あの月面での戦いが終わってから
世界は、文字通りに一変した





キッドの覚醒に伴って 役目を終えた死神様が亡くなって


開かれた葬式会場いっぱいに すすり泣きの声が響く中


運ばれていく空っぽの棺をぼんやり眺めてる僕へ

同じような黒服と黒い腕章をつけたキリクが声をかける





「…泣かねぇのかよ」





ちらっと目を向ければ、彼の足元にいる
ファイアーとサンダーはポロポロと泣いていて


その涙を拭ってるジャクリーンの目元も少しだけ赤かった





「正直、実感ないんだ 死神様が死んだって」


「実を言うとオレもだぜ
でも…キッドがウソをつくはずもねぇしな」


「分かってる」





マンマの時は死体が無くても泣いてたんだけど


今はなんていうか…胸に穴が開いたみたいな感じだ





ガッと肩と背中に衝撃が来て





ならメソメソするより笑って見送ってやろーぜ
世話になった恩もあるし、その方が死神の旦那も喜ぶだろ」


「…君ってそういう時 マジで天才だよね」





肩に腕を回して笑うブラック☆スターの言葉に
僕らは皆、思い思いの笑顔で答える


そこでようやく ポロリと一粒涙が零れた







…大きな悲しみと損失と向き合って日々を過ごす内
黒く染まった月はみんなの日常の一部となり





キッドは新しい死神になって





「「人と魔女 過去の過ちを消し去る訳ではない
それを礎により強き世界にしていこうではないか!!


長い間対立してた魔女との協定を本格的に約束した





死武専と魔女の橋渡し役としてキムを


協定の証人であり、最後に創られたデスサイズとして
ソウルを指名した上で





「アンタどこ行くのよ?」


「オックスを見習って、マリー先生に告白かな?」





視線だけを向けつつ移動すると 真っ赤になったキムと
その隣ではにかむオックスが見えた







…軽口交じりでそう言ったものの


僕が介入する余地なんかないってのは


マリー先生のおめでた発言を聞く前から、実は
うすうす分かっちゃいたんだ





「モルモットが一匹増えるモンですよ」


「不安だ…」





クチではそう言ってても


なんだかんだで生徒や親しい人をきちんと
見守ってくれる博士を

マリー先生は 心の底では信頼しているから







「安心してください、ベビーシッターから離婚相談まで
マリー先生ならロハで受け付けますんで」





抱いてた想いはきっちりかっちり胸にしまって

もう一つの、心からの言葉を口にした





「おめでとうございますマリー先生」





そっとお腹に両手を当ててから





「ありがとう


柔らかくそう笑う先生の顔は 本当に幸せそうで安心した





「なんだ オレの即位は祝ってくれないのか?」


「滅相もない死神様」





ジョーダンまじりでキッドへ言葉を交わしたり


スピリット先生から、苗字(ファミリーネーム)に
ついての僕なりの決意を答えつつ





「おいおいマカ、オレ様を差し置いて
ステージで盛り上がるたぁ中々抜け目がないな

だがっ!その程度じゃBIGなオレの輝きには程遠いぜ!


「別にアナタと張り合ったワケじゃないでしょ…」





乱闘の合間を縫ったブラック☆スターが


積もる話をしてたっぽいマカとソウルへ
いつもみたいにちょっかいかけるまでを眺めて





あれよあれよという内に


変化を受け入れながらデス・シティーも死武専も
いつもの日常を取り戻してゆく












〜Dio ed io siamo qui.
"彼らのこれからは終わらない"〜












まだパートナーがいないからEATへの復帰こそは
出来ていないけれども


スパルトイや情報局の任務でみんなと会えるから

僕の方も さほど前と代わり映えのない日々を送っている





魔女達も今の所は大した問題を起こしてないし


これはこれで望むべき"普通"の日々なんだけれども…









「あーあ、どっかにいい男いないかな〜」





穏やかで安定した日々が続くと


"普通"に物足りなくなる人が現れるのも よくあるコト





「なーマスター 背が高くて若くてカッチョよくて
内面もイケてる男紹介してよ」


「悪いけど そういうの得意じゃ無いんだよね…」





時間帯からか 珍しくガラーンとした店内のカウンターで


ぐでーっと上半身を預けながら
訊ねるリズへ、コップを拭きながらマスターが聞き返す





「ソウル君とか女子に人気みたいだけど
彼は付き合う相手としてカウントしないのかい?」


「ソウルかー悪くはないけど煮え切らないトコあるし
あんまりそういう関係になろうとは思わないな」





おや意外 たまに音楽の話も二人でしてたみたいだし
それなりに馬が合ってると思ってたけど





けどまぁ仮に二人が付き合ったりしたら大変だろうな


…主にマカが





なんていうか、パートナーと友達のそういう事情
割り切るの苦手そうだし





「パートナーの新しい死神様は?」


「キッドは家族みたいなモンだろ」


「武神の「論外」





気持ちは分かるけど 中々評価が辛口だなぁ







明るくてポジティブな性格してる姉妹のかたわれながら


トコロドコロで男勝りだったり、乙女チックだったりで
わりとメンドウなトコあるんだよねリズって


そんなトコも案外かわいかったりするけど







なーんて思いつつテーブルの片づけが終わったタイミングで





「なー今日の私を見てどう思う?


