長いような短いような逃亡と追跡の日々を経て


私とシュタインは、ようやくデス・シティーへと帰ってきた





死神様やマカ達からも いなかった間に
起きた一件を色々と聞いて


アラクノフォビアの壊滅


謎の魔導師による、キッドの誘拐を知った





「こちらでも調査を続けるが…何か手がかりが
掴めたなら、連絡頼む」


「絶対キッドを助け出してあげないとね!」


ええ わかっています』





主な情報収集は梓が担当し


ジャスティンの逃亡先と、さらわれたキッドの行方を
捜す事も優先事項として組み込まれたけれど





私達の仕事は 以前変わりなく


若手精鋭部隊「スパルトイ」の訓練であっても
死武専生の授業であっても


教師として、生徒を導き護るコト







これからは私がしっかりしてかなきゃ!

気合を入れなおしたのはいいんだけど





久方ぶりに帰ってきたツギハギ研究所が


案の定、薄汚れていたのにはちょっと参った





あっちゃー…結構ホコリつもってるわねー…」


「ま、実験にさして影響は出ませんよ」


そういう問題じゃないわよ!ほらっ
まず窓開けて一旦換気しなくっちゃ!!」












〜data allegra?
息抜き・骨抜き・仕事抜き!"〜












早速掃除をし始めて、少しずつ部屋の中が
キレイになっていくのはよかったんだけど





アレ?ねぇシュタイン
おトイレの洗剤 詰め替え用とか知らない?」


「…死んだんじゃないですか?」


「ぎゃー!冷蔵庫の中のピーナツバター
賞味期限切れてる!あとオレンジ腐ってる!!」



「当たりドコロが悪いと死にそうですね」


「いやあぁぁぁ!机の上にゴキブリが!」


「確実に死んでますね へらへら♪





片付けるウチに、足りないモノ捨てるモノ
いくつもいくつも出てきて


…最終的に両方とも かなりの量になった





はぁ〜…どうしよう」





流石にあの量のゴミを一人で捨てるのはしんどい


おまけに買いたいものも山とあるから
誰かもう一人くらい手伝いが欲しい


でも、シュタインは実験だのなんだのに夢中で

興味のないコトはほとんど手伝ってくれない


…分かり切ってはいるんだけれども
ダメもとで頼むしか無いのかなぁ







と…ガチャリとドアが開いて





「色々お忙しいのに、僕の方の訓練も
見てくださって申し訳ないですね」


「構わないよ 元々はオレからの提案だし」





少しだけ足がふらついている
どこか楽しそうなシュタインが出てくる





…ちょっと気が引けるけれど


ちょうどいいから 頼んじゃおっかな?





