脱走した連中などいずれ鎮圧され 城内の騒ぎもじき収まる、と
城主であるこの男は口にしていた。





・・・が現実はといえば


強固な幕府軍を掻い潜り、銃どころか
ガトリングの連撃すら物ともせず進んでいるとか





「たかが十人といえど甘く見てはいけない連中だ
・・・そう警告したハズですよ?」


口にするが、受け答える醜い老顔にはいまだ
余裕と笑みがたたえられたまま





裁きは下る、それは変わることのない理
・・・その為にいるのであろう?』





そう、言われるまでもなく


天照院"奈落"首領一同も こうして雇われた
俺達もクライアントの意向に沿うべく存在している





例え相手があの"雷電"だろうが


"白夜叉"と呼ばれた攘夷志士だろうが
まとめて処理しちまうことにゃ変わりがない。





「ええ・・・こちらの者も間もなくご到着しますので、ご安心を」


"死を恐れぬ兵"か・・・ふふ、楽しみにしているぞ
天照に負けぬ働きを期待している。』





言葉など、上辺のものにしか過ぎん事は

にこりともしない目が証明していた。







・・・まあいい


いけすかねぇ狸といえどクライアントだ。





「必ずやご期待に添えるでしょう。」





画面の端にいる "編笠"とやらをかぶった
首領へと視線を向けるが


奴は相変わらずだんまりで この男の側に佇んでいた










第6話 機械の腕











メリルと合流した直後、上の方に立ち並んだ
ガトリングの脅威にさらされかかるも


神楽の傘が弾丸の一斉掃射を防ぐ


だが隠れられる人数にも限界があるので
八人のうち俺達四人は 階段下へ左右に分かれて身を隠す





「下手に攻め入らば蜂の巣か」


「隙を見て正面突破するしかあるまい」





視線と仕草を交わし俺達は、下からやってくる
兵達を引き受けるが


万一の可能性を考え 俺とも上へ気を配る。


すきあらばどっちか、あるいは両方が塀の上から
回りこんでガトリングの破壊を補佐するつもりで





「撃って撃って撃ちまくれぇぇぇ!!」





しかし敵の虚をついた銀さんと月詠とのぶめが
しかけた同時攻撃によりガトリング三台は破壊され

こちらの懸念は杞憂に終わる。





間髪入れず銃を持つ連中が三人を狙うが


俺達が駆けつけるより早く、まさにいきなり
空間から"現れ"たスネークがCQCで蹴散らす





「オクトカムスーツなんて、いつの間に
装着したのかしら・・・見てジャック!


マズい!大砲がこっちを狙って・・・





壁を穿つ鈍い音が断続的に響き、あっという間に
塀の上へ登り切った


瓦を踏みしめて素早く走りだす


まさかアイツ大砲を破壊しに行く気か!?間に合うわけが





「気をつけて!」


メリルの忠告と同時に、慌てた兵達が砲弾を
アイツの行く手へと着弾させた。





しかし・・・砲弾が爆発をまき散らす寸前


後ろに飛び退り、タイムラグ無しで足場を
蹴ってこっちへ飛んでくるのを見逃さなかった





黒煙が舞い上がる中 は何事も無く着地する。





「おい、アイツも人間やめてねーよな?」


「あ、やっぱ見えてたんだ・・・"も"ってなんだよ」





くだらないことを言いつつも、アイツにつられて
改めて前へ顔を向けると


二基の大砲と大勢の幕府軍に囲まれた城門が見えた





次弾装填!!消し炭にしろぉぉぉ!!」





撃ちだされた次の砲弾を、今度は神楽が打ち返し


メリルとジョニーによるライフルの牽制が
装弾を阻止している合間に


倒れている兵隊と・・・新八君とジョニーが
それぞれの大砲の発射口へ投げ込まれていった。





「まだまだ人間カタパルトの腕も衰えてないアルな」


「うぬ、久々ながら見事なものd「感心する場面!?
てゆうかジョニー投げる必要あった!?



ともあれ二人に続いて俺達も門前の交戦に加わり
首尾よく大砲の奪取も出来た。





「ようやく着いたな将軍様んち」


アレ?インターフォンがないアル」


「困ったもんだ、今度から設置するようかけあってみるか」


「ぜひとも頼むぜよぉ・・・ま今回は
しょうがねーな じゃあこれだ」





ので砲身と、取り出したロケットランチャーの
筒先を城門に向けて定め





「待てぇぇぇぇぇ」


「それだけは・・・それだけは止めろぉぉ!!





威嚇砲撃で遠ざけられた兵隊の悲鳴をよそに





「将軍様〜」


『あ〜〜そ〜〜ぼ〜〜!!』


定々がいるであろう城壁へ思い切りブチかます。







収まらない煙を無視し、銀さんを先頭に俺達は
ようやく城内へと侵入を果たした





「デリバリー吉原NO.1太夫
傾城 鈴蘭 参上つかまつりました


「おっと、今さらチェンジはナシだ
汚いケツはよく洗ったか?」





内装に似合う 豪華ながらもしっかりとした
作りの階段の一番上にいる定々へ





「今夜は 眠らせねーよ」


不敵な笑みで銀さんが宣戦布告をかました。





・・・が、奴は落ち着き払って





「長生きはするものだ」





歴史上これ程まで幕府を愚弄し
徳川紋に泥を塗った大罪人は、俺達以来だと


まるで他人ごとのように口走る。


それに答えたのは信女だった





「アナタのこれまでの所業は全て
この見廻組副長 今井信女のしる所。」


言葉の静かさと裏腹に、響きにはいつになく
強い意志が込められているようだった





「徳川定々・・・幕臣暗殺教唆の容疑で逮捕します」


「一橋の犬の生き残りが何を言い出すかと思えば
法でこの私を裁くと?」





いやらしい笑いはますます深くなるばかり





「この国を統べる私を 法そのものである
私をどうやって裁くというんだね」


「なら国際連合憲章第7章を用意してやる。」





平和に対する脅威、平和の破壊及び
侵略行為の存在を決定し勧告を行うとともに


非軍事的強制措置・軍事的強制措置をとるかを決定する・・・





「定々公、お前のやっていることは
この日本の平和を乱す脅威だ。

故に国連の強制措置を受け入れてもらうぞ。」





こいつ・・・何がおかしい!





「そなたらの組織であっても一枚岩ではない。」


「何だと?」


「それに江戸と同じ様な状況に置かれている国など
吐いて捨てるほどある、たとえそなたが
告発してもまともに取り合わんだろうな。」


奴の言葉を否定できず思わず歯噛みしてしまう





・・・悔しいが、ソモサがまさにその一つだ







「ふむ・・・地上の法で足らぬなら
地下の法を用意してやろう。」


と、今まで黙ったままだった月詠が口を開いた。





「貴様がために吉原に流れた
女の涙、男の血 たとえ天が許しても


吉原が法 死神太夫が許さぬ





舞蔵さんを解放しろ、と続けて尋ねるが
答えは帰ってこない。





「奴をどこへやった

どこへやったと・・・きいておるんじゃ!!





苛立ち混じりに投げつけられたクナイが


割って入った男の錫杖一振りで、全て砕かれる





アレはあの時の刺青と同じ八咫烏・・・!





「・・・天変に遭いて 天照を恨む者があろうか」





深編笠を被った男の声を合図に、回廊部分へ

次から次へと似たような連中が沸いてくる





「いかなる凶事にみまわれようと それは天が成し事
天が定めし宿命・・・ただ黙して受け入れよ
天照(てん)の声を 我等が刃を






天照院"奈落"を名乗った男の名と素性は





朧(おぼろ)・・・天照院首領にして、奈落最強の凶手
まさか あの男まで出張っていたなんて」


信女がささやきに近い声音で教えてくれた。





「これで分かったろう・・・裁くは将軍(てん)
裁かれるは地を這う者達 それが世の理だ」





抜け抜けとお為ごかしを語り続ける定々の軽口を
閉じさせてやろうと銃口を


突きつけるより早く、背後に何かが落とされる







「捜していたのだろう、その男を」







それは・・・

右腕から血を流して倒れている舞蔵さんだった。





「じっ・・・爺(じいや)さんんんんん!!


マズいわ!急いで止血しないと!!」





駆け寄った月詠やメリル、ジョニーが処置を
施そうとしているが





「この出血と傷口では、命が持つかどうか・・・」


苦々しいスネークの呟きと、なおも口を開く
定々がままならぬ現実を強調する







奴は無残に斬り落とされた右腕を俺達の前へ放り投げ


彼には指切りどころか愛しい女を
抱き締める事も出来はしない
と、嘲笑う





「おとなしく腹を切っておればよいものを
一度ならず二度までも私を裏切るとは大した忠臣だよ

これが天に仇なした者の末路だ」





天に仇なしたものの末路・・・だと・・・?


お前のような薄汚い男が、舞蔵さんを笑う
資格などあるものか!



パトリオットを持つ手に力がこもる





「まさしく
地をはいずる芋虫にふさわしい姿だろう」



神気取りのウジ虫が・・・


今すぐ貴様こそをその立場へと引きずり下ろしてやる!!







