あちこちでカボチャをメインにしたお化けの飾りが
おどっているのが 目に楽しい


元々ハロウィンだからってのもあるけど


死武祭もあってか、観光客も多くて

街はいつもよりもぐっと活気にあふれてる





そう…さっきまでは私も


周りにいる人達と同じように


キムと一緒にニコニコしながら、あちこちの
お店を見て回ってたのに





「はぁ…」





どこいったんだろう?キム





逸れるなんて、うかつだった


人通りに気を配ってはいるけども


魔女の仮装が多くって紛らわしいったらありゃしない





出来立てデスパンプキンパイにクッキー
その他いろいろなお菓子はいかがですか〜」


「血の滴るようなデスホットドックもおススメだよ〜」


「今ならこのアクセサリー安くしとくよ?
どうだい、デスベガスに来た記念に!」








…にしても 本当に人が多いわ





さっきマスターのお店にも寄ってみたけど
かなり繁盛してたみたいで 忙しそうだった


ハロウィンフェアの真っ最中だったので
あまり長居せずにその場を立ち去ったけれども


キムがいれば、一緒にコーヒー飲みながら
おしゃべり出来たのに





ため息をつきつつ こっちに近づいて来た
移動販売の屋台を通り抜けようとして





「「あ」」





ドラキュラっぽい恰好してると目が合った












〜Colore di diavolo del disagio
"これもひとつのお祭りマジック"〜












「…アンタ何やってんのよ」


「見てわかるだろ?バイトだよ」





おなじみな顔つきカボチャやお化けなどで
デコレーションされている台の上には

所狭しと山盛りのお菓子が並んでいる


それでも一際目につく…いや、つきすぎるのは


すごく怪しげで真っ赤なドクロ型の物体
いくつも詰まった、コウモリ模様の袋





「このブラッディーデスキャンディーって
ヤケにたくさんあるけど、売れるの?コレ」


「新商品らしいけどサッパリ」





説明文を見てみたら





"この中の一つに激辛なキャンディーが!
皆で食べて レッツ・デスルーレット!!"



ってこれまた真っ赤な文字で書かれてた





「これ、そんなに辛いの?」


みたいだよ?味については死んでるから
聞かないでくれると助かる」





つぐみ達やソウルとかに持っていったら
案外盛り上がるかもしれない


買うのと食べるのに、勇気はいりそうだけど





「それより、ジャクリーン一人?」





聞かれて 私はキャンディーから目を離す





「ええ、それがどうかした?」


「いや珍しいなって思ってさ
いつもはキムにべったりだから」


「…ついさっきまでは一緒だったのよ」





人ごみにのまれて、気付いたら
お揃いのカワイイ魔女っ子が消えてたって言ったら


地味吸血鬼が私へ顔を向けたまま

鳶色の瞳を、確かめるように上下させた





「へぇ〜ペアルックなんだその仮装
君が作ったの?二人分」


「だとしたら何よ」


「いや、手作りでそんなカワイイの作れるなんて
意外と器用なんだなーって」


被ってたとんがり帽子を少しだけ下げた





だ、ダサいくせに変なトコで不意打ちしないでよ


何気ない笑顔で言われたから

ちょっと ドキっとしたじゃない





「まあ…かゆみもないし
キムはこの近くにはいないと思うよ」


「かゆみ?」


こっちの話、早めに合流できるといいね」


「…ありがとう」





の波長は特殊で、近くにいる魔女魔法の存在を感じ取れる





今日はやたらと人も多いし


マカやオックス達は、死武祭でのバトル大会とか
用事で手が離せないようだったから


コイツに手伝ってもらえれば
キムと早く合流できる、それは間違いない





間違いない、んだけど…







ん?ど、どうかした?」


「別に」





何でか戸惑ってるドラキュラ男へ首を振る





出来れば極力 コイツの力は借りたくない





バイト中なのと、キムに対して
苦手意識みたいなのを持ってるっぽいから


あまり積極的な協力は期待できない


ついでに波長のせいでが側にいたら

キムは耳鳴りがして、イライラしっぱなしになるから
ハロウィンが楽しめなくなっちゃう


…あと、キムを先に見つけられたくない





ただでさえ渾身の魔女コスチュームな
キムに近寄る男が(オックス含め)多いのに


こんな地味ドラキュラ男にさっきみたいな

さ、さっきみたいなセリフを…







ジャクリーン、顔赤いけど大丈夫!?風邪?」


「きっ気にしないで!じゃ私行くから!!」


「ああうん、気をつけて」





慌ててその場を立ち去ったけど


絶対、さっき顔赤かったのバレてる…





こんなコトならナイグス先生みたいな
ミイラの仮装にしとけばよかったかも…











それから、しばらくして無事にキムと合流した


逸れてからお互い探し回ってたから
結果として 微妙にすれ違っていたみたい


何にせよ合流出来てよかった





そこまでは よかったのに…





「バイトの応援って、今から?」


「一人休みが出たみたいで、バイト代弾むから
どーしてもって言われちゃって…ゴメン!