急にこっちに話を振られて 思わず戸惑う





えっ!?ど、どうって言われても…」





なんか じーっとこっちに視線を送られてる


こんだけ見られてるのは、死刑台屋敷に
植木業者のバイトで入った時以来だ





…って思い出にひたってる場合じゃないだろ僕


どうしよう何か言わなくちゃムダにドキドキしてきた





「ええと…今日はその、いつもより目がパッチリしてる?」


「遅い その上鈍い!」


速攻でダメだしされた へこむ





「厳しいねぇ」





苦笑いするマスターへ リズは
大げさに両肩をすくめてため息を一つ





「こんな美人が目の前にいるんだったら
気の利いた一言ぐらい欲しいもんだぜ」


「そういうのはスピリット先生に頼んでよ」


「マカのオヤジさんは確かにいい男だし面白いけど
あの浮気性なトコはちょっといただけない」





うん…この間も現地の婦人警官くどいて
逆にお説教されてたし


黒血の波に飲まれた時も

マカ以外の未練が口説いてない女の人だったって
茜君達が言ってたから筋金入りだよね







と、客入りの少ない時間帯に二人目の来客が現れた





「お、リズにじゃねぇか」


「やあソウル 注文は?」


「カプチーノ一つ…にしてもリズ
今日はやけに気合入ってんな」





一人分ほど離れた席に座りながらも
ちらりとソウルが隣へ視線を向けて言うと


途端にリズの顔が輝き出す





おっ!分かる?」


「やたら服装がシャレてるし、化粧もそうだが
髪型ちょっとイジってるからな」


「そうなんだよ〜今ちょっとパティ待ってんだけどさ
この後 買い物行くトコの店主がイケメンでさ」





なるほど、言われてみれば服とか髪が
いつもより華やかな感じになってる





「いやーやっぱモテる男は細かいトコまで気が付くわ」


「そんな大層なモンでもねぇだろ?
知ってるヤツだから何となく気づいたってだけだ」


「いやいや分かんないヤツもいるんだって」





ニヤニヤしながら、こっちに視線がよこされる





気まずさとちょっぴりのイラだちから 軽く反撃してみる





「いきなり話振られても、そういうの慣れてないんだよ
てゆうか目当ているのに男紹介してもらおうとするなよ」


「乙女心が分かってないな〜イケメンには
キレイに見られたいモンなの、少なくとも私は!


