バイトに明け暮れた長いお休みも終わって


気だるくせわしない、洗濯物日和のいい天気な日々から
じわじわと雨の日が混ざり始めてくる





廊下の窓から外を覗けば 今日もやーな感じにくもり空

確かにそれも 僕の心を重くする原因の一つだけれども


…それだけが原因だったらどれだけよかったか





「せめて、もう一人二人は声をかけておきたい…」





だとしても相手は選ばなくっちゃ





一番向いてそうなのはやっぱり椿だろうけど


ブラック☆スターとアンジェラとポッド二人で
すでに手一杯だろうから声かけづらい







っと、あの見覚えのある横顔は





「やあ 今日は一人かい?めめちゃん」





ちょっと駆け足で床をけって追いつけば、振り返った彼女は
ほんわかとした笑顔で迎えてくれた





先輩!」


「あ、やっと僕の名前間違えなくなったんだ」


「んもぅイジワル言わないで下さいよ〜」


「ああゴメン そんなつもりは」





苦笑いしつつ頭を下げれば、ぷぅっとほっぺをふくらませていた
めめちゃんはすぐに機嫌を直してくれた





「気にしないでください 影が薄くて覚えづらかったけど
ちゃんと先輩の名前と顔、分かるようになりましたから!」


「そ…そりゃよかった…」


うん、とてもいい笑顔になってくれたのは何よりだ


思わぬカウンター返しが来たのは予定外で
少し心に刺さったけど





「はい!ご迷惑おかけしました…ああ、そう言えば
クレイさんが呼んでましたよ〜」


本当?どこにいるって?」


「えっと…対策本部の部屋といつものカフェのどっちかだと
思うんですけど、どっちでしたっけ?」


「いや僕に聞かれても…」





申し訳なさそうな顔をしながらもめめちゃんは一生懸命思い出そう
こめかみを両手の指で押さえて考え込んでたけど





「ゴメンなさい、多分どっちかにいると思います〜」


きっかり3秒であきらめたらしい





「どっちかにって…そんなアバウトな」


「さっきまで一緒にいた蒼ちゃんだったら
きっと覚えてると思うので、見かけたら聞いてみてください」


「…ああ、星野さんね」


"黒髪ロングで目がキラキラしたNOT生"って聞いてるけど


不思議と顔を合わせたコト、まだないんだよね…





「わかった ありがと」





いつ別れたのかは知らないけど 多分そんなに時間は
経ってないだろうと思いつつ一歩踏み出して





、と 上げられた声に足を止める





「そう言えば先輩、私に何か用があったんじゃ?」


おっと!そうだったそうだった」


うっかり忘れるトコだったー危ない危ない












tu per decidere una destinazione
"雨にも負けずガンバりまSHOW!"〜












話を終えて彼女と別れた後、他の人に聞いて
"カフェに行くのを見かけた"と教えてもらえたので


無事にクレイ君に会うコトができた





「ゴメン!待った?」


「平気ですよ、オレもついさっき来たんで」





のんびりコーヒーなんか飲んでるトコを見る感じじゃ
要件は、急ぎのモノじゃなさそうだ


ホッと一息つきつつ肝心の要件を聞けば


ある国の情勢を聞くために、比較的安全な近隣の土地で
調査班が行う活動のサポートだった





「色々と立て続けで申し訳ないっすね」


「構わないよ、お仕事だし」





そう、仕事がまわしてもらえるってのはそれだけ僕のコトを
信用してもらえてるって証だ


例え役に立ってるのが"影の薄さ"だとしても まぁ悪い気は


ホント助かりますよ先輩目立たないから
情報収集とか安心して任せられるんすよねー」





向けられたほがらかな笑顔に 悪意は全くない







…いや気にしてないけどさ 別に気にはしてないけど

何となく彼に"あの仕事"をすすめたくなったので





「…ねぇクレイ君」


「なんですか?」


うまそうにコーヒーをすすっていたクレイ君が
こっちへ視線を向けたのを見て





「稼ぎのいいバイトに興味ってある?」





僕は声を潜めつつ、かけたテーブルからちょっと身を乗り出す





「ええ、まあそこそこには…やっぱ先立つモンがあって
困るコトなんて少ないですし」


「そりゃちょうどいい」





始めはとまどったように耳を傾けていた彼が





めめちゃんから色よい返事をもらったコトと


作業そのものは難しくもなく 色々と融通が利くと

メリットとデメリットをきちんと答えるうちに乗り気になって





「時間も1〜2時間とかザラだし、終わったら報告だけして
直帰するコトも出来ちゃうから楽だよ?」


「それなら…試しにやってみようかな


前のめりでそう呟いたのを聞いた瞬間

思わずガッツポーズしそうになった


…流石に テーブルの下で拳を握るだけに留めたけど









そうして予定していた日に、誘った二人を

ベビーシッターサービスの事務所まで連れて行ってあげた





「ウチは養成所で勉強した人を中心に営業してるけど
小回りが利くから、バイトの子も時々雇ってるの」


「そうなんですか〜本格的なんですね」


むずかしく考えるコトはないわよ?けどお仕事を
引き受けた以上は預かった子から目を離さないでいてあげてね」


「遊んでる子が悪いコトをしたら どうやって止めればいいですか?」


「やりすぎない範囲で叱ってあげなさい?
ゲンコツぐらいは許可するわ」


「ぶっちゃけましたね…いいんすか?それって」


「他人(ひと)の子であっても、ダメなコトはダメって教えてあげなきゃ
その子の為にならないからね」






チーフから送られた視線を受けて、笑って返す


今までその辺はテキトーにやんわり流してただけに

その言葉も 元気よく返事をする二人の声も耳に痛い







説明を受けるめめちゃんとクレイ君を残し


現場へたどり着いた時には、もう雨が降り出していた





「それじゃあ帰るまでの間 この子たちをお願いしますね」


「お任せください、それではお気をつけて」


「「いってらっしゃーいママー」」





笑顔を作りながら親を送り出し、内心でため息





よりによってこのやんちゃ二人組のお守りとは…

あの子に当たるよりはずっとマシだけど





「よーし、それじゃ何してあそ
「「カリスマジャスティスごっこ!」」…OK」





元気のいい子は嫌いじゃない





でも、雨で遊ぶスペースが限定されている場合


経験則から言ってこっちの被害が大きいのが困りモノ





でたなー怪人ツナギ星人!このカリスマジャスティスの
セイギのこーげきをくらえコノヤロー!」


「フハハこしゃくなヤツめーかかってこい!」





大げさにポーズをとって、飛びかかる男の子のクロスチョップを
受けとめようとしたトコロで


「うぶあぁっ!?」





もう一人が頭めがけてドロップキック、なんてのはしょっちゅう





「ユダンしたなーツナギ星人!
オレこそが真のカリスマジャスティスだー!」



あー兄ちゃんずるーい!
今日はボクがカリスマジャスティスやるっていったじゃん!」


「うっせー先にたおしたモン勝ちだもん!くたばれツナギ星人!


「ほらケンカしない二人とイダッ、ちょっスネけらなっ
あだだだだかみつくの禁止だっていっ でっ!


