―13日目・???―
海鳥の声をBGMに、娯楽ベースの甲板で
着々と平和の日への準備が取り行われている頃
ZEKEの甲板から一人海を眺めるへ
カズが近づき、おもむろにこうささやく。
「ジャック、ザドルノフだが・・・」
「やはり、いないか。」
おそらくあのゴタゴタに紛れ、意識を取り戻し
CIPHERへ逃げ帰ったと思われる
しかしパスがああなってしまった以上
ザドルノフが無事で済むかは怪しい。
「しかしCIPHERか・・・単語だけならば
"空"を意味する"暗号"・・・もう一つの意味は・・・」
「ゼロ・・・か?」
先に答えられ、カズが視線を向ける。
「心当たりが?」
「・・・いや」
「"暗号"を駆使した電子諜報(シギント)・・・
その中心にいるのがゼロ・・・ってことか。」
「カズ?」
この独り言めいた発言に不審を抱いて
にソレを指摘される前に、カズが口走る。
「すまない、お前に謝ることがある。
・・・冷静に聞いてくれるか?」
渋々承諾した後に・・・視線を逸らしてカズは言う
「教授の事も、パスの事も・・・俺は最初から
彼らの正体を知っていた。利用させてもらったんだ。」
第18話 フィナーレと平和は笑顔で飾れ
「それじゃあ、彼らを
江戸支部に連れて来たのはお前なのか?」
「そうだ パスはCIAだけじゃない
裏でKGBにも通じていた。」
察しはついていたものの、真実を隠していた事に怒りが募り
「そして、CIPHERという謎の組織にも・・・
つまり、彼女はトリプルクロスだった」
「っお前そこまで知っておきながら!!」
「待ってくれ!」
詰め寄る彼を、カズは押しとどめて告げる。
「いいか?あいつらのお陰でマザーベースはここまで大きくなった。
戦争がビジネスとなった今 俺達の力は世界を支える力となる!」
「・・・そもそものお前の狙いはそれか?」
「地域紛争やテロの時代になった今、反テロのために
現存するPMCや俺達の力が必要になる。」
顔をしかめるへ 諦めずカズは
自分達の価値と、世界中にいるであろう自分達を
必要とする依頼人(クライアント)の存在を力説する。
「俺達が、愛国者達も成し得ない平和維持の実動組織として
時代の魁となる。これこそ一つの革命だ!そうだろ?」
「カズ、そう上手くはいかない。」
今回の事件で、自分達が旧体制の歴史に関与してしまい
"彼ら"の諜報機関や政府を通じ・・・それこそ自分達の存在が
世界中、いや宇宙にも広まった可能性をは指摘する
「天導衆や、あのCIPHERという組織を含めて・・・」
「俺達は時代に干渉してしまった。
触れてはいけない世界の抑止システムに・・・何処にも属さない軍隊が
触れてはいけない国際情勢に介入してしまった。」
言葉の意図に気づいていながら、敢えてカズは先を促す。
「つまり、俺達は・・・?」
「追われることになる、それも宇宙からもな・・・」
「俺達を快く思う連中ばかりじゃない?」
世界の軍事均衡を破るMSFを・・・
国家に帰属しない軍隊を、歓迎しない者達が
近い内に排除すべく動き出す
もはや後戻りは出来ない、とは予言する。
「俺達は古い抑止システムに食い込んだ歯車だ。
時代の形が変わらない限り、歯車は音を立てる。」
「では、俺達は誰と戦うことに・・・?」
「世界の均衡を戻そうとする、俺達の存在を
許さない全ての規範・・・」
蒼い瞳は、微動だにせず同じ色の海へ注がれている。
「俺達を追ってくるのは
決まった国家やイデオロギーじゃない。」
「それじゃ?」
「俺達は・・・『時代』という怪物と戦うことになる。」
―ビッグ・ママは『時代』に拒絶され殺された。
そして今、自分達が『時代』に試されている
『時代』がMSFを排除するか?
それともMSFが『時代』に協調するか?
