薄蒼い空気と静寂が街を満たす早朝に
「ヒャッハアァァー!!」
ニワトリよりもどハデでけたたましい叫び声が
屋根の上から響き渡り
寝入り端に飛び起こされ、目が覚めて
驚いた人々は何事か?と窓の外へと目をやり
或いは実際に外へと出て原因を探す
「日の出と同時にオレ参・上!
皆の者っ、朝日と一緒にオレも拝め!!」
と、それなりに高い建物の屋根の一番上に
器用なバランスで立ちながら
ビシっと仁王立ちで眼下の街並みと
疎らに現れた人々の視線とを満足げに見下ろし
「天上天下唯我独尊!
明日のオレには後光が射すだろう!!」
どこからか鳴り響く小気味よい琵琶の音と
ほぼ同じ大音量でがなるのは、一人の少年
星を思わせる、ツンツンに尖らせた目立つ青髪に
肩をさらした黒い服に白基調のズボン
ダークグレーの手甲と逞しい腕のラインは
彼が武術に秀でているだろうと容易に想定させる
右肩に刻まれた星のマークのタトゥーもまた
当人を"ある一族"の末裔だと主張している
一度見たら忘れないであろう、インパクトの
強い彼の名前は―
「ブラック☆スター、ご近所迷惑になるから
あんまり騒ぐのはよくないわ」
「なーに言ってんだ椿!オレ様の声と共に
街の奴らは夜明けと光り輝く今日とを迎えられるんだぜぇ!!」
肩越しに笑うブラック☆スターを
仕方ないなぁ…と眺めるのはやや長身の日本人女性
自己主張の激しい彼に唯一付き合える相方
変幻自在の魔暗器・椿だ
〜Collegamento non disposto
"人生は理不尽に満ちている?"〜
「そうね…でももう朝のアイサツも終わったし
そろそろ降りてご飯食べましょう?」
「ヒャハハッ、そーだな腹ペコだ!」
盛大な腹の音まで追加し、屋根から
飛び降りようと態勢を取るブラック☆スター
「朝っぱらから毎度毎度喧しんじゃあぁ!」
その寸前でタイミングよく、近くの窓から
顔を出して叫んだ老人が卵を投げつけ
反射で避けた反動でバランスを崩して落下
「うおっ!?」
「ブラック☆スター!」
積み重ねられたゴミ山にいくつかの袋を
受身の衝撃で破りつつ着地するも
微妙な状態を保っていた周囲のゴミ壁が
その衝撃によって雪崩れて崩れ落ち
あわれ我らがブラック☆スターは
一瞬にしてゴミの中に埋もれていった
「助け出さなきゃ…!」
呟き、近くに降りてゴミ山へと駆ける椿
…が そこにはいつの間にか先客がいた
「あーあ…誰か知らないけど
ゴミを散らかさないでほしいよ、全く」
帽子を被った 鳶色の瞳の男がボヤきながら
一つ、また一つと乱雑したゴミを
手馴れた様子でせっせと片付けていく
やがてビニールテープとガムテープが他のゴミ達を貼り付けて
一つ繋がりになっているような状態のゴミが現れ
その一部分とまだ積まれてる山に埋もれ
或いは露出する塊達とを交互に見つめ
「うわぁ…ゴミ同士がこんがらがってる
こりゃちょっと切ってくしかないかな」
言って、おもむろに掲げた彼の右手が
まるで手品の早業の如く 同じサイズの
鋭いハサミに変化する
「どぅっわぁぁれぇがゴミだぁ!!」
とゴミ山の中から、辺りに劈く怒号と共に
ブラック☆スターが現れる
「うどわぁぁぁぁ!!」
情けない悲鳴をあげて彼は
勢いに負けてその場に尻餅をついた
無論その際に、変わっていたはずの
右手は普通の手の平に戻っている
だが そんな相手の変化にお構いなく
身体にまといつくビニールテープや
ガムテープ類を主としたゴミ郡も無視し
鬼の形相で迫るブラック☆スター
「テメェか?このオレ様をこともあろうに
ゴミ呼ばわりしてくれたのは、あぁ?」
「待ってブラック☆スター!きっと
アナタがいることに気付いてなかったのよ!」
状況を把握しフォローに入る椿だが
もちろん彼は全く一言たりとも聞いてない
「ご、ごめんなさい!
まさか人がいるだなんて思わなくてっ!!」
「ったくゴミとオレを一緒にすんなよ
今度から気をつけろよ この節穴ヤロー」
不機嫌顔で腕を組むブラック☆スターへ
すまなさそうに頭をもう一度下げ
その鳶色の視線が、少しばかり固まった
「…ん?何ジロジロ見てんだテメェ?
ハハーン、さてはBIGなオレの偉大さに目を奪われてんだろ!」
ちょっと違うんじゃ無いかしら、と椿が言いかけ
それよりも早く彼が答えを口にする
「ええと…やっぱり、ブラック☆スター君?」
「お オレの事を知ってんのか?」
「うん、死武専内では武闘派の上位で
腕の立つ暗殺者…だよね」
「詳しいんですね 死武専の方ですか?」
「有名だからね…あっそのー
死武専生でなくても なんと言うかですね」
「まぁオレはいずれ神を超越する男だからな!」
鼻高々と天を仰いでカラカラと笑う
ブラック☆スターは気付かなかったが
椿には、帽子から僅かに覗く彼の髪の色と
ツナギの姿にどことなーく見覚えがあった
"…あら?ひょっとしてこの人クラスメイトの
=君じゃないかしら?"