間に入ってやんわり仲裁するけど効き目はナシ





こんな風にルール無用のごっこ遊びでどつき回されるのは
もう慣れたモンだけど


…初経験の二人は、大丈夫かなぁ





ぼんやりと考えていたトコロで しつこく攻撃してくる小さな拳が

加減もクソもなく股間へと伸びかけたのを見て取って





「いいかげんにっ…しろっ!!」


はじめて握った拳を 兄弟の頭へ叩きこんだのだった











二人組を反省させたその後はいたって何事もなく

雨が上がる頃合いで仕事も終わり





似たような天候の後日、廊下ですれ違っためめちゃんは





「すこーし大人しい感じの子でしたけど
がんばってたくさんお話してるうちに仲良くなれました♪」


「そっか、それなら何よりだよ」


いつも通りのニコニコ顔でこう答えてくれた







けれどもクレイ君はそうでもなかったようで







「…先輩」


「なにかな?」





ソウルとリズとキリクの音楽談義に耳を傾けていた最中


どんよりと、恨みまじりの表情で詰め寄られた





「このバイト、預かってる子供の遊び相手を
付き合ってあげるだけだって言ってたっすよね?」


「言ったよ?ウソじゃないじゃない」


「でもだまされた気分っす」





そりゃもちろん、だまってましたから





何事も経験って言うだろ?」


「オレから言わせてもらえれば、これは間違いなく
しなくてもいい経験だと思うんですが」


「おいおい、何の話だよ?」


「バイトの話さ 気にしなくていいよ」


ふーん、とキリクとリズは興味無さそうな返事を寄越したけど





ソウルだけは察しがついたのか 核心を突いた言葉を口にする





お前、女装仲間をまた一人増やしたのかよ」





その場で話を聞いてた四人全員が、寸分の狂いもなく吹いた





「「女装!?」」


「してない!てゆうか女装されられたの!?」


「誤解されるような言い方やめてよソウル!!」


ウソは言ってねぇだろ」





顔は呆れてたけれど、口元が笑っている


内心歯噛みしながらも"どういうコトだ"と言いたげな
三人へ簡単に事情を説明した





「ベビーシッターのバイトで、常連客の子がいるんだけど―」







その子は物静かで利発なかわいらしい少女で

生まれつき身体が弱いのか 家にこもりがちな一人っ子


年相応にかわいいモノや人形遊びが大好きで


だからか彼女の面倒を見るベビーシッターは





必ずと言っていいほど…エンリョのないふりっふりのフリルと
リボンとレースに侵食される羽目になる


下手をすれば"ママのドレス"を着させられる 性別問わず








とまあ、そーいった経緯で女装せざるを得なかったと告げれば


彼らの眼差しは生あたたかくなった





「なんつーかエラい目にあったな…もソウルも」


「特にソウルは似合っちゃいそうだしな、女装」


僕とクレイ君以外の三人は 何とも言えない顔をした





…そういや、あの本の中でソウルって結構かわいい子にn


「まー金に釣られてノリノリで女装させられた
変態の地味野郎とは元のデキが違うモンでな」


「女装(アノ)程度でぐちぐち言うなよエセ不良少年
ついてるオネェさんに目ぇつけられるより数倍マシだろ?」





悪かったとは思うけど、コトあるごとにチクチクと細かいヤツめ





お?穏やかじゃねーなお前ら」





何かを期待するような周りの視線に


僕らは 同じタイミングで息を吐いて否定する





「こんなくだらねぇコトでケンカなんかするかよ」


「だな、1セントも得しないもん」





ソウルと殴り合いのケンカをした覚えはないけど


授業で組手をするコトぐらいはあったから、殴り合いだけなら
多分きっと互角…だとは思う


勝ち目があるか分かんないしムダに痛いのはイヤだから

殴り合う気なんてないけれども





「しっかしガキの扱いに慣れてるを女装させるとか
相当だなーそのガキんちょ」


天然タラシのコイツでもガキは範囲外なんだろ?」


「え」





何ですか その予想だにしない単語は





どうしてみんな、ニヤニヤしながらこっち見てんだオイ





「自覚ないんすか先輩、アーニャやエターナルフェザーと
あれだけ仲良くやっといて」



は?いやアレは単に成り行きで…」


「しかも年食ったらイケてる中年になるしな、マスター似の」


「「マジか!」」


似てない似てない!ヒゲだけじゃんそれ!!」


「あん時の口説き文句はサマになってたよな?
妖精のようにカレンな少女たち、だの健気なお嬢さんだの」


やめて!思い出すだけで顔から火が出そうだ!!」


そのニヤニヤ止めろお前ら、殴るぞいい加減!


いや殴るならあの時の僕を真っ先に殴るべきか?







「出させてあげようか?」





後ろから聞こえた声と、肩をつかむその手はさほど強くなかった


にも関わらず僕はそれに恐怖を感じながら振り返る





予想通り…不自然なほどニッコリしてるジャッキーを見て
自分の顔が青ざめていくのが分かる





「じゃ、ジャクリーン…聞いてたの?」


「途中からちょっとね、で 今の話はどこまで本当なの?
正直に答えないとウェルダンになるわよ顔面」


うわぁお、空いた片腕がもう武器化されてて準備万端だ





「待って それ答えたらどーなるのかなー」


ミディアムレアぐらいには加減してあげるわ」


「焼くのは決定事項!?」





ヤバい 彼女はマジだ





ソウル達も巻き添えくらわないようにさっさと距離取ったし
これもう焼死コースかなー


ああ、どうせなら最後にピッツァ・マルゲリータが食べたかった…







早々と人生をあきらめかけていた僕へ





落ち着けよジャクリーン先輩だって何か事情が
あったかもしれないだろ?まずは話を聞こうぜ」


救いの言葉を差し伸べてくれたのは クレイ君だった





「あんな軽薄な言葉を私やキムに吐き出す事情って何よ」





つんけんした態度にも 負けずに彼は言葉を続ける





「そりゃーまあ混乱してた、とか?」


「ああ、ならありそうだな」





半分正解だけど ヒデェよキリク





「何にせよ燃やす燃やさないは詳しい話を聞いてからでも
遅くはないんじゃねーか?」


「…そうね」





おおう 見る見るうちに彼女の怒りが収まってく





不安要素は残ったけれど、クレイ君の説得のおかげで
生き残るチャンスが出て来た





武器化を解いたジャッキーの肩越しにウィンクするクレイ君に

今度お礼とお詫びをしなきゃ、と思いつつ


僕は弁解のための言葉を考え始める








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ホントは五月に書くはずだったんだけれど
五月病に負けました


めめ:毎度ながら思い切った暴露ですねぇ


クレイ:筆が遅いのはいつもの事のような…にしても
これって本編じゃどの辺りの話n


狐狗狸:魔法の言葉"ご想像にお任せ"


クレイ:…あっそ


リズ:ガキの面倒なんてよく引き受けたな

ソウル:そん時 ちょうど欲しい新盤があってな
稼ぎは確かに悪くなかったんだよ…


キリク:まーその、ドンマイ




ラストの展開が┌(┌ ^o^)┐になりかけてるけれども
方向性は友情です いいね?


様 読んでいただきありがとうございました!