聖・ウァレンティヌスが恋人の為に処刑された
由緒正しい、この祝日は


死武専の外でも中でも…少なくとも私の周りじゃ


女の子も男の子も皆 どこか浮かれてるように見える







キム!今日という日を祝して、僕の精一杯の
愛を込めたこの花束を受け取ってください!!」



多っ!もらえるモンはもらう主義だけど
こんなにはいらないわよバカ!!」





両手…ドコロか、上半身がすっぽり埋もれるくらい
たくさんの花を抱えたオックス君も


飽きも懲りもせずキムヘ猛烈アタックしてる





「オックスのヤツも、本当よくやるよ」


「まあね…けど誰かさんに比べればよっぽど
誠実でいいと思うけど?私は」


「しっかりもらうモンもらっといて 評価辛ぇのな」





おどける様なソウルの言葉に、私はその場で立ち止まる





「気持ちは嬉しいけど、それとこれとは別!





毎年毎年、節操無くママ以外の人を口説くのに
一層の力を入れるパパを見てれば


そう思うのはむしろ当然でしょ?





他の女の人にばっか目移りして…普段よりもっと
だらしない父親なんて、見てらんないわ」


「あの親父のナンパぐせは今に始まったコトじゃねぇよ
つーか お前どんだけ執念深ぇの?メンドクセー」


「それはちょっと言いすぎじゃない?ソウル」





味方する声に頷いてから…私とソウルは
同時に目を見開いて、そっちを見る





廊下に いなかったハズのクラスメイトがいた












〜Festa dell'amore
"男子も女子もウキウキ、ソワソワ?"〜












「って、いたのかよ


「さっきからいたよ…」


ゴメン、私も影が薄くて気付かなかった





「で?お前もひょっとしてバレンタインに
かこつけてマカに何か渡しに来たのか?」


「まあそんなトコ…いつも仲良くしてもらってるし」





目を隠している切り揃えられた前髪の下の口を

はにかんだように歪めて 彼は言う





「あのさマカ、通りがかったついでみたいで
悪いんだけど よかったらコレ受け取って?







すっと差し出された四角いモノを二人で
覗き込んで…その品の名前に戸惑う





「えーと何コレ、チーズ?


ペッパーチーズって書いてあんな…ひょっとして
店のあまりモンか何かか?」


「ご名答、もらいモンで悪いんだけど僕一人じゃ
消費しきれないし…クセはあるけどおいしいよ?」





その言葉にちょっとだけ拍子抜けして、でも
安心感と君らしさを感じて 小さく笑う





贈り物自体はお店のあまりモノだとしても


かけられた青いリボンと、間に挟まる本型の切り絵カード
多分 彼自身の手によるものだ





「ありがとね」


「あんだよマカ、親父にもらった時より
嬉しそうなツラしてんじゃねーか」


当たり前でしょ?これはパパのと違って
下心なんてない贈り物だもん」


「スピリット先生だって一生懸命なんだし
そこまで言ったら可哀想じゃない?」


それはそうだけど…いくら恩があるからって
あんな最低なパパ かばわなくてもいいのに





すると、髪の隙間からモノ言いたげな視線がチラリ





「それにマカだって、自分の贈り物
悪く言われたら辛いだろ?それと同じだよ」





コートのポケットに入ってた"贈り物"の包みを
指摘されて、ドキッとした





「へぇ〜マカも誰かに渡すモンがあんのか
どれどれ、誰あて「覗くなバカ!」ぎゃああぁぁ!


