いくつかバイトをしてはいるけれど、死武専との
両立がメインだから限りがある以上


どうしても 稼ぎには限界がある





最低限ムダづかいせずにやりくりしてはいるけど

薄給のシワよせは、たいがい食費にかかるから





「しばらくはニョッキ生活だなぁ…」


給料日前とかの僕のアパートはジャガイモのニオイ
埋めつくされて、壁にまで染み入る





そんなに高いものでもないし気軽に作れるし
結構お腹にたまるから文句はないんだけど


たまに、ピッツァ・マルゲリータが恋しくなる


けど材料…特にモッツァレラがそこそこの値段だし
一人で食べるには割高だ





生地だけなら短期間の保存も出来なくはないけど

ピッツァのレパートリーはマルゲリータしか知らない


…別にそれで困ることはないけど





「給料が入ったら、ちょっとだけいいお肉を奮発しちゃおうかな…」





手に持ったジャガイモと現実から ほんの少しだけ
目を逸らしたって許されるハズだ…多分


そんな悲しい帰路をひた歩いていると







唐突に 肌が違和感を感じて震えた







冬の寒いときとか、ドアノブ握ったら
いきなりビリ!って来ることがよくあるけれど


アレがずっとまとわりついてるみたいな

強烈な違和感…てゆうか気持ち悪さが
身体中を這い回ったまま消えない


いや、どんどん強くなってくる…!





「この兆候は…っ!」





だらだらとイヤな汗が浮いてくるのを自覚しながら


足早に恋しきオンボロアパートを目指すけど





間に合わず 曲がり角から一匹の猫が現れる





出た…!












〜Fobia di strega
"特性というよりアレルギー?"〜












相変わらず 見た目だけなら普通の黒猫と変わりない


むしろそこらの猫より可愛い部類に入るかもしれない





でも、帽子を被った猫なんて普通はいない





…ついでに強烈な気持ち悪さを僕に感じさせる猫も

一匹ぐらいしか検討がつかない







「ニャーん、お買い物がえりぃ?君」


「そうだよ帰るんだよ、じゃあな」





短く返して 人当たりよさげに言う猫の横を
さっさとすり抜けようとしたけれど


相手はあっさりと先回りして、またも
目の前に立ちはだかる





「せっかくあったんだから、ちょっとぐらい
お話してってもいいじゃニャーい」


「…こっちは話すことなんて無い」


「ブーたんはあるの、ヒマだからぁ〜
それともセクシーな姿での方がお好み?」


「頼むからそのままで済ませてくれ」





ああ本当、ロクでもない魔女との縁だけは
最近強くなってきたような気がする…









この魔女…いや、魔女猫ブレアと初めて会ったのは
つい最近になるだろうか





こんな風に人気の無い路地で、やっぱり
先に気がついたのは僕だった







「帽子を被った…黒猫?





異質な姿はもちろんのこと


こちらを品定めするかのような見上げる視線も

肌にまといつく強い違和感もあってか





可愛らしいというより、気味が悪くて眉をしかめた







…黒猫は"不吉の象徴"だってよく聞く





特に僕の生まれ育ったトコでは
"魔女の使い魔"だとか言い伝えられてて


一匹でも見かけようものなら石を投げられ

人々に取り囲まれて殺される光景も珍しくなかった





……僕は別に生き物を殺してよろこぶ趣味も


黒い猫を無差別に"魔女の使い魔"だなんて
断定する気もないけれども





今しがた目の前に現れた "この"黒猫は


間違いなく、いてはならない何か不吉なイキモノのように思えた





ゆらゆらと尻尾をゆらめかせる黒猫から
遠ざかるべく振り返ろうとして







「ツナギにオカッパ前髪…
ひょっとして 君がって子ニャの?」





姿に見合った高い声が猫の口からもれて


僕はその場に釘付けになった





どうして名前を知っている…!?いや、それよりも


普通の猫は しゃべらない





「お前、魔女かっ…!」





言えば黒猫はキョトンと円らな目をしばたたかせて


それから楽しそうに答えた





「違うニャ、ブレアは魔女じゃなくて単に
魔力の高い猫なのよ〜ん?」


「…性別がメスなら似たようなもんだ」





やっぱり、黒猫は"魔女の使い魔"だったんだ





「それよりも最初の質問に答えてちょーだい
君が君ニャの?」


「ああそうさ それより誰から名前を聞いた?


「ニャんで出会い頭からそんな不機嫌そうニャの?」


「俺は、魔女や魔女に関係する奴が
大嫌いなんだよ…ヘドが出るほど」


肌への刺激のせいか普段より気が荒くなっている


けれど、不思議なことにアイツほど
"切り裂いてやりたい"と思うまではいかない





こいつの実力がどれくらいかは知らないけど
余計な争いをしてケガしたらバイトにも差し支える

…ガマンして、この場を離れる方が賢明だ





そう思いながら一歩足を踏み出した途端





「毛嫌いせずに仲良くしーましょ?」


出した足と身体を伝って一瞬の内に

黒猫が左肩まで這い上がってきて ほおずりされた


ゾワゾワっと耐え難い感覚が肌を駆けめぐり


気付けば、片刃に変えた右腕を迷いなく
猫へと突き立てていた






「きゃん!」


…寸前で肩からジャンプして逃げられたか





器用に着地した黒猫はこっちをニラんでいるけど

そんなことはもうどうだっていい





「ひっど〜い、こんな可愛らしいブーたんに
刃物突きつけるなんて信じらんなぁい!」



「勝手な真似したらお前の首をスッパリ
切り落としてやる…とっとと失せろ!





