日輪さんと月詠に呼ばれて、俺と銀さん
それと何でか知らんがメリルとジョニーも一緒に
吉原にある日輪さんの茶屋へと来ていたのだが
「はぁ、伝説の花魁?」
「知らぬか、吉原のもう一人の太夫・・・
傾城 鈴蘭を。」
「伝説って何?ロトの末裔?天空の花魁的な?」
「誰がフローラの話をしてんだ、にしても
そんな人物がいたなんてな。」
「フローラじゃねーよ、ビアンカの話だ」
「デボラも忘れるんじゃないよ」
「いや誰でもいいわよ けど私も初耳よ。」
・・・・余計な茶々はともかくとして
鈴蘭はまだ吉原が健在だった頃、日輪さんにも
勝るとも劣らない人気を博していたもう一人の太夫で
その美しさは天女に勝るとも
歌や踊りの諸芸において右に出る者無しとも
数多の高官が大枚はたいても、指一本触れられず
茶だけ出されて帰されることも少なくなかったとか
まあ・・・よく分からんがスゴイ美人って部分はなんとなく理解した
団子を頬張りながら、銀さんも適当に相づちを打つ
「傾国の美姫、傾城って奴だな。日輪(こっち)は
今やお城傾けるどころか白粉も崩れだして」
あ、そんな事言ったら・・・
「あっごめんよ手が滑った、傾いてたから国が。」
案の定おかわりの茶を頭から浴びせられ
距離を取って避難した俺は、呆れ混じりに
ずぶ濡れになった銀さんを見やってため息。
「でも、その口ぶりじゃあもういないんでしょ?」
「酌の一つでもお願いしたかったもんだねぇ。
オメーもゴリラの酌じゃ味気ねぇって思うだろ?」
「へ!?いや彼女はゴリラじゃないですっ!!」
論点がズレてるジョニーと、からかってる天パを
二次災害から救おうと口を開きかけ
「じゃあ好きなだけしてもらうといい。」
「「え?」」
鈍い男だね、と銀さんを揶揄した日輪さんの
次の言葉に 場の空気は持って行かれた。
「件の吉原の救世主に会いたいってさ。
つまり伝説の花魁からの逆指名だよ。」
第1話 大軍鳴動
・・・その事実に俺たちも勿論驚いたのだが
指名された当人はそりゃもう相当なショックだったようで
あてがわれた遊郭の部屋(ご丁寧に布団が敷いてある)で
ひたすらティッシュの位置を気にしまくって
しまいには後頭部にクナイをぶっ刺されていた。
「変なトコでゴタついたら冷めて吉原じゃなくなっちゃうよ
築地になっちゃうよ冷凍マグロになっちゃうよ?」
「心配せんでもぬしが期待するような事にはなりんせん」
「そうよ、ここは吉原 男が下手でも
遊女(おんな)がちゃんと芝居してくれるから。」
「「「そこじゃない(じゃろ・でしょ)!?」」」
月詠とほぼ同時にメリルとジョニーのツッコミもハモる
ツッコミに疲れていたのでありがたい、とか
思っていると 銀さんは俺らに出てけと言い出した。
「今からお前らが見たことない銀さんになるから
ギンギンになるから。本当の吉原炎上篇が始まるから
危険だから出て行け。」
「その通り危険な男を見張りにきたんじゃ。」
「それと、新婚さんの見学のためにね。」
「「あ・・・」」
二人が顔を赤くして目を逸らしたのを見て
ようやくメリルとジョニーが呼ばれた理由に気づく。
「日輪さん、まさかこのために二人を?」
「ええ、結婚してまだ間もないみたいだし
アドバイスの一つでも出来ればって思ってさ。」
「まっ・・・まさかてめーらで乱k「だあぁ!」
おい何とんでもねー事言う気だアンタ?!
幸い、その先は月詠のクナイによって物理的に
阻止されたが・・・血が噴水みたいに湧いてるし。
「大丈夫なのかアイツ、一人で勝手に盛りあがっとる」
「大丈夫、あの年頃の男の子は教科書の
人体解剖図でも盛り上がっちゃうんだから。」
「「それどこが盛り上がる話?」」
Wツッコミを決めた直後に、鈴蘭が来たと知らせ
少女たちが襖を左右へと引く。
間髪入れずに銀さんは慌てて布団へと潜り込み
足音が近づく度に目を血走らせ、なんだか
ブツブツ呟く様子を俺達は冷めた目で見ていた。
「傾いちゃっていいで・・・転がり落ち・・・」
見るに耐えないそのニヤけ面へ
勢いよく倒れてきた襖の片方、しかもカドがモロに直撃した。
「ぶっ!!」
「しっ・・・しっ、失礼しますた。
おっ・・・お、お初にお目見えしますだ。」
「おい大丈夫か銀さ・・・ん・・・!?」
「わっ、わっ私がす、す鈴・・・ら・・・
アレ、わたす・・・誰だっけ?」
点滴を杖代わりにして身体を支える老婆が
・・・って、こんな老婆が太夫?
