思い出したようにカラスが鳴く死刑台邸にて





「本日、こちらの庭園の剪定を担当させて
いただく造園業者の者です」


柔和な笑みを浮かべ、どこかタヌキに似た
顔をした中年が頭を下げると


向かい合っていた少年が優雅に言葉を返す




「うむ…よろしく頼む


『はい!誠心誠意込めてお仕事させて頂きます!!』


中年と少し後ろに控えていた作業服の数人が
声を揃えて会釈する





もはや馴染みとなった業者達の様子を


満足げに眺めていた少年の、その金色の瞳が

彼らの端の方にいる少年へ釘付けになった





「…あのキッド様、ウチのバイトが何か?」





思わず姿勢を正す当人に代わり、中年…
恐らく責任者であろう彼が訊ねれば


「あ、いや何でもない」





少年…いや、デス・ザ・キッドは左側に
三本の白い線が入った短い黒髪を緩く振る







ほっと息をつき 一礼し早速作業へ取り掛かる
面々に気付かぬそのままで





「…ツナギと帽子、それに顔が見事な
バランスだったのでつい見入ってしまった」


キッドはボソリと一言、そう呟いた












〜Abbattendo perfetto
"経験を積んだ彼の成せる業"〜












通常ならば休日として認識されている本日でも

仕事をしている業者や職員など少なくない





庭の木の一つに脚立を持ちつつ近寄りながら





「さ、さっきは焦った…」


帽子を被った鳶色の瞳の少年もまた
休みを返上して働いている人間の一人だ





「しかし始めてお目見えしたけれど…さすがに
死神様のご子息だけあって、気品があったなぁ」


うんうんと納得するように頷き、彼は手にした
脚立をちょうどいい位置へと立てかける









少しばかり前に…"死神様の息子が転校する"
言うウワサで死武専は持ちきりになった


それはクラスメイトの一人である彼も聞いており


僅かながら、期待と不安を胸に抱いて
他の生徒同様その日を心待ちにしていたものだ





……だが


「オレ様のウワサ以外で盛り上がんじゃねぇぇ!
息子だろーが何だろうが暗殺してやらぁ!!」






快く思わぬ約一名(と巻き込まれたらしい友人一名)
引き起こした騒ぎにより





転校早々、休学してしまい…そろそろ一ヶ月になる







何が起きたかはあまりよくは分かっていないが


近々通学してくるであろう彼を間近で見られた
嬉しさと不安とが 少年の中で渦巻いていた







「まあ こんな普通の僕がバイトしてるなんて
きっとお気づきにはならないよね…仕事仕事、と」


言い聞かせるように呟き、彼は脚立へ足をかけ





「ねー、それキリンの形に刈ってよ!」





ビクリ!と肩を跳ね上げ振り返った少年へ


セミロングの金髪と大きな胸とを揺らした
ウェスタン調の少女 パティが笑いかけた





「庭師の人なんでしょ?その木を切るなら
キリンの形に刈ってってば!」





再び無邪気に問い返すパティへ


我に返った少年が戸惑いながらも曖昧に笑み返し





「え…あのしかし、指定されていない形に
刈り取ることは出来ない決まりでして」


いーじゃん刈り取ってよ!黄色のペンキ
ぶっかけて本格的なキリンにすんだから!」


それでも賢明に否定を試みる彼が


口を開くよりも早く、パティが
鋭い蹴りをボディへとお見舞いした





「うぶっ!?」


"く"の字に身体を折り曲げながらも
どうにか踏ん張る少年だが





相手は容赦なく脛やら腹へハイキックを
叩き込みながら笑顔で続ける





「刈り取んないならお前の頭を
刈り取るぞゴラァ!きゃははははは!」



「えっちょっ、まっ待って本当待って!