、ちょっといい?」


「どうしました?」





私の手招きに応じて、この子は素直に近づいて来た







――――――――――――――――――――――





まさかマリー先生のご指名をもらえるとは
ハッキリ言って、びっくりだった





まだ訓練の疲れとかはあったけれども


その時 僕に"断る"という選択肢は
頭の中に存在しなかった





おやおや、夜遊びしないで帰ってきなさいね」


「何言ってんのよ?すぐそこで買い物に
出かけてくるだけじゃない ねー


「ご心配なく、遅くなんないウチに戻りますよ」





ニタニタと笑う博士に見送られ


僕と先生は、並んで外へと出かける







「ありがと〜本当助かったわ!」


「お安いご用ですよ、特に先生ならね」


「相変わらず お世辞がうまいのね♪」


「仕事で慣れてますから」





そう…こうして二人きりで話せるなんて
実を言うとかなり久々で


現金だけれど この機会が少しうれしい


例え、役割が大掃除の際のゴミ出し

買い出しの荷物持ちだとしても


見様によっては…デートっぽいし





「仕事って言えば、まだ休学扱いなのに
バイトに出てるわよね?ダメよ、身体大事にしないと」


「大丈夫ですよ そんなに重いケガでもないし
若いから治りだって」


ウソおっしゃい!ナイグスから
骨にヒビ入ってるって聞いてるんだからね!」





ぐっと怒った顔を近づけられると、ついつい
目を逸らしてしまいたくなる


髪切って 前よりハッキリ先生の顔やら
黄色い瞳やら眼帯やらが鮮明に見えるからってのと


逆にこっちの目が合いやすくなったから、余計に





「マリー先生にはかなわないなぁ…
でも、最近は少しシフト減らしましたから」


「減らしただけじゃダーメ!しっかり身体が治るまで
しばらくバイト全部お休みしなさい!」



「そ、それだけはごヨウシャを〜





大げさに弱って見せれば(実際弱ってはいたけど)


