冬になり、寒さが募ればデス・シティーにも雪は降る


月と太陽が交代し…朝を迎えれば


辺りはすっかり一面の銀世界と化していた





休日だと言うのもあって、死武専生は外に出る際
皆一様に温かそうな格好をしている


…たった一人の例外を除いて







「よーっす、ブラ☆スターお前そのカッコ寒くねぇの?」


おう!全然へっちゃらだぜ!!」


「せめてマフラーぐらいしなさいよ…全くもう
また風邪引いても知らないからね?」





呆れ気味に首をすくめるマカも、ふわふわの耳つき
ニット帽にマフラーとコートの完全装備


キリクも自前の黒い肌に似合うダウンを着ている


なのに、彼らの間に挟まれるようにして
一歩前に出ているブラック☆スターは


普段と全く変わらないノースリーブ姿だった





「オレ様が早々何度も風邪なんか引くかってーの
お前ら小物とは鍛え方が違わぁ!!」



「だといいけどな…にしても」


一旦言葉を切って キリクはざっと辺りを見回す





吐き出した息が白く染まるほど冷えた街中の
あちらこちらには、しっかりと雪が積もっており


小さい子供なんかは軒先に三段の雪だるまを作っている





「こんだけ積もってんなら、雪合戦とかやったら
面白そうだよな?」


「私はちょっとパスかな…」





運動が苦手なワケでもないが、どちらかと言えば
インドア派のマカは 外ではしゃぎ回るつもりも気分も無いようだ





…だが、もう片方はというとそうでもなく


"雪合戦"の単語を聞いた瞬間 ニヤリと年相応な
笑顔を浮かべて肩をぐるんと回しだす












〜La leggenda della spada sacra
"寒空、落し物、ご用心"〜












なんだったら今からでもやろうぜ!
おいマカ、ソウルとかキッド呼んで来いよ」


イヤだよ!ちょっ、キリクも何とか言って」


言いつつマカが顔を向ければ





「早速準備万端だなブラ☆スター!
よーし、オレもビリビリ燃えてきたぜ!!



ぺろりと唇を舐めて、手近な路面の雪をかき集め
雪球をこしらえるキリクが目に入った





なんでアンタも戦闘態勢に入ってんのよ!
そっちもおもむろにふりかぶんなバカ!って聞いて」


「オラァァァァァ!!」


「キャアアアァァァァ!!」





口火を切ったのは、ブラック☆スターの第一球


渾身の力がこもった剛速球をマカはスレスレで
かわしたので直撃を免れる





雪球はそのまま勢いと慣性の法則に従って


適当な建物の壁か地面に落ちて当たる…と思いきや







「うぐぶっ!?」





運悪く、通りに出てきたの胴体にヒットした







「おぉっじゃねぇか!ちょうどいい
お前も雪合戦に参加しろ!てーか参加者呼べ!!」






たちまち雪合戦を放棄し ブラック☆スターが
あっという間に距離を詰めて


身をよじる彼の背や頭や頬を容赦なく叩きまくった





痛っ、冷たっ!なんの話…てかブラック☆スター
そのカッコ寒くないの!また風邪引くよ!?」


「オメーもマカと同じコト言うんだな、オレが
そこまでヤワな男に見えんのか?」


「いやいやいやそういう問題じゃなくて…
せめて手袋くらいはしてよ、本当!」





戸惑いまくるツナギ姿へ、成り行きを見守ってた
マカとキリクも歩み寄って行く





「ちょっとちょっと何やってんのよブラック☆スター
まず謝んのが先でしょーが」


「えーと…そいつ確か、よくブラ☆スターに信者
なんだってこづき回されてる地味ーなヤツだよな?」


ひゃははっ!まあ信者だからなコイツは!」


「間違ってないけど…なんだかな」





豪快に笑う彼を、呆れ気味に見やっている様子に


顔の上半分が隠れているにも関わらず案外
感情の分かりやすいに軽い意外性を感じて


何気なく眺めていたキリクは…ある事に気がついた





「よく見りゃその服、この辺で見かける業者のロゴ入ってんな
…もしかしてバイトしてんのか?お前」





鋭い指摘に、ツナギ少年の表情が一瞬凍りつく


…既に何度も語っているが 死武専では
"原則・バイト禁止"となっている


ついでに言うなら指摘された業者は、認可されている
バイト先のリストには無い名前だ





「あーいやその…知り合いの人に頼まれて仕方なく
仕事の手伝いをしてるんだよね、今日だけだけど」


「あん?何しょうもねーウ…げぶっ


「そっかー大変だね君!」


察しがいいマカは、余計なコトを言いかけた
ブラック☆スターのわき腹ついて黙らせた







内心ヒヤヒヤしている彼女や目の前の当人とは裏腹に





「ふーん、単なる手伝いか」





キリクは特に気にした風でもなさそうだった





…己の興味の範疇外にあれば、得てして
他人の感想などこんなものである





「まあそうだね、と言っても今のトコロはまだ
少しだけ時間があるんだけ、…」





ホッとしつつ現状を説明していた


何故かそこで 唐突に言葉を途切らせる







んん?何だどうした信者?」


「どうかしたの?」


「あっちに何か変なモンでも」


不思議に思って、彼の視線を辿った三人は







何食わぬ顔をして杖をつきながら歩いている
へんちくりんな白い生き物
を目撃し


同じようにその場に固まってしまった





周囲の雪と同じ色をした英国風の帽子とガウンを着た
鳥みたいな顔の生き物は 二重丸の目玉で彼らを見やって





「ヴァカめ!誰がコックと言った!」


「な…ななな、何でテメーがいやがんだぁ!?





