―7日目・日中―





はぁ?誕生会ぃ?」


「ああ、誕生月の兵士を全員集めて労うんだ。」


答えたカズへ、銀時だけでなく神楽も呆れ気味に言う。





「要するに騒ぎたいだけネ。」


「仕方ないだろ、こういう時でもなけりゃ
酒は飲めないからな。」


「確かに、海の上に建ってるから食料調達が難しいって
いつも言ってますもんね。」


「そういうことだ。それじゃ準備に取り掛かるぞ。」





賛同した新八に頷き、が率先して準備を始める。







糧食班が中心となって・・・マザーベース内にて
誕生会と称した飲み会のセッティングが行われ





「では、彼らの誕生を祝って!


「「「かんぱ〜〜い!!」」」





各々のグラスが、高らかにかち合って音頭が響いた。










第10話 飲む時は何か胃に入れろ











・・・こうして始まった誕生会だが、ケーキも
ハッピーバースデーの歌を歌われる事も蝋燭の吹き消しもなく


単純に屈強な男達が酒を飲んで肉を食らい


時には下品な冗談を言い合い、お互いを揶揄する
差別語が飛び交いながらも


本気のケンカにならずにパーティーを楽しんでいた。





もちろん、江戸からの来訪者も混ざって





「おーいい飲みっぷりじゃねーか日本人!」


テメェらあんま俺ら舐めてんじゃねーぞ!ヒック」


「あ〜銀さん飲み過ぎですよ。」


「パス、はいオロナミンC」


「え、何でオロナミンC?」


「知らないアルか?
子供はオロナミンCまでしか許されないヨ」



「私は炭酸が苦手なので水だがな。」


「そ、そうなんだ・・・」


こんな風に好きに飲み食いしているようだった。





独特の空気に少し戸惑っているパスを気遣い
カズが優しく微笑みかける。





「下品な奴ばかりで悪いな。」


「ううん、大丈夫。賑やかでビックリしちゃって。」







雰囲気を味わいつつ、もあちこちへ酒を注ぎに
歩いていたところ・・・







ヒック・・・ジャックゥ・・・・・」





ベロベロに酔っ払っているセシールを発見した。





「こりゃまた、見事に酔っ払ってるな・・・」


「あの人・・・どうにかして・・・」





誰のことか訊ねると、一気飲みしているカズを
アゴで指し 呂律の回らない声で名前を呼ぶ。





「カズがどうかしたのか?」


「ゥワァインよぉ?」


「ワイン?」





かなり酒が回ってるらしく、フラフラと挙動が
落ち着かないようだ。





「ビールばっかりじゃ、ヒック、隊員達も飽きる
だろうからって・・・ワインはどうって勧めたのぉ」





いいことだと感心するだが、セシールは
突然不機嫌な顔でやおら口を開いた。





「でもね・・・
ここ2年ほどぉ、ワインは不作だったの・・・」


「ああほら、ヨダレヨダレ」


口からだらしなく垂れたヨダレをポケットティッシュで
拭ってもらい、彼女はお礼を言う。





ぅえっぷ・・・ありがと・・・」


「それで?」





セシールはテンションMAXの口調で


天候が不順だったせいだと思うから、フランス製の
ワインは止した方がいい
・・・と


アドバイスしたらしいことを話していた。





「そうか、まあフランスだけじゃなくてカリフォルニアや
チリにもいいワインがあるからな。」


ところがよ!彼ったら・・・わざわざフランスの!
しかも不作だった!72年代モノばかり、倉庫一杯
買い付けていたのよぉ!!」



「無駄にテンション高いな・・・」





そこで彼女は、わざとらしくカズを真似て言った。


「『どうだセシール、故郷の香りを
楽しんでみないか?』ですってぇ!!?」



「ほう・・・それで?」





もう軽い相づちしか打てず言葉を失う彼を置き去りに


セシールは嫌な予感がして、味を確かめるため

テイスティングをこの場で行ったと主張する。





「ああそりゃご苦労だっ・・・・」


あれ?ティスティングは飲み込まないから
アルコールってほとんど入らないはずだが・・・)





その点と、セシールの周りにある、中身の減った
抜栓済みのワイン瓶を見て・・・は理解した。





「つまり飲んだのか・・・これ、全部」


「そぉ〜よぉ、何本封を切って飲んれも
ぜぇぇんぶマズイのよぉうぅぅぅ〜・・・・


ただの一本も、おいしいワインがなかったの!!

