どれほど眠気をこらえてても 不思議と放課後を告げる
チャイムは耳に入って、頭を冴えさせる
『KILLコーン、カーンコーン♪』
いつもなら バイトの時間に間に合うように
急いで死武専を出て行くか
さもなくば若干の余裕を利用してちょっとでも
寝て身体を休めるんだけれど
最近は そのどちらでもない
「自分で決めたコトだけど…キツいな」
新しい授業の内容もそれなりに大変だけれど
シュタイン博士直々の、波長の訓練や
あの店長の荒い人使いに比べればまだマシだ
とみにタイトになっていくスケジュールについて
あまり深く考えないようにしつつ
最短距離で廊下を駆けてたら
いきなりムズムズとしたカユさが肌に広がってきて
ヤバい、と思って方向転換しようとしたけど
…遅かった
軽くぶつかった感覚があって
次の瞬間、気付けば明るい色の髪した
ショートの女の子が腕の辺りを抑えてた
「イッターイ」
黒髪のロングストレートの子が隣で彼女を心配してる
マズイ…よりによってこのタイミングで
キムとジャクリーンに出くわしちゃうなんて
「ゴメンよ」
一言であやまって 間を通り抜けようと試みる
でも、やっぱりダメで行く手をふさがれた
〜Rossastro marrone scoprire
"意外と普通はあなどれない"〜
「ちょっと待ちな、そっちからぶつかっといて
そんな軽い謝罪で済ませる気?」
「アンタどこのクラスのヤツよ!」
「君らと同じクラスなんだけど…」
心底"どうでもいい"と言いたげな視線が痛い
割合ぶっとんだ変わり者…もとい個性の多い死武専だと
僕は普通だからこそ 目立たないらしい
けど、初めて話すわけでもないんだし
もうちょっと覚えてもらってても
いいような気がするんだけどな…とため息
「とにかく!痛かったんだからぶつかった分の
慰謝料払いなさいよね!!」
ともかく目を吊り上げて、一方的に言うので
僕は思わずキムヘと返す
「いや、ちょっ…たかだかその程度で慰謝料とか」
「謝罪が少なかった精神的苦痛分も込みなら
それぐらい当然でしょ?」
「タチ悪っ、どこのチンピラマフィアの手口だよ」
「ぶつかって来たクセになにその言いぐさ!」
「あんま調子コイてると燃やすわよ?」
「いや僕は一般論として普通のコトを言っただけで
ケンカを売ったわけじゃないって!」
あわてて戦る気満々な二人へ弁解する
武器化した時の自分の身体の金属がなにかなんて
まったくもってよく分からないけど
熱し続けたら溶ける、間違いなく
それでもイライラしっぱなしな目で見られていたので
冷静をよそおって静かに言ってやった
「決闘でもないのに戦ったら、最悪退学になるよ?」
さすがに"退学"の二文字はコワいらしく
二人が言葉を詰まらせた
よし…ダメ押しで 更にたたみかけるか、と
精一杯カッコつけたポーズ取りながら
「僕としては君らみたいな可憐な子と一緒に
授業が受けれなくなるのは、ちょっと困るかな」
スピリット先生をマネて歯の浮くセリフで
笑いかけて、戦う気を失せさせる作戦に出る
「ハァ?
アンタみたいなのに言われてもキモいんだけど」
白い目で返された…あ、地味にキズつく
ポーズとか かなり恥ずかしかったのに…
「もうこんな地味男ほっといて行こ!キム」
「アンタ、覚えてなさいよ」
それぞれひと睨みして、キムとジャクリーンは
廊下からさっさと立ち去っていった
なんか…恨みもたれたっぽいけど
「そっちはロクに覚えてないクセに」
聞こえないだろうと、こっそり呟いてみせる
実を言うと 二人にパシられそうになったコトが
何度かあるんだけれど
断るその度に文句言われて
…けど、結局 顔も名前もやり取りも
どれひとつキレイさっぱり忘れられているか
よくて うろ覚えされてるか
あの二人に根に持たれても困るけど、やっぱりちょっとは
覚えてほしいような気も
「ええと…君っ!君っ!」
「うわぁっ!?」
いきなりの呼びかけに、心臓が飛び出しそうに
なりながら後ろを振り向けば
これ以上ないってぐらい必死な顔したオックス君が
珍しく、小走りでこっちに近づいて来ていた
「え、お、オックス君 そんな血相変えてどうしたの」
「どうしたもこうしたもありませんよ!