指差したブラック☆スターの絶叫に答えて





「そう私だ!挨拶が遅れたな諸君
私こそがエクスカリバーだ!」



生き物…いや、聖剣エクスカリバーは堂々と胸を張って宣言した







本来ならば"悠久の洞窟"にいるハズの魔武器が


デス・シティーに一人出歩いている、という
信じ難い事実が目の前に起こっているのだが





「あ、アンタなんでこんなトコロにいるのよ!


ヴァカめ!私の朝は一杯のコーヒーから始まる
私の午後はアフタヌーンティーにて始まる
そして夜は、パジャマになると決まっている

私の伝説が聞きたいかね?武勇伝が聞きたいかね?





率先して言い放ったマカの言葉と、彼らの疑問は


勝手すぎる聖剣のセリフによって吹っ飛ばされた





「誰もオメーの話なんて聞きたくねぇよバーカ」


ヴァカめ!君達に選択権など無い!!
さて…それでは伝説を語っていこう」


「「うぜぇぇぇぇぇ〜!!」」





間近で顔を合わせた因縁があるブラック☆スターと
キリクが揃って声を上げると


同時に最初の目撃者であるツナギ少年へ詰め寄った





「おい!オレが許すからこいつ刻んじまえ!!」


え!?いやいやいや気持ちは分かるけど無理!!」


「やる前から諦めてんじゃねーよ!職人がいない
コイツならオレらで勝てるかもしれねぇんだぞ!」



「だから勝手な無茶振りすんな二人とも!!」





最もな彼女のツッコミが飛び交うやり取りの合間にも







ヴァカめ!私の伝説は12世紀から始まった!」


エクスカリバーは勝手気ままに言葉を紡ぐ





「彼女は"双剣"と称され、この私が認めても
構わないほどの実力と美しさを兼ね備えていた」





…瞬間 戸惑っていたの顔色が変わる





双剣!?ちょっ、その話くわしく聞かせ…ダッ!


「ヴァカめ!これだから田舎者は困るのだ
私の伝説は黙って聞きたまえ!!」






強打された額を前髪越しに押さえる少年を無視し


強打した側のエクスカリバーは振り回していた杖を
一旦納めて、しばしその場に停止する







押し切られ、黙ったまま三人は彼の言葉を待っていたが





一向にしゃべり出す気配の無い聖剣に痺れを切らし
キリクが苛立ったように口を開いた





「おい、いつになったらしゃべヴァカめ!
思考の時間は必要なのだよ 綿密なプランも無く
闇雲に行動を起こすなどまさしく愚の骨頂極まりない!」



言葉を遮って、杖を振りかざしエクスカリバーは続ける





あれは若かりし頃の吹き荒ぶ嵐の日…いや今日のように
雪が静かに積もった日だったな、当時私はとても
重大な岐路に立たされていてね ああそうだ、もうすぐ
夏がやってくる蒸し暑さを感じていた


その時私に迫った選択は、とてもとても重大だった
それは周囲にとっても大きく影響する出来事でね

いや、影響どころではなく その後の人生や
国家の行く末にすら刻まれるであろう出来事だった

温かな春の日差しには不釣合いだった事を
私は強く記憶している…いや、違うな その日は
やはり秋もそろそろ終わりかかる嵐の前触れだった


その当時から、私には重大な選択を任されるだけの
知性が備わっていたとも もちろん美女達は
そんな私の知性に賞賛を上げていたさ

とは言えあの選択は私の知性を持ってしても
苦渋の決断だと言わざるを得なかったな
いや あの重大な選択は当時斬新な英断と言われていた
今でも言われている、その頃から徐々に知性があると
周囲に示されていた気がする


