ステージを見上げると、自然と気合が入ってきた





「いよいよだな…オレらのバンドデビュー!」


「組んだときゃどうなるかと思ったが、意外と
それっぽい形になってきたよな」


「ええ、ついにここまで来ましたね…本番までもう日が
ありませんからね、くれぐれも気を抜かずに行きましょう」


隣で笑うソウルもオックスも いつもよりも
ビリビリ燃えてきてんのが伝わってくる





「君らが今回演奏する学生バンドのメンバーかい?」


「ええ、ステージ使用の許可はいただきましたので
当日までの間なにとぞよろしくお願いいたします


「ああうん、こちらこそ…君若いのにキッチリしてるねぇ」





責任者っぽい人が苦笑するその気持ちは
オレらも実によーく分かる





楽器は自前とレンタルでこと足りたが


マイクやアンプなんかの機材と、あとドラム一式は
演奏時に運びこんでもらう必要がある


それにこのステージ、割とイベントに使われるトコらしく
どっかの劇団とかも予約済みだとか


なんで並べるスケジュールやら段取りなんかを
今からスタッフの奴らと話し合ってるワケなんだが





基本重てぇモンを運ぶのはスタッフだし


出番の時に出遅れねぇようにしときゃいいだけなんで

演奏するオレらはそこら辺をそんなに気にする必要がない





…まあ神経質なキッドはタイミングやら位置やら
さっきからしつこいぐらい確認取ってるけど







で、退屈なんで辺りをざっと見回してたら





よっし、そこ終わったら五分休憩な!この後書き割りの
移動やライトの調整とかあっから気合入れろよ?」


「はい!」


いかにも裏方!って感じのオヤジを見送って
ため息ついたツナギ男と目が合って


男の方がスゲェ気まずそうに顔そらして作業し始める





「おいキリク、どーこ見てんだよ?」


「あーいや、なんかあっちにいるツナギのヤツ
どっかで見たような気がしてな…って、お?





どうやらこっちの話し声が聞こえてたみたいで


とぼとぼ歩いてきたソイツが、オレらの前で立ち止まると
バンダナみたいに巻いてたタオルを取る


と、ソイツの髪が目を隠すようにバッサリ降りて…












〜Ribalta per lui
"支えるコトならお任せだ!"〜












「ってじゃねぇか、お前ここでバイトしてんの?」


「まあね、今月いっぱいはここのスタッフとして
働くことになるからアイサツしておくよ よろしくね?