ポケットの中を覗こうとしたソウルへ、思わず
マカチョップを食らわせて沈黙させる







我に返れば、君含めて周囲はドン引き





「あ、じゃー僕はこの辺で…」


「ちょっと君!!」





止めたにもかかわらず、彼はすたこらさっさと
廊下から立ち去ってしまった





ああもう、なんて余計なコト言ってくれたんだろう


せっかく作ったクッキー、渡しそびれるし

ソウルにも渡し辛くなっちゃったじゃない…







――――――――――――――――――――





この日への贈り物は 恋人に限らず親しいヤツにも
渡して構わないんだと教わった





「けどキッドからのお返しが、中々面倒なんだよな」


「それは…分かるような 分からないような」


「今年はね〜左右対称の模様がついたメッセージカード
もらったんだ!一週間くらいかけて書いたんだって!」





パティが、カードを両手に持って見せびらかす





「うわ〜スゴい細かい図柄…本当にこれ全部
手描きしたの?キッド君」


「これでも簡単な方らしいぜ?本人が言うには」





カードを見つめるアイツの顔が、驚きと感心
露骨に表していた…本当わっかりやす







「でキッドほどじゃないけど、それなりに
カワイく出来たから にもやるよ」





"いつもありがと" と私なりの感謝の気持ちを
乗せた、手製のメッセージカードを差し出す


パティも キリン柄の包みを勢いよく突き出す





このチョコ結構上手く出来たんだよ!
よかったら食えコノヤロー!!きゃはははは」








戸惑いながらも、両方受け取って





「あ、ありがと…気の利いたお返しじゃないけど
もしよかったら、これ二人にもあげる」


笑顔を浮かべて は中途半端に白い紙が
かぶさった青リボンの四角いモノを渡し返してきた





「…何コレ チーズ?


「バレンタインにチーズって…せめてちゃんと
ラッピングして渡せよ、もらっといてアレだけど」


「ご、ゴメン…時間が足りなくて…」





バレンタインなのに気が利かないヤツ…
呆れて ため息をつく







けれどアイツと別れて図書室にいるキッドの元へ
戻る途中で、よく見たら





リボンと商品の間に挟まった白い紙は


"包み損ねた包装紙"じゃ無かった







「…あ!これキリンだ〜!!」





満面の笑みでパティが、紙を広げた体勢で
くるくるとその場を回り出す





「私のは…バラってトコかな」





贈り物に"カード"じゃなくて"切り絵"を添えるなんて


意外にしゃれたマネも出来るんだ、って見直した







――――――――――――――――――――





もらった贈り物の切り絵は、驚くほど精巧で





「まるで本物みたい、この蝶々…スゴい





"それほどでもない"なんて彼は謙遜するけど


キッド君に見せたら とても喜びそうなほど


左右のバランスがキレイで、何だか今にも
動き出しそうな蝶々だった





「でも君、本当にこれもらっていいの?」


大したものでもないけどさ…椿さんに
受け取ってもらえると、うれしいかな?」


「ふふっ ありがとう…お返しにこれ、どうぞ?





お菓子の包みを差し出すと、彼は両手で受け取って





「あ、ありがと!大切に食べあ〜腹減ったー!
おっ、いいモン持ってんじゃねぇかお前ら!!」






急に現れたブラック☆スターが 私達の手から

お菓子全てとチーズを奪っていった





「ちょっ…お菓子は返してよ!?


信者のモンはオレのモン!オレのモンは
オレのモンだぁ〜ひゃっはっはっは!!」



「僕の権利は全否定!?」





彼の手を避け、あの子は乱暴に取り出した中身を
一気に口に流し込んで噛み砕いて飲み下す







自分の分があるのに…どうして人のを取るのよ


君だって、悲しそうな顔してるじゃない





それでも気にしないブラック☆スターの手が

可愛くラッピングされたキリン模様の包みにかかる





「あ、待ってブラック☆スター!それはダメ」


気付いて顔色を変えた君が何か言いかけるけど
間に合わず、彼は中身を素早く平らげて







…次の瞬間 ものすごい苦悶の表情を浮かべた





マズっ!オエっ…ゴムくせぇぇぇぇぇ!!





