死武専での生活は楽しかった


けど、同じくらいにとてもとても辛かった







メデューサ様のために マカたちを騙して
死武専の情報を集めなきゃいけなくて


やさしいマリー先生にもウソついちゃって





今だってこうして、内部の構造を探ろうと
あちこちウロウロして―





「クロナ君、そっちは教室じゃないよ?」


「ひゃああぁぁぁぁぁっ!!」


悲鳴を上げて僕は反射的に振り返る





そこには同じようにビックリしてる
見覚えのあるツナギの子が立っていた





「うわわっ、ごごゴメン!
そんなおどろくなんて思わなかったから」





よ、よよよかった君で


マカたちや他の人だったら今どうやって
接していいか分かんなかったもん





そしたら僕の身体から出てきたラグナロクが
二つの拳で僕の頭をはさんでグリグリしだす












〜La persona per credere salvata?
"やさしい言葉の裏の裏"〜












「いちいちビビッてんじゃねーよバカクロナ!」


「痛い痛い、やめてよラグナロク」


「はいはいケンカしない、とりあえず
教室まで案内するからついてき…あイタ」





助けようとした彼の手まではたき落として
ラグナロクは不機嫌そうに怒鳴る





「死武専8不思議ってーのがマジなのか
探してんだ!邪魔すんな地味ぃ!!」



「ら、らららラグナロク…」







マカから聞いた話なんだけれど、君も
知ってたみたいで "ああ"と納得していた





「僕も入学して少ししてから聞いたんだけど
…実際に見た人とかもいるらしいよ?」


君はみ、見たことあるの?」


「あるよ てゆうか君も見てるよ」





どういう意味なのか分かんなくて聞いたら


これはあとで気がついたんだけど、
断りを入れてから 彼が声を潜めて言う





「あの8不思議で言われてる人って…多分
デスサイズの人たちかもしれない」


「それ、本当?」







うなづいた君の話によれば





ここに来る前に、"爆音処刑人"って呼ばれてた
あのジャスティンさんのウワサを聞いてたのと


マカのお父さんのコトを知ってたから


8不思議の"処刑人"


"女の子にエロい服を着せて喜ぶ変態男"
二人が当てはまるって気づき





更にきびしい梓先生が千里眼の持ち主だって聞いて





その梓先生に、お休みの日にバイトで
死武専のトイレの水道管直しに来た業者に
混じってやって来たのがバレちゃって





『いやあのいつもバイトしてるワケじゃないですよ!

そ、それにしてもトイレの便器がどうしてこうも
ベッコベコに壊れちゃってるんでしょうね〜?』


ってごまかすようにして聞いたら





『ああ…それ、マリーさんがやったんですよ』





と何食わぬ顔でさらっと言われたから


頭の中で8不思議の"トイレを壊す女"のウワサを
ふっと思い出しちゃったんだとか







い、言われてみればみんな当てはまってる





「てことは、ひひひょっとして
他の不思議にもデスサイズの人が…?」


「関わってるかもしれないね」


「おいおいマジで大丈夫かよ?この施設ぅ」


「ま、まあ個性的なトコも死武専のウリだと思うよ?僕は」


「ってコトはよぉ〜もしお前がデスサイズになったら
"神出鬼没地味男"ってウワサが出来んのか?」


「そ、そんな!いきなり出てくる人と僕
どう接したらいいかわかんないよぉ〜!!」



「いやいやいやないから!てゆうかあくまでも
僕の予想だし、てゆうかそのネタでいじるの
やめてよラグナr「どうしました?迷える子羊たちよ」


「「うわあぁぁぁぁ!?」」





後ろからの爆音と声に、僕はとっさにあわてて
君の後ろに隠れた


服の生地を握り締める手が思わず震える





「…ってジャスティンさん!おどかさないでください
ビックリしたなもう〜」


「申し訳ない、驚かすつもりはありませんでしたが」


けっ!ビビりすぎだっつーのてめぇら
そんなんだからナメられんだよ地味どもぉ!」


「そー言うラグナロクは僕を盾にしてんじゃん」





あ、髪の毛に隠れてみえないけど今きっと
君 ジト目でラグナロク見てる





ゆっくりと顔を上げれば、神父みたいな
ジャスティンさんのニコニコ顔と目が合って


僕はつい、目を横にそらしてしまう





「どうやらお困りのようですね?
迷っているのでしたら導いて差し上げましょう」


「あ、いえお気づかいなく 僕ら自力で」


遠慮することはありません、迷える子羊に手を
差し伸べるのは神に与えられた私の使命です」


「あの、せめて最後まで聞いてください」





言葉がちゃんと通じない人と、それでも
対応しようとするなんて…君スゴイな


それでも話し合いは終わらなくて





「僕一人で大丈夫だと思いますし、それじゃ
授業もありますからこれで!」





あわてて言いながら僕の手をつかんで


君が、ジャスティンさんに背を向けて


廊下を一直線に走りだす







「あっああああの、てててて手っ、手!


