一言で"死武専"って言っても 色んな子がいるけどね
職人にしろ武器にしろクセの多いヤンチャ揃いだけど
見ドコロのない子は一人もいないんだよねぇ
とりわけ最近はNOTもEATも勢いがあるから
仕事のかたわらで子供たちの元気な様子を眺めんのが
一番好きさね、おばちゃんは
ちなみにおばちゃんの仕事は事務なんだけど
たまにはしっかり身体だって動かしたくなるのよ
だから天気のいい休みの日には街中を
ウォーキングするのが日課になってるんだけど
砂漠に囲まれたデス・シティーとはいえ、それなりに
四季ごとで違う顔が見れるのが楽しくて
「模様替えかい?これからのシーズンに
ピッタリの内装じゃないかい」
なんて店の子に挨拶したりして歩きまわってたら
風にのってなんだか騒がしい声がしてさ
…そこで、見ちゃったんだよねぇ
あの子らがツナギのお兄ちゃんに迫ったその瞬間
いくつかの缶が倒れて、中身の黄色や白い液体が
路地へと盛大にぶちまけられて
ペンキ独特のニオイが辺りに漂った
「「キャアァァァァッ!!」」
あわてて避けた女の子二人組は、自分たちの服に
液体がかかってないかを確認しあう
「大丈夫、ついてないみたい」
「よ、よかったー…ちょっと!」
二人にキッとにらみつけられて、あーとかうーとか
呻きながら転がる缶を拾い上げてたお兄ちゃんが怯む
「危うくペンキがかかるトコだったじゃない!」
「え!?いやあの、倒したの君たちじゃ」
「こんなトコにペンキ缶置くのが悪い!責任とって
慰謝料きっちり払ってよね?二人分」
「それはさすがに無理があるよね?」
「私たちがわざと倒したとでも言うの?逆に缶を
足に引っかけさせようと置いたんじゃない?」
「それこそ誤解だよ!なんでそうケンカ腰なの?」
おやまあ、キムとジャクリーンじゃないかい
知ってる顔ぶれに、思わず足を止めると
適当な店へ入って外をうかがうコトにした
〜C' un aspetto del guaio di donna oggi
"運の尽き 挟まれるのが、板につき"〜
文句をつける二人と なだめるツナギの子の話を聞けば
どうやらツナギの子は、すぐ隣の広告用看板の塗装を
終えて休憩に入ろうとしてたらしく
お昼へ行こうとしたトコで二人がやって来たモンだから
「げ、キムとジャクリーン…!」
逃げようと向きを変えたけど、逆に二人に
気づかれちゃったあげく名前呟いたの聞かれてて
「そこのアンタ、私たちの名前知ってんの?」
「てゆうかどっかで見たような顔ね…なんか
知らないけど妙に腹立つわ」
「気のせいじゃないかな?きっとそうだよ」
否定するツナギのお兄ちゃんのセリフを信じず
二人が迫ったら…缶がひっくり返った、なるほどね
でも途中からだけど 実はおばちゃん見てるのよ
二人が詰め寄った、すぐ側のペンキ缶が並ぶ辺りで
彼女らを見て 驚いた顔した黒い三つ編みのナイフの子
…確か"エターナルフェザー"だっけ?
その子があわてて建物の影へ隠れようとして
うっかり缶を蹴飛ばしちゃったの
「だから缶の位置はたまたまなんだって!」
「ふーん、なら私たちの名前を口にしたのも
たまたまだなんて言うつもり?」
「それも聞き間違いだって言ってるじゃないか」
「ウソよ!私ハッキリ聞いたんだから!!」
だけど 三人とも気がついてないみたいね
そういう意味じゃ災難だけど、あのツナギの子
どうも腰が引けてるのが気になるね
若いんだからもうちょっとしゃんと…んん?