そんな視線に気付いてか 彼は慌てて動き出す
「と、とりあえずからまってるゴミを
切り落とすからじっとしていて下さい」
「あの 私も手伝いましょうか?」
申し出る彼女の言葉に緩く首を振って
「大丈夫です、僕の仕事ですから」
彼は右手を 今度はハサミの片刃に変えて
素早くニ三度振り動かし
ブラック☆スターにまとわりついていた
テープとゴミの複合物を取り払った
「これでゴミは取れたと思いますよ」
にこやかにゴミ類を片付ける彼へ
二人は顔を見合わせて 口を開く
「あの…もしかしてあなたも武器ですか?」
「え、あのっ、なんのことでしょうか」
「とぼけんなよ さっき刃物に変わってたろ右手」
「はははは…見間違いではありませんか?」
…視線の痛さに、引きつり笑いで返し続けるも
ついに耐え切れず 彼は話題転換を試みた
「あのっ、僕も一つ質問してよろしいですか!」
「ほー オレから何が聞きてぇんだ?」
「屋根の上とかでいつも名乗ったりしてるけど
その…なにか意味があるの?」
ブラック☆スターは 自信たっぷりに答えた
「いずれ時代を動かすBIGなオレ様が
世界に名乗りを上げるのは、当然だろぉが!」
"当然"の単語に何か思う所があったらしく
鳶色の瞳が刹那、キラリと輝いた
「僕にはちょっと分かんないけど、君の
その堂々としたトコは…とてもスゴイと思うよ」
紡ぐ彼の呟きに含まれるのは 心からの尊敬
確かに、"他者の迷惑"などへの配慮が
抜けている部分はアレにしても
自分の行動を"正しい"と信じて実行に移せる
ストレートな行動力は、おいそれと他者に
真似できるものではない
「ほほ〜う、素直にオレを敬い称えるとは
中々見所のある奴じゃねぇか!」
満足げに笑った所で腹の虫が鳴り響いて
「あー腹へった…よし、じゃ帰るか椿!」
じゃーな、と一方的に宣言すると
ブラック☆スターは答えも待たずに歩き出し
「ごめんなさい、それじゃ…待ってブラック☆スター!」
つられて椿も、彼に頭を下げてから
その後を追って歩き出す
男は軽く手を振りつつ呆然と見送っていた
「あふ…」
自らの席に座り、は小さく欠伸をする
「早朝バイト、今度から少し減らそうかなぁ…」
死武専生の課外授業は、割と高確率で夜に行う
必然的に生徒の生活リズムも夜側へ偏りがちで
特には様々なバイトの掛け持ちも
行っている為か、夜型の人間に半ば近い
なので明るいうちの授業は睡魔との闘いになる
…幸い そこそこは真面目に授業を受ける
影も薄い彼がその点で注意されたことは無いが
ノートと教科書を机の上に取り出した辺りで
「ヒャッハーァァ!」
もはやクラスではおなじみの大声が轟いた
顔を向ければ、ちょうどブラック☆スターと
マカが何か言い合いをしている所で
変わらずテンションが高い…とぼんやり
考えながらブラック☆スターを見つめていると
不意に、黒く鋭い瞳と目が合って
思わず彼は慌てて逸らすのだが
「ん?おお!お前こないだの奴じゃねぇか!」
次の瞬間には 既に目の前に
ブラック☆スターが回り込んでいたので
は色んな意味でビックリさせられた
「ええっ!?ど、どうして」
「ふふん 神を超える予定のオレ様とっちゃ
信者を探すなど造作もねぇことよ!」
「え…しっ、信者ぁ?」
前髪に隠れた鳶色の目が、丸くなる
もちろん本人は信者を標榜した覚えも
信者にしてくれと頼んだ覚えも
全くさらっさらないのだけれども
残念ながらブラック☆スターの脳内では
彼は"自分の信者"としてインプット済みである
「信者として目ぇかけてやっから
そこんとこ感謝しやがれ!えーと…」
「君よ、ブラック☆スター」
「そうそう!ダセェツナギ姿の!」
歩み寄った椿にそっと名前を教えてもらい
指を差しつつ言い放った彼の一言で
ようやく、の硬直が解ける
「いやあの目をかけ…?そもそもなんで
信者として認識されてるの僕!?」
「はぁ?オレの偉大さを神に匹敵すると
ほめ称えただろうが!」
「え、ああ、たしかにスゴイってほめたけど
アレはそーいう意味じゃなくてっ…!」
戸惑う彼の弁解は、基本人の話を聞かない
ブラック☆スターの耳には入らない
「意味わかんねぇよ、てーかお前
朝はバイt「あーっ!!」
と、そこでブラック☆スターとの
頭にギガトン級の衝撃が走った
「お前らうるさい」
彼らの背後にはいつの間にか愛用の辞書を
手にしたマカが仁王立ちで佇んでいた
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:二番目で、ブラック☆スター&椿コンビです
最初が夜なので 今回は早朝
ブラック:知るかぁ!オレ様の話が二番目って
どーいう事だコラァァァ!あん!?
椿:お、落ち着いてブラック☆スター…
狐狗狸:そうそう それによく言うじゃない
"大物は後からやってくる"って、ね?
ブラック:ん?おお!そうかそうか
まぁ、オレは神を超越する男だからな!
狐狗狸:ふぃー…(バカで助かったぁ)
椿:ええと…朝のアイサツよりも、朝の鍛錬は
毎日のようにやってると思うけど
狐狗狸:まー、こういうパターンもありって事で
また長くなった…次回こそはすっきりと
まとめられるようチャレンジします(無理じゃね?)
様 読んでいただいてありがとうございました!