魂を狩るため悪人と戦う死武専生は 当然身体が資本





だから授業にも普通の学問だけじゃなく


たまーに実際に組み手を行って
身体もしっかり鍛えていくワケなんだけれど







「よーし!ソウル、キッド!
お前らまとめてかかって来い!!」



言ったな?後悔するなよ!」


「今度こそ負かしてやらぁ!!」





…僕にはとてもあそこまで出来そうにない





「よそ見してていーのかよ?


声と共に、組んでた相手が胴着のエリをつかんで

思い切り僕をタタミへと叩きつける





「うわっと!」





どうにか受け身を取り、身を起こしながら
足払いをかまして逆に相手を引き倒す





って!やったなコノヤロウ」


「当たり前だろ、組み手なんだから」












〜Minaccia della mancanza di imbarazzo
"なんだか怖い大人が多い"〜












バイトがあるから 個人的にはあまり
全力を出したくないのが本音なんだけど


大事な授業だからおろそかに出来ないし


てーか手を抜いたり加減するなんて
器用なコトは出来たためしすらないから





気がつけば汗だくになりながら、取られた分だけ
いくらか取り返してヘトヘトになる







あちこちが痛むのをガマンしつつ壁際に戻り…





、腕に擦り傷が」


「えっ」





あわてて見れば たしかに右腕の皮が
大きくすれてうっすらがにじんでる


あちゃー…受け身失敗したかな





指摘してくださったナイグス先生は、とても
落ち着いた様子でこう続けた





「早めに保健室に寄って、治療を頼め」


「いえ平気ですよこのくらい」


かすり傷でも侮ってはいかんぞ
そのまま放っておいて化膿したら大変だろ」


「は、はい…」





正論なんだけれど 少しだけユウウツになった







「保健室、かぁ…」





出来るコトならば、なるべく無縁ですごしたかった







課外授業なんかでケガをするのは割合当たり前で


すり傷切り傷打ち身にネンザはお友達


とはいえ常連になるのは よほど強い相手にやられるか
運が無いか、実力が足りなさすぎる人くらい





……それにまだ当てはまったコトがないのが


ジマンと言えば少しだけジマン







ケガ、大丈夫?君」


「あ…うん そんなに痛くないし」


「ナイグス先生も言ってたけど、軽いケガでも
しっかり治しておかないとダメよ?」


「分かったよ…ありがとう」





本当に椿さんはよく気のつく人だ、
返事をしながらも感心していた







保健室担当のメデューサ先生はとても美人で


的確な処置をしてくれて、死武専生からの
信頼も厚い やさしい人なんだけれど…





どうしてだか僕は あの人がもっとも苦手だ





なぜか姿を視界に認めただけで


或いは3m先くらいから近づいてくるだけで


背骨に氷を詰められたような恐ろしい感覚

身体中へと、じわじわ警報のように伝わるんだ





……あの感覚がどうしても慣れなくて


だからつい、ヒドいケガじゃないものは
自分で応急処置するか痛みごとガマンする











服を着替え 廊下を歩いて真っ白なドアの前まで来る


"不在だったら、家で薬ぬれるからいいのに"なんて
我ながらひどいコトを考えながら





…でも





いるなぁ、きっと」


ドアを挟んで 肌がゾワゾワと違和感をうったえる


深呼吸を三回くらいして…覚悟を決めてノック





「はい?」


「入ります」







開けた先には、やっぱりイスに座ってデスクで
書き物をしているメデューサ先生がいた





「あら、君がここに来るなんて珍しいわね」


「どっ…どうもこんにちはメデューサ先生」


「こんにちは、授業でケガでもしたのかしら?」


あいさつと同時ににこやかに笑いかけられる





けど僕にはそれがどういうわけだか


理由が分からないけど、どこか嘘っぽく
かつ作り物めいた冷たいシロモノに見える





ケガを治してもらう手前とても失礼だ


頭の中であやまってから僕はソデ口をまくる





「組み手ですっちゃったんで…問題なければ
バンソウコウとかもらうだけでかまいませんので」


あらダメよ、どんなケガだって軽く見てたら
ばい菌が入って大変なことになるの」





座りなさい、と彼女は目の前のイスをすすめる


もちろんそのイスは手当てをしてもらうために
向かい合う位置にある





身体の震えがより強さを増してきた





ああ…さっきから僕の頭の中で
原因不明の避難勧告がうるさく鳴り響いている


逃げたい、全力でこの場から逃げ出したい!