僕は今、君に問いただしたいことがあります!!」
言うなり更にものスゴい勢いで近寄られ
とんがった二本の黒いツノ…もとい髪の毛が
刺さりそうで軽くのけぞる
顔近っ…てーか僕、なにかしたっけ?
心当たりなんて全くない、そもそも彼と
言葉を交わすコト自体がめったにない
オドオドしてるこちらにはお構いもせず
オックス君は顔を真っ赤にして、彼にしては
珍しいくらいの剣幕でこう言った
「きききキムとさっき一体何話してたんですか!?」
「…は?」
「とぼけないでください!僕はついさっき
君がキムに向かって甘い言葉をささやいていたのを
この耳でしかと聞いているんですよっ!?」
その一言でなんとなく この状況の原因を理解した
「あー…聞かれてたのか
あのさオックス君、それにはワケがあるんだけど」
「どんな理由ですかっ!」
「OK、キチンと話すから
まずは落ち着いて聞いてほしい」
手を前に出して 相手をなだめながら
ちょっとだけ距離を取って 僕は説明を始める
話してた…というよりかは一方的にからまれた
先程の自体と、会話の流れ
ついで彼が"誤解"した疑惑のセリフについても
あくまで余計な争いを抑えたいがために
とっさについてしまったモノで
特別な意味はなにもこもっていないコトを伝えた
落ち着いて 改めて考えてみても
僕のあの判断は、悪くなかった…ハズだ
正直に話したのが功をそうしたのか
オックス君はホッとしたように息をつき
メガネを片手で軽く持ち上げた
「そうですか…ならよかった
僕はてっきり二人で仲良く愛を語らっているのかと」
「安心してよ、それはないから
僕はどちらかと言うとキム苦手な方だしね」
「それはまた どうして?」
「そりゃーお金にうるさくてがめついし、口も手クセも悪くて
相方ともども性格キツイ上に時々えげつないコト平気でやるから」
あと近寄られると なんでか肌が妙にカユくなるし
顔を合わせると ほぼ必ずと言っていいほど
からまれるから、積極的に関わりたくない二人だ
(主に家計的な理由で)
「アレは将来、男や周囲への理想が高すぎる
ヤな女になってそのウチ泣きを見るタイプだね」
個人的には早めに痛い目にあって、相方共々
少しばかりタイドを改めてほしいと思う
陰口なんてよくないけど…他人だしいいか
ちょっとグチを吐いて、スッキリした気分で
その場から立ち去ろうとして
「聞き捨てなりませんね」
僕の行く手を遮るように立ちふさがった
オックス君が、さっきよりも強く迫っ…
だから 顔近いんだってば!!
「言動の撤回を要求します、キムは品行方正じゃ
無いかもしれませんが それをひっくるめても
天使のように無邪気な子なんです」
「天使って…どっちかというと小悪魔じゃ」
「分かってない!君は彼女の可愛さを
全然皆目一ミリも分かってない!!」
「えぇっ!?」
「いいですか、彼女がお金に固執するのは自立と
自活のためであり しっかりとした将来のビジョンを
見据えた上でのキムなりの備えで」
な、なんだか分かんないけどキムのミリョクについて
力説しだしちゃったよ…って
さっきのやり取りで取り乱した様子といい
ひょっとして ひょっとしなくてもコレは…
「ねぇ、もしかしてオックス君て
…キムのこと好きなの?」
「モチロンです!」
聞けば自信満々、きっぱりと言い切ってくれた
…予想通りって言えば予想通りの反応 かな?
「それって本人にも伝えてあるの?」
「もうとっくに告白してあります…けれど恥ずかしいのか
いつも "億万長者となら付き合う"とはぐらかされてしまいますね」
遠回しに断られてない?ソレ
言おうかと思ったけど、多分聞いてくれないだろうと
確信してたから言わなかった
「無論、僕はこれも彼女からの愛の試練だと
理解しておりますけどね」
「愛って…人に対して毎度キツイ一言しか
浴びせてこないような子が、ねぇ」
「キムは負けん気が強くて 少しだけ素直に
なれないだけなんですよ!」
好意的に考えれば…そうかもしれない
別に僕も強気な子はキライじゃないんだけど
それにしたって、限度があると思う
パティくらいのやんちゃさだったなら
まだ救いというか可愛げがあるんだけどなぁ…
少しは椿さんのおしとