白い花の揺れるこの場所で、俺とママは
弾丸を・・・拳を・・・幾度交わしたか
ママの持っているライフルは『パトリオット』
弾切れする事の無い 世界で二つとない名銃だ。
無限バンダナがあればこそ弾数だけは太刀打ち出来るが
射撃の腕は向こうの方が上だ。
・・・CQCもリキッドとは比べ物にならない
俺は何度地面へねじ伏せられたかすら忘れた。
「まさか・・・ママとこんな戦いをするなんてな・・・」
誰にとも無く呟き 向かってくるママの拳を避ける。
戦う最中・・・・・・俺は彼女との今までの記憶を
どこか他人事のように思い出していた。
「このガキ!!よくもウチのパンを盗みやがって!!
警察に連れ出してやる!!」
幼い頃に両親を無くし、頼れる親戚も無く
食料を盗み 浮浪児同然の生活をしていた。
12の頃、盗んだパンを抱えて走って逃げたが
うっかり足を滑らせて転倒し
店のオヤジに捕まり 襟首を掴んで殴られた。
「この泥ネズミが!!
今まで盗んだ分、体で返してもらうぞ!!」
容赦なく俺を殴るオヤジ、同情と侮蔑の眼差しで
遠巻きに見やる通行人ども・・・
別に、奴等に恨みなんかさらさら無かった。
俺はいなくてもいい・・・どうでもいい人間なんだ
もうどうなったっていい と半ば自棄になっていた。
「止めないか店主、私の息子がすまないことをした。」
そこに現れたのが ビッグ・ママだった。
オヤジは俺を殴るのを止め、ママへと視線を向けて
表情を引きつらせていた。
「あ、あんたは・・・アメリカの英雄の・・・・
で、でもこのガキはここいらで評判の」
「息子が今まで盗んだ分の金は 全て払う
・・・だから、見逃してはもらえないだろうか?」
言って 彼女は大金の入ったケースをオヤジへと渡す。
「あ、あんたがそういうなら・・・
おい坊主!!二度とこの方に泥を塗るなよ!」
俺を突き放し、ママへと一礼すると
オヤジはケースを持ってその場から去った。
何が何だか分からないまま呆然としていると
彼女は、俺の側まで寄って屈みこみ
視線を真っ直ぐにこちらへ合わせた。
「君、どうしてこんなことを?」
何で助けた、とか 反発することは出来ただろう
・・・けれど、彼女の眼を前にして
そんな態度を取ることは出来なかったのを 覚えている。
「・・・生きるためにはどうしても必要だったんだ
ママもパパも、殺されて・・・・誰も助けてくれなくて」
ママは 悲しげな面持ちで頷いて
「そう、辛かったでしょうね・・・・私の所へ来ない?」
「え?」
「盗みなんてしなくても
生きていけることを教えてあげる。」
言うと 俺の手を引いて歩き出す。
戸惑いながらもその手を振り解くことは出来ず
付いて歩きながら 問いかける。
「本当に・・・盗みをしないで生きられるの?」
「ええ。あなた、名前は?」
「ジョン・・・・・・ジョン・ドゥ。」
「そう、ジョンというのか。
それなら愛称はジャックね・・・よろしく。」
第十三話 母ちゃんの分まで食い扶持を
稼げるようになったら一人前
結局 俺はそのままママの元へ付いて行き、
とある場所でサバイバル等の訓練をみっちり
教え込まれる事となった。
「どうしたのジャック、食べないの?」
「えぇっ、だってこれ・・・・蛇だよ・・・
食べられるわけないじゃん・・・。」
パチパチと夜を圧するように爆ぜる焚き火の側には
串刺しになった蛇が いい感じに焼けていた。
「そう?私はいけると思うけどなぁ・・・・
私のおすすめは、キングコブラよ。
最初はちょっと戸惑ったけど、意外においしかったわよ。
騙されたと思って・・・食べてみて。」
ママは手近なキングコブラの丸焼きを手渡す。
疑わしげにそれを見つめ、覚悟を決めて
俺は思いっきり目をつむり 食べた。
「・・・・・・・おいしい!」
「でしょ?さ、もっと食べないと明日持たないわよ。」
「うん!」
その時の味を、俺は一生忘れはしない。
食事が終わり 眠りについた頃・・・・・・
ふと目を覚ますと、ママが側に寄り添って
俺の身体を抱きしめてくれていた。
「ごめんなさい・・・・私のせいで・・・・・