「いっそ清々しいほどに言い切ったな」


見事なまでの力説の後





も少しは乙女心が分かんないと
将来ずーっと地味な独り身になっちまうぜ?」






カウンターでかなり刺さる言葉をもらった





「…勝手に人の将来決めないでよ」


「おいおいスネんなよ店員さん」





ちょっぴり浮かぶ目尻の涙をコーヒーの湯気のせいにして


先に入れたエスプレッソにピッチャーからミルク注いで
そっから軽く手を加えて…







「はい、カプチーノお待ちどう」





カップを差し出せば、ソウルがまじまじと表面を覗いて笑う





「お!バンダナに描いたマークじゃん」


「器用なんだよね彼、一回休憩の時にコーヒー入れたら
披露してくれたし 好評だったんで正式に店でやってる」





ちなみに別の店で教えてもらったテクだったんだけど


つぐみちゃん達の反応がカワイかったんで色々やってたら
なんか流れで皆にラテアートするコトになって





マスターにマークの由来聞かれて





『ふーん…じゃあソレ採用


本当にこのスピードで決まったんだよね





はじめは僕と茜君とマスターしか出来なかったけど


今は、どんな不器用さんでもそれなりに
あのマークになるマニュアルがある





「マジか、じゃあ私もカプチーノ頼もう」


「まいどあり マークはソウルのと一緒でいい?」


「えっ、変えられんの?」


「すごく難しいのはムリだけどね」





その道のプロだと泡を立体にして猫とか作れるらしい


ウワサだけしか聞いてないから、ちょっと想像つかないけど





「デフォルト以外が出来るコ少ないからね
いい機会だからやってもらったら?」


「せっかくだからそうしよっかな〜なーに描いてもらおう





上機嫌に微笑むリズにドキッとしつつ

追加されたカプチーノの準備に


入った直後、肌と身体に複数の違和感









…いい加減 慣れた感覚だし
まぜこぜになってても知った魔力だっだから


店の扉を開けるのが誰なのかはわかっていた







「ここのカプチーノのアート、最近マジョで
かわいいって評判なんだから一回飲んでみなって〜」


「いいわよ私は別の機会で…」





裁判の時に引っ張られてたギャルっぽい魔女二人に
連れられてカエル女が入店し


そのちょっと後ろから 魔女姿のブレアがひょっこり顔出す





やっほー!ソウル君にリズもいたんだ」


「やっほブレア、相変わらず攻めたカッコだね」


「ブーたん誘惑するの得意だしぃ〜
リズも今度一緒にお店でバイトしてみるニャ?」


「給料いくら?」


おっ?ウチらの店に興味ある?」


「「やめとけよキッドに怒られるぞ」」





そのつもりは無かったけど、指摘のタイミングが被ったんで
入店した魔女四名様が俺に気づく





「あぁっちそこにいたんだ〜」


「いやアンタら分かってて入店してたろ」


「いやー波長は伝わってもマジョ存在感ない
隣にいないと気づかないって」


悪気がないだけに傷つくぞソレ





「でも波長抑えるの大分うまくなったよね〜
エラいエラい♪


「波長?」


「こっちの話です、やめれ なでるな」





マスターに答えつつカウンター越しに伸びる手を
やんわりと弾く





「そこのハサミ男はともかくとして、アンタら二人の
組み合わせって中々珍しいわね」





遠巻きにジト目でこっち見てるカエル女に





「そうでもねぇよ、今回はたまたまだけど
ダチ同士なら割とよく二人とかでダベったりするぜ?」


「ふ〜ん何話してたの?」





答えるソウルとリズは 顔を見合わせてニヤリと笑う





コイツが地味過ぎて恋人出来ないかもってコトとか」


「ちょっ!?」


「マリー先生にフラれちまったのまだ引きずっ「ないから!
ちゃんと整理ついてるから!怒るぞマジで!!」








ああもう二人して悪い顔でニヤニヤしやがって


分かってるよ、言ってる俺の顔が真っ赤なのは!


でもってカエル女以外の魔女も便乗して
ニタニタしながらこっち近づいてくるんじゃねぇ





「女の子と縁がないなんてマジョかわいそ〜
お姉さんたちがなぐさめてあげよっか?


「つつしんでエンリョします」


「そんなツンケンしないでよくーん
ほらほら〜魔女と仲良くってキッド君も言ってたニャ?」


エンリョするっつってんだろ
にじり寄るな仕事中ですお客様コノヤロー」







半ば無理やりカプチーノの注文を取るコトで
どうにかそれ以上からかわられるのを回避した





けれどテーブル席に移った魔女達は恋バナに飢えてたのか





「そういやエルエルさー魔眼の男とあの後なんもないの?


「ゲコッ?!」





俺からカエル女へターゲットを変更していた





「ゲゲゲッ、べっべつにフリーとはそういうアレじゃないし!
てゆうか全然タイプじゃないしっ!!


「えーでも一緒に住んでんだよねー」


「アレは単に住むトコないからって勝手に居候されてるだけで」


「けど何だかんだで世話焼いたりしてんじゃん」


「そ、それはメデューサにこき使われてる時に
面倒見るように言われたのが習慣になっちゃったの!

てゆーかドジっぺだから目を離すと危ないのよ!!





何でだろう、下世話な色恋トークのはずなのに


聞いてると段々アホな愛犬のメンドウ見てるうちに
愛着わいちゃった飼い主の会話に思えてくる





話題に上がってんのが、マッチョでやたらデカい
不死のおっさんってトコがまた何とも







、お前今すっげぇニヤニヤしたツラしてる」


「…それ さっきの君らにそのままお返しするよ」





言いつつリズにちょっと凝ったハートマークの
カプチーノを差し出して


残りの四人分のラテアートに取りかかりながらしみじみ思う





どんな変化が起こるかは分からなくても


それすらも飲み込んで、穏やかに過ごせるのが
僕にとって愛すべき"普通"だと





「…ああでも、恋人は欲しいかも」


「そんな心配しなくても 出来ると思うよ?」





隣を見れば、マスターが小さく笑ってた


だから僕も 普通に笑い返した








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:特定の組み合わせを思いつかなかったので
ベタですが本編終了後の日常っぽく行ってみました


マカ:私、名前だけしか出てないんだけど


パティ:どういうことだオラー!
あとキリンの絵のコーヒーよこせー!!


狐狗狸:心の赴くままに書いたらこうなりましたゴメン
あとコーヒーはマスターの店で頼みなさい


ハーバー:やっぱり最後の短編でも彼はバイトをしているのか


狐狗狸:バイトしてる所からこのジャンルの話が
スタートしてるからね、むしろこうなるのが自然かと


フリー:この街の連中はまだオレにビビったりするが
死武専のヤツとは結構仲良くなったぞ、ああ!仲良しさ!


茜:先輩とケンカしてる所をたびたび目撃されてるけどね


つぐみ:魔女とか魔眼の人と話す時の先輩
ちょっと怖いけど…いい人なのは変わらないかな?




作品は残しておきますが、短編も含めて
これにて当ジャンルは完全に更新終了いたします


様 読んでいただきありがとうございました!