あれ?この間も別の場所で働いてませんでした?
たしか樹木の剪定やってましたよね」





オックスの指摘に、の肩がビクついたのを
オレらは見逃さなかった





「はは…ちょっとばかり懐が寂しかったんで色々と」


お前どんだけバイトする気だよ!前から
思ったけど睡眠時間足りてんのか?」


「足りてるって…多分」


「事情はおありなんでしょうけど、あまりバイトをしすぎるのは
どうかと思いますよ?学業に差し支えては本末転倒だから
原則として禁止されているワケですし」


「あ、はは…ごもっともだよ、オックス君」


ペンキや木くずだらけのツナギ姿で頼りなさそうに
笑ってるけど…大丈夫なのか?コイツ





なんて考えてたら ふいにがこう言ってきた





「ところでさ、どうして四人でバンドやるコトにしたの?」


「オレらはキリクに誘われたんだよ」





指差すソウルと首を振る二人を見やってから


アイツがこっちへ興味シンシンな瞳を向けたから

目一杯の笑顔で答えてやった





「一度、気が合うヤツとステージの上で
セッションしてみたくてな!そー言うの燃えるだろ?」






――――――――――――――――――――





バイトを受けて、今月ステージを使う団体に
死武専生のバンドがあるって聞いてたから


多分リハーサルとかで来るだろうなと予想はしてたけど





「キリク君とソウルはともかく、オックス君と
キッド君の二人もバンドってのは珍しいね」


フィーリングが合うから、と声をかけられましてね」


「オレも楽器はある程度ならたしなみで扱えるし
こういうイベントに参加するなど滅多に出来ないからな」





口々に言う二人も、どこかうれしそうな雰囲気
言葉ににじませているようだった







それぞれが使う楽器からロックを弾くと決めて


四人でそれぞれの意見を出し合い

時にはノートなどに書いた意見を見せ合って


軽くケンカになりながらもバンドらしくなっていった


キリク君が、楽しそうにこれまでの経緯を熱弁してた





特に熱を入れてたのは バンドの名前で







「COOLにカッチョいいバンド名がいいよな!
"ファイナルデッドスペース"ってのはどうだ!」


「いえ、熱い魂を表現する言葉として
"ライジング・ボルテッカー"などいかがでしょう?」


「いやいや"バーン・ドゥ・エイジ"!
これこそビリビリ来てる名前だろ!!」


「まあ待て、オレはDを菱形に並べたシンボルとして
"スクエア・デス"と読ませるのを進めたい」


「「「いやそれシンボルの形がメインだろ」」」


なんて会話をしてたとかなんとか







…言われてみれば、ノート片手になんかノリノリ
話してるソウルたちを見たような気も





「誰一人譲ろうとしないものですから、かなり
長い間モメにモメましたよね」


「…で、最終的にようやく今の
"ファイナルボルト・ドゥ・スクエア"に決まったワケだ」


「そうなんだ」





なんていうかカッコいいんだかダサいんだか微妙…


「納得いかん顔をしているようだが、お前も
人のネーミングセンスを笑えはしないハズだぞ?」


う゛っ…それはまあ、その通りだけどさ」


「まー仕事がてらオレらのリハ見せてやっから
聞いて驚いとけ!じゃ練習始めるぞ」





どうやらリーダーはキリク君らしく、その一声を
号令にして三人が楽器を用意するために袖に引っこむ





っと、そろそろ休憩終わるし仕事もどんなきゃ







――――――――――――――――――――







ステージでのリハーサルも始まり、段取りなどの
打ち合わせなども着実に決まってゆく





バイトは区分が違うのか それとも他の職場との
かけ持ちがあるからなのか


練習中にツナギ姿を見かけるコトは度々あっても





スポットライトって、近くで見るとすげぇデカいな」


「ステージを照らす光源だからね ネジや重しが外れたり
しないようにこうやってちょくちょくメンテするんだ」


「しかし…ウェイトの量が不自然に多いんじゃないか?
それにアンバランスに偏っているようだし、ここは一つ
オレがきっちりかっちり


「わわわ触っちゃダメ!予備のヤツとか幕用に
つけてあるモノとかで位置が決められてるから!!」



こんな風に会話をする機会は、思っていたより少なかった







とは言えの働きぶりは他のスタッフの者と
比べてもさほど遜色はないようで


大道具の運搬や台座などのメンテナンスを行う様子には
そこそここなれた安定感があり





「ハケた楽器類は店の方に返されるから大丈夫だよ」


なるほどムダが無くていいですね、レンタル代は
全員分で一括して先払いしておきましょうか?」


「そうしておいてくれると助かるよオックス君」





通りがかった際の質問に対しても淀みなく答えていた







オックスやキリクも その仕事ぶりと
真面目さにおおむね満足しているようで





「明日は外の寒さがぶっ飛ぶぐれぇのアツい演奏で
ステージ盛り上げてやっからな、ビビんじゃねぇぞ?」



「遅くまでガンバってたもんね 楽しみにしとくよ」





帰りがけにこんな言葉をかけるぐらいには両者の距離が
縮んでいるコトに、白い息を吐きながらオレは小さく笑う





さて…明日は完璧な演奏を披露せねば







――――――――――――――――――――





しっかりと準備を重ね、各自のパートもバッチリ
練習を終えて 僕らは来る当日にワクワクしていた





バンドの名前も乗せたチラシも配って


知った顔も多いけれども 客入りは悪くない





なのに…ああ、それなのに!