あら!あのお兄ちゃんよーく見てみたら
ウチでもよくバイトしてる君じゃーないの
けれどキムとジャクリーンは、未だに目の前の子が
君だと気がついてない
カッコこそ同じようなツナギでも、普段は
前髪で両目隠しちゃってるからね
おまけに目立たない子だから分かりづらいのかも
…そこまで考えて、もう一つ合点がいった
『お前さ、キムのコト避けてるよな
あっちも妙に毛嫌いしてるし…なんかしたか?』
『どっちかというとされた方、あっちは
ロクに覚えてないみたいなんだけど』
初めて顔を合わせたのはバイト中らしいけど
笑顔で近づいたキムに騙されて、まんまと有り金
せしめられた苦い経験のおかげで顔を覚えたので
『あんまり探られないように逃げてるんだよね』
『堂々と情けねぇなー、つか探られて
マズい労働環境が問題なんじゃねーの?』
『店長の人使いとか客のワガママに振り回されてるんだよ
…バラされて収入減ったりするの困るし』
そんな会話を、友だちと廊下でしてたのを
耳にした覚えがあるから気づく
君がどうにか二人をやり過ごそうと
他人だとごまかしながらも、早くその場から
立ち去ってくれるよう説得しているんだろうねコレ
気持ちは分からなくもないけど…ウソつくなら
も少し涼し気な顔しないと
ほら、思いっきり疑いのまなざしで見られてるじゃないか
「アンタ絶対死武専にいたでしょ?その顔
一度どっかで見てるわ、思い出してきた」
「記憶違いだから、とにかく仕事残ってるんで
僕はコレで失礼し…ってなにそれ通せんぼ?」
「正体を吐くかキムにあやまるまで通さないわ」
「だから僕はただのバイトだって!分かった
あやまるからそれで「もちろん誠意はカタチでも
示してもらうからね?」やっぱりソコに戻るのね!」
やれやれ、根はやさしい子たちなんだけど
こうなっちゃったらキムは引かないだろうし
ジャクリーンは全面的にキムの味方だからねぇ
気の毒ではあるけど、子供同士のイザコザに
急におばちゃんがしゃしゃり出るのも大人気ないし
さて、どうしたもんか
「大体さっきからなれなれし、ヒック!」
「え、ど、どうしたのジャッキー?」
「いきなヒャック、しゃっくりヒッ、出ちゃっ…ック!」
これまたズイブンなタイミングで出ちゃったね
どうにか驚かして止めようとしてるけど
中々ジャクリーンのしゃっくりは止まらない
こうなったら、おばちゃん直伝のあの技の出番かねぇ
…と あの子らへ歩み寄ろうとした時
君がフタを開けた水のボトルを
肩を震わせるジャクリーンへと差し出して言った
「これ持って」
ボトルが相手へ渡ったのを見計らって
鳶色のつぶらな瞳がキムをまっすぐにとらえる
「キムはジャクリーンの両耳を塞いであげて」
「い、いきなりなによ!それに私たちの名前知って」
「しゃっくり止めてあげたいんだろ?」
顔をしかめたけど、短くうなづいてから
後ろへ回ったキムがジャクリーンの両耳へ手を当てる
「塞いだけど、一体なにしようってのよ?」
「ジャクリーン、聞こえる?聞こえてたら
大急ぎでそのボトルの水を飲み干すんだ」
しゃっくりまじりに首を振ったジャクリーンが
ボトルの水を一息に開ける、すると…
「どう?しゃっくり止まった?」
ウソみたいに しゃっくりは止まっていた
「…止まったみたい」
「効いただろ?それやると確実に止められるんだ」
ニッコリ笑いながら、顔を近づけて君は
あの子らへと頭を下げた
「ペンキの件はあやまるよ、本当にゴメン
その代わりコレでチャラにしてもらえないかな?」
おやおや、赤くなって黙っちまったよ かわいらしい
…と そこへ同じバイト仲間らしい似たようなツナギの子が
足早に近づいてくる
「おい休憩終わったぞサボりか!…って
なんだよこれ!?ペンキこぼれてんぞ!!」
怒鳴り声を浴びせられた君に間髪入れず肩叩かれて
「さ、早く行った行った!」
まだ文句があった二人は、急かされるようにして
すばやくその場から立ち去っていった
…けど、おばちゃんはバッチリ見てたのよ
