―8日目・夜―





「にわかには信じがたい話だな・・・」


いや本当なんですって!あん時はもうダメかと思いましたよ」


「でも今じゃーあれもイイ思い出アルよ」





休憩室で談笑していたと万事屋トリオの間へ







あー・・・ジャック・・・」





気まずげに、割って入ってきたカズが話しかける。





「カズ・・・まさか、ザドルノフか?」


「ああ、見張りが目を離した隙にドロンだ。」


「これで4回目じゃないですか、その見張りを
見張っておいた方がいいんじゃないですか?」


ジト目の新八に便乗して





「いや、その見張りを見張る見張りを作った方が
いいんじゃねーか?」


「銀ちゃん甘いネ、その見張りを見張る見張りを
見張った方が確実ネ。」


「「しつけーよ!どんだけ見張らせるんだよ!!」」





いつものボケ加速とWツッコミが連鎖炸裂したのを
見計らい、カズが苛立ちを声に乗せて話を戻す。





「その見張りは女性陣に、パスに薦められて・・・
持ち場を離れて手料理を食ってたんだ、デレデレとな!


「ジェラシーか」


「そ、それは本件と関係ない!兵士の処遇も後だ
KGBの工作員ザドルノフを見つけ出してくれ。」


「わかった、行こう。」





気は進まないが、彼はザドルノフ捜索のためヘリへ乗る。










第12話 繰り返し家出は探されんの期待してんだろ
…面倒クセっ!












発信機の反応は チコが捕らえられていた廃村から


恐らく、家屋の中に隠れているのだろう。





「この家屋のどれかにザドルノフはいる・・・」





虱潰しに扉の窓から中を覗いていった





「・・・いたぞ。


やっと、奥にうずくまるザドルノフを発見した。





「チッ、見つかったか。」


「カズ・・・ザドルノフいた」


了解だ、ありがとう。』





面倒くさいのはカズも一緒なのか、無線の返事も
おざなりだったが フルトン回収はキチンと行われた。









―9日目・日中―





「ジャック・・・信じられんが・・・」





MSF司令室へ入ってきたカズの態度で、ある程度
察しがついてか彼はさして驚かない。





「おいカズ、お前わざとやってるんじゃないだろうな?


まさか、モグラ狩りを
プロデュースするほど暇じゃない。」


「しかし、本当に奴が自力で脱獄(で)たのか・・・?」


「さあな、とにかくザドルノフを見つけ出してくれ。」


わかった、ヘリを回せ。」







嫌々ながらも放ってはおけず、ザドルノフを連れ戻すべく
が再びコスタリカへと飛んで





「最近、頻度が多くないですかカズさん?」


部外者ながら 同じようにザドルノフ脱走
疑問を持った新八が問う。





「だよなぁ、昨日の今日で二の轍踏むってのも
妙な話だ・・・一応警備は強化してたんだろ?」


「ああ、一体なぜだ・・・?」





考え、頭を使っていた銀髪と金髪が チャイナ娘が
あらぬ方向へ顔を向けているのに気が付く。





「どした神楽?」


「誰かの歌声が聞こえるアル。」


「歌声?」


「あっち」





神楽が指差した方角には・・・・







「sing・・・sing a song・・・」





甲板に座り、歌を口ずさむパスがいた。





「パスさん・・・」


「・・・パスって歌上手いアルな。新八と違って」


「ダメだぞ神楽、こいつを引き合いに出しちゃ
パスがかわいそうだろ。


「アンタらしまいにゃ怒りますよ?」


いつものやり取りをする万事屋トリオだが、歌を
邪魔しないよう 自然と小声でしゃべっている。





それを他所に、歌に聞き入っていたカズは
唸りながら何かを考えていたが





「う〜ん・・・お?


無線連絡に気が付いて、一旦思考を中断する。









カズ、施設内部に潜入した。
トラックがたくさん並んでいる。」





ザドルノフの反応を追って、ピューパと交戦した研究施設の
トラック倉庫へ はたどり着いた。





ザドルノフはその辺りにいそうだ、よく捜してくれ』





連絡を済ませてトラックの内部を捜すが 何も無い。





ん?もしかしたら・・・」


そこで、以前に核弾頭が積まれていたトラックの
荷台ナンバーをふと思い起こし、彼はカバーを捲る。







・・・果たして そこにザドルノフが潜んでいた





「くそ、見つかった!


「ヤマ勘だったが、正解だ。」


「いや今回は惜しかったな・・・」


残念だったな、では、回収に向かう。』


何度目かのフルトン回収を終え、彼は一息つく





しかし・・・









―10日目・夕方―





「いつもかたじけないな殿」


「いいさ、思ったより滞在も長引いてるからな
だが長い通話は勘弁してくれよ?後がつかえるし」





兄への定時連絡をすると通信室にいた所







ジャック!拘留していたザドルノフがまたいなくなった。」





まるで何かの予定調和のように、カズが乱入し
再びザドルノフ脱走の報告を入れてきたので





「ああ、そう」


は 素っ気なさを隠さず返事した。





「お願いだ聞いてくれ!
拘留していたザドルノフがまたいなくなった!」



「ふーん・・・・・・で?