猫が目を細めて、鋭く言い放つ





「だったら…お望み通り
魔女っぽい姿になってあげようじゃニャいの」


次の瞬間、その小さな身体が煙に包まれた





気が立っていたこの時は本気で、どんな魔法を使おうが
こいつを八つ裂きにしてやると思ってた





いつでも技を放てるように身構えていた俺の目の前に


笑みをたずさえた長髪の女が現れ…現れ、て…







帽子と目はどこかさっきの猫をほうふつとさせ

気配は若干強くなった程度だけどさっきと同じだ


けど、それ以外は激変しまくっている





「なっななな…なんてカッコしてんだ!!


特にモデル並のスタイルと ビキニかと
思うような露出度の高い服装はイヤでも目立つ






とてもじゃないけど正視できずに後ろを向いた





「ニャんでいきなり後ろ向いてるの?」


「いーから何か服を着ろ!もしくはさっきの姿に戻れ
早急かつ速やかに!!」






言っていることがおかしい気がするけど
こっちだって、年頃の男


アイツみたいな気色の悪い変態でもない限り

たいていは異性を意識する





…魔女は一々身体を強調するような
露出が高い服を着るのがデフォルトなのか!?





などと油断したのがいけなかった





あら〜嫌いとかいいながら赤くなってて
照れてるの?カワイイじゃニャーい」


肩越しに頭が乗っかって、顔をのぞきこまれた





もちろんその体勢なら 当然だけど

当たってしかるべきモノがしっかりと…


「うっうわあっ!なに勝手に近寄ってんだ!
ムダにデカい胸も押し付けてくるなぁぁぁっ!!」



「ボインよりもペタンコちゃんが好きなの?」


スレンダー派にあやまれ!じゃなくて
初対面で密着とかなに考えてんだよぉぉ!!」







耳元の甘ったるい猫なで声と背中に伝わる
柔らかさと温もりを持った圧迫感



それとは逆に身体を駆けずり回る凶悪な刺激

心身ともに参りそうになっていた





逃げ出したいけど身体が上手く動かない





い、いくら見た目がキレイでもアイツと同じ魔女
グイグイと無遠慮に押し付けられる胸なんかに
惑わされてたまるかっ


それに本当のことを言えば、胸のデカさよりも
締まった腰つきを重視して…って


ああもう思考がドンドン乱されていくぅ!







「何やってんだブレア…と、?」





聞き覚えのある声と共に 背中の圧迫感が消える





や〜んソウル君会いたかったぁ〜!
この子すっごく奥手でちょっと退屈してたのぅ〜」


「うぉあっ、いきなり胸を押し付けるなよっ!」





だいぶ軽減された感覚にほっと胸をなでおろしつつ

後ろを見れば 代わりに猫に抱きつかれる…





「え、ソウル君!?なっななななんでコイツと」


「知らなかった?ブレアは今マカ達の所に住んでるの♪」


「…え、ウソ」


「いーや大マジ





すっぱりそう返されて、僕はしばらく
その場で硬直するぐらいしか出来なかったっけ……











「…ねぇ、聞いてるの君」







我に返ると 間近にブレアのどアップ顔があった

…猫の方じゃなく人間の方の





「うわっいいいいつの間に変身したんだっ!」


肌にほとばしる気色悪さに従って思わず後退りすると
魔女猫は、少しばかり不機嫌そうな顔をしてみせた





「こないだ買った新作が似合ってるかどうか
聞いたのに〜ボーっとしてたでしょ?」


「ご、ゴメン…じゃなくて!そもそも俺に
気の利いたほめ言葉を求めるなよ!!」


「いーの、ブレアが求めてるのは言葉よりも
ブレアに見とれる熱い視線ニャんだから」


笑顔でなにを言ってるんだ…見とれてなんかない
単に恥ずかしいと思っただけだ


と、言おうとして人差し指でクチビルを押さえられた





「そっちの魔女嫌いよりブレアの誘惑の方が
強いってコト いつか分からせてあげるね♪」






一つ心臓がうるさく鳴り、"カンベンしてくれ"と思った








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:前の話であったブレアと不仲〜くだりの
具体的な解説をしつつ夢小説っぽくしました


ブレア:ケンカしてるって言うか、一方的
君がこっちを嫌ってる感じだニャ


ソウル:アイツ普段地味なクセになんだって
ブレア相手だとやたらと強気になるんだ?


狐狗狸:基本控えめな性格だけど、特定の
条件によって気が動転しちゃうんでしょうね


ソウル:…そういやあの変態姉キ以外にも


狐狗狸:(遮り)ところでブレアさんは
何で彼の名前を知ってたんですか?


ブレア:一応マカ達から話は聞いてたから
どんな子か会って、ちょっとからかおうかな〜って


ソウル:ってオレの質問は無視か!?


ブレア:寂しいならブレアと遊ぶぅ〜?


狐狗狸:あ、色仕掛けモード突入…(羨望の眼差し)




魔女であっても 女性は魅力的に映るようです
(…一部例外を除いては)


様 読んでいただきありがとうございました!