スカッと晴れた空を見てると、今にも背中を強く叩く手と
豪快な笑い声が現れる気がする





あわただしい足音が聞こえて振り返れば





「あっ…ええと、先輩こんにちは!」


そこにいたのは、つぐみさんだった





「こんにちはつぐみさん、他のコは?」


「も少ししたら来ると思います」


「そっか まあ今回どれだけ一緒に働けるかは
分かんないけどヨロシクね?」


はい!こちらこそ♪」





原則は禁止のバイトだけど、理由があれば
死武専生でも働くことが出来るから


こうやってNOTの子とかち合うコトもある


僕の場合 深夜も含めて長い時間とか
かけもちザラだから その辺は珍しくない





他人にナイショな部分は以前変わりないけど


EATの子と違って顔を合わせる確率も低いし
向こうも僕に関心ウスいみたいだから 気は楽だ







「あのーそういえば先輩」


「な、なにかな?」


「茜君から聞いたんですけど…先輩ってホントに
あのブラック☆スター先輩の"信者"なんですか?」


茜く…ああ、あのメガネのシュッとした子か


そういえば彼も"星族"なんだっけな





「まあ、大体そんな感じかな?」


「ホントなんだ!スゴーイ!!





別にそんな大したコトでもないんだけどなぁ












〜eroe super, e solitario
"黒く輝く天上天下唯我独尊系男について"〜












「そこまで感心されるほどじゃないよ、よくどつかれたり
バイト中でもからまれるし」


そ、そうなんですか!?やっぱり怖いんだ…」


「あー大丈夫、強引なトコあるけど
マフィアとかに比べれば全然マシだから」


「ひぇっ!まままマフィア!?」





ヤバい 余計怖がらせちゃったっぽい





「ごっゴメンこっちの話、まあ無闇に
近寄らなければ安全だよ 多分」


「そうですか…アハハ、気をつけます」


うう、あんまりフォローになってなかったか

なんだか悪いコトしちゃったな


ため息をついていると、つぐみさんが
恐る恐るといった感じで聞いてくる





先輩、マフィアってギャングですよね?」


「そうとも言うね」


「EATの授業だと、やっぱりそういう人たち
戦うコトってあるんですか?」


「死神様のリストに乗ったらあるかもね
けど、一人で戦うコトはないだろうから安心して」


「そうですよね…パートナーがいますもんね!





その言葉に、つぐみさんは半ば涙目になりながらも
心強そうに微笑む


彼女を見ていると とても幸せな家庭
育ったんだろうなって分かる







『へぇ、君も武器なんだ』


『そうなんですよ、お父さんやお母さんや
お兄ちゃんもすっごくホメてくれて!』






始めて顔を合わせた時も、バイトの時だったっけ





「あ!そういえば先輩イタリア出身って言ってましたよね
もしかしてそれでマフィアの人とか見慣れてるんですか?」


「うーん…そんなトコかな?」





適当な言葉といつもの笑みでお茶をにごす


無理に余計なコトを想像させたくない







好き勝手にえげつないトコへ身柄貸し出されて
容赦無い借金取りと下働きの日々


扱いは家畜同様、逆らうのなんて論外で


ウサ晴らし八つ当たりの暴力の嵐を受ける
毎日に "化け物"扱いの周囲の眼差し


特別不幸だと言うつもりは毛頭ないけど


今考えても、かなりヒドい日々だったと思う






…それでもアイツにやられたコトよりは ずっとマシ


生きられただけ、運はいいのだろう







おかげで大人が今でもちょっと怖いけれど
それを口に出すつもりも必要も 今はない





「それにしても遅いですね〜めめちゃん達…また
迷子になったりしてるのかな?」


またって、君も大変だね」





にしてもつぐみさん、今日はよく話しかけてくるな


バイトが始まるまで いつも話す子たちが
いないから間が持たなくてヒマなのかな?





僕もヒマだし…せっかくだ、本人のいない
この機会に乗じさせてもらおう




「逆に質問していいかな?」


「はい、なんでしょう?