静止の声などまるで聞かずにひたすら
蹴りを繰り出す 悪魔のような彼女を





こらパティ!仕事の邪魔しちゃ失礼だろ」


腕を伸ばして襟元掴んで止めたのは


同じウェスタン調の姿をしたロングストレートの
金髪の…彼女の姉のリズ





「ありり〜そうなのお姉ちゃん?」


「そうだよ、この人だって困ってんだろう?
迷惑かけちゃったんならちゃんと謝っときな」


「はーい…ごみ〜んに?」





笑顔のまま、それでも謝罪の意を示す彼女へ





「いえあの…こちらこそ、ご期待に沿えずに
申し訳ありませんでした…」


戸惑いながらも彼が頭を下げた途端





少年を指差したそのまま パティが
グルリと背後のリズへ叫ぶ


「お姉ちゃん この人いい人だよ!


「ああ、そうみたいだな」





微笑し彼女が頷いたのを見て取ると


襟首を離されたパティが、すっと少年の
右手を取って勢いよく上下に振り上げる


「いい人だから仲良くしてあげる♪
私パティ!よろしくコノヤロー!





きょとんとしながら、振られて放される
自分の右手と相手を交互に見つめる彼へ


側にいた姉もまた笑みと共に名乗り出た





「私はリズ、妹が失礼したね」


「いえ…僕はと申します
よろしくお願いします…あの、あなた方は?」


「ああ、私らはここん家の息子の武器さね」


拳銃なんだよ?強そうでしょ!」


ご子息様の!?
そっそうとも露知らず失礼しました!!」


急に姿勢を正して一礼する相手を


パティは面白そうに笑い、逆にリズは
困ったように手で制する





「まーそんな固くなんなくていいから
私らもキッドも そーいうの気にしないし」


「ありがとうございます!それでは仕事に
戻りますので…失礼させていただきます」





一礼し、は脚立を上って作業を再開する









数人の業者がうろつき回る中


彼もまた、指示を忠実かつ普通にこなし

いくつもの木々や植え込みの選定に走るが…







「あ…あの、僕に何かご用でしょうか?」





途中途中でやってくるトンプソン姉妹の茶々
原因で 中々作業が進まないでいた





といってもリズの方は主に彼の作業を追い


視界の端や背後や横からじっと、その姿を
値踏みするように見つめているだけだが





「顔の造作は合格ね…作業服のダサさを
さっぴいても、十分お釣りが…背はまあまあ

作業も真面目にこなすし 性格は……」


「あの…り、リズさん?」





おずおずとかけられたの声に


彼女は我に返って、取り繕った笑みを浮かべる





「あ、いやいや気にしないでいいよ
それより…仕事の後は空いているの?」


「えっあの…何故そんなコトをお伺いに?」


「そうね…アンタの事をもう少しよく
知りたいと思って 返事はどっち?


ああああのっ、そう仰っていただくご好意は
うれしいのですが僕は仕事で来ているだけの
面白みのない男ですので ご期待には…」





顔を赤くし、慌てふためくの袖を
強く引っ張りながらパティが迫る





「ねぇねぇ、この画用紙をキリンの形に
切り取るって出来る?」



彼女は彼女で気まぐれに近づいては

彼へ唐突な問いかけをしたりして絡んでいた





ちょっとパティ 今お姉ちゃんが
大事な話してんだから後にしな!」


「いーじゃんソレぐらい〜これ終わったらで」


「えっ、あのええそのくらいでしたら」


「じゃあやってやって♪」







助かった、とばかりに画用紙を受け取る彼を


ため息混じりに見やったリズが ふと

その手元に"あるべき物"が無い事に気付く





あれ?ハサミとかなくていいの?」


「ええ、自前のがありますから」





ニコリと誤魔化すように小さく笑ってから


くるりと背を向け、姉妹の視界から一旦
画用紙を隠した


瞬間的に指二本をハサミに変えて動かし





「…どうぞ」





振り返ると同時に差し出した画用紙は


誰が見ても 立派なキリンの形をしていた


おぉ〜!ありがとう!!」


「へぇー案外器用じゃんか」


「まあ…このくらい普通ですよ」





少し照れくさそうに頭を掻く彼の肩を叩いて





「よーしじゃあこれもこれも!」


とパティが指し示したのは…それなりに
大きく高尚な芸術品っぽい石像





「ってそれここの石像ですよね!?
それはちょっと…あイタタタタタタ!