ナァニガコキョウノカオリヨォォォォ!!!



「セ、セシール・・・少しは落ち着いて・・・」


「もう信じられない!!
あんなにたくさんどうすんのよぉぉ!!」



「ここの連中は味なんて気にしないさ。」







興奮している彼女をなだめようとして入れた
フォローが、逆に波乱の口火を切ってしまった。





「あんたさぁ・・・」


「え?」


「ジャックさんよぉ・・・」


「何だよ?」


聞き返したへ詰め寄り、セシールは襟首つかんで
メンチを切るように睨んでくる。





「あんたもミラーさんと同じこというのけぇ?」


「へ?」


「アタイ文句言ったら、あの人シレッとして言ったわ。
『酔っ払えばいいんだ』!

何なのここの人達!?
味の野蛮人だらけじゃなぁい!!






と思ったら顔を抑えて泣き出したので、あまりに
哀れだと感じたはセシールの頭を撫でてやる。


「ああよしよしよし。」


「ありがとう・・・あんたいい人だよぉ・・・」


「ハハハ・・・」





苦笑いしか出てこない彼は他の人に相手を
変わってもらいたかったのだが、誰も近寄ってこない





「あたしパリに帰りたぁぁぁぁい!!

ウワァァァァァァァァン!!!」



分かった泣くな!てゆうかコレもう何上戸だよ!?」


「セ、セシール殿。
とりあえず水を飲んで落ち着かれては・・・」





へべれけになった彼女へ、がおかわりの水を
差し出したのだが それがマズかった。





あんだぁこの娘ぜんぜん飲んでないじゃないのけ?」


「うぬ、未成年なのでな。」


「それにこいつに飲ませたら後々まで面倒臭い事にな
「あんたもこのワインティスティングしてみなさいなぁ!」


「や、止めてくだされセシール殿!


「問答無用でティスティングゥゥゥゥ!!」


何処かの酒乱太夫の如く、ワイン瓶の口が
の口へと押しこまれてしまったのである。





「やめろセシール!!」


「キョーキョキョキョキョキョ!!」


「怖ぇぇぇぇ!?
なんか知らんけどセシールさん怖ぇぇぇ!?」






セシールのあまりの豹変振りに新八と周囲にいた
隊員達が怯えながら、その惨劇を目の当たりにする。





「どうだぁアタイの酒はうまいのけ?」





半分しかなかったが、アルコール度数の高いワインを
一気に飲んでしまった その結果は・・・







言うまでも無かった。





「兄上ェェェェェェ!!」


「どわぁぁぁやっぱりかぁぁぁ!!」








そして最初の犠牲者?は近くにいたである。





またこの展開かよ!?何なの本当にこの娘!?
はいはい離れてはーなーれーて!」


「にゃぜで・・・んん?兄上ではらいでないぶぁ
兄上を装うとはろんだ不届き者めぇ〜そこに直れぇ!


「おー結構やるじゃないもっとやれー!


「煽らないでセシール!?」





けらけらと笑う元凶へツッコんでる合間に、





「うわぁい兄上がいっぱいらぁぁぁぁ!」


千鳥足で転々と移動してはMSF隊員に抱きついていく





「け、結構かわいいなこの娘・・・」


こっちにおいで、僕のかわいい妹!
にぃにぃはここだぞ〜ほーら!」


うるさい!俺が本当の兄ちゃんなんだぁぁぁ!」


「何気色悪いことやってんのよ!!」





突然の抱擁に驚く一方で、割り増しで表情が
柔らかくなったに抱きつかれて


満更でもない気分を味わった隊員も多かったようだ。







そうして最後に少女は ほろ酔いのカズへ抱きついた





「兄上ぇぇぇ!」


おお〜ついに俺に心を開いてくれたか!
我がかわいい妹よ。よーしよしよしよしよし!」



「カズ悪乗りするな!?」





受け入れられて嬉しそうに笑っていたが、顔を
まじまじ見つめては人違いだと気づく。





「むぅ・・・にゃんらカズ殿か、兄上はどこだ?」


「いいじゃないか、オレが兄となってや「やだ」
・・・それにしても妹よ、それ程まで兄が好きか」


無論・・・私兄上のためならたとえ火の中水の中
いかなる仕打ちにも耐えてみせりょふ。」


「そうか・・・俺もお前のためなら
いかなる壁をも貫いてみせよう・・・性的な意味で!