善悪もない・・・孤独な戦いになる
淡々と語るボスの意思に、カズも同調してゆく。
「俺達が次の世代まで生き残るか、否か。
・・・ビジネスを問うのはそれからだ。」
「わかった、お前と
その結末(エンディング)を見届けよう。」
微笑みながら胸に手をあてて寄ってきたカズを
横切るようにして数歩進み
「カズ、世界中が俺達を追ってくる・・・」
振り向かず、は言葉を紡ぐ
「さあ、みんなを集めろ!」
信念を籠めた言葉の余韻が終わらぬうちに
ボスは再びベースへと歩き出してゆく。
―14日目・日中―
研究ベースにて、修復作業を行っているZEKEの
AIポッドの側にいたストレンジラブを見つけて
車椅子に座ったままのヒューイが呼びかける。
「どうだい、ZEKEの様子は?」
「姿勢制御AIはバックアップしてたから、歩けるはず。」
「そうか・・・よかった。」
「後は・・・本人次第」
ほっと息をつき、彼女へ近づこうとヒューイが
車椅子のリモコン部分を操作して駆動させ
「ストップ!博士、それ以上近づかないで」
制止の声に慌ててブレーキをかける。
「ちょっと、聞いていいかな・・・?」
先程のやや拒絶の感が強い声色に、その場に留まり
ヒューイは悲しげな表情で問いかける。
「君・・・僕のこと、嫌い?」
サングラスを持ち上げた彼女が 視線を寄越して
「それって・・・コクってるの?」
「・・・そんなんじゃ・・・」
照れてほんの少し椅子を引いたヒューイへ
ストレンジラブが自ら歩み寄ってゆき
「そう?なぁんだ・・・
私、ちょうど失恋したところだったんだけど」
「ええ!?」
驚く彼のアゴへ手をやり、上向かせて続ける。
「私が好きなのは、自立した人。
私が好きなら・・・歩いてきなさい。」
楽しげに言うと彼女は自分のサングラスを外し
メガネの上からヒューイの顔にかける。
「奇跡を起こせるはず・・・恋は盲目ってね。」
未だに呆気に取られているヒューイから
メガネとサングラスが勝手にずれた
「待ってるわ、気長にね。」
笑みを浮かべて、振り返らずに娯楽ベースへと
歩き去ってゆくストレンジラブの背中を見つめて
ヒューイはサングラスを外し、静かに 笑った。
「・・・さて、僕も行かなきゃ!」
―14日目・定時刻―
『さあいよいよ待ちに待った平和の日!!
オメェら盛り上がってるかぁぁぁ!!』
マイクを持ったノリノリなカズの会場コールに応え
『おおおぉぉぉぉぉぉ!!』
爆ぜるような歓声がベース周辺へと響き渡って
平和の日の始まりを知らしめた。
『それじゃあ早速江戸の面々からやってもらおうか!!』
特設ステージからカズが降りたのと同時に
「任せてください!お通ちゃんの歌で会場の皆さんを
ファンにしちゃいますから!!」
「踊りの成果を見せる日が来たか・・・大丈夫か?」
「へっ平気ヨこれくらい!そっちこそ
き、緊張しすぎてヘマしたら承知しないんだからね!?」
入れ替わって、意気揚々とマイクを握り締める新八と
ちょっとぎこちない神楽、平素通りのが上がってくる
「ちょ、神楽のキャラ微妙に変わってんだけど
アレ大丈夫なのか?」
「知らねーよ、ヒマを見つけちゃ新八が熱心に
練習つき合わしてたみてーだし何とかなんだろ?多分」
やる気なく鼻をほじる銀時の返答に
彼はともかく他二人は本当に大丈夫なんだろうか・・・と
青筋立てても見守る。
そして数秒後・・・沸き立っていた歓声は
新八のジャイ○ンボイスによって早速怒号と悲鳴へ
早代わりしていた。
前座はひどすぎる歌と踊りの末、ハプニングにより
途中退場になりはしたものの
他にも、ストレンジラブが中心となって行った
チューリングテストに
「うーん・・・コレ本気で難しいわね。」
『当たり前だ。この日のために苦心したからな。』
参加したアマンダが、ステージで頭を悩ませたり
セシールによる動物の声真似十連発が披露されて
「すごい!本物みたいねローズ!」
「ええ、確かにすごいけど・・・」
拍手しながらも、持ち前の美貌に似合わぬ迫真の
声真似に顔を引きつらせる者達も多かったり
様々な催しが行われ ベースは活気に包まれてゆく。
・・・そんな歓声から離れた一室で
「・・・私です。」
カズはたった一人、握った受話器へと話しかける
「ええ、雷電にも真実は・・・本部(ラングレー)は
まだ判断を決めかねているようです。」
未だ身内(コールドマン)の後始末に追われている事や
「ええ・・・例の開発は終了し、コントラクターに導入を
・・・やはり天人の技術力接収は大きいですな。」
SOPの事例を踏まえ、計画は一から見直した方が
よさそうだと進言を続けて彼は
「彼女の処遇は?
