死武専の教室で 椅子の背を抱え込むようにして
座るシュタインが並ぶ生徒達に向けて告げる





「職人と武器の共通試験"超筆記試験"!!

いよいよ一週間後に迫ってまいりました!!」






その言葉に、室内の空気がより一層張り詰める





「今回の問題は私が作りました

不安な人 楽しみな人、色々いるでしょうが…
がんばってください じゃ、かいさ〜ん


教卓を蹴りつけながら椅子ごと移動し
教室を出て行こうとしたシュタインは





「ふんぎゃ!!」


入り口の縁でキャスターの足を引っ掛けて
普段通りのズッコケっぷりを見せていた







残された生徒の内、ある者は不安を呟きながら


またある者は逆に日頃の成果を試す
意気揚々とした足取りで教室を出る





「はぁ…またテストの時期が来たか」





その中に、ユウウツそうにため息をつく
の姿があった





ため息の原因はもちろん超筆記試験なのだが


動機に少しだけ 他の死武専生とは
異なる要素が入り混じっている





「今月は急がしそうだから、テストあるって
言ってもシフトは通常運行だろーなー」





彼のタイムテーブル内で勉強に割くための時間は

多数のアルバイトによって、普通の死武専生よりも
殊更短く貴重なものになっているからだ












〜Prova della paura
"必要なのは分かってる、でもユウウツ"〜












一週間の内にどれだけ詰め込めるかな…と





考えていたの足が 廊下に佇んで
手を変な風に動かすスピリットを目にして止まった





「あのー…スピリット先生はなにを?」


「悪いが話かけんな、気が散る


「え、あ、スイマセン…」





声をかけ謝るまでの一連の所作の合間も
相手は全く振り返らずに怪しげな手の動きを続け


どうしたらいいか分からず少年は

代わりに側にいたシュタインへ視線で問う


「ああ、先輩は娘さんがテストで
一位を取れるようにオーラ送ってるんだって」





言われれば通路の先に こちらの様子に
気付かないまま離れていくマカの後姿を見つける





半ば親バカぶりに呆気に取られながらも


「そうですか…ええとガンバってください
じゃあ僕はこれで」





それだけを返して、彼はバイト先へと走り出す









テスト週間に入って

死武専に張り詰めた空気が漂い始めた





もちろん赤点を取れば追試が待っているので誰もが
最低限のラインを超えることを心がけているのだが





死武専に言い伝えられている『あるジンクス』


"超筆記試験で1位を取った者がデスサイズを作る"





―それが、ただのテスト以上に職人と武器を
上位へと駆り立てていた







それはとて例外では無いけれども


だからといってバイト先は、稼ぎ時に必要な
男手を簡単に手放しはしないわけで





「そのケース、運んどいて!」


「はーい!」


夜、酒屋でケースに入ったビンを運んでいると


通りからやってきたソウルと目が合って
彼はその場に固まった





…が、あちらは無言のまま頭を下げ


釣られて返した所で 何も言わずに通り過ぎる





散歩か何かだったんだろうか…なんて思いつつ
再び動き出そうとして





「アレ?なにか落としたよ…メモ?


ソウルのポケットから落ちたメモ用紙に気付いて

彼は、その場で屈んで拾い上げようとした





タッチの差で素早く本人にさっとソレを拾われるが


…その素早さと 一瞬だけ見えた内容
鳶色の瞳が見開かれる





「ねぇ、今のメモ魂学の教科書に書かれてた
文章っぽいのが見えた気が」


あん?買い物メモと見間違えたんだろ?」


「…ひょっとしてアレ カンニ「そういやココ
深夜営業でバーもやってんだよな?」


言われて、小さく呻きがもれる





の姿はいつものツナギではなく店の"制服"で
亜麻色髪も 整ったオールバックにセットしている





酒屋で荷物運搬だけなら小奇麗にする必要はない





「死神様はともかく死人先生辺りにバレたら
補習くらいは追加されっかもな」





ニヤッと笑ってソウルは言葉を無くした相手へ
言い含めるように告げた





「つーことで、オレらはここで会わなかった」


「…OK、僕らはなにも見ていない」





背に腹は変えられず 薄暗い取引は成立した









仕事が忙しいとはいえ、僅かな時間の隙はあり


その空白を勉強へつぎ込もうと彼は図書室へ駆け込み





「あら、君もここに勉強に?」





マカの隣のテーブルで勉強していた椿が声をかけてきた





「ああうん やっぱりちゃんと勉強しとかないと
ヤバイかなーって思って」


「でも君は真面目に授業受けてる方でしょ?」


「僕はホラ…バイトがあるから」


「「ああ、そうだっけ」」





小さくささやかれた一言に、二人が苦笑交じりで答える





「ソウル君やブラック☆スター君は一緒じゃないの?」


「何かソウルはやる事があるんだって」





その一言に、つい先日の出来事が頭に浮かび

長い前髪の下の口元が若干引きつる





「ブラック☆スターは…真面目に勉強してたんだけど
筋トレが迷惑だからって、追い出されちゃったの」


「え…そうなんだ…でもなんで筋トレ?」


「さぁ?」







首を傾げつつも、マカの座る席の前に乗せられた
テキストの山を見て彼は言う





「それにしても…マカさんの勉強量ハンパないね」


「自分の実力が出せるイイ機会だもん
ママも学園トップだったし、私もガンバんなきゃ!