「メンバーがそろっていないなんて!!」


どうしようもないと知っていながらも僕は現状に
頭を抱えずにはいられませんでした





「大丈夫だよ!キリク君たちから連絡あったじゃん
大急ぎでキッド君引っ張ってこっち向かってるって」


「だとしても開演までもう間もないんですよ!?」


まさかこんな時に限って彼の悪いこだわり
トラブルを呼びこむなんて…と





気を揉んでいる僕らの耳へ絶望的な声が聞こえた





ひゃっはあぁぁぁー!小物どもがステージを
独占なんざ十万年早ぇーんだよ!!」



幕の向こうで、どよめきが大きさを増す







ああ…もうダメかもしれない


三人が間に合うかどうかの瀬戸際で
ブラック☆スターが乱入したら結果は火を見るより明らか





「オックス君、あきらめるのは早いんじゃない?」


「そ…そう言いますけど とてもじゃないけど
この状況で演奏なんて出来ると思えませんよ」


「まあね、でも悲観してるトコロ悪いけどさ」





顔を上げた僕の目には、同じように困りながらも
笑っている君がいて





「任された舞台をダイナシにするつもりないから」





鳶色の瞳に溢れた別人のような自信に 一瞬息をのんだ







「け、けどこの事態をどうやって収めるんですか!


「そっそれは…今考えてるトコなんだってば!ええと」





問いかければ、あっという間に自信なさげに辺りを
見回す君の視線が…舞台袖のとある品物と





「すみません、本日は友人の探し物に付き合って
遅れてしまいまして…どうしました?


通りかかった"彼"に止まった





――――――――――――――――――――







ざわめいてる客を前にひたすら笑っている
ブラック☆スターめがけ黒い影が突っこんできた





気が付いた彼はジャンプして下手側に着地する


それと同時に黒い影も、同じようにジャンプして
上手側へ着地し 距離を大きく開けた





おっ?なんだテメェは?」





戸惑い混じりのセリフにも驚いている客たちにも
構わずマイクのスイッチをオンにして


僕は 観客席へと呼びかける





『さあ!飛び入りの彼の前に現れた謎の黒づくめ!
果たして、どちらが強いのか?



「はっはぁ〜そういう演出か!するってーと
オレ様の相手はテメェか、面白ぇ!!


うれしそうに身構えるブラック☆スターへ

合わせるように、茜君も戦闘態勢に入った





…そう 今ステージに上がっているのは茜君


袖に置いてあった劇の小道具(マスク)と衣装を
お借りして、当日シフトの彼に頼みこんで着てもらった





あくまでも"ハプニング"でなく"演出"だと
思わせたいからの 苦肉の策だ





「ここがオレ様のBIGステージだって
分からせてやらぁ!ひゃっはあぁぁぁ〜!!






どうせならドラでも鳴らしたかったけれども


見当たらないから、とりあえずそれっぽいかけ声で
代用させてもらうコトにする





『それでは…始め!』


その瞬間 二人がお互いへと突進してゆく







青い顔をした先輩スタッフが 幕内の袖から小声で訊ねる





「おい、いきなりアドリブで見世物なんて
始めて大丈夫なのか!?」


「部外者を暴れさせて事故が起こるよりマシです!
バンドメンバーがそろうまでの辛抱ですし」





とは言ってみたものの冷や汗かきっぱなしだ





オックス君には"メンバーが到着するまでの待ち時間を
埋めるための前座"
としてあの二人が舞台にいるコトを
責任者の人とかに説明してもらってる


けどいつまでその言いワケが通用するか…







「だんまりこきやがってムカつくぜ!テメェのその
うさんくせぇマスクひっぺがしてやらぁ!!」






こっちの気分なんて知ったこっちゃない顔で
ブラック☆スターが緞帳の下りたステージ上を跳ね回る


競い合うように黒づくめも床を蹴り、拳や足を交える





幕の前の ほんの少しのスペースでの戦いだなんて

全く感じさせないぐらいの動きで





…仕事でなくてただの客としてこの場にいたなら
僕は 素直に見とれてたかもしれない


そう思うぐらい二人の体術は迫力があった









と、汗だくになりながらオックス君が戻ってくる





君!三人が到着したようで
もうすぐここに来るそうです」



「そっか…わかった、ありがと!