でも、あなたには生きて欲しいから・・・
厳しく当たるかもしれないけど、全て
あなたのためなの。だから、今は・・・・」
当時は言っていた事を全く理解できていなかったけれど
その頬には 一筋涙が伝っているのが見えて
「・・・ママ・・・・・・どうして泣いてるの?」
「・・・ごめんなさい、起こしちゃったのね
でも 大丈夫だから」
優しく俺の頭を撫でた時の、ママの寂しげな顔も
忘れられない記憶となって刻まれた。
そこから数々の訓練をこなし、早二年が過ぎて・・・
「誰がそんな撃ち方をしろと言ったの?」
「でも弾を節約するにはこうしなきゃ・・・
なくなったら終わりだよ。」
「そんな事を考えていたら戦場では生き残れないわ
貸してごらんなさい・・・こうするの。」
俺の持っていた銃を取ると、ママは全ての的が
倒れるまで打ち続けた。
「すごい・・・・・」
「いい?
銃撃戦はとにかく相手が倒れるまで撃ち続けなさい。
弾薬はその後、敵から奪えばいいの。
装備に合わなければ武器ごと奪う。いいわね?」
「はい!」
俺の返事に満足げに頷き、ママはこう言った。
「よし!今日はここまで。汗を流してきなさい。」
「っええぇ、あの湖で!?嫌だよ、ワニがいるもん!!」
「大丈夫よ、インドガビアルは臆病だから。」
「そうかな・・・?わかった。」
渋々湖まで向かい、そこで身体を流す。
「本当に 噛み付かないかなぁ・・・」
少し離れた所に浮かぶワニに怯えながらも
おっかなびっくり沐浴している所に
世界が白くなるような 物凄い光が走った。
俺はそれが核の光だとは、知る由もなかった。
「うわっ・・・何だあの光?すごかったなー・・・」
ぼんやりと空を眺めていたその直後、
襲ってこないはずのワニが素早く近づき
俺の脚を思いっきり噛み付いてきた!
「うわあぁぁぁぁぁ!助けてぇぇぇ!!」
「ジャック、動かないで!今助けてあげる!!」
すぐさま駆けつけたママがパトリオットで
ワニを殺し、俺を助けてくれた。
「大丈夫!?今応急処置するから!」
「・・・うう・・・・」
幸いなことに 噛まれていた時間は短かったため、
足は軽骨折しただけで済んだ
けれども・・・・・・
「!?・・・ジャックあなた・・・
涙が流れてないわよ・・・・どうして」
「え?・・・ホントだ・・・・
こんなに痛いのに・・・なんで涙が出ないんだ・・・・」
血が流れているにも、怖い思いをしたにも拘らず
目から涙が流れていないことに 言われて気が付いた。
その後、俺は病院で治療を施してもらい
そこであの光の正体と、涙が流れなくなった原因を知った。
「ごめんなさい・・・
私があの時まだ訓練を続けていれば・・・・」
「ママのせいじゃないよ。
核実験した国が悪いんだから。」
「・・・そうね・・・・」
ママは、複雑な表情をしていたが
ガキだった俺は その理由も何も分からなかった。
月日が流れ、18になって・・・・
「うおりゃ!!」
昼夜を問わずCQC訓練を教わり続け
ようやく今日、ママを倒すことが出来た。
「よく頑張ったわね ジャック。
あなたには全て教えたわ。」
「全て?でも、兵士としての精神は・・・・」
「それは教えられない、師から弟子へ
受け継げられるのは心技体の 技だけ。
心と体は自分で成長させなきゃいけない。
・・・でも大丈夫、あなたはもう立派よ。」
「でも入隊条件の年齢まで後2年だ。
それまでどうすれば・・・」
ママは微笑を浮かべて答える。
「体が訛らない程度で訓練すればいいの。
あなたは年頃の男の子として過ごしていいのよ。」
「でも、何をしたらいいのか・・・・」
そうね、と呟いて ママは俺の腕を引く。
「まずは、服装からね。今から買いにいきましょう。」
その後、礼服や外出用の服を買ってもらい
ディナーにも連れてってくれた。
ママの言いつけを守り、訓練を欠かさなかった一方
俺はママに 家族の温かさを教わった。
楽しい日々は、あっという間に過ぎて行き
そして・・・・入隊試験発表の20歳に
・・・・俺はトップで合格した。
報告を受けた俺は、急いでママがいる家へ向かった。
「ママ!!やったよ!