マリー先生の笑いを、ちょっと誘えた





「アンタだって私の生徒なんだから
あんまり心配させないでよね?」


「…はい」







ゴミを出して また少し様子の変わった
店とかの説明を先生にしながら


買い物がてら、僕はスパルトイでの
マカ達の訓練の様子を改めて聞いたり


逆に博士との波長訓練で、ちょっとずつだけど
進歩が見えてきたコトを話したりしていた





二軍として、一応部隊の訓練に
顔を出したりしてはいるけど


表向き休学になってる僕は大っぴらに
死武専を出歩けないから





「マカとソウルは…相変わらずですね」


「まーだ少し悩んでるみたいだけど…
でも、きっと何とかなるわよ


僕もそう思いますよ、何となく」


こうして、彼らの話を聞けるのがとても楽しかった





だから死武専に通えない今は 身体は楽だけど

気分は味気なくって 少し面白くない





「NOTに戻ってもいいから、早いトコ
死武専に復学したいなぁ…」


「まだそんなに日も経ってないでしょ?
自業自得なんだし、ガマンしなさい」


「は〜い」





片手から両手に重みが増していっても


辛いと言うつもりは、今のトコロなかった…が







「買い物っていうと思い出すわね〜覚えてる?
私が財布探してた時のコト」


「覚えてますよ、へたり込んでた先生に
声かけたら"誰だっけ?"って言われましたね」


…あ、あの時はちょっとド忘れしてたのよ」





照れている先生がカワイくて、もう少し
イジワル言ってやろうかとニヤニヤしてたら


ぐっ、と先生の拳が握られる


あ、ヤバ 怒られそう





「マリー先生、色々買って少し疲れましたし
ちょっと休憩しませんか?」


調子いいんだから…けどいいわ
せっかく付き合ってくれてるんだし、ね?」





とっさに雷が落ちるのは回避したけれど


"付き合う"でちょっとドキっとしたので
結果としては痛み分けだ







お互いにコーヒーを頼んで、一口すする





うん!やっぱここのコーヒーおいしいわ」


「ええ、死武専のコーヒーがこんなんだったら
毎日でも飲みたいぐらいですね」





仕事で慣れてる作り笑顔と

慣れてるフリの軽口に 先生が笑う





けど、たったそれだけで


隠すのが大変になるくらいに身体が火照ってくるのは


きっとコーヒーのせいだけじゃない





ああ…こうしていると、本当に何だか
別の関係を錯覚してしまいそうだ







さっきから 自意識過剰だと自分でも思う





それを聞いたのは…だから、本当に

魔が差したとか 血迷ったとしか考えられなくて





「先生は…博士のコト、どう思ってます?」


「どうって…解剖バカで天才職人で
ネジが抜けてるけど頼れる私のパートナーよ?」


「本当に それだけなんですか?」


よせばいいのに、僕は二人を勘ぐった





たとえ本当に"考えてた通り"だとしても


それこそ 僕なんかには関係ないコトなのに









…マリー先生は とてもさみしそうな顔で笑いながら


失礼なコトを聞いた僕へ、語りかける





「実はねー先生、とっても好きなヤツがいたの」





"違和感"のような痛みが一瞬 心臓を刺す





真っ直ぐでウソの付けない、バカ正直な男
別れてたけど…もう一度付き合おうと思ってた」


「付き合えなかったんですか?」


「死んじゃったからね」





確証はどこにもないけれど


その言葉を聞いて、B・Jさんの姿
頭に浮かんで消えた





「でも、私は彼と会えてよかったと思ってる」





そう言って…続けたマリー先生は





「彼との思い出も、シュタインとの絆も
ここでの生活も…かけがえがない大事なモノ


だから みんなもシュタインも大好きよ


宝物をみつけたみたいな


自前の金色のキレイな長い髪に負けないくらい

すごく明るくて、まぶしい顔で笑ってた







ああ、この人は違う





恥ずかしい質問をした自分が情けなくなって


失った相手との幸せを 笑顔で堂々と話せる
彼女から目が離せなくなって





「もちろん、も大好きよ」





その笑顔と言葉に 心をうばわれた







――――――――――――――――――――――





…しばらく、ポカンとした顔をしていたけど





「マリー先生」





急に改まった


カップが倒れそうになるのにも構わず


テーブルから身を乗り出し、私の両手を
つかんで真剣な顔でこう言った





「今は無理でも、必ずその人や博士みたく
頼れる男になりますから…待っててください!






くりっとした鳶色の瞳はいつになく強くて


ほんの一瞬 目の前の少年が大人びて見えた







…周囲の客の視線が集まってきたのを感じて





少しばかり固まってた私は、握られた手を
すっと離してデコピンで答える





「大人をからかうんじゃないの」







目が点になったその後


我に返ったは、自分のしたコトと
周りの視線に気づいて


見る見るうちに顔を真っ赤にした





あ、アハハ、どーですか?
こんな感じのナンパ モテそうですか?」


「悪くはないけど、それは本当に好きな人にやりなさいね?

誰かさんみたく手当たり次第声かけるマネなんかしたら
先生、オシオキしちゃうわよ?


「肝に銘じときまーす」





殊勝な受け答えをする生徒を眺めながら
ちょっとだけ、考えてしまう


なーんか前に比べてちょっと積極的と言うか

ウソと本音を 上手く使い始めてきたような


普通の子だと思ってたけど…私達がいない間
何かが少し変わったのかしら?


それとも気づいてないだけでこういう子だったの?





…ま、生徒が成長していくのはいいコトだし


仮に何かやらかしたら、キチンと叱って
正してあげるのが大人であり教師の役目よね







「いや、自分の分ぐらい出しますよ」


いいの、買い物に付き合ってもらったのは
先生なんだからおごらせなさい!」


妙な遠慮をするのコーヒー代を
まとめて支払いながら、私はその結論に至った







……けれど





あのプロポーズっぽいセリフだけは
どうしても、ウソだと思えなかったし


言われて すごく嬉しかったから





「ありがとね
…これからも、頼りにしてるから」



って返してあげれば、カッと顔を赤らめて





「ここここれ!僕持ちますねっ!!」





私が持ってた荷物まで引き受けて


ちょっと足早に、コケそうになりながら
先へ先へと歩き出していく





「…ああそっか」


聞こえないように呟いて、納得していたら


がちらりとこっちを振り返って
私が来るのを待っていたので


ついつい、笑みが浮かんでしまう





「早く帰りましょう、博士が待ってますよ」


「そーね、ゴメンゴメン」





背伸びしようとする その姿は


他の生徒達と同じぐらい…かわいらしくて
愛おしくて、誇らしく見えた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:イメチェンに合わせて、短編再び始動!


マリー:今回の語り部は、今やってる
スパルトイ長編に合わせたの?


狐狗狸:特にそこまで深く考えてはいなかったのですが
まーそんな感じでいいかもです


マリー:それにしても…バイトのかたわら
よくシュタインとの訓練が続くわよね 偉い偉い♪


博士:まー僅かずつではあるけれど成果も現れてるし
今のトコロそれ以外に訓練らしい活動も無いからだろう


狐狗狸:控えたバイトの時間使って
自主的にトレーニングはしてるだろうけどね




…若干の夭折はあれど 彼の普通さに変わりなし


様 読んでいただきありがとうございました!