「へ?…あ!ゴメン、痛かった?」





パッと手を放した彼へ 真っ赤になりながら
僕はブンブンと首を横に振る





「そっかよかった…じゃ急ごうか?」







"KILLコーンカーンコーン"とおなじみの
チャイムを聞きながら廊下を歩く僕へ


振り返りつつ、君は言う





「あの辺、拷問器具とか怖いモノもあるし
慣れるまで迷いやすいから気をつけてね?」


「あ、あああ…ありがとう





なにも知らないその笑顔に、僕の胸はチクチクした







――――――――――――――――――――







BREW争奪戦が終わり、死武専にスパイが
潜り込んでいたことが判明し





調査官B・Jの死亡と"容疑者"二人の逃亡


そして魔剣士クロナ、ブラック☆スター
両名の失踪は死武専内を動揺させた









特に逃亡した彼らや失踪した生徒に関わりがあった
職人や武器のショックははかり知れず





どうして…どうしてなんだ…?」





上記四名だけでなく、生前のB・Jと僅かに
面識があったらしい少年もまた


その例に漏れず 一人落ちこんでいるようだった







「なにか悩みがあるようですね、神は全てを
聞き届けてくださいます…話してごらんなさい」



「ジャスティンさん」





亜麻色の前髪に隠れていても、少年の瞳が
揺れ動いているのが容易に想像できる





「シュタイン博士があのB・Jって人を殺して
マリー先生と逃げたなんて…ウソですよね?」


私は、何も答えない





「メデューサが生きてて、クロナ君が
死武専をスパイしてたなんて、ウソですよね?」





私は何も答えず、微笑み続ける





「ブラック☆スターは 帰って来ますよね?」





段々と落ち着きをなくしてゆく彼の言葉を
"読み"ながら、ただただ爆音に耳を傾ける







「…どうして答えてくれないんですか?


苛立ったように、私に一歩近づき





「なにか言ってくださいよジャスティンさん!
僕の言ってるコト分かるんですよね!?」






問い詰めるような剣幕で言葉を紡ぐ





ええ分かっていますよ?安心なさい







動じないでいると、君はため息をついて
少しばかり顔を下に向ける





唇が見えづらいから セリフが分かりにくいが


「魔女」とか「いつもいつもアイツのせい」など
穏やかならざる単語が次々と飛び出したので


グチを呟いているのだろうと理解した





…その言葉で、私はロスト島で取り逃がした
彼の姉に当たる"紙喰いの魔女"を思い出す









B・Jも、調査中にあの魔女の存在と関与を
前夜祭の一件と当人の証言によって知り


両名にスパイの疑いを考えたようだが


魔女が使用する術の系統や 彼の"魔力探知"


それと彼自身を狙っていたという情報を鑑みて


少なくとも、君は疑いを逃れたらしい





『独自に争奪戦の情報を聞いていたかもしれん

…が、シュタインの発作に関しては
別の者の手口だろう オレはそう思う』


僕も今のところは同意見です…しかし
今後も少し 彼に話を聞きたいと思います』





もしもB・Jが生きていたら、彼の生い立ちや
"探知"の根源にたどり着いていたかもしれない


それこそ本人が知りえずにいた"謎"と"秘密"に







聞いた話では"魔法陣"の力にて探知や特殊な
波長を出せるものの、意識したのはごく最近で


シュタイン博士との特訓で制御出来るようにし始めたが


本人も完全に使いこなせているワケではないらしい





それでも、近くにいる魔力や魔女は


プロテクトの有無に関係せず感知出来ていたのだろう





だからこそ、微弱ながらも前々から
メデューサの波長自体は感知しており





「今回だってそうだ、きっとマリー先生に
メデューサがなにかしてシュタイン博士を…!」



彼の唇が、そんな言葉を後悔したような顔で紡ぐ





「僕が、もっと早くこのコトを伝えてたら…!」





爆音で聞こえないのが惜しいけれど

きっとその声は、悔しさと悲しさがない交ぜに
入り乱れているに違いない





無理もない…生まれが少しばかり特殊なだけで


この少年はごく普通の子供なのだ


よもや死んだはずの魔女が生きていると思うはずもなく
最近知ったばかりの自分の力を、確信しきれるワケもない







そろそろ頃合いと見て 下がった肩を叩き





「気に病むことはありませんよ君」


ニッコリと微笑み、私は言葉を口にする





「神は、悔い改めたアナタをきっと
お許しくださいます」








少年は放心の後に、小さく笑って答える





「…ありがとうございます、ジャスティンさん」


「いえいえ」





彼の"力"が魔女の脅威になるにはまだまだ遠いが
可能性は、まだ十分にある





…未熟に終わったとはいえ


"伯爵"も面白いモノに目をつけたものだ





「なんだか、色々話したらスッキリしました
…お見苦しいトコ見せちゃってごめんなさい」


「構いませんよ 私は神の僕です
つまりはいつでも悩める子羊の味方なのです」


「そ、そうですか…」





普段通りの曖昧な笑みを浮かべた少年へ
私は、いつもの通りに言う





さあ!懺悔も終えたことですのでこれから
教会へ礼拝に参りましょう!!」



え!あのー僕ちょっと行くトコロが」


「神への祈りはなによりも尊いモノです
惜しんではいけませんよ君?」


「いえですからそれはまたの機会に…って
ちょっと!腕放してくださいジャスティンさん!





逃げ出そうとする彼をやむなく拘束し、私は
意気揚々と神の元へと向かっていった








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:この話の時系列としてはBREWで
マリー先生に蛇飲ませた後→争奪戦終わって
B・J死亡後って感じです


ラグナロク:ったくあの地味野郎、おせっかい女の
おせっかいがうつったんじゃねーのか?


クロナ:マカも君たちもやさしいんだよ
…時々、接し方が分かんなくなるけど


狐狗狸:少し親近感もあるみたいだし、やや
優しさ割増なんでしょうね彼的に


ジャスティン:汝の隣人を愛せよ!おお〜
それこそ神の素晴らしき教えの体現です!!



クロナ:ひぃえぇぇぇぇ!!


ラグナロク:いいいいきなり出てくんなアホ!




今後の展開へのバレも含めつつ、微妙に
咬み合わない会話と補完をお届けしました


様 読んでいただきありがとうございました!