黒っぽい塊をいくつか吐き出して、そのまま床に
倒れこんだあの子の側へ駆け寄った





遅かったか…パティの手作りチョコだから
ダメだって言おうとしたのに」


てめ…そう言うコトは、先に…言え…!」


「そもそも勝手に開けて食べてたブラック☆スターが
悪いんじゃないの…もう」





困ったように見ている君に謝りつつ、私は
ブラック☆スターの背中を優しくさする





パティちゃんに悪気は無いけど、彼女の作った
お菓子によって起こったコトはまだ記憶に新しい





…あんなに一気に食べちゃって お腹大丈夫かしら


後で、保健室行って胃薬もらってこなくちゃ







――――――――――――――――――――





事の顛末をから聞いて、ようやく私は
納得してため息を一つ





「なるほどな…椿もお前も災難だったな」


「いえ、いつものコトですし」





そう言って、この少年も年に似合わぬ苦笑い


…ブラック☆スターにも困ったものだ







「ちなみにナイグス先生は、死人先生から
なにかもらいました?」





素朴な問いかけに、緩く首を振って答える





「死人はこの手のイベントに関しては
頓着せんからな、ロクに贈り物をされた試しがない」


「そうなんですか…なんかもったいない話ですね」


「今更気になどしていない、それにこうして
生徒からの信頼の品ももらえたから満足だ」


言いつつ、私は机に置いた品へ目をやる





青いリボンで縛られた食品は 友人共々上がった
保健室の利用率とここの主となった私への感謝の表れ





「本当だったら、もうちょっといいモノを
渡せたらよかったんですけど」


「何、気持ちだけで十分だ」





努めて優しく返せば、髪の隙間から見えていた
一対の鳶色が横へと逸らされた





…死人もそう言えば 褒めたら照れていたな







ぼんやりと思い出に浸っていたら、保健室のドアが
開いて額を押さえた梓が現れる





全く…全員少し浮かれすぎだわ」


「梓が来るのは珍しいな、どうした?」


「少し頭痛薬でももらおうかと…君は
何故ココに?もしや…


メガネの奥の瞳が、鋭く机の上の品を捉える





あのっ!これは日頃お世話になってる先生への
感謝の印代わりで…あ、よかったら梓先生もどうぞ」


「ご機嫌取りのつもりでしたら必要ありません」


「そう言ってやるな梓、生徒からの純粋な
親切心というヤツだ…そうだろう?





チラリと視線を送ってやれば、うろたえながらも
頭を縦に振っていた





「…このようなモノを受け取ったからと言って
私が甘い顔をする、などと思わないように」


「わ、分かっていますって」





口では色々と文句を言っていたけれど


…生徒から品を受け取った梓は、案外満更でも
なさそうな顔をしていた







――――――――――――――――――――





ちょっと気落ちしてたトコロに 来てくれた生徒からの
サプライズプレゼントに嬉しくなって


青いリボンを解いて上の紙を外して…

出てきたモノに、意外さを感じた





「あら、ケーキじゃなくチーズなのね」


「スイマセン…お気に召しませんでした?」


「ううん、ちっとも!」





不安そうな彼へ笑顔を見せた直後


吹いた風に飛ばされて、足元に落ちた紙を拾い上げ





「わ、何コレ…私?


その拍子に広がった白と空白で 笑顔の私が形作られる





「ひょっとしてこの切り絵、が?


「はい…あの、手先はそれなりに器用なんで」





確かこの子は鋏の魔武器 だとしたらコレは
彼の手によるお手製のモノだ…


ああもう!





「そこまでしてくれるなんて、先生嬉しいぞ!」





愛を込めて 思いっきりを抱きしめた





あわわわっ!?ま、まままマリー先生!
あのっ、は、離してくださ…!!」


もう照れちゃって、本当シャイなんだから





勢いでホッペも突きたかったけれど、あんまり
からかうのも可哀想なんで適当なトコで解放した





「…あ、そうだ!ちょうど今さっきホットチョコ
作ったばっかだから、よかったら飲んでって!