入隊試験にごうか・・・・・・・ママ?」
扉を開けると、いつも笑顔で迎えてくれていた
ママは そこにいなかった。
変わりにテーブルの上には、映像フィルムと
ママがつけていたバンダナがおいてあって
フィルムを再生すると ママの姿が映し出された。
『ジャック・・・これを見ている頃ならば、
私はあなたの前から消えているでしょう。
私は極秘任務でソ連に向かうことになったわ。
私は、あなたを愛し、武器を与え、
技術を教え、知恵を授けた。
私から与えるものは・・・もう何もない。
こんな別れ方で ごめんなさい。
でも、これだけは分かって欲しい。
私は、あなたのことをずっと愛している・・・」
テープが終わり、映像が途切れても
俺は目の前の現実を、受け止めることが出来なかった。
泣きたくても 涙が 出てこない・・・・・・
そうして俺はFOXに入隊し 数々の任務をこなし
今、この場に立っている。
・・・今ここで、俺は師を越える!
「強くなったわね。でもまだよ!!」
ママが真っ直ぐに突っ込んできた。
俺はママのCQCを返し、腕を掴んで地面に叩きつけた。
拳を酌み交わす内 ママの体が
消耗しきっていた事を知っていた。
今の一撃によって彼女の体は限界を超え、
そのまま 動かなくなった。
「よく・・・・・私を・・・超えてくれたわね・・・・」
強かった声が 今では嘘のように弱々しい・・・
「ママ・・・もう しゃべるな」
「いいえ言わせて・・・あなたにこれを・・・
これが・・・我らを救う・・・・・」
震える手で、ママが差し出したのは 何かのチップ。
「これは・・・あらゆる資源、人材、
資金の場所が記されたものよ・・・・」
賢者の遺産か・・・・
「わかった」
チップを受け取っても、尚ママは何かを差し出す
「これを・・・・決して、離すな・・・・」
そう言って渡してくれたのは
・・・・『パトリオット』だった
何故 これを俺へと?
問いかけを口にするよりも先に
「ジャック・・・いえ、・・・・・・
すばらしい人・・・・・・殺して・・・私を・・」
ママが、とんでもない事を口にした。
「な・・・何でだよ!
何で俺が、あんたを殺さなくちゃいけない!!」
「あなたは・・・・もう私を必要とする意味がないの・・・
だから・・・・」
「そんな意味なんかクソくらえだ!