「別に取って食べるワケじゃないんだから
そんな怯えなくたって大丈夫よ」


えっ!?いやあの…」







もう一度"座りなさい"と言われて、仕方なく
震えをこらえながらイスへと座る





「ずいぶん派手にやったわね…少ししみるわよ?」


「平気、です」





正直 消毒液よりせりあがる寒気のがキツイです





「こうしてアナタの治療をするのは
どれくらいぶりかしらね?」


「…お手をわずらわせてしまってスイマセン」


「いいのよ、そのタメの保険医ですもの」





けど、とほほえみながらメデューサ先生は言葉を続ける





「廊下であった時もそうだけど…君は
いつも私の前では強張った顔をするのよね」


「そ、そうですか?」


「ええ…嫌われてるのかしら、私」


「いやあのっそういうワケじゃないんですけど…
ゴメンなさい





さみしげな苦笑…これもうさんくさく見えてしまう
自分ごとあやまりながら、頭を下げる





「そう、それならよかったわ







手際よく包帯が巻かれて 右腕が解放された





あとはお礼を言ってここを出れば、この感覚とも
気まずい空気ともおさらばできる





立ち上がりかけた動きを片手で制止された





待って、少し聞きたいことがあるの」


「…なんですか」





早くここを出たくて、言い方が少し素っ気なくなる





「死神様から、バイトしながら死武専に
通ってるって聞いているけど…ご両親は?


「いません」


「そう…大変だったでしょうね
死武専に入学してからその生活を?」


「どうして、そんなコトを?」





返せば、彼女は少しうつむき気味にこちらを見る





「マカちゃん達から時々、アナタがバイトに
忙しそうだって聞いてて…実際町でも数度遠くから
見かけるから 少し心配になって」


「気にかけてくださってありがとうございます…
でも、もう慣れっこですから」


「ならいいけど…もし何か困ったことがあれば
いつでも相談に来てね、力になるから


気づかいの言葉と共に満面の笑みで
右手を両手で握られて



僕は片言になりながら、どうにかお礼を言う







よく恋をすると胸がドキドキするって聞くけど


分からないながら、これだけは
恋は関係ないって自覚していた





どっちかと言うと…ああそうだ









「自分がハサミだと自覚したのはいつでした?」


「ええと…物心つくくらいかと、多分」


武器の血筋は、やっぱり母親から?」


「…恐らくは あの、どうしてこんなことを?」


「ああ少し気になってね…ありがとう





あの時、シュタイン博士が色々と質問してきた後


一瞬だけ浮かべられた怖い笑顔を見た直後
同じ感じのドキドキだコレ







完全に逃げるタイミングも言葉も失って
どうしようか呆然としているトコロに





失礼、ここにスピリットが来ていませんか?」







ノックをしてドアを開け、がっしりした青黒い腕が
すぐ側にまでやって来た





「いいえ スピリット先生がどうかしました?」


「探してるんですが…見当たらなくてな」


「あのー…それで、どうしてここに?」


心当たりをしらみつぶしに当たる…
オレはそんな男だった」





そうですか、なんてつぶやきながらも
僕はホッとした気持ちでいっぱいだった







ハッキリ言って死人先生ともそれほど親しくはない

むしろ"苦手な相手かも"とさえ思っていた





パートナーのナイグス先生同様 優秀なんだけど
ちょっとキビしめで

規律を守る部分が自分に後ろめたくて


ゾンビ(?)として生き返ってからは余計





でも、今このタイミングで来てくれたコトには
本気で感謝しています







「あ…治療ありがとうございました
じゃあ僕はこれで、失礼しまーす!


「おお、お大事にな





素早く立ち上がり、メデューサ先生に礼をすると
保健室から足早に退散した







…先生にはホントに悪いけど


心臓に悪いから しばらく保健室は行きたくない








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:実技の風景とかもそうだけど、こういう
青春っぽい描写が"学び舎"的な場所の醍醐味ですね


メデューサ:これでも仕事はマジメにやる方なのに
…ヒドイ扱いだわ(嘆息)


狐狗狸:あのー…スイマセンでしたちょっと
微妙に距離縮めないでください 怖いので


死人:支えになってやりたいが、どうにも
敬遠されがちなんだよな…
不器用一筋 オレはそんな男だった


ナイグス:悪く思われているワケでもないだろう
きっと分かってくれる日が来るさ(肩叩き)


狐狗狸:伝わるといいですn…ムグッ!?
(口に手を入れられながら影につれてかれ)


メデューサ:アナタ、後でおしおきね


狐狗狸:ふぉめんなふぁいぃぃぃ!!(泣)




組み手の相手は特定のキャラじゃありませんよ
(誰か聞いて得するの?それ)


様 読んでいただきありがとうございました!