「いやあのおかまいなく、僕は…うわっ







遠慮してるを半ば無理やりツギハギ研究所へと引っ張りこみ





ソファに座らせて、湯気の立つカップを持ってきた





「なんか、スイマセンね…」


「いいのよ 実はシュタインに休憩がてらの差し入れ代わりに
作ったんだけど、後でいいとか言われちゃってね」





モチロン抗議したけど、アイツは聞く耳持たない


ホットチョコは出来立てがおいしいのに、すぐに
飲んでもらえないなんて寂しいじゃないの


気持ちも料理もアツアツの内がいいんだから!





「せっかく作ったのに、ヒドいと思わない?」


「あー…きっと忙しいんですよ、博士だって
ひと段落着いたら飲んでくれますって」


「そ…そうよね!疲れた時には甘いものだし
バレンタインだもんね!さ、アツい内に飲んで飲んで!


「はい、ありがとうございますいただきま…アチッ!





ちょっと熱くしすぎたけど、おいしそうにチョコを
飲んでくれたの言葉に元気が出てきた







…後で、シュタインにもホットチョコを
あっためて持っていってやろう


ついでに切り絵も額に入れて、自慢しちゃおっと♪







――――――――――――――――――――





なーんとなく気が向いて お店に行く道を
少しだけ横に逸れてみたら


見慣れた亜麻色の頭とツナギの姿が見えて





「ニャーン、こーんばーんわ〜v」





目の前までやって来て姿を変えたら、見る見るうちに

ご機嫌な顔が不機嫌に早変わりしていった


…大人の女にその態度って 失礼しちゃうニャ〜





「そんニャつれない顔しないでよ〜せっかくの
バレンタインなんだし、ねっ?


「そうだな じゃ好きに楽しんでくれ」





とことん冷たい対応にもめげず、彼の行く先を通せんぼ





「待ってよ、ニャにか渡すもの忘れてなーい?」


「なんで俺がお前に贈りモンしなきゃなんねーんだ
どうせ客からもらえるだろ?」


「いいじゃニャ〜い、マカ達にはあげたのに
ブーたんだけくれないのぉ〜?ずーるーいー!



自慢のおねだりポーズでジリジリ距離を詰めてたら







逆に距離を開く…と思ってたけど、君は
渋い顔しながらポケットから何かを出す





「余りでよけりゃくれてやる」





素っ気ない言い方で渡されたのは、黄色い塊


申し訳程度に薄青いリボンがかかっているけど


形もニオイも見た目も 完璧にチーズ





「お菓子じゃニャいんだ」


「文句ならウチの店長に言ってくれ、いらないなら」


「くれるならもらうけど?」


「ああそう…酒と一緒に食えばそれなりに
イケるから、勝手に試せばいい」





珍しく親切だけど…不機嫌な態度が気に入らなくて







「ありがと〜君!」





ソッポ向くほっぺたにキスをあげたら、彼は
真っ赤になりながら顔を押さえて身を引いてた





なっ…い、いきなり何を!?」


「ブレアからのバレンタインのお礼♪

…この続きは 大人になってから、ね?


後半を耳元で思いっきり甘くささやいてから
硬直した少年の姿を楽しんで





チーズをしまい、猫に戻ってブーたんは気分よくお店を目指す








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:バレンタインなんでスタメン(女子)中心
様々な視点で語らせてみました…ら長くなりました


マカ:自業自得だけど…ブラック☆スター大丈夫だったの?


椿:先生からお薬もらって、ちょっと症状は
緩和してたみたいだったけど…


パティ:きゃははは、ごみ〜んに?


狐狗狸:ちなみにパティチョコには、チョコと
一緒に溶けたヘラの破片も混入されています


リズ:もって?!それもうチョコじゃない…!!


ナイグス:…一体どういう作り方をしたんだ


マリー:まあ、気持ちがこもってるなら多少
失敗くらいは目をつぶってあげましょうよ!


狐狗狸:多少…ドコロじゃない気も


ブレア:ブーたんもうちょっとバレンタインを
楽しみたかったニャ〜ちぇっ


狐狗狸:彼の反応で十分おつりが来るでしょうに




欧米式なので、恋人だけじゃなく親しい人同士も
男女間でならどっちからでも渡し合えます


様 読んでいただきありがとうございました!