兵士を引退したって またサバイバル訓練やったり
ディナーに行ってもいいはずだろ!!」
叫ぶけれど、ママは首を小さく横に振る。
「ゴメンね・・・もう私は・・・
そんなことは出来ない・・・
それが・・・国のためにもなるから・・・・・・
・・・でも、ジャック あなただけは・・・・
自分自身に忠を尽くして・・・・・」
「国がなんだ!!俺がいくらでも・・・・」
そっと、彼女は俺の手に 自らの手を重ねる。
震えて弱々しい手の温もりは 俺の記憶にあった
兵士としてのママではなく
―母親としての ママだった。
「英雄は、2人もいらないの・・・・
さあ・・・撃って。」
息絶え絶えにささやいて その手がするりと落ちる。
・・・これ以上、ママが苦しむ姿を見たくなかった。
でも 助けることは、もう出来ない。
もう、治療が間に合わない―手遅れだと
何故か 確信していた。
無言のまま立ち上がり パトリオットを彼女に向ける
「それでいいの・・・・ボスは、2人もいらない
・・・・・英雄は・・・一人でいい・・・・」
ママは微笑んで 静かに目を瞑る。
俺はしばらく手が震えて 引き金が引けなかった。
けれど・・・・・・・ついに、引き金を引いた。
一発の銃声は いつもより長く尾を引いて聞こえた。
・・・・・・きっと、湖で待つ仲間達にも 届いだろう。
「銀ちゃん!この音!」
「どっちの銃声でしょうか!?」
戸惑う新八と神楽に、銀時は淡々と答える。
「決まってんだろ・・・のだよ。」
「まさか・・・・自分のお母さんを!?」
「俺達が口を挟める資格なんてねぇよ。
これは・・・あいつら二人の問題だ・・・・」
それきり 湖にいた全員は何も言えなくなった。
俺は呆然と銃をその場に置き、
自分のしたことを 後悔していた。
この手で・・・・
自分の母と呼べる人を・・・・殺してしまった。
そのまま跪き、血を流して倒れる彼女を抱きかかえる
体はまだ温かかったけれど
温もりは急速に そして確実に失われていくのを
腕の中でハッキリと感じる。
ふと、気配を感じて目を開くと
目の前に ソローとスネークと・・・ママがいて
俺を見つめていた。
三人の目に宿るのは 憎しみでも、悲しみでもない。
ひどく穏やかで―暖かい目だった。
三人は頷いて、まるで蜃気楼のように
ゆっくりと 消えていった。
「ママ・・・・ごめん・・・・・・
ごめんなさい・・・・うわああぁぁぁぁぁ!!!」
俺は、声を上げて 泣いた。
目から涙は流れなかったけれど
確かに 泣いていた・・・・・・・・
風が花の群れと草原を揺らし、俺はようやく泣き止む。
ずっと・・・ここにいるわけにもいかない。
すぐに脱出しなければ この大陸ごと
俺達は消えてしまう。
「ありがとう そして・・・さようなら」
俺は、必ず生きて帰らなければいけない。
それが、仲間のためにもなり・・・
ママのためにもなることだから・・・・・
俺はそれきり振り返らず、ママの亡骸を抱えて
皆の所へと戻っていった・・・
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後書き(退助様サイド)
???「ついに・・・決着が着きましたね。
ビッグ・ママとの戦いに・・・」
新八「でも・・・これで、ホントに良かったんですか?
他に方法があったかも・・・」
銀時「俺ら侍と違って、あいつらは兵士だ。
外野が何言っても 結末は変わんねぇよ。」
神楽「でも、がかわいそうアル。」
近藤「ああ・・・けど君のお母さんは
本当に偉大だったと、俺は思う」
???「そうですね、これを読んでくれている
皆さんも母親は大事にしてあげてください。」
妙「あら?私達にはもう母親はいないのに、
イヤミのつもりですかコラ?」
???「いや、そういう意味で言ったんじゃ・・・・」
桂「あ、俺もだ」
九兵衛「僕にもいない。どうすればいいのだ。」
???「いや、あの・・・・・」
沖田「俺も姉上だけですぜ?」
土方「このサイトの槍ムスメも、兄貴と二人だったよな」
???「あー!!!
せっかくいい雰囲気で終わるかと思ったのに!!」
銀時「あ、そういやぁ俺も
母ちゃんいなかったっけ・・・・」
???「感動を台無しにするつもりか
てめえらぁぁぁぁぁ!!!」(ドス黒いオーラ)
一同「ご、ごめんなさい・・・・・・」