(いや、あれで見つからない方がおかしい)
と、心の中で呟くであった。
『了解、ありがとう。』
通信を終え、彼もフルトンで二度目の帰還を果たす。
―3日目・夕方―
戻ってきたが研究開発ベースへ立ち寄ると
「"20 01年宇宙 の旅"という映画を知ってるかい?」
と、ヒューイが突然の質問をよこした。
「宇宙の旅だぁ?」
「なんか嫌な思い出しかありませんけど・・・」
「そうネ、宇宙なんてもうこりごりアル。」
「だけど神楽お前、初期設定じゃ
ロケットにしがみついて密入国してたよな?」
どこかずれてる万事屋トリオの答えに
質問者の額には青筋と汗が浮き上がっていた。
「い、いや僕は映画の話を聞いてたんだけど・・・
何で実体験?」
「無視してもいいぞヒューイ、俺は・・・知らないな」
「あれはいい映画だよ・・・宇宙の特撮もすごいけど
AIの描写も出色だった。」
「AIが?」
「ああ、HAL(ハル)って言うんだ。」
その名前に、は少し吹き出しそうになる。
HALは・・・仲間であるオタコンの本名で
ちょうどヒューイにそっくりの男なのだ。
「宇宙船を制御するAIだよ。物語上でも
重要な役割を果たすんだ。
ストレンジラブもこの映画が好きでね。
彼女とコスタリカで再会した時の話はしたかな?」
「いや?」
「彼女は男嫌いだろ?NASA以来の再会だって
言うのに、全然話が弾まなかったんだけど・・・」
銀時と神楽は、鼻をほじりながら気だるげに聞いている。
「HALの話をしたら、急に雄弁になってね。
その語り口が、実に知的だったんだ。あの難解な
映画への解釈、洞察、そしてAIについて語る熱意・・・」
「へぇ・・・あのストレンジラブさんがそんなに・・・」
新八はヒューイの話に感心していた。
「そうなんだ、僕はまたもメロメロさ。」
「結局行きつく先はそこアルかダメガネ。」
「ちょっと神楽ちゃん!」
「彼女と僕とを橋渡ししてくれたHALに乾杯!
ってとこだね。」
「あ、駄目だこいつ耳に入っちゃいねぇ。」
妬み100%の二人の揶揄でさえ、今のヒューイには
全くもって届いていない模様。
「君も彼女と2001年について話してみるといい。
きっとわかると思うよ、彼女の素晴らしさが。」
「素晴らしさね・・・
まぁ今度話す時があれば聞いてみるさ。」
「HALって・・・いい名前だよね・・・。」
自分の世界に入ってしまった彼に、4人はもはや
かける言葉も見つからないようだ。
―3日目・夜―
「ここにいたのか。」
「ああ、ZEKEのAI構築に手間取ってな。」
研究ベースの休憩室に立ち寄ると
ZEKEの進捗度チェックを終え、一息ついた
ストレンジラブがと視線を合わせる。
「そうか、ところでストレンジラブ
"20 01年宇宙 の旅"って映画、知ってるか?」
瞬間、彼女の表情が少し明るくなった。
「ほう、お前に映画を見るような文化的な習慣が
あると思っていなかったが・・・見る目があるな。」
「ほっとけ、名前だけ聞いただけだ。」
「その様子なら概要は話さなくていいな。その映画に
出てくる高性能AI「HAL」は探査船の制御だけでなく
会話も交わせば、チェスも指せる。」
「なるほど。」
「HALの描き方は実に秀逸だった。HALは
船長すら知らない機密指令を受けていた。」
当然それは乗組員達には話せず、そのストレスから
HALは狂ってしまうとストレンジラブは語る。
「狂った?機械がか?」
「そうだ。解釈は様々だがね。」
HALは乗組員を次々と殺してゆく、だが最後には
船長に機能を止められてしまう。
AIの成長、活用、問題点・・・そして死への恐怖
それも素晴らしい洞察だと明るく語る。
「それがAI研究の役に立ったってわけか。」
としては納得したから出た発言だったのだが
どうもストレンジラブにはお気に召さなかったらしい
「お前はどうしてそう即物的なんだ・・・
役に立つ立たないじゃない。インスピレーションだ
あの映画が与えてくれたのは」
「つまり役に立った?」
「もういい。この作品が素晴らしいのは
HALの描写だけじゃない。人類の進化に対する
示唆に富んだ、映画史に残る名作だ。」
「そうか、機会があれば見てみるよ。」
「江戸にもDVDとかがあるらしいから
見ることをおすすめする。」
それでも弾んだ会話が終わって。
途端に沈黙があたりを満たしたので、何か話題を
探していて・・・は昨夜の事を思い出す。
「まだ・・・整理は付きそうにないか?」
ビッグ・ママがあの後、どうなったのか
表には出さなかったが・・・ずっと気になって
仕事が手についていなかった。
スッキリさせておきたいが、昨日の今日なので
彼は半ばダメ元でこの話題を切り出した。
まるで時間が止まったかのように休憩室は
痛いくらいの静けさに包まれていた
・・・けれど、彼女が沈黙を破って
「・・・・・・そうね
あなたには、それを知る義務がある。」
再び、話の続きを語り出す。
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後書き(退助様サイド)
退助「この長編、パスの日記を元に書いてますけど
尺が足りなさ過ぎるのなんのって。」
新八「あー・・・確かにそのまま書いてたら
5〜6話で終わってますもんね。」
神楽「ぶっちゃけ引き出しが足りないアルよ
ガジョピントだけで2〜3話は引き伸ばせるネ。」
銀時「あからさまに調理に手間取ったり、ライバルに
嫌がらせとか回想タイムで尺を引き伸ばすのか?
あざと過ぎて読む気失せるわーマジで」
退助「その言い方もどうかと・・・ってアンタが
読みたくなくなるのかよ。」
カズ「おい作者、個人的にはそろそろあの話を
所望したいのだが・・・」
サニー「あの話って何?」
退助「お子様にはまだ早い。」