言って僕はすぐさまキャットウォークへ上がり
ステージ上手側のライト付近まで寄って


武器化した腕で光を反射させて合図を送る







伝わったようで、気がついた彼の動きが変わった





「オレ様を追い詰めるつもりか?甘ぇーぜ!!





余裕を見せながらも 茜君の攻撃に注意を払い


ブラック☆スターが後ろ飛びで下手へと退がった
そのタイミングを見計らって


"ゴメン、ブラック☆スター"と心の中であやまって


手首の先の二枚刃で思い切り挟んでヒモを切り落とす





狙い通りに 重しが青い後頭部へ直撃して





「んぎゃあっ?!」


さすがにたまらずブラック☆スターは前のめりに倒れた







重しは舞台袖に隠れるように設置されてるシロモノだから


客席からは見えていないハズ…まあ、とりあえず
強引だけれどこれでよし





これにて演目終了となります!さて、続きましては
死武専生による演奏となりますので少々お待ち下さい!』






マイク越しの声に合わせて、茜君が客席へペコリ
おじぎをしてから 倒れた彼を引っ張って下手に消える





少し遅れて拍手の音が鳴り出した





――――――――――――――――――――





どうにかキッドを引きずって舞台袖に潜りこむと





「…ありがと茜君、急にこんなムリ言ってゴメンね」


いえいえ、構いませんよ先輩
僕も楽しかったですし」





変な面の黒尽くめとが話してるトコにかち合った





黒尽くめはオレらを見ると頭下げて、そのまま
どっかへと引っこんでいく


その背中には、何故か気絶したブラック☆スターがいた





おい、アイツ誰だよ?つかオレらが来るまでに
一体なにがあったんだよ?」


「ああうん、えーと…後でちゃんと話すよ」





冴えない笑い顔でごまかすアイツから、先についてた
オックスに視線で訊ねる





「一つ確かなコトは、彼のおかげで
無事に演奏が出来ると言うコトですよ」



へぇ、地味なクセにやるじゃねーかのヤツ





…オレらも負けてらんねぇな







段々と落ち着き始める拍手に耳を傾けながらも


設置されたアンプにコードを繋いで調整をすませ


オレらが自分の担当ポジションに立ったのを
見計らって が声をかけてきた





「もうそろそろ幕を開けるよ?準備はいい?


「当然!ビリビリ燃えてきたぜ!!」


「迷惑をかけた分、きっちりかっちり働かんとな」


だな、終わったらお前ジュースおごれよ?」


「おしゃべりはそこまでにして 集中してください





手で合図が送られて、本来の司会が客へと告げる





『それでは死武専バンド
"ファイナルボルト・ドゥ・スクエア"の演奏です!』






割れんばかりの拍手の中 開いていく幕と
まぶしいライトを浴びながらオレらは


魂の底から響くように強く、音を放ってゆく








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:これも時系列適当の番外話です!
拍手から温めてたネタを実現させてみました♪


キリク:それはどうでもいいけどよぉ…オレの
バンド名だけダジャレじゃね?


狐狗狸:うーん…英語だと[Burn Do Age]なんだけどね


ソウル:どっちかっつーとキッドのがヤバイだろ?
あと、ボーカルとベースとドラムがそろって遅刻もな


キッド:悪かったとは思っているが…ギターピックの
角が急に欠けて、頭が真っ白になってしまったんだ


オックス:もうあんな緊張感は二度とゴメンですよ
予想外の事態だらけでしたし


茜:僕は楽しかったですけど、思わぬ出番もあったし


ブラック:くっそー…まさかあんな事故が
起こるなんて ちゃんと仕事しやがれアホ信者!


ソウル・キリク:いや むしろ仕事しすぎだろアイツ




今回彼らが利用したのは、デス・シティーに
設置されてるそこそこ人気の多目的ホールです


様 読んでいただきありがとうございました!