「いーじゃん木じゃないんだし!
やれコノヤロー!きゃははははは!!」



「だから止めなさいってパティ!」





防御する彼へ再び蹴り(今度は脛中心)を
繰り出す妹を 止めようと姉が駆け寄って





「リズ!パティ!お前ら何やってるんだ!!」





現れたキッドの一喝が、全てを静めた







彼は腰に手を当てたまま姉妹に近寄り
諭すように厳しく告げる





ダメだろう、揃って仕事の邪魔をしたら」


「悪ぃキッド…」


「きゃははははは♪ごみ〜んにキッド君」





それぞれの反応を返す彼女らにため息を一つつき





向き直ったキッドが、姿勢を真っ直ぐに
正したを見やった


「ウチの者が迷惑をかけた 許して欲しい」


「いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした
ご子息様!すぐさま仕事にかからせていただきます!」



「いや、そこまで畏まらなくても構わんさ」





とは言うものの声をかけられた当人の心は


尊敬やら恐れ多さやら言い表しきれない
感情で満たされまくっていた





…そりゃもう姉妹にも見て取れる程度に





ガッチガチになってんな、あの男」


「そうだねお姉ちゃん 顔もトマトみたい♪」







そのお陰かどうかは知らないが姉妹のちょっかいが
止んで、彼はやるべき作業を終えると


業者の者達ともども死刑台邸を後にした









そうして…仕事の終わった庭を見て回った
キッドが、すかさずあることに気付く





「…おおっ!こ、ここここれはぁぁぁ!!





すかさず愛用のメジャーと
自慢のスケボー・ベルゼブブを取り出し


彼の担当していた辺りの樹木を慎重に測って周り







…やがて、キッドは自らの感覚が

正しかったと核心に至った





「注文通り、きっちりかっちり見事な
左右対称(シンメトリー)だ…美しい…!!」






我知らず感動に打ち震える彼の後ろから


ひょこり、と長身の影のような人物が現れる


「ただいまぁ〜キッド 庭がさっぱりしてるね〜」


「お帰りなさいませ父上…本日の業者は
いつにも増して素晴らしい腕前ですね」


「まあ彼らはそれが仕事だからねぇ〜にしても
腕前上げたねぇ、君も





ぽつりと呟いた父親…死神の一言に

キッドは目を若干丸くしながら訊ねる





「それは…あのバイトの少年ですか?」


「うーんまあ、恐らくそうだろうねぇ」


「父上はあの男をご存知なのですか?」





相変わらず表情の読めない簡素なドクロ面の彼は





まあね♪同じ死武専生でクラスメイトみたいだし
そのうち教室で会えるんじゃないかなぁ〜」


何とも軽い調子で そう答えたのだった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:三番目は間を取ってお昼から午後の
日が照る時間帯だと思われます


キッド:ハッキリせんか!虫酸が走る!!(蹴)


狐狗狸:オブ痛ぃ!スイマセンお昼ですっ!!


キッド:初めからそう言え全く…


リズ:てゆうかキッド、もうこのポーズ
止めてもいいか?しんどいんだけど


パティ:飽きたぞコラー きゃはははは!


狐狗狸:…ずっとそのポーズで出待ちを?


キッド:当然だ、後書きであれ登場するからには
時間通りきっちりかっちり行わんとな


リズ:いや…文章でポーズ必要ないだろ?


パティ:キリンーキリンー♪


狐狗狸:(あ、もう早速ポーズ瓦解してる)




すっきり…いってないかもですが日常掌編はとりあえずここまで
後は気の向くままのアバウトな時間軸になるでしょう


様 読んでいただいてありがとうございました!