さて、次は誰の番だっけ?





「よーし!9出ろ9っ!!」


強く意気込みマカが握っていたダイスを転がす


二つの6面が回転しながらテーブルとボードの上に
落っこちて…3と6を指し示した





満面の笑みを浮かべて マカはカードを受け取り


それを交換してボードの上に道を一つ作る





やった!ロンゲストロード一番乗りっ」


ぐぁーやられた!まずいぞ
このままじゃオレらドベだぜ」


「まだ勝ち目はあるって」


そう言って僕は、頭を抱えるキリクから
手札の素材カードを受け取る





うーん…建物を作るにしてもチャンスカードを
引くにしても交換するにしても半端だ


ダイスを転がして、レンガを1枚もらう





「キリク、道がひとつ作れそうだけど作る?」


「んー…じゃ一応伸ばしとくか」





出来るコトがないのでターンをキッドのペアに





「誰か鉄3つと木1を交換しないか?」


「木だったら僕持ってるよ」


「木かぁ…羊だったらあるんですがね」





カードの交換に応じるかどうかも戦略の一つ


見た感じ、キッドの手札は7枚

交換して道か家でも建てるのかもしれない


オックスとハーバーも交換に応じるかどうかで悩んで





「頼む、木が1つあればオレの手持ちのカードが
ちょうど左右対称になるんだ!」


「「「そーいうゲームじゃねぇよ」」」


キリクとソウルとリズ、的確な指摘をありがとう







無事に キッドの救出も成し遂げて


スパルトイとして本格的な活動も始まったのもあり
メンバーで話し合う機会も多くなった





きっかけは、そんな数日前のコト





「今度、結束を深める意味も含めて
ボードゲームで遊んでみませんか?」





頭を使う遊びは 今後の活動や訓練にも役に立つ


と博士からそんなアドバイスを受けたらしい
オックスの提案にみんなも乗り気で





きゃはは!楽しそう!!」


「ふふん、オレ様が一番になってやるぜ!」





訓練や活動の合間 何人かで集まったら
遊ぶという約束をもうけた












〜E un evento immaginario
"遊んでわかる、新たな一面"〜












大体集まったメンバーで持ち寄ったゲームを遊び

用事や当人の気分によって 各自解散する流れで終わる





真面目な人達はその点に不満があるみたいだけど


こうやって、皆で真剣に遊ぶのも
なんだかんだでもう4回目だ





ボードと手札と、お互いを伺う僕ら8人の隣では





「よーし今度はゴリラも作るぞ〜!」


「アンも作るー!」


「はいどーぞ そこの折り目はこうやって
ふくらましてこう…そう、上手よ♪」





お子様組とアンに混じって ゲームに飽きたパティが
椿の折り紙講座に参加している





「次回はアイツらもくわえてトランプにする?」


「その方がいいかも、じっとしてるのとか苦手みたいだし」


「そだねーブラック☆スターもトランプだったら
もうちょっと長く遊べるかも」





なんて言いつつ転がしたダイスを見た

…あ、7だ!


