―1日目・夜―





仕事もあってか、途中で離脱した
遊んでいた銀時達よりも遅い夕食をとっていた。


その姿を見かけて、アマンダがこう訊ねる。





ジャック、あなたの意見を聞かせて。
敵の傭兵、実力はどうだった?」


「ニカラグアにいたソモサの傭兵か・・・」


練度も数も申し分なく、ベトナム帰りが多い事もあってか

場馴れしていて手強いだけでなく、装備の充実や戦車や
ヘリの運用規模についても挙げてゆく。





「それだけ資金が潤沢ってことね。それにあの手の
大型兵器にアクセスできるコネクションもある。」


「天下のCIAがバックについてるんだ、当然だろう。」





複雑な面持ちでため息をつき、アマンダは呟く。





「それに比べてあたし達ときたら半分農民半分学生

子供もいるかと思えば、武器にしたって敵から奪って
数を揃えるていたらく。悔しいけど、終始押され気味。」


「・・・そうだな。」


「頼みの父さんまで失ってしまって・・・」


「ああ、そうだな。」





落ちこんでいく彼女に、はそっけなく返すばかり





「・・・・勝てるのかしら、アタシ達
・・・ねえジャック、どう思う?」


「自信がないのか?」


「だって・・・」


「アマンダ。」


「何?」


「いいか、仲間の前では決してそんな声を出すな。





顔を上げたアマンダへ、彼は厳しい口調で


例えどんな苦悩を抱えていても・・・不安や恐怖に
押し潰されそうになってもリーダーは


常に真っ直ぐ立っていなければならないと告げる。





「仲間や部下に盤石の安堵感を与える、それが
リーダーの務めだ。忘れるな。」



「・・・ジャック。」


「なぐさめが欲しければ教会へ行け。
・・・俺からこれ以上言うことはない。」







その一言に彼女は短く頷き、笑みを取り戻す。





「・・・そうね。ごめんなさい。
しっかりしなくちゃね、アタシ。


「ああ、お前ならやれる。」


「ありがとう、ジャック。」











第2話 楽しみも悩みも始まったばかり
焦らずじっくり行こう、な?












話題転換としてマザーベースに慣れたか聞けば


山の暮らしに比べれば、国家警備隊や傭兵に
追われることも無くて天国だと答えてくれた。





「最近ここへ来た連中には
その傭兵出身の奴もいるが・・・。」


「大丈夫うまくやってる。最初はいざこざも
あったけど、話してみれば普通の人間だもの。」


「そうか、安心した。」


「そうよ・・・敵味方に分かれて戦ってても
相手はただの人間・・・CIAの傭兵も、国家警備隊も
・・・そしてきっと、アメリカの民衆も・・・」







語るうち悲しげにうつむくアマンダへ理由を訊ねれば


革命の資金を稼ぐためKGBに言われるまま
父が手を出していた麻薬精製を黙認し、加担していた
事実をずっと気に病んでいたようで





全ては祖国のため・・・そう思うようにして
目を背けてた。でも、結局それはアメリカの若者を
薬漬けにする手助けをしてるんだって・・・気づいてた。」


「アメリカでは確かに麻薬中毒は社会問題だからな。
小さい頃、それで死んでいった奴を何人か見た。」


「そう・・・もしかしたら、私達のせいだったのかも
知れないわね・・・」







一呼吸して、決心をつけた顔でアマンダは言った。





「決めた。ここを離れて革命に戻っても
もう麻薬精製には手を出さない、KGBにも頼らない。」



例え今までのやり方でソモサを倒せても、エゴのために
他人を不幸にしてしまえば・・・ソモサと同じになる


それでは人々の心は離れてしまうはずだから、と





「親父さんとは違う道を進むってことか。」


「父さんのことは今でも尊敬してる。
でも、あたしのやり方は違う・・・それだけ。」


「そうか、チコも喜ぶだろう。」


「チコだってもう一人前の戦士だからね
顔向けできないことはしたくない。」






その一言には、満足そうな笑みを浮かべた。





よく言った、アマンダ。
さっきより司令官の顔つきになってるぞ。」


「よしてよ・・・最高のコマンダンテ
傍にいてくれたおかげよ、ボス?」





照れたように戸惑う彼を、クスリと笑って

アマンダは相談に乗ってくれた礼を口にする。







―2日目・朝―





人数が増えたマザーベース、特に神楽の来訪によって
食糧が目に見えて減ったので


招待された江戸勢も食糧補給を手伝わざるを得なくなり





その一環として釣りに参加するなら、と







「パス、釣りしようよ!」


銀時達と一緒にチコは パスを誘いに来ていた。





「え・・・釣りって?」


「元々訓練も兼ねて一部自足してるんだけど
このままじゃちょっと追いつかないからみたいだし」


「ったく神楽、オメーがもうちょいセーブできりゃ
俺らまでこんな面倒なことしなくてすんでたんだぞ?」


アタイやサニーやチコは育ち盛りアルよ!
それにめっさ釣り上げて魚パーチー開けばいいネ!」


「そうそう、それに釣りって結構楽しいよ?」





無邪気に笑いかけるチコへパスは小さく笑い返すと
4人に連れられて甲板へと出た。







既に集まって釣り糸を垂れている隊員5人が
嬉しそうに参加者・・・特に彼女を歓迎していた。





よぉ!アンタらも釣りに参加してくれるか」


「おお〜パスも来てくれたのか。」


「うんうん、年頃の可愛い子ってのは
やっぱり華があっていいなぁ。」





しみじみ頷く固太りの隊員へ、からかうように
別の隊員がこう言い返す。





「なーに言ってんだ、お前スワンと出来てんだろ?
ウワサになってんだぞこの野郎。」


なっ!誰から聞いたんだよそれ!?」





よくある恋話をする男達を、縁のない
銀髪侍とチャイナ娘がうんざりした目で見つめる。





「銀ちゃ〜ん、ここにもいたアル。」


「ったくホントお前らんとこのボスもボスだが
バカップル率高すぎなんだよこの国はよぉ。」


「そうヒガむなよ、自分も作ればいい話じゃん。」


「「それが出来りゃ苦労しねぇんだよぉぉぉぉ!!」」


魂からの叫びに乗せて、銀時と新八が
固太り隊員を蹴り飛ばす





「おわっと!?」





が相手は空中で身を捩ると、転ぶことなく着地した。


「おおさすがアルマジロ!」


「どうだ?俺はどんなことがあっても
転ばないんだぜ?どんなことがあってもだ!


ドヤ顔されてもそんなの自慢にならないヨ。」


「バカやってないで早く釣ろうよ、昼飯まで
時間がないんだから。」





ともあれ、後からやって来た5人にも道具と
場所を提供されて釣りが始まった。







風も波も穏やかで絶好の釣り日和な天候の中


魚が餌にかかるまでの間、手持ち無沙汰な隊員や
万事屋トリオはパスに色々と質問をしていた。





「パスって高校生だけど、それなりに成績は良かったの?」


「ええ、平和を学ぶためには学力も必要だから。
結構学校の中では上位だったわ。」





当たり障りの無い大半の質問へ、律儀に笑顔で
返していたパスだったが





「そういや一度聞いてみたかったんだけどよぉ。」


「何?」


昨日、に会ったろ?前ん時に話ぐらいは
してたけど実物見てどう思うよ?お前」


「え?」





何気ない銀時の問いには、その笑みを曇らせる。





「・・・・・何て言えばいいんだろう。
ホントに無表情でお人形みたいで・・・

正直どう接すればいいのかわからない・・・かな?」


「ふぅん、まー歳も胸のボリュームも近いし
その内慣れるんじゃね?で、今サイズ何カップ?


なんてこと聞いてんですか銀さんんん!パスさん
すっごい困ってますから!簡単な質問にチェンジで!!」



はい!パスの好きな食べ物は何アルか?」


「いや神楽ちゃん質問ベタ過ぎでしょ・・・」


ガジョピントよ、お母さんが作ってくれた家庭料理。
とってもおいしかった。」


マジでか!?
今度作って欲しいアルそのガチャピンマル!」


「ガジョピントね、ええ喜んで。」





約束されて神楽が喜んでいると





「お!来た来た!


竿に反応があり、次々と魚がかかって
糸を引いていたので彼らはその対応に追われてゆく。





っしゃ!釣れた釣れた!」


「結構釣れるモンですね・・・それ引いてますよ!