「「何言ってんだこの変態リーゼントォォォォ!!」」





ガッチリと両肩つかんでそうのたまっていた
カズの暴走を、銀時と新八が飛び蹴りで打ち砕く。







「どうしようジャック・・・みんな悪乗りし過ぎで
大変なことに・・・ジャック?





乱痴気騒ぎについていけなくなりつつあるパスが
問いかけるが


当の本人は無言でビール瓶を引っつかむと


栓を開けて一気にラッパ飲みしだし、こう言い放った。





「もうツッコミなんて捨ててやんよ
ベ○○トォォォォォォォォ!!」



さんまで壊れたぁぁぁぁ!?」





ストッパー終了のお知らせに、絶望した新八が
頭を抱えてその場で叫んだ。







「いいかパス殿、兄上ふぁとても麗しくて優しくて
完ぷぇきで賢くていらっさって」


「あの・・・それさっきも聞いたんだけど・・・」


「まだまだ語り足りらいのだぁ〜それはそれは
すばらしいお人なろだ〜それに兄上は



「おし神楽、こいつ外に連れてって吐かせろ」


ラジャー!さ、ついてくるネ


「おお、兄上の元まで案内してくれらりるか?
かたじっけないな神楽・・・」





神楽に引っ張られてどこかへ連れられる少女を他所に





一番!
ビッグ・ボスのモノマネしま〜す!!」



出来上がっちゃったボスが叫び、歓声が会場を満たす。





「で、味は?」





ビッグ・ボス風の言い方がかなり似ていたのか





『ダハハハハハハハハハハ!!』


隊員達が大爆笑、笑いの渦に包まれた。





「よし、本当の俺を見てくれ!!


ウケた空気に触発され、カズも一発芸に名乗りを上げる





2番!カズヒラ・ミラー!
し○○○けのモノマネしま〜す!!」






と叫ぶやいなや、ズボンを脱いで尻を見せ始め





「汚らわしいもん見せてんじゃねーぞ

俺のモシャス野郎がぁぁぁぁぁぁ!!」



「アァァァァァァァァァァァ!!」


銀時の怒涛のカカト落としがカズのケツにクリーンヒット





あにすんだ!せっかくの一発芸を」


「野郎の下半身なんざ拝んでだーるぇがよろこぶかぁぁ!」





そのまま殴り合いのケンカへ発展した。





「えー次はソリッド・スネークのモノマネしま〜す!!
「性欲を持て余す」



『ギャハハハハハハハハハハハ!!』


「もう収集つかねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」





けたたましい笑い声と悲鳴とが溶け合って
マザーベースの外にまで響いていった・・・・・









もう・・・なんでみんなこんなに騒げるのかしら・・・」





その騒々しさは、会場から出て避難していたパスの耳にも
しっかりと届いていたようで





呆れながらも・・・彼女はこう呟いた。





「でも・・・これが、"平和"ってものなのかも・・・」







遠い目をしていたその時のパスの表情は





何処か・・・・・切なそうなものであった。








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後書き(退助様サイド)


カズ「つーわけでぇベロンベロンに酔っ払ったまんま
後書きに入ったわけであるが・・・」


退助「うわすっげ酒くさっ!?
一体どんだけ飲んだのあんたら!?」



パス「噂で聞いてたけど・・・さんの
あの固い表情がお酒であんなに柔らかくなるのね。」


銀時「いちいち兄貴と勘違いされて抱きつかれんのと
割り増しの兄貴自慢は勘弁だけどな・・・」


セシール「お〜いワインが足りないぞ〜!
86年物が良作だから早く持ってこんか〜い!!



神楽「セシール酔っ払い過ぎネ。もうその辺で」


セシール「キョーキョキョキョキョキョキョ!!」


新八「だから怖いからやめてくださいってぇぇぇ!?」