げっ 7が出やがった…!」


「ふふん、よーやく邪魔な盗賊が退けられるよ
てことでそっちの陣地にお返しだ♪」


「よくやった!」


ぐあー!テメェ覚えてろよ?」





居座ってる黒いコマを移し、リズが悔しげに
手札を半分捨てたトコロで







「何をなさっているのですか?」





梓先生が僕らのいるテーブルまで近づいてきた





「8人で交代しながら"カタン"をやっています」


「カタン?」


「結構面白いですよ〜」







ソウルが持ってきてくれたボードゲームで


自分の"家"を置いた盤面の土地に書かれた数字と
ダイスで出した出目が同じなら素材がもらえて


5種類の素材カードを元に建物や道を作ったり


チャンスカードという切り札が引ける





「それらを元に、基本は自分の陣地を広げて
ポイントを先に取るゲームっス」





最大人数が4人だから 2人とか3人でチーム分けをして
交代しながら遊んでいる、と


僕らは口々に梓先生へ説明する





「港っていう場所に建物があれば、書かれている
倍率で素材の交換も出来るんですよ」


説明の合間に、オックスペアの家がになった


うーん…やっぱり頭を使うゲームだと
雷王コンビは強敵だ





「他にも色々とルールがあって面白いですよ」


「賭けるもんがあればもっと盛り上がるけどな」


「それやってこないだキムに
総取りされたのは、どこの誰だったっけ?」


「賭け?まさか学生の身で金銭を賭けては」


「うお!いやそんな怖い顔しないでくださいよ〜」


「ジュースおごるとかその程度っスよ〜なっ





メガネ越しの鋭い視線をさけながら
同意を求める不良コンビからの圧力


苦笑いしながら、首をタテに振る





…実はキムが参加していた時にそうなりかけたけど


僕とマカとオックスとキッドの4人がかりで
説得したおかげで


現金を賭けるのだけは どうにか回避している





「梓先生はこういった遊びのご経験は?」


「数えるほどです」


「そうなんですか?パパやマリー先生あたりなら
よく誘ってきそうなのに」


「勝負事はあまり好きではありませんので」


メガネを片手で持ち上げながらのセリフは
いかにも梓先生らしい









決着は、さほど時間もかからずについた





「建物とラージェストアーミーで8ポイント
残りはカードの2ポイントで10ポイント達成です!」


「あと1枚小麦があればニ連勝だったのに」





今回はあと一歩のトコロでオックスペアに
マカペアが勝ちを譲る形となり


僕らは3番目、というほどほどの成績で落ち着いた





「戦略だけでなく貿易や交渉術も楽しみながら
学べるとは、中々に合理的な遊びですね」


でしょ?梓お姉もやってみる?」





誘うリズに、マカが待ったをかけた





「別のゲームにしない?出来ればもうちょっと
多い人数で遊べるヤツがいいな〜」


「だな、楽しいけど三連続はちっと飽きるし」


「その点に関してはオレも同意だ
何よりこの盤面を眺めているとどうにも落ち着かん


「それはお前だけだろ」


「じゃあ、これとかどうかな?」





フリマで見つけたゲームの箱をテーブルに置けば


皆の視線が、一斉に箱へ集まる


クルード?何これ、どんなゲーム?」


「平たく言えば犯人当てゲームですよ」


「洋館で殺人が起きるけど
誰が・どこで・何を使って殺したかは分からない」


「なるほど…それを推理するのが目的か」







割と有名だって言う商売文句と箱の説明


それと頭も使えて分かりやすいルールが
面白そうで、ちょっと前から気にはなっていた





昔だったら、場所取るだけだし

そこそこ値が張るから絶対買わなかったけど





「なになに?部屋まで移動すれば推理が出来るのか」


これが凶器か!へ〜結構こってるモンだ」


「真ん中がプールで 隠し通路まであるって
おもしれー間取りしてんなこの屋敷」


こうやって食いついてる友達の反応が
見れるだけでも 買った価値はある…気がする





入っていた説明書へ目を通してると


いつの間にか梓先生が間近にいた





「犯人確定はプールで行い、推理が間違っていた場合
そのプレイヤーは失格となりゲームから脱落」


「あの…梓先生、顔が近いんですけど」


「し、失礼しました





あわてて身を引いた先生は、何かを思い出し


やたらとクオリティの高いキリンとゴリラを
戦わせて盛り上がるパティへ話しかける





び、ビックリしたなーもう





「もーちょいで頭ぶつかりそうになってたな」


「黙ってりゃ面白かったのに、さすが
安定のヘタレっぷり」






ニヤニヤする不良トリオへにらみ返しながら


やたら熱心に説明書見てた
さっきの先生の様子を思い返していると





同じコトを考えてたのか、ハーバーが言った





「さっきも彼女、オレ達の遊んでいるゲームの
ボードを興味深そうに見つめていたぞ」


「…やっぱり?」





その直後、パティがリズの側へ駆け寄ってくる





お姉ちゃん!射撃訓練で死人先生が
相談したいコトがあるんだって〜」


「マジで?何だろ…悪り、私抜けるわ」


「気にすんなって!」







姉妹を見送り 僕らは互いにアイコンタクトを取る


そうしてキッドが、代表して梓先生へ訪ねた





「梓先生、何かこの後予定は?


「いえ…実は連絡も兼ねて少し休憩するよう
死神様から言われまして」





眉根を寄せた、なんとなく居心地が悪そうな顔に

ニヤッと笑ってキリクが立ち上がる





オレも身体動かしに行ってくっかな?
先行ったブラ☆スターも退屈してるだろーし」


「「「行ってらっしゃ〜い」」」





それをきっかけに僕らは行動を開始した





「先生もゲームに参加しませんか?」


「え?あ、私はその…」


「ちょうど参加できる人数も6人ですし、誰か1人が
ゲームマスターになればバランスも取れます」


「たまにはお仕事の合間に息抜きしましょーよ♪」





真面目トリオを中心にグイグイ押されて

彼女が椿さんの方へ視線で助けを求めていたけど





「この子達に折り紙を教える約束しちゃいましたから」





残念ながら 助け舟は期待できませんよ?









