飛び込んだ二人をレウスが海から引き上げると
パスは間を置かずに医務室へと運び込まれた。
幸い彼女に目立った外傷もなく
しばらくすれば、じきに意識を取り戻すだろうとの医師の診断に
集まっていた面々から安堵の吐息が漏れた。
「本当によかった・・・・でも肝が冷えたわ
もう、ったらいつも無茶ばっかりして・・・」
「銀さんの癖がうつっちゃいましたかね?」
「どうせうつるなら金運をオレn「黙っとこうか銀さん」
いつものやり取りが行われている間も、チコは
ただひたすら泣きじゃくっていた。
彼は・・・いまだに後悔していた
「俺が・・・俺が止めるべきだったんだ・・・!」
"ZEKEを壊そうとしていたパスを目撃した"あの時
逃げたりしなければ 乗り込む前に拘束してでも
彼女を止めていたならば
「そうか・・・だが自分を責めるな
丸腰のお前には、止められなかったはずだ。」
パスが銃を所持していた事と専門的な訓練を
積んでいる事も、伝えながら励ますだが
少年は自らを許せずにかぶりを振る
「話だけでもしてたら・・・俺が誰にも言わないって
約束してたら、パスはあんな行動に出なかったはずだ
・・・なのに俺は、パスが工作員だったのがショックで
そのまま逃げてしまった・・・!」
嗚咽するチコに同調するような表情を浮かべて
神楽は、いまだベッドで眠るパスに視線を合わせる。
「パス・・・なんであんな嘘を付いたアルか・・・」
「神楽ちゃん、さんも言ってたでしょ?
工作員は仕事も家族も、何もかも用意してくるって。」
「今までパスが言ってた家族の事も、きっと全部
CIPHERって組織が作ったものだったんでしょうね。」
「その嘘に、MSF全員が騙された・・・俺も含めてな」
そう呟いて・・・彼は一つの疑問に突き当たった。
第17話 憎しみも悲しみも、全て含めてラブで
「チコ、お前が見た時
パスは確かにZEKEを壊そうとしてたんだな?」
訊ねられ、チコは涙を拭き顔を上げる。
「え?うん・・・そうだよ」
「それで、その直後に
ZEKEを起動させ、俺を従わせようとした・・・」
「そいつぁおかしな話だな、テメーで使うハズのモン
壊しちまったら元も子もねーだろ?」
銀時の指摘も最もだ
ZEKEの破壊が目当てなら、破壊して逃げればいい
奪って利用する目的なら 壊す動機も必要性もない。
例え"チコに見られた"事で方針を変えたとしても
工作員にしては一貫性がまるでない行動に
解せないとが唸っていると―
「た、大変ニャー!」
ひどく慌てた様子のニュークが病室に飛び込んでくる。
「パスの部屋から何か見つかったか?」
「命ぜられた通り探ったら・・・これがあった」
ニュークの後ろにいたがそう言って
カセットテープが十一本入ったケースを見せる
「カセットテープ・・・?」
「日記って書いてあるアル!」
「・・・日記と称しての報告音声記録かも知れん。」
セシールから拝借したカセットデンスケで再生すると
これまでパスが体験した MSFでの出来事が
音声として録音されていた
だが・・・
『いい歳した男たちがなにをしてるんだか・・・』
『アイルーは名前をつけてもらって喜んでいる
なんて愚かで・・・無力なのだろう。虫酸が走る。』
『・・・騙される女が悪い。ミラーに誠意がないことを
見抜けないというのは、女としてレベルが低すぎる。』
『どうもチコは私のことを好きなようだ。けど
子供になどまるで興味などないし懐かれるのは面倒だ』
『江戸の連中はマヌケなヤツらばかり
・・・所詮天人に迎合している軟弱種族ね。』
内容の端々に、隊員や江戸の人々を見下した
良くも悪くも 工作員らしい言動が目立っている。
「うげ、こいつこんな顔してかなり腹黒ぇな。」
普段なら銀時の尻馬に乗り、ドSだのなんだの
辛口なセリフを飛ばす神楽だが
友としてパスを好いていたから・・・黙っていた。
しかし乱暴な表現を多く含みながらも
『銀時に支えられながら釣った魚は、意外にも
半バーラもなく、少し拍子抜けだった。』
『神楽と、ニカのくせにチコが声援を送ってくれた』
『あいつらを喜ばせるつもりはなかったが、私だって
この程度の料理はできるのだ。
雷電も喜んで食べていたけど・・・。』
『すんでのトコロでニュークに助けられた。
危なかった・・・もしあのままだったら私は・・・』
『酔っ払ったはやけに兄の話題を繰り返してた
・・・よほど仲のいい家族なんだろうか?』
『横になっていると、神楽達やアマンダやチコ
ヒューイ、セシール、ミラー、それから私と比較的
仲の良い何人かの兵士が見舞いに訪れた・・・』
マザーベースで過ごした日々が、彼女の心の中に
少しずつ変化を及ぼしていたようで
『人前で歌ったことなどないが、期待されるのは
悪い気分ではなかった』
平和の日に歌う事も ずっと楽しみにしていた
・・・しかしZEKEが完成したことで
CIPHERは 計画の先行を急がせた。
せめて3日後の平和の日までは、とZEKEの
駆動部の破壊を試みていた所をチコに見つかり
彼女は・・・計画を実行せざるを得なくなった。
『本当は・・・戦いたくなんかない・・・!