・・・なるほど、放っておいても支障はないと・・・
なるほど、それは・・・雷電がどう出るか・・・」
通話している相手へ、断片的に情報を伝えてゆく。
「ええ、でも私はビジネスにしか興味はありません。
何度も言いますが、私はあなたの敵でも味方でもない」
ただのビジネスパートナーです、と付け加え
「それをお忘れなく・・・では・・・また
親愛なるゼロ」
通話が終わり、受話器が置かれて数拍の間が挟まれ
「ミラーさん、パスの出番が来たニャ!」
ニュークがひょっこりと顔を覗かせた時には
打って変わってカズはパッと明るい面持ちを見せていた。
「おっといけない!ギターやるんだったよな。」
バンドの約束を思い出し、すぐにギターを担いで
ステージへ向かうと・・・
準備が整い マイクを握ったパスが待っていた。
「待ってたぜー!」
「パス〜!」
ステージの上のパスへMSF隊員達が声援を送るが
マイクに彼女の口が近づけられたと同時に、口を閉ざす。
『私は・・・みんなを騙していた。
みんなにひどい事ばかりしたのに・・・
こんな私を、許してくれて・・・ありがとう!』
涙ながらの想いの丈に、隊員達は笑顔を見せた。
「パスー!気にしなくていいぞ!」
「いつも割を食うのは何の罪もない子供なんだ!」
「君はただ利用されただけだ!一番の被害者は君だ!」
「待っててよパス!あんたを利用した女の敵は
私達が必ず倒してあげるから!」
彼らの声が届いて、空色の瞳から更に涙がひとしずく
『ありがとう・・・本当にありがとう!』
「パスー!私らの分まで頑張るネ!」
「そうとも、パス殿の思うままに歌うといい!」
『ありがとう、神楽ちゃん、さん!』
笑顔を二人へ返したパスが
最後列に佇んでいるを見つける。
目を合わせ、彼は何も言わずに 笑って頷いた
『・・・それじゃあみんな、行くわよー!!』
『おぉぉぉぉぉぉ!!!』
カズのギターが掻き鳴らされて
『聞いてください!恋の抑止力!!』
最高の笑顔でパスは、歌声をマイクへと乗せてゆく
・・・言うまでもなく そこで
平和の日の盛り上がりは最高潮へと達した。
平和
たとえ幻想であろうと、夢物語であろうと
平和を思う気持ちは決して失ってはならない。
焦がれて想い、願う心こそが
平和へ歩み寄る・・・大きな第一歩となるのだから
恋の抑止力編 完
――――――――――――――――――――――――
後書き(退助様サイド)
退助「え〜予告からかなり間が空いた長編でしたが
これで無事終了です!」
パス「みなさん、ご拝読ありがとうございました!」
銀時「はーいお疲れ。で、結局何?
そーすっとパスは今20歳以上ってことか?」
新八「とてもじゃないけどそうは見えませんよね。」
パス「子供に見えた方が諜報活動がやりやすいからね。
しかもそれが女の子だったら・・・」
神楽「尚更って事アルか。」
退助「確かプロの殺し屋やスパイの大半は
女性だと言う話を聞いたことがあります。」
カズ「007とかに出てくる女性スパイが
現実に数多く存在するということか。」
銀時「ボインな姉ちゃんならハニートラップも悪く
・・・おいコラ、テメーら何その養豚場のブタを見る目」
チコ「そう言えばパスはどうしてレウスを
説得しようとしてたの?日記聞いてた限りじゃ
少なくとも 必要なさそうな感じっぽかったけど・・・」
退助「そ、そそそそれは短編でいつかやりますんで・・・」
カズ「・・・考えてなかったようだな、今の今まで。」
新八「最後までしまらないなぁもう・・・」