だが俺達が行動を起こすよりも早く







振り返った銀さんが、たった一歩で
あれだけあった定々との距離を


手を伸ばせば掴めるほどにまで縮めていた





振り下ろされた木刀を かばった深編笠が錫杖で受け止め

杖に仕込んだ刀を引き抜いて逆に斬りつけた


だが銀さんの首が落ちず、どころか何故か
刀の方が根本から砕けていて


攻撃が止まった一瞬を逃さず


木刀の切っ先が深編笠を貫いて、勢い任せに
朧の背後へ回っていた定々をも同時に壁際へ追いやっていた。









・・・あまりの急展開と


見慣れたハズだった銀髪の背から漂う
ただならぬ殺気


そして両者の熟達した動きに割って入れる
隙など見いだせず 俺はただ立ち尽くしてた





いや、俺だけではなく共に飛びかかろうと
構えていただろう


他の八人も・・・"奈落"の奴らでさえも、だ。







朧の深編笠ごとあの男を壁際に縫い止め





「約束の指なら まだ残ってるぜ」


言う銀さんの呼び掛けに、我を取り戻してか

上にいた連中が飛び降りて俺達を囲い始める。





側へ寄ろうとしていた数人を視線と獲物で牽制し





「てめーを天上から地獄に引きずり落とすための
俺達(この)5本の指がな。」






舞蔵さんを背負った新八君を守るように
残る七人も刀や銃を構えた。





「貴様らのか弱き5本の指で何が出来ようか。」


それなら、もう5本の指も追加するまでだ
・・・たとえそれが冷たい機械の腕であっても」






これ以上、この男の好きにさせるものか。







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どうにか意識を取り戻した舞蔵さんへ





「今迄 よく耐えなんした」





月詠さんが励ましの言葉をかけたのを皮切りに





気を確かに持たれよ舞蔵殿・・・新八、神楽
メリル殿、ジョニー殿、スネーク殿 先導を頼む」


「殿(しんがり)は わっちらが務める」


「いいのね、ここからは何人斬っても


「ああ、好きにしなんし
明日には消える一夜の夢よ」





とのぶめさんの二人も、"奈落"の奴らの
包囲網から舞蔵さんをかばう。





ジャックもまた同じ気持ちだったみたいで





『メリル、爺さんを頼んだ。』


「分かってる!命に代えても・・・
絶対に死なせてたまるもんですか!!


無線越しに、私達へそう呼びかけていた。





万事屋の二人組が指に結んだ"心中立て"らしき
証を黙ったままかざす





確認出来るうち五人中三人もまた


煙の向こう側にいるだろう定々(あのおとこ)
連中に視線を向けているにもかかわらず


"心中立て"を掲げていた。





舞蔵さんを背負う彼へ先を任せて


十分に辺りを警戒しながら、私達三人も
城の外へと踵を返す







けれども壊した門の先からは


幕府軍が後から後から、ひっきりなし
こちらへと押し寄せてきている。





「これだけの数を相手しているヒマなんてないってのに・・・!」


うじゃうじゃとしつこすぎアル
夏場の風呂場のカビよりタチ悪いヨ!」


「まともにやり合うのは骨が折れそうだな。」





全く嫌になっちゃう!

舞蔵さんの体力がいつまで持つか 分からないってのに





「・・・やはり
ワシにかまわず・・・逃げた方が・・・」







ひどく弱々しい呼びかけを無視して





言ってたでしょう?
どんな闇だろうと月は沈まず、照らし導くって」


言いながら 仲間達の進む道を作るべく
迫る男どもに向けライフルを構えた。





「私達を信じて!必ずアナタを無事に・・・
鈴蘭さんと会わせてあげるから!!」









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後書き(管理人出張)


狐狗狸:こっからじわじわとMGS成分・・・てか
Rへの布石がにじみ出ます


メリル:城内に入るまでどれだけ待たせるのよ
正月休みにしても度が過ぎるんじゃない?


狐狗狸:じっくりコトコト、しつこく煮込まないと
牛すじはおいしくならないでしょ?それと一緒で
伏線とかも時間をかけるのが大事なんです


神楽:遅漏のクセにいいコト言うアルな、たしかに
煮込みの足りない牛すじは食えたもんじゃねーヨ


スネーク:遅筆な、まあスジ肉は生よりも
火を通した方が断然食べやすいからな


狐狗狸:特殊な状況下以外では下処理や味付けも
忘れずにね?そうして出来上がるのが・・・

このおいしく煮込まれた牛すじとなります


新八:結局牛すじじゃねーか!!


神楽:お前のひと鍋いただくアルぅぅぅぅ!!


狐狗狸:ダメこれ私の苦労の結晶ぅぅぅ!
つーわけで肉盾よろしくジョニーさん!!


ジョニー:聞いてないよ何それ!って、ちょ待って
ここでも人間カタパルトおぉぉぉぉ…!


メリル:ジョニーいぃぃぃぃぃ!?