「君らと仲良しの、茜君も星族だって前に言ってたよね?」





うなづいたツインテールの頭を確認して





「星族のコト…どんな一族なのか知ってたら
ちょっとだけでも、教えてもらえるかな?」






ドキドキしてくる心臓を 抑えながらたずねる







考えてみれば、僕は彼のコトを知らない





前は…無理に聞かなくてもいいと思ってた





『アイツの一族は一人残らず死武専に潰された
赤子だったアイツだけ 引き取られてここで育った


『本当なんですか?死人先生』


もちろんだ、オレはウソがつけない男だった
それに…お前たちは最近仲がいいようだからな』





けれども死人先生からこの一言を聞いて


もう一度、ちゃんと彼のコトを知りたいと思った







足を引っぱるお荷物にならないように必死で


けど実力以上の上を目指そうとせず、周りと
同じであるように "仲間"と認められるように


目立たず当たり障りなく毎日が過ぎていく


幸か不幸か 実力も成績も一貫して普通のままで
留まっていられて、運よくNOTからEATへ
変わっても"死武専内のその他大勢"だった





―背景のようなその場所に 甘んじてた僕を







『ひゃっは〜!よぉ相変わらず地味だな!』





いつもあっさり見つけるブラック☆スターは
まさに真逆の存在だった





入学した時からすでに堂々と目立ちまくってて


短いつきあいの間でずいぶん親しくなったような
気がしてたけれども、僕は彼のコトなんて

本当はこれっぽっちも知らないんだ





だからほんのちょっぴりでも 知って近づきたい









「そっか、星族ってそこまでヤバい
暗殺集団だったんだ それであの時…」


へ?ええとあのっ、お役に立てました?」


「あ、うんとても ありがとつぐみさん
変なお願いしちゃってゴメンね」


「いいえ!私も茜君から聞いただけですし!」





ブンブンと両手を振って答えるあわてぶりが
なんだかカワイイ、守ってあげたくなるな





「けど先輩が星族の名前を知ってたなんて意外でした」


「ま、曲りなりにもEAT在籍だからね
名前くらいは聞き覚えがあるだけさ」


おぉ〜!さすがEATの人は違いますね!」





この子の反応見たさに、つい見栄を張ってしまった


…知り合いに見られた日には しばらく
からかわれるコト間違いなしだろうな





「あぁでも僕がこのコト聞いてたのナイショにしといてね?
特にマカとソウルには」


へ?あ、はい わかりました」





顔を合わせれば気軽に話をするくらいの間柄だって
二人から聞いているから 一応釘を刺す


よし、これで大丈夫…のハズ





「そういえばちょっと気になってたんですけど」


「な、なにかな?


先輩の苗字も変わってますよね
ソウル先輩みたいに芸名なんですか?」


「ううん本名だよ…そんな変かな?」


あ!そういう意味で言ったんじゃないですけど
気に触ったんでしたらあやまります!!」


大丈夫、怒ってないよ まあソウルのも
変わってはいるけど彼らしくていいじゃない」





…なんて言えるのも 彼との付き合いが
あるからなんだけれども


交流がなかったらきっと同じように"変わってる"
思っていただろう、いやそれとも


僕みたく 理由あっての芸名と納得してただけかな









消えてしまった苗字(ファミリーネーム)の代わりに
名乗ったのは、忘れられない呼び名






『そこいらの三下とオレらを一緒にすんな
イタリアで男見せてるヤツぁな、カタギや
ガキにゃ軽々しく手ぇあげねぇんだよ』


チョビひげで、目のクマが濃くて
ガリガリでうさんくささ全開の


どこか頼りなさそうな下っ端だったけど






『…これでも""って言やぁ
ちっとは通った名なんだがな?』






自分よりも強いハズの相手に対して


ニヤッと笑って佇んでた、あのヒトの―








「今でも、元気なのかな…」


「え?誰のコトですか?」


きょとんとした目でつぐみさんが聞いてくる


しまった、ついつい声に出てたみたいだ





「あーええと、そのー…ブラック☆スターが
今どこでひと騒ぎしてるのかなーなんて」





言いながら、こんな風に気軽に彼のコトを
話せるのに内心ビックリしてる









あの"決闘"の後…彼になにかを言おうとして


けどなんの関係もない僕がなにを言ったって

気休めにもなぐさめにもならない気がして


結局 なにも言えないまま夜が明けたら





ブラック☆スターと椿さんは
デス・シティーから、いなくなってた








マカたちもなにも聞かされてなくて驚いてて





ブラック☆スターと椿は少しの間休学するそうだ
ただ、近い内に復帰すると本人達から聞いている』





教室で先生からそう聞かされてもにわかには
信じられなくて とてもとても不安で仕方なくて


だれもかれもいなくなるコトが怖かった







…けど、少ししてポストに一通の手紙が届いて





[君へ、お元気ですか ブラック☆スターは
私の実家で療養しながら精神の鍛錬に励んでいます


とても自然が多いし家族とも波長が合ったのか
彼にとってもいい気分転換にもなっているみたいです]