みんなと築いたこの絆を・・・壊したくない・・・!』
テープの最後の声は、嗚咽にまみれている。
『ごめんね・・・チコ・・・神楽・・・ちゃん・・・!
ごめんね・・・ごめんね・・・!!』
それは"工作員・パシフィカ"ではなく
"平和を望む少女" パスとしての懺悔だった。
十一本の記録を聴き終え・・・重い空気が病室を満たす
「ひょっとしたらパスは、CIPHERって組織を
裏切るつもりだったのかもニャ」
「かもね・・・ZEKEが無ければ、組織は
を脅す事も出来なくなるもの。」
「だったら最初からに全部話せばよかったネ!」
高ぶる感情のまま、神楽が声を張り上げる。
「絶対CIPHERとかいうヤツらからパスを
護ってくれるアル!どうしてパスがこんな・・・・!」
「神楽・・・」
悔しげに涙を溜めて震える肩を、がそっと叩く。
口に出さないまでも、泣きじゃくるチコも同様に
"あの時逃げなければ 絶対誰にも話さないと
約束していれば"とことさら強く思っていた。
「・・・チコ、あの時にそんな判断はできない。
その状況なら 言わなければ俺達に危害が及ぶと考えるべきだ」
思考を読み、非情ながらも切り捨てるだが
一拍置いて・・・静かにこう続ける。
「だがな二人共、パスはこうして生きてる・・・経緯が
どうあれ パスはCIPHERから解放された。」
「そーいうこった テメェらが泣く必要はもうねぇ」
言って、銀時が二人分の頭をくしゃりと撫でる。
「やっちまった過去を悔いるより、未来に
希望ってヤツを持った方がパスも喜ぶだろ?」
微笑みに 神楽とチコもつられて笑顔を取り戻す。
「う・・・ん・・・」
声に反応して全員が視線を移すと
どうやら意識が戻ったようで、ゆっくりと
パスのまぶたが開いた。
「パス!」
「良かったアル!パス大丈夫アルか?」
駆け寄られ しばらくぼんやりとしていたが
パスは跳ねるように起き上がると
の懐にあった拳銃を素早く奪い
病室の壁を背に、彼らから距離を取る。
「パス!」
「何で・・・何で助けたのよ!!」
銃口をこちらに向ける手が震えている。
「何でって・・・決まってるじゃないですか
あのまま落ちてたらパスさんは死んで」
「死んだって構わなかった!計画は失敗
生きてても・・・もっと苦しい地獄を味わうだけ!」
新八の声を掻き消すように、パスが叫ぶ。
「パス、銃を下ろせ!」
「あなたなら・・・
あなたになら、殺されてもよかったのに・・・!
何であなたに助けられなきゃいけないのよ!!」
空色の瞳から涙を零し、悲痛な声を吐き出して
「苦痛を被るくらいなら・・・平和幻想に浸った世界に
いるくらいなら・・・死んだ方がマシよ!!!」
パスは自分のアゴに銃口を押し付けた
「!!やめろパス!!」
止めようと手を伸ばすだが、わずかに届かず
引き金にかかった指が引き絞られ
・・・弾が放たれようとする寸前
床を蹴り懐へ入ったが、槍の柄で銃を弾き飛ばし
「馬鹿者!!」
平手で パスの頬を張り飛ばした。
「何故・・・何故素直に私達に助けを請わなかった!」
左頬を押さえる相手と、少女は意思のこもった緑眼で
真っ直ぐに向き合って続ける。
「皆を傷付けた罪から、組織の罰から目を背けて
死ぬなど・・・お主は己から逃げているだけだ!!」
かつての自分を重ねてか 凄まじい剣幕で
怒鳴っていただったが
「私もお主と同じ 罪を負った人間だ。」
その言葉は次第に、穏やかな口調へと変わっていく。
「だが皆のおかげで、こうして賢明に日々を生きている
お主とて同じだ・・・死ねば悲しむ者もいる。」
「そんな人いない!私は・・・ストリートチルドレンだった
栄養失調でこんな身体になって、そこをCIPHERに
拾われて利用され・・・こんな私なんか・・・!」
「そんな事ないネ!!」
神楽の一声がパスのセリフを否定する。
「パスがいなくなったら、ここにいる皆が悲しむアル!