目に炎を灯す勢いの彼女にやや気圧されるも





「そっか…僕も負けてられないかも」


感化されては小さく笑んだ





「よかったら一緒に勉強しましょうか?」


「いいの?じゃ、じゃあお言葉に甘えて…」


頭を下げ 近くの椅子を引いて腰かけようとして





おお!ちょうどいい所に来たな
少し手伝っていってくれ!!」



「え、あの僕も勉強しに…」





横から現れたキッドに腕を掴まれて

彼は引きずられる形で引っ張られていく







「ご子そ…じゃない、キッド君も、勉強しに来たの?」


「いや魂学は把握しているから特にその必要は無いが
リズ達が勉強している合間に 本を読もうと思ってな」





言いながら、ある本棚の前で止まると


キッドはまなじりを釣り上げて語気を強める





所がだ!この棚の本はサイズがてんでバラバラ
並んでいるじゃないか!


きっちりかっちり左右対称に並んでないと
全くもってガマンならん!!






呆気に取られる少年へ、本を入れ替えている
リズとパティが言葉を挟む





「っつーコトで、ちゃんと勉強してた私らまで
本棚の整理に借り出されたってワケ」


「キャハハハハハハハ♪」


「という訳で、早速整理に手を貸してくれ」





貴重な時間なのだけれど 真剣な顔をして
頼んでくるキッドにノーと言えなくて





「わ、分かりました…」


頷いた後、彼は心の中でため息をついた









調整がキツくても 夜間の仕事は給料がいいから


バイトを控えるべきテスト前日であっても配達を
こなすべく人気の少ない通りを歩いていて





軽装の知り合いとバッタリ会い、彼は驚いた





「ええと…ブラック☆スター君?こんな時間になにを」


「あんだよ?気になんのか地味!」


「うん…それはまあ」


よーし素直な信者に特別に教えてやろう!

セコセコ勉強するのはオレ様に似合わねぇから
暗殺者らしくちょっくらテスト盗みに行くんだよ!!」





笑顔で胸を張って当人は言うが、テストを作った
相手が相手だけに不安は拭えない





「あのー…それはやめた方がいいんじゃ」


「あんだぁ?お前
信者のクセにオレの腕に疑問があるってのか!?」



ないです き、気をつけてブラック☆スター君」





去っていく彼の後姿を眺め、少年は被っていた
帽子を目深に被り直して呟く


「……僕、一応止めたからね?」







後でツギハギ研究所の付近を通りがかった時に
悲鳴のような叫び声が聞こえても


深く考えないように彼は努めた











……盗人の末路はテストの当日、明らかになった





「ひゃっ…はぁぁ☆」


「昨日シュタイン博士の研究所にテストを
盗みに行ったバカがいる 不正は行わないように!!」






黒板の横にネジで宙吊りにされたボコボコの
ブラック☆スターを目にして





「だから言ったのに…」


こそりと呟き、は内心で椿に同情した







そしてチャイムの音で試験が始まり 生徒達が
早速問題に取り組もうとした矢先





「これで全部か?」


「何だよ!!パンツまで取る気か?」





速攻でカンニングがバレ、死人にパンいち姿
剥かれたソウルに全員が唖然とさせられる





「まさか、全身にカンペ貼ってたなんて…」


その執念に恐れ入りながらも、彼はかぶりを振って
目の前のテストへと集中する







鉛筆を動かす音と針の音が空間を占め


刻々と制限時間が過ぎる内 小さな呻きが混じりだす





「う…もう少し勉強しとくべきだった」





くしゃりと頭を掻きながら、は何とか
解答欄の空白を埋めようと記憶と戦うが


しかし時間は、無情に過ぎていく





「残り10分だぞ」


うえぇっ、ちょ…カンベンしてよ…!」





可能性にかけて、慌てて彼は空白に答えを
いくつか書き込み出して







「…うわぁあぁぁあああ!!


唐突な大声に反応して声のした方へ顔を向け


いきなり倒れたキッドと、ソウルを挟んで
座るパティの机にあるキリンが見えて






「な…一体どうなってるの!?」


我知らず呆然と呟きをもらして
状況を把握しようとその光景に見入ってしまう





いけないいけない!集中しないと…」





ハッと気付いてテストに向かい合ったのも束の間





「お前のサインなんか知るか!!」


血文字でサインを書いたブラック☆スターへ
向けられたソウルの怒鳴り声が集中力を乱して





結局それ以上何も書けずに、終了のチャイムが鳴った







「だ…ダメだ……今回赤点かも」





額の位置に手を当てて項垂れるだったが







「……アレ?意外と前より点数よかったよ」





結果が発表され、自分の名前の順位を見て

拍子抜けしつつもホッと胸を撫で下ろす







流れで順位の上を目で追えば





去年 一位だったオックスが二位へと下がり
繰り上がる形でマカが一位を獲得していて





「本当に取ったんだ…スゴイなぁ」


「ありがと♪」





ボソリと言った独り言に返事が戻って

彼は ビックリして振り返ったのだった







"超筆記試験 結果発表…


130人中68位 "








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:えーと色々飛び飛びですが、4巻原作の
超筆記試験を彼の視点からお送りしました


…所でソウル君は カンニングペーパーを
試験開始までずっと持ち歩いていたの?


ソウル:いや…ありゃ多分作りかけのが服に
くっついてて、それがはがれ落ちたんだと思うぜ


マカ:それにしても キッド君はともかく
二人とも真面目に勉強しなさいよ


ブラック:へん!オレ様にそんな地味な真似は
似合わねーんだよ!!ひゃっはっは!!


椿:威張れる事じゃ無いわよ、もう…


キッド:うぅ…kが上手く書けないなんて
オレはゴミ溜め的存在だ…


狐狗狸:まだ名前の件で落ち込んでるよ!?


リズ:あー、しばらくほっといてやって


パティ:それより私達の出番少ないぞ
もっと増やせコノヤロー!きゃははは!!(蹴)


狐狗狸:イタタタタタ!スネはやめてスネは!!




赤点スレスレから良くて中の上な成績が基本の
彼ですが、地味に努力家だったりします


様 読んでいただきありがとうございました!