キレイで礼儀正しい椿さんの字が並んだ文の


一枚目のページの後ろにくっついた二枚目に





[BIGなオレ様がいなくてさみしいだろーが
帰ってくるまで待ってろよ!
信者はこれでも見て元気でも出せ!!]



ものすごい乱暴に書きなぐった字で書かれた
文面の下に、でっかい星のサインがあって


…さらにその下に小さな字で





[心配すんな オレ様は今より
もっともっと強くなって戻ってくらぁ]






こないだまでの僕の心を見透かすような、彼らしい

とても自信にあふれた言葉がつづられてた





だから…僕は黙って待つことに決めた


なにも言わなくたって、言えなくたって
きっと二人は ブラック☆スターは戻ってくる







だからなのか ちょっと前の自分がウソみたいに
不思議と落ち着いていられる







仲良しなんですか?ブラック☆スター先輩と」


怖さと期待がいりまじったような目で
つぐみさんがたずねてくる





「普通くらいかな 自慢するほどでもないよ」


僕は答える





「けど、それでも十分スゴイと思いますよ?
私だったらあんな強くて怖くておっかない人と
仲良くなれる自信ないですし!」


そんなの、僕だってないけどさ





「たしかに、彼はすごく乱暴で横暴で
結構おっかなくてとんでもないけど」





これだけは胸を張ってハッキリと言える





「僕にとっては ヒーローなんだよね」







そう、ここで出会った"二人目"のヒーロー


"一人目"は 船に紛れる僕を見逃してくれた





彼らがいなくても 今の僕はここにいない





『ギャング、マフィア…好きに呼ぶのは結構だが
三下と本物の男の区別はつけなボウズ』


『オレは神を超越する男だ!テメェも武器なら
黙ってオレ様を信じて頼りゃいいんだよ!!』








―思い当たるフシでもあったのか、つぐみさんも
うれしそうに笑いながら こう言った





憧れのヒーロー…先輩のその気持ち
私にもちょっと分かる気がします」


「そっか けどつぐみちゃんのヒーローになら
ちょっとなってみたいかも、なーんて」


えぇっ!?ああああの先輩それどういう意味でっ」





茶化したつもりが割合マジにとられてこっちが
恥ずかしくなる…うう、やっぱこういう役は向かないや


と、店のドアが開いてバイト先の先輩が顔を出す





春鳥に店先でなにボサッとしてんだ
先に来てるなら手早く用意しとけよ!」


「「はい!スイマセン!!」」


期せずしてハモった僕らの謝罪に、先輩は
"やっぱ似たもん同士だな"とか言いつつ引っこむ





ビミョーに流れた気まずい空気を払うように





「じゃ、行きますか?


「そうですね」


つぐみさんと顔を見合わせて店へと入る





…直前で、ちらりと視界の端に


待っているヒーローをほうふつとさせる
真っ青でよく晴れた スカッとした空色を留めて








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:アメリカだし基本名前呼びが定番だけど
苗字で呼ぶバイト先もあるってコトで一つ


つぐみ:テキトーですね…てゆうかノット
接点がある感じでいいんですか?


狐狗狸:まあ、もし辻褄合わなくなったら
"もしもつぐみ達と接点あったら"みたいなIF話
見てくだされば万事オッケー!


つぐみ:ええぇぇぇぇ!?


ブラック:ふふん、いなくても小物どもの間で
ウワサ持ち切りたぁさすがオレ様!


狐狗狸:良くも悪くも大物だからね君は


つぐみ:…けどバイトしてた先輩のコトといい
茜君たちって、本当物知りですよね〜(隠れつつ)


狐狗狸:そうだね てか背中に隠れるの早いよ
どんだけ怖がってんのさ




二人の"ヒーロー"への気持ちは、死神様や
キッド君とはまた違う形の想いとかです 多分


様 読んでいただきありがとうございました!