皆・・・みんなパスの事が大好きだから!」
こらえきれず涙ぐむ神楽を見て、彼女はうつむいて
沈黙を破り・・・が口を開く
「パス、俺の知り合いにスパイをやってる奴がいてな
そいつにこう教えられた。」
偽りの自分が、知らない内に自分自身を蝕んでいく
演じているつもりが、自分自身になっている
それが長ければ長いほど、本当の自分を見失ってしまう
だから常に自分を見失うな
「本当の自分が、悲鳴を上げている・・・それが今の君だ」
そう言われて、パスはハッと顔を上げる。
「本当の君は・・・平和を願う、普通の少女パスだったんだ。
それを偽りであるパシフィカに侵食され、胸を締め付けられ苦しんだ。」
本当の彼女は 皆と平和な時間を過ごし
耐える事のない笑顔で彼らに平和を感じさせてくれる―
「平和を望む 何処にでもいる女の子だったんだ。」
紡がれる言葉へ耳を傾ける合間も、パスの目に
涙が溢れて零れ落ちてゆく。
「本当は自分が何者か・・・
自分でもわかっていたはずだ、そうだろ?」
「私は・・・・・私は・・・!
当たり前にみんなと一緒にいたかった・・・!
当たり前の様に、笑顔でいたかった・・・!」
ボロボロと流れる涙の雫に構うことなく
「当たり前の様に・・・
平和な世界に・・・いたかった・・・!」
パスは自分の想いを 打ち明けた。
「私・・・ジャックが・・・みんなが・・・大好き!」
神楽とが、力一杯その身体を抱きしめる。
「うん・・・私もパスの事、好きアルよ!」
「もう二度と・・・私達に刃を向けさせるな。」
平和の少女は―赤ん坊の様に 泣いた。
美しい友情が織り成す光景を、新八達もうっすら
もらい泣きしつつ見守っていた
「つーか何でだけピンポイントで告られてんの?」
が、唐突に空気を壊す質問が寄越されて
「は?」
問われた当人はマヌケな声を上げる。
「やっぱアレか?オメェやっぱあの時こいつと・・・」
「あのなぁ銀さんあの時は」
「何言ってんだよ、あん時両手をこういやらしく
「誤解招く発言すんなぁぁぁ!!」
いやらしいニヤけ顔で、よい子には見せられない
手つきで口走る銀時にすかさずツッコミが飛ぶも
「、ちょっと話があります。」
怖い顔をしたが彼の耳たぶを引っ張る
「イダダダダダ俺はタ/ケ/シじゃねーんだから
耳たぶ引っ張るなぁぁぁ!」
「・・・ぷっ!アハハハ!ボスもコレじゃ形無しだ!」
「ホント、モテル色男は大変だニャー」
茶化すようなチコとニュークの声に触発されて
病室に、全員の笑い声が木霊していく。
それは・・・パスが望んでいた平和な世界の一幕だった。
一通りの治療が済んだ後、パスは独房に収監された
「改心したのに何で閉じ込めるネ!」
「仕方ないだろう?納得していない隊員も多いし
示しをつけないとMSF全体の士気に関わるんだ。」
「・・・お主がそれを申すかカズ殿」
「その目は止めろよ!悪かったと思ってるって!
だからこうして特別措置も飲んでるだろ!?」
反対は聞き入れられずとも、必死の嘆願が通り
「あのね、研究ベースでストレンジラブがすっごく
張り切ってるの!それでね、ええと」
「慌てなくても聞いてるわサニー、大丈夫。」
神楽とが中心になって 子供達が
独房内のパスの世話をしに訪れていたのだが・・・
―14日目・???―
やって来た神楽が、兵士と共に檻を開けて
ベッドに腰かけていたパスへと手を伸ばす。
「パス!エセ銀ちゃん出てきていいって
言ってたアル!早く早く!!」
「え、何で?」
「忘れたか?今日はパス殿が歌う日だぞ。」
二人の言葉に、彼女は平和の日の"約束"を思い出す。
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後書き(退助様サイド)
退助「原作では有り得なかったパスの救済措置が
できました。ひとまずは満足。」
神楽「そもそもの元凶はサイ/ホーンとか言う組織アル!
パスに悪事強要させたりムッチャ腹立つネ!」
新八「CIPHER(サイファー)ね神楽ちゃん
微妙に危ない単語になってるから。」
チコ「そうだよ!元はと言えばCIPHERが・・・!」
カズ「大抵の秘密結社や裏組織はそんなものだ。
特撮物の悪役組織のアレも笑える話じゃないんだぞ。」
銀時「やけに実感こもった言い方するじゃねぇか?俺もどき
つーかパス生きててあの話成立出来んのか?
それとも後から結構いろいろ変わt」
狐狗狸・退助
「<●><●>タ タ ラ レ ロ !!<●><●>」
銀時「すんませんでしたぁぁぁぁ!!」
ニューク「ニャんだこの無駄なほど怖い連携!?」