別行動してる時にマスターから頼まれたらしく


ならせめて私も、とお願いに行ったけど


バイトは一人で間に合ってるって言われて
やんわりと断られてしまった





「ゴメンね、今度埋め合わせに
二人で美味しいケーキのお店に行こうね」



うるうるした目で申し訳なさそうに謝るキムに
私が勝てるわけがなく





「分かった…お仕事ガンバってね」





仕方なく、本当に仕方なく


笑ってキムを見送ったのだけれども







期待をへし折られたガッカリ感はぬぐえない





「張り切って衣装作ったのに…」





近頃 色々バタバタしてたから


久々に二人っきりで、遊び回る予定だったのに





はぁ…







あれ?そんなトコで何してるの?」





振り返ると、道端に同化しそうな屋台から
ドラキュラの顔が覗いてた





とっさに表情を引き締めるけど


もしかしてさっきの、聞かれてたかしら





「いつからいたのよ」


「ちょっと前に来たばっか、てゆうか
さっきキムがいただろ?会えてよかったね」


「そうね、おかげさまで
さっきまで一緒だったわ」


「…何かあったの?」





が心配そうに問いかけてくる


相手に悪気はないのは分かってるけど

わざわざ答える気になれなくて





黙ったままでいると


近づいて来た

すっと、ひとつのマフィンを差し出してきた





「食べる?」


「え、いいの?」


「あまりモノで悪いけど」





受け取った包み紙から、ほんのりとした
あったかさが伝わってくる





ふっくらとしたマフィンに噛みつくと


サクッとした歯ごたえと、練りこんである
カボチャの甘みが口の中に広がってきた


…あ、おいしい





「ねぇ、これキムの分ももらっていい?」


「構わないけど、そっちはお金払ってね」


「死んだわ」


「…いいよ、今回は僕がおごる
今包むから待ってて」





冗談のつもりだったのに、ちょっぴり
悪いコトしちゃったかな?


ま、ハロウィンってコトで大目に見てもらおう







さっきと変わらず目立つキャンディーを眺めつつ

テキパキと動く吸血鬼へ訊ねる





「ひょっとして前の死武祭でもバイトしてたの?」


稼ぎ時だから、この時期は」





引っ張られた金色のリボンが


ハサミに変化した二つの指先でチョキンと
適度な長さに切られる





「それでなくてもバイトしてるクセに」


生活かかってんだよ、それにどーせ
僕が参加できたトコロで賭ける人いないだろうからいいのさ」


「そうねーと組んだ奴に賭けるなら
キムと優勝目指した方がよっぽど確率高いかも」



「ハハハ…人に言われると傷つくなぁ」


なんて苦笑いしてる合間も手は休まず動いていて





カボチャマークのプリントの袋に


まるで大きな花びらみたいな結び方した
金色リボンのラッピングが出来上がってゆく





「はいどーぞ」


「あ、ありがとう…無駄に器用ね」


「そうでもないよ、慣れてるだけ」





マフィンの入った袋を受け取った直後





「このキャンディーはおいくらです…
あら!ジャクリーン先輩、ごきげんよう」





キャンディーの値段を店員に訊ねる
勇気ある挑戦者 もとい後輩が


「アーニャ、これ本当に買うの?」


「もちろんですわ!そのためにガンバって
お店を探してましたもの!」






一体誰から聞いたのかしら


てか、こんな怪しげなキャンディーを
探すために歩き回るなんて





「ご苦労様、そこまでして
買いに来てくれたって聞いたら店長喜ぶよ」





いいタイミングでそう言ったを見て


ワンテンポ遅れて、アーニャが
何かに気がついたように声を上げる





まぁ!地味でみすぼらしいドラキュラだと
思ったら先輩でしたのね」


「うん…そうだよ僕だよ」


わ、ワザとじゃないにしてもカワイソー


気にせずキャンディーを何袋か買うらしい
アーニャに は乾いた笑いで対応してる





「ちなみにこれ、どれぐらい辛いのですか?」


「食べてみてのお楽しみってコトで」


「でしたら辛くない普通のキャンディーは
どんな味がするのですか?」


「た、食べればわかるんじゃない?」





あれ?何だか様子がおかしい


キャンディーの方を見ようとしてない


食べたコトない、みたいな言い方してたのに
ひょっとして…?







アーニャもそれに気づいたのか


それとも反応が面白いからか、ニヤッと
イタズラっぽい笑みを浮かべると


買ったばかりのキャンディーを一つ取り出して

の顔へと突き付ける





「ではお一つ差し上げますから
試しにこの場で食べてみてはいかが?


「アーニャちゃん、気持ちはありがたいんだけど
それ君が買ったものだろう?」





あ、イヤそうな顔してる


やっぱり食べたコトがあるんじゃないの?


それよりもアーニャ"ちゃん"って…

なーんか馴れ馴れしいわね





「いいじゃない、今日はハロウィンなんだから
お菓子をもらったって怒られやしないでしょ?」


「あーいやそのー…ほら僕バイト中だし
それに賭けゴトって苦手なんだよね」





追い打ちをかけると、吸血鬼は面白いくらい
目を白黒させてワタワタしてる





こんなあからさまに困ってるのを見ちゃったら


カンベンするのは…ねぇ?


隣に並んだ後輩と 小さく笑って目を合わせ








先輩」





受け取った赤いキャンディーを
ずいっと鼻先に突き付けて、言ってやった





「「TRICK OR TREAT?」」





あとでキムに持って行ってあげるお土産
また一つ 増えたみたい








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:リクエストを頂いたので遅ればせながら
ジャッキー主体で書いてみました


キム:わ、私だって
一緒にハロウィン楽しみたかったのにー!



狐狗狸:えー…この話の後、ジャッキーは
マスターの店に顔出しに行きました


アーニャ:キム先輩の魔女ルックは
私も見てみたかったですわ


ジャッキー:前のも似合ってたけど
今回のは本当に自信作だったんだから!


キム:ジャッキーだって似合ってたよ…
けど、よくあんなキャンディー買う気になったわね


アーニャ:面白いキャンディーがあると
エターナルフェザー先輩からお聞きしましたから


ジャッキー:キャンディーの味自体は
思ったより悪くはなくてビックリしたけどね


狐狗狸:どんな味かは秘密です(激辛含め)




前のハロウィンネタとは違った趣向で
堅物な彼女との一時を…楽しんで頂けたなら幸い


様 読んでいただきありがとうございました!