唖然としている俺達をよそに日輪さんが淡々と
「紹介するわ、この人が伝説の花魁。
私達の大先輩 傾城 鈴蘭太夫。」
言い終わると同時に鼻を押さえてた銀さんが凍りついて
つるはしでコンクリートの地面を滑・・・ってどんな状況だよこれ!?
あんまりな展開に築地へ逃げようとしていた
銀さんは、月詠に踏みつけられて逃亡を阻止される。
「いやゴメン、傾城とは聞いてたけど
思ったより傾いてたから奇跡的な角度で傾いてたから。
ああそうアレが伝説の・・・何だっけ、ブーメラン太夫?」
「鈴蘭太夫じゃ。」
信じたくないのは分かるが、そこまで言うなよ
「二人とも人が悪いぜ、まるで一緒に働いてたみたいな
口振りだったからよ、俺はてっきり・・・・」
「あっあのォ私は今でも現役ですが。」
「「はぁ!?」」
もうオワコンってレベルじゃないのか!?失礼だけど!
「自慢じゃねーけんども吉原がまだ地下に
潜る前から太夫を務めておりますた。」
「吉原より先に地下に埋まってそうな勢いですけど!!」
「年は重ねたけんどもまだまだ若いもんにも
あっちのテクだけは負けふごっ!」
せきこむ鈴蘭さんの口から飛び出した入れ歯が
銀さんの股間にジャストヒットした。
「「「どんなテクだぁぁぁぁぁ!!」」」
だが男三人のツッコミ唱和も物ともせずに
隣へ座り込んで、酒宴の用意を言い出すので
銀さんも腹をくくってお酌される準備をする。
「さあさあこちらへ救世・・・アレ?おたく誰でしたっけ?」
「坂田銀時です!!!」
「あーあーそうでしたね・・・さ、お酒をどうぞ」
「スイマセン救世主は向こうです!」
「ざけんなテメーも一応救世主だろ!」
耳鳴りするほどの大声で怒鳴り合ってるってのに
平然とし過ぎだろ、どんだけ耳遠いんだ!
「いつかお礼をと思ってたんですけんども
送れて申し訳ねーですケホゴホ!」
咳きこみながら熱燗を持っているので・・・まあ
当然といえば当然だが、
「倒れるまで飲んでいってくだせーなゲホゴル!!」
「あの太夫、飲む前から
ほとんど零れちゃってんですけど。」
中身はすべて畳に吸われて、銀さんは
引きつった顔で青筋立ててた。
「アレ?もうないや、いい飲みっぷりで。」
「太夫人の話聞いてますか!!」
「ゲホゴホッ今日は倒れるまでゲホガハッ
飲んでいってくだsガハァァ!!」
「太夫ぅぅ!!」
血ぃ吐いてるし倒れて悶え苦しんでるし
これどう見ても大丈夫じゃないよね鈴蘭さんんん!
「さすが踊りの名手鈴蘭太夫 見事なブレイクダンスだわ。」
「いやブレイクダンスだったのそれぇぇぇ!?
マジでブレイク(壊れる)してるようにしか見えないんだけど!!」
いや呑気に三味線弾いてる場合か日輪さん!?
さすがに銀さんも心配になってきたのか
鈴蘭さんを介抱しつつ呼びかける。
「ちょマズイってコレ!オイ救急車呼ぶか!?」
「いえ救護班の方が早いかもしれないわ!」
「き、気の早えぇお客様だ・・・
じゃあ床入りしましょうか。」
「違うわぁぁぁぁ!!」
「床入りの用意を!」
どこからともなく出されたベッドへ
鈴蘭さんが飛び込むように横たわり そのまま処置を施される
「「どんな床入りだぁぁぁぁ!!」」
銀さんと俺のWツッコミが見事にシンクロした。
「きょ、今日はとっても楽しゅうごぜーますた。」
「どこが!?楽しかった奴の顔じゃないよ!!」
「わっ、私の最後の座敷に来てくれて
ありがとうごぜーますた」
「「「不吉なこと言ってんじゃねーよ!!」」」
男達の叫びが聞こえてか、聞こえずか
虫の息だった鈴蘭さんはか細い声で続ける。
「や、優しい人だぁ、こんな年寄り太夫を
心配してくれるだなんて。」
震える手で抜いた自分の髪を、銀さんの指へ結んで
「じゃあ約束してくれますか
月が出たら また会いに来てくれるって」
静かに続ける彼女の 左手の小指には
「私・・・待ってますから。月が出るのを・・・ずっと・・・」
誰かの髪の毛がしっかりと巻き付いていた。
容態が安定し、眠りへ入った鈴蘭さんが
部屋へと運ばれていった後
「「心中立て」って言うんだよ それ」
三味線つま弾き 日輪さんが
銀さんの指へ結ばれている髪の毛の意味を教えてくれた。
"私の愛はあなただけのもの
私は決してあなたを裏切りません"
そんな誓いを示す為、遊女は自分の身体の
一部を相手の男へと送ったのだとか
・・・そのほとんどは、残念ながら
男から金を搾り取る為の手管でしかなかったようだが
「噂通りのやり手らしいな、ババアになっても