「よーしきたきたきたぁぁぁぁ!!」





それぞれ釣果を上げているが、必死に糸を手繰って
いたチコが針の先を見て顔色を変える。





あ〜!俺の餌取られて・・・」


腹を立てて立ち上がったと同時に辺りが揺れ


足元がふらついたのかチコは、海に落ちかけた。





「うわっとっとっとっと!?」







・・・間一髪で海への落下は踏みとどまったものの


その動きはとてもおかしなものだったので





『ダハハハハハハハハ!!』


「ふふふ・・・」





銀時達や隊員が大笑いし、パスもつられて笑っていた





「チェ・・・パスまで笑いやがって・・・」


歳相応に悔しそうな顔をしてチコがそっぽを向く。







しばらくして、パスの仕掛けた竿にも反応があり





「あ、来た!


釣り上げようと竿を持ち上げるが、思ったより
大きいのかすごい力で糸が引っ張られ


手慣れていない彼女は少し振り回されていた。





「な、何これ・・・きゃ!?


「ったく世話やけんなぁ。」





見かねた銀時が、パスの後ろへ回りこんで
そこから竿を支えた。





ほらよ、こうしといてやれば釣れんだろ。」


「あ、ありがとう・・・」





協力しあって二人で竿を上げてみると・・・





釣れた魚は、意外にも40cm程しかなかった。





アレ?引きに対してちっちゃくね?」


「ええ。もっと大きいと思ったのに・・・」


「残念でしたね、パスさん。」


「めげちゃダメね 次があるアル!







全員に励まされながら、キョトンとした顔で
釣り上げた魚を眺めていたパスの側で





「おいしそうだニャ〜・・・」


物欲しそうに魚を見つめるニュークがいた。





「欲しいのならあげる。」


ホントかニャ!?いただきますニャ〜!」





飛び上がりそうなくらいに喜んで、ニュークは
差し出された魚へとがっついた。









同時刻、司令室デスクにては資料に目を通し
マザーベースの内情などを入念にチェックしており





そこへカズが慌てた表情で部屋に飛び入る。





「ジャック、大変だ!
拘留していたザドルノフが、姿を消した!」


「何だって!?」





寝耳に水の出来事に少しばかり動揺するが


すぐに落ち着きを取り戻し、ザドルノフが
逃げ出した状況などを訊ねた後に





「こんな事になってスマンが・・・KGBの工作員
ザドルノフを見つけ出してくれ!」


「わかった、すぐに行こう!


はヘリでコスタリカへと飛び立ってゆく。





独房の状態から、義手をバーナー代わりに使い
鉄格子を焼ききり逃げただろうと推定されているが


取りつけた発信機によって逃げた場所は
バナナ工場だと絞りこまれていたため


慎重に探した結果・・・・







彼は空になった倉庫の中でうずくまる標的を
発見することに成功し、足音を殺して忍び寄った。





「・・・動くな。」


「ちっ・・・!」


舌打ちし、ザドルノフは床にうつ伏せになる。





「クハ・・・見つかったか。」


「ここからは逃げられんぞ。どうするつもりだった?」


「ちょっとした・・・散歩だよ。」





軽口には取り合わず、は通信機のスイッチを入れ





カズ、ザドルノフを発見した。これより帰還する。」


『了解した、ジャック。』





ほどなくザドルノフと共にフルトン回収される形で
無事にマザーベースへと帰還した。









―2日目・午後―





釣りをする万事屋トリオとは別の仕事をしていた
は、糧食ベースへと早足で向かっていた。





「早くせねばまた神楽にどやされる・・・」





たどたどしくも居住ベースを横切って







ふと、足音が聞こえたので立ち止まり
視線を送った彼女の瞳が


研究開発ベースの方から出てきたパスを捉える。





「パス殿・・・?」


「あ、あなたは確か・・・さんね。」


む?どうかしたかそんなに慌てて?」


「え、ええ・・・別に何でもないわよ。」





言葉を濁し、パスが曖昧に微笑むと





一拍の沈黙を置いて、緑色の視線から
微かににじんでいた威圧感が失せる。





「そうか・・・」


もうすぐ夕食でしょ?一緒に行きましょう。」


「うぬ。」





気を取り直し糧食ベースへと急ぐとパスだが


二人の距離は、微妙に開いていた。








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後書き(退助様サイド)


退助「さあ始まりましたザドルノフ脱走1回目。」


銀時「1回目って、どんだけ脱走する気だオッサン」


退助「確か後5〜6回はあったはず。」


新八「脱走しすぎでしょ!?ここの警備ってザル!?」


神楽「大方あのグラサンがサボってるアルよ
にしてもパス、何であんなに慌ててたアルか?」


退助「さあ・・・研究開発班に用があって思ったより
時間が掛かったからじゃないの?ね、パス


パス「ど、同意を求められても困るんだけど・・・」