「不注意!?お前コレいくらすると思ってんだ!」
「スイマセンでした!」
バイト先の先輩へ"自分がペンキ缶をこぼした"と
あやまっている君の姿を
遠くで二人して眺めてたのを
…ついでにジャクリーンが顔を赤くしてたのも
店のウィンドウ越しに、しっかり見届けてる
たっぷりこってり先輩に絞られたその後
「はぁー…ぶちまけた分天引きとか、あの二人と
関わるとロクなコトない気がする…」
ぶつぶつ言いながらも、君が路面のペンキを
ブラシでこすりながら落としていると
ずっと隠れてた三つ編みのあの子が
目をキラキラさせながら駆け寄ってきた
「あの!さっきって呼ばれてましたよね?」
「は、はいそうですけど…どちら様ですか?」
「私あの、死武専の生徒です…ひょっとして
アナタ EATの先輩じゃ「人違いです」
即答されて面食らってたけれども
エターナルフェザーの眼鏡の奥に秘められてる
やる気に満ちた輝きは、消えちゃいない
「まあ…どっちでもかまいませんけど、さっきの二人
特にキムを前にして一歩も引かずに退散させられるなんて
驚きました!どうやったら出来るんですか!?」
「どうやったらって言われても、ただ穏便に
説得してただけで当たり前のコトしかしてませんよ?」
「これから師匠って呼んでもいいですか!」
「ええぇっ?!師匠って、僕そんな大層なコト
なんにもしてないんだけど!!」
さっきジャクリーンのしゃっくりを止めた
あの落ち着きっぷりはどこへやら
それドコロか二人と話してた時よりも
あからさまに困った顔でうろたえちゃって、まあ
ともあれ仕事を理由に話を断って
「と、とにかく後で相談に乗ってあげるから
今日のトコロはカンベンしてくれますか?」
「わかりました、いきなりスミマセンでした…
じゃあ後ほどよろしくお願いしますね?さん」
「ええと…そんなにかしこまらなくても」
相談の約束を取りつけて うれしそうな彼女を帰らせて
中断してたペンキの後始末をしながら
深いため息をつくツナギの背から
年頃の子らしくない哀愁がにじんでるのが見えた
「…ブラック☆スターにバレたらどうしよう」
ああ確かにあの子だったら、さっきの会話を
耳にしたらきっと自信満々に
『信者の弟子ならオレの信者だな!』
って言うだろうねぇ…目に浮かぶよ
本当 年の割に苦労してる子だと思う反面
なんだかんだで普通に青春してる、その若さに
懐かしい甘酸っぱさを思い出しちまった
だから"おせっかい"なのは百も承知で
ついついニヤけちまう顔をそのままに
店を出て、後始末を終えた君の肩を叩く
「おつかれ君」
「へ、あ!まっ窓口のおばちゃん!?」
息が止まるんじゃないかってほど驚くこの子を
「おばちゃん見てたよ アンタ男だね
けど正念場はこっからだから気合入れなよ!」
力強いサムズ・アップと言葉ではげますと
アタシはそこから静かに去った
見守ってるからね…ガンバんなよ?
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:時系列適当番外その三!まだNOT3巻未読なんで
エターナルさん生存仮定で話進めてます
エターナル:出番来たと思ったら扱いヒドい!
ジャッキー:ホントよね、特に私がしゃっくりで
ヒドイ目に合わされるなんてあんまりよ
キム:そうよ、あんなヤツに頼んなくたって
しゃっくりくらい止めてあげられたんだから!
おばちゃん:はいはい、それにしても
面白いしゃっくりの止め方だったねぇ
狐狗狸:正式(伊)のはコップ一杯の水であの手順をやるんですけどね
でも世界共通の"驚かす"方法一つ取っても
国によって独自に違うようですよ?
おばちゃん:それにしても…あの二人は
なんだって君に気づかないんだろうね
狐狗狸:髪の毛上げると別人だし、どっちにいても
地味だから注意しないと同一人物だなんて気づきません
エターナル:…ある意味うらやましい
まさかのおばちゃん視点でお送りしました
結果的に三人(?)ほどフラグ成立してます
様 読んでいただきありがとうございました!