どっかの男の髪が指に巻きついてたぜ。」
「だが・・・そもそも、もうアレじゃ
客をとるのも無理なんじゃないのか?」
「さんの言う事ももっともさね」
遊女は普通、30そこらで引退してしまうらしいが
鈴蘭さんは客が取れなくなっても吉原が解放されても
頑なに動こうとはしなかったそうだ。
「なんでもするから吉原(ここ)においてくれって。
大変だったんだから、鳳仙の目をごまかすのも。」
そうして彼女は遊女のまま 吉原から出ず
その一生を終えようとしている。
「そんな・・・どうしてそんなになってまで」
「・・・一度だけ、話してくれた事があったんだ」
まだ吉原が地上にあった遠い昔に、一人の男と
一緒に吉原を抜け出す約束をした・・・と
「あの調子じゃ、今はもう名前もその約束すらも
忘れてしまったかもしれないけど」
「・・・日輪 まさか鈴蘭はその男を
ずっと吉原(ここ)で」
「さあね」
吉原では男も女も、分かっていながらみな
仮初の夢を演じ合い興ずる
本気になってはいけないと承知していながらも
鈴蘭さんは、その一夜の夢から
覚めたくないのかもしれない
「この月の光の中で この夢の中で眠りたいのさ」
「・・・ごめん、ちょっと外出てくる。」
目頭を押さえ、メリルが座敷から出て行く。
「メリル・・・」
「あの子には、酷な話だったかね・・・」
去っていった入口を眺めて、ふと何かが頭をよぎる
けれど確信には至らず俺は 静かに息を吐く。
・・・しばらくして戻ってきたメリルは何だか
ほんの少しだけスッキリしてるように見えた。
「大丈夫かい?」
「うん、平気。心配かけてゴメンね。」
なんとなく、気が乗らなくてそのまま俺達は
一旦地上へと帰っていった・・・のだが
一夜明けて やっぱりどうにも気になって
無茶とは知りつつも鈴蘭の客について調べ始めると
「さん!」
「お前もバーさんの客を調べてるアルか?」
街中で走り回っている新八君と神楽にかち合った。
「予想はしてたが・・・銀さんも動いてるのか?」
「当然ネ、あとついさっきそこで
に会ったから情報交換しあったアル」
「関わるの早いな!?なんでまた」
「メリルさんに頼まれたそうですよ?」
なるほど・・・大方あの後、兄を迎えに来た
アイツと出会って話をしたってトコか
もその兄もそれなりに情報網ぐらいあるようだし
こういう場合、人手は多い方が都合がいい
「じゃあ俺も一緒に聞き込みしていいか?」
「いいんですか?助かります」
二人と手分けして話を聞いて回りながら思う
きっと百華や月詠、あとメリルを含む
ラットパトロールの四人も動いてるだろうから
上手く行けば 今日中に何か分かるかもしれない
・・・・・・その直感は正しかったのだが
「懐かしいのぉ・・・確かに鈴蘭は押しも押されぬ
最高の遊女じゃった。高禄の旗本でさえ毎日のように
通い詰めとった・・・・・そう、あのウワサが流れるまではな」
「あのウワサ・・・?」
見つけた客の一人から、とんでもない話を聞き
「そ、それって本当なんですか・・・?」
「どうやら、間違いないようだぞ新八君」
どうにかや百華達にも情報を確認したら
そちらも同じ"ウワサ"を入手していて
「こりゃ、大変な事になってきたな」
「とにかく 銀ちゃんやツッキー達のトコへ
急いで報告しに戻るアルよ!」
路地をひた走りながら俺は
またぞろ厄介な成り行きが沸いてきている、と
頭を抱えたくなった。
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後書き(管理人出張)
狐狗狸:こちらは退助様の要望によりMGS成分
過多でお送りしていきますよ〜!
メリル:頼んでおいてなんだけど、あの子
ほとんど即決で引き受けてくれてちょっと驚いたわ
狐狗狸:そういう子ですし、仮にアナタとの遭遇がなくても
万事屋側やツッキーが頼みに来たと思います
月詠:ここぞとばかりにツッキーと呼ぶな!
いつものように月詠で呼びなんし!!
銀時:いーじゃねーかよツッキー、お前も
ゴリラも二人揃って大した乙女だねぇ〜
二人:黙りんス!!
ジョニー:それ次回の展開だよ!
あと人の嫁をゴリラ扱いすんなっつってんだろ!!
神楽:本編開始だけでなく話の展開まで遅いアルな
だからB面アルか?B級のB面アルか?
銀時:バカにしたもんじゃねぇぞ?
B級でも安手で味わい深いモンがたまーに隠れてんのがイイんだ
グルメ然り映画然りAV然り
新八:お前らこそお黙りんすぅぅぅ!!