銀時並みにやる気のない態度を見せている彼へ

表情を変えずにが言及する。





殿、カズ殿もあれで真剣なのだが」


「わかってるわかってる・・・
しかし、何でここまで脱走されるんだ?」


「考えたくはないが・・・内通者がいるのかもしれん」





カズの指摘通り、これほど脱走が繰り返されるならば


MSF内部に裏切り者か 或いはロシアの内通者
いる可能性が浮上してくる。





だとしても、ザドルノフとやらの目的は何なのだ?」


「わからない・・・が、ただの抵抗とは思えん。」


「何にせよ、奴をこれ以上ここに拘留しておくのも
・・・仲間にならないんならいっそ


「おいなんて事言うんだジャック!?」





咎めるカズを意に介さず、は向き直って言う。





、依頼したらいくらで引き受けてくれる?」


「そちらの言い値で構わぬ。任せろ必ず首を


人の前で何黒い取引してんだ!?つーかジャック
お前江戸で悪い方向に影響されすぎだろ!!」



ツッコミが響いた後、咳払いをして
彼は落ち着きを取り戻す。





「まあ、これは最後の手段だがな・・・
しかし ここまで来たら 俺も考えておくよ。」







ザドルノフ加入に拘るのは、元々ロシア出身の兵士達の士気
考えてのことであり


実際 ザドルノフの他に拘留しているロシア兵の内


仲間にならない者は多く、よしんば仲間となっても
あまり親交が深まっていないらしいとのコト。





「中々歩み寄りは難しいが、負担をかけてすまん
・・・ザドルノフを見つけ出してくれ。





ため息をつきつつ、部屋の扉を開けた彼は





「カズ・・・・以前話していた
ティルトローター機の配備、考えておいてくれ。」


「おいおい、捕虜脱走対策のために
配備するんじゃないんだぞ?」


「わかってる、言ってみただけだ。」





それだけを言うと 振り返らずその場を後にする。







無表情のまま、彼女は隣にいたカズを見上げて訊ねる





「カズ殿、てぃるとろーたーとは何なのだ?」


は最近のニュース見たか?」





当人が一拍挟んで頷いたので、カズは
一枚の写真を見せた。





「これは・・・」


「見覚えがあるだろう?日本で配備が進んでいる
ティルトローター機『オスプレイ』の同型だ。」


うむ、これなら見覚えがある。
何やら物議をかもしていたのであったな。」





常識には疎いだが、国内の話題はある程度
抑えるよう努めていたので


オスプレイの話題も 一応は耳にしていたのだろう。





「批判している者が多いし、実際事故が多いのは否定できない・・・

だが、これの配備が進めば災害救助や救援物資運搬に
非常に役に立つ。」


「よき事と私は思う・・・しかし、他国が介する
いう点が気に食わんのだろう・・・侍の国である故に」


「・・・そうかもな」





両者の沈黙が、通信室に満ちていった・・・









そんな一幕などあずかり知らぬ





「ここにザドルノフが・・・」


ザドルノフが潜伏している採掘場基地にて
付近をくまなく捜索していた。





「ん?」





と・・・不自然なダンボールが建物の隅に
置いてあった事に気が付いて


おもむろにダンボールを持ち上げてみると


・・・・・・・・体育座りのザドルノフがいた。





「なっ!?」


「・・・他の兵士ならいざ知らず、俺の前で
ダンボールステルスを行うとはいい度胸だな。」





そう告げるは笑みを浮かべていたが


目は・・・ちっとも笑っていない。





これにはザドルノフも恐怖を覚え、言葉を失った。





「カズ、ザドルノフを確保した。」


お見事、さすがだ。」


あぁ・・・私としたことが・・・」


「はぁ・・・」





悔恨の呟きをもらすザドルノフを尻目に、彼は
聞こえよがしなため息をつく。





が・・・その後悔が脱走に失敗したこと

彼に対しダンボールステルスを使ったこと


それは 誰にも分からない永遠の謎である。









―10日目・夜―





早速、頻繁なザドルノフの脱走の対策として


MSF隊員達への厳重注意が促された。





独房も他の捕虜とは独立させ、天人製の鉄格子や
セキュリティシステムを取り入れた物を製作し


万に一つも 脱走が有り得ないよう警備も
厳重に強化していった。







「・・・これで脱走されたらウチは大赤字だ。」





ザドルノフのいる独房へ視線を向け大きく
ため息をつくへ、苦笑して新八は言う。





「相当高かったでしょうね、天人製の鉄格子とか。」


「・・・いっそ、扉を溶接し部屋全てを粘土で埋め
完全な密室にすれば良いのではないか?」


おお珍しく冴えてるネ!」


「「いやそれはダメだろう!?」」





否定されるも、少女はめげずに物騒な提案を続けた。





「ならば両手両足を切り落と「ねぇ怒ってる!?
ヤツのせいで帰れないから怒ってる!?」









――――――――――――――――――――――――
後書き(退助様サイド)


退助「えー・・・ちょくちょく挟んでいこうと
思ったザドルノフ脱走、挟む合間を見つけられず
ここでまとめてしまいました。」


銀時「詰め込みすぎだろ、管理人かっつーの
つーかホント警備ザルだよなぁ。」


カズ「だが、今回の独房は俺とジャックしか
セキュリティ解除コードを知らん 警戒も厳重だし
万が一にも脱走は不可能だ。」


神楽「エセ銀ちゃん、フラグって知ってるアルか?」


退助「こういう場合って、一番犯人ぽくない奴が
犯人ってパターンがあるんだよね?」


新八「ああ、聞いたことありますよ。推理小説で
ですけど 連続殺人犯が中学生の女の子だったことも
ありますから。」


パス「へ、へえ・・・そうなんだ・・・」


管理人「目に見えるものだけが全てではないよね。」


全員『!?』