よくよく考えれば 私には既に知性が備わっていた
今でも知性があるが、その時の選択は重大だった

まぶたを閉じれば昨日のことのように思い出せるよ
あの重大な岐路を示唆するような冬の終わり…



そう、私の伝説は12世紀から始まった―





そうして十数分ほど言葉を並べ立てて





「…であるからして、つまりはこの事実をもって
守ってもらいたい1000の項目、その256
私のベッドのシーツはいつも清潔に。に繋がるのである」


「話の前後といい、全く関係ないじゃん…」


「ん、ヴァカめ!!」


『うぜえぇぇぇぇぇ!!!』





杖で決めポーズを取ったエクスカリバーを見る
四人の顔つきは、揃って苛立ちに歪む





そして前フリ無く踊り始める聖剣を前にして


顔を見合わせた彼らの心は…一つになった







「こんなウゼェのに付き合ってられっか」


同感、行こーぜ二人とも」


「じゃ私たちこれで」


「うん じゃーね」





全員一致でその場を離れる事を決意し、足早に
踊るエクスカリバーから距離を取る…が







「うぎゃっ!?」


ヴァカめ!歩く時は私の3歩後ろから
ついていくと決まっているのだ!!」







マカがそっと後ろを振り返れば、逃げ損ねた
聖剣に捕まっているのが見えた





「うわー…災難」





小さく呟いて彼女は 心の中でクラスメートに
同情しつつも、二人と共にその場を離れる









残された少年の仕事場は 運悪くも
三人と会話をしていた通りを含む周辺地域で


少しでも聖剣から離れる事は、かなわなかった





ヴァカめ!別れて数分待たずに会った記憶が
抹消されそうな君の意見など端から聞いておらん!」





おまけに仕事中ずっと、横から意味も脈絡も無く
話しかけられ続け 諌めたら即座に却下されるわ





「ヴァカめ!!」


ひたすらグイグイと杖を突きつけられたり
小突かれたりをくり返されるわ





「ぃエ〜クスキャリバァ〜エ〜クスキャリバァ〜
フロム ユナイテッドキングダム
アイム ルッキング フォー ヘブン
アイム ゴーイング ツー キャルフォルニアー」






更には後ろで歌いだすわ、その歌の感想を
無理やり言わされる羽目になるわで


当たり前だが到底 仕事に集中できるはずも無く







「ああもう…本当うぜぇぇぇぇぇ!





ブツブツと呟きながら、


当日になって一時間早まってしまった就業時間と
エリアの変更とを改めて恨めしく感じていた











……太陽と交代した月が 少し震える夜


再び外へと出てきたマカが、ふと思い出して
昼間別れた場所まで ついでに足を伸ばしてみたら





ちょうど、仕事が終わったとかち合った





「あ、マカ どうしたのこんな時間に」


「少し買いたいものがあってね…トコロで
あの聖剣はいなくなった?」


「あー…なんか、お気に入りのぬいぐるみを
落としたらしくて 見つかったら満足して帰ってった」





うんざりしたように、亜麻色の頭が力なく下がる





「大丈夫だった?アイツ、しつこかったでしょ」


「はは…まあ 流石にちょっと参ったかな
でも、こういうのは慣れっこだから」





見慣れた曖昧な笑みには 疲れの色が濃く混じり


それが彼が普段行っている"仕事"

今日一日の大変さを、何よりも物語っていた







「…ちなみに、気になってた話は聞けた?」





分かりきってはいるが、一応訊ねるマカ


は…当然 首を横に振って残念そうに答えた





「いいや、全く


「やっぱそっか…博士や死神様は"双剣"について
何か知っているのかな?」


「それが、文献が少ないみたいで探すのに結構苦労してるみたい
…死神様はここのトコロお忙しいようだから 相談し辛いし」


大変だね…あ、また降り出してきた」


「本当だ…風邪引かないウチに早く帰りなよ?
ソウルも、きっと心配すると思うし」







小さく首を縦に振ったマカは、去り際に


ポンと彼の肩を軽く叩いて 微笑んで言った





「……君、お疲れさまっ









その日彼にしては珍しく、ほっこりとした気分で
自らのオンボロアパートに帰ったのだが





「ただいまー…って誰もいな、痛!


ヴァカめ!遅かったではないか、グズグズするな
早くステーキを焼きたまえ ミディアムでな!」


「な、なんで僕のアパートに「ヴァカめ!!
私はステーキを食べ、そして夜にはパジャマに
なるに決まっておろう!」
うぜぇぇぇぇぇぇ!!





何故か聖剣に一晩中居つかれてしまい


翌日保健室で精神安定剤をもらうハメになったとか








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:今回の彼の"仕事"は外回り関係ってコトで

あと あんまりキリクとの絡みが無くてスイマセン
…これから、彼の性格も掴んでいくつもりです


キリク:BREW書くつもりあるんなら、マジで頼むぜ?
オレの初舞台なワケだし


ブラック:つかよ、雪合戦の決着はどーなったんだよ


狐狗狸:そりゃーあの場から退散した後で
適当にバトって決着つけたんでないの?


マカ:また適当な…それより何であの聖剣
君のトコにいたのよ?


狐狗狸:ぬいぐるみは取り戻せたけど、雪が降って
寒かったから宿代わりにしたんでない?


キリク:うわ…なんつーか、同情するわー


ブラック:全くだな、オレだったら即効で叩き出してるトコだぜ




当初は聖剣中心のギャグで行くつもりでした…
ウザさだけは、出てると思います


様 読んでいただきありがとうございました!