強まった結束によるチームワーク
存分に発揮された結果


無事に 先生を加えた6人でのゲームが始まった





片付けたテーブルにボードをしいて
封筒に人物・場所・凶器のカードを1枚ずつしまい


みんなにシートとカードを配ってスタート





「君が持ってきたゲームなのに、先にプレイして
しまうなんて何だか悪いね」


「気にしないでよオックス
次は誰かに代わってもらうし」





コイントスの結果とはいえ


ゲームの様子を眺める立場ってのも たまになら悪くない





「5か…犯人はマカ、じゃなかったホワイトで
凶器は毒、場所はガレージ」


「じゃ私のコマはガレージに移動ね」


「毒のボトルは、これかな?」


「ええと…私の手札に
キッドの宣言したカードはありませんね」


「次オレか、あったぜ?ホレ





カードの持ち主が宣言した相手へカードを提示し


情報と手札を元に、推理と質問を繰り返しながら

シートを埋める皆と一緒に 僕も犯人を考える


場所を絞りこむのは手札がないからお手上げだけど
凶器はロープレンチのどっちかかな?


カンだけど 犯人はきっと…





くすぐったい感触が強まって、袖が引っ張られる





「チャイロー!これで刀作って!
ミフネにあげたいから」



目線を下げればアンジェラに折り紙を差し出された





反対側には 同じように折り紙を僕に差し出す
サンダーとファイアーもいる





「ゴメンね 邪魔しちゃったかしら?」


いいよ、ゲーム参加してないから手ぇ開いてるし」





苦笑してる椿に笑いかけて、指先をハサミに変え


承ったお子様3人のリクエストに答えて
折り紙を切り裂いて変形させ


出来た"作品"を小さな手にそれぞれ渡す





「ありがとー!」





はしゃぐ3人が椿の元に戻っていく


作ったモノを笑顔で受け取ってもらえるのは
イイもんだ…うん?


視線を感じて振り返れば 梓先生と目が合った





「あの、どうかしました?」


「いえ…見事な腕前だと思いまして」


「そいつ手先は器用っすから、てか次 先生の番


「そうでしたね ではこのままスパで推理」


「先生、同じ場所で二度推理は出来ませんよ?」





まだルールに慣れてなくてとまどってる
珍しい先生の姿を、僕も面白がっていたけど





…それは 最初のうちだけだった







「は、犯人はマスタードで凶器はロウソク立て!
犯行現場はダイニングルームです!


「アレ?先生はキッチンに呼び出されたんじゃ」


「なら場所をキッチンに変えます!」





流れを覚えて、段々と推理に熱中する僕らの中で


一番真剣な顔をして手札とシート そしてボードを
穴が開くほどにらみ付け





"千里眼"でズルしてないですよね?」


なんて失言したソウルに射殺すような眼光
浴びせる梓先生の気迫は半端なく





2回目で右隣にいた僕は戦々恐々としてた





「やった!犯人当たった〜私の勝ち


「くっ…もう一度お願いします!」


「い、意外と負けず嫌いなんですね先生」





彼女をゲームに誘ったコトを僕らがほんの少しだけ
後悔したのは 本人には秘密だ









「私とした事がつい熱くなりました…」





3回目のプレイが終わり、他のメンバーが
各々の用事で解散した後


すっかり冷静さを取り戻した梓先生が呟く





「いやまあ楽しんでもらえたなら、ゲームを
持ってきた僕としてもうれしいですから」


「横で見てた私も 皆の楽しそうな様子が
伝わって来ましたし、次は参加しようかしら?」


「ならキリクにも声かけなきゃね
ルールも覚えたし、次こそは勝つんだ」





笑いかける椿に答えながら、僕らも紙を折る





「すごーい!」


テーブルの上の、ピシっとした先生の"ツル"
アンジェラとポット2人の目が輝く





「上手いですね先生」


「これぐらいでしたら誰でも作れます」


「マネて折ってみたけど、僕の作った"ツル"は
先生のほどキレイじゃないですよ?」


「アンのもぐちゃぐちゃ〜」





椿のもキレイだけど 先生のと比べると
ちょっとだけイビツに見えてしまう





「…よければ、教えましょうか?」





やわらかい微笑みで訪ねる梓先生へ


僕らはニッコリと笑い返して答え





テーブルに、いくつものツルが並んでいった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:本来クルードはGMいらないゲームですが
カードを預かったり 皆に配ったり
ルールで指摘などのサポート役、という事でひとつ


キリク:面白そうだけどルール見る限り
これブラ☆スターには一番向いてないゲームだな


キッド:もしあの場に残っていたなら
おそらくは技でもかけられていただろう


梓:ブラック☆スターもいたのですか?


ソウル:最初は参加してたけど、交代に退屈して
カタン1回目終わった辺りで出てったな


椿:もう少しガマンを覚えさせるべきかしら


アン:ツンツンも折り紙すればよかったのにね〜


オックス:しかし梓先生の真剣さはスゴかったよ
移動のダイス目だけは恵まれなかったけど


マカ:もしあそこで6が出てなかったら
勝ってたの梓先生だったかもね


リズ:梓お姉もダイス目にはかなわないのか


ハーバー:それはどのゲームでも、誰にでも
言える事じゃあないのか?




サンダーとファイアーの切り絵リクエスト
椿の協力&ジェスチャーで推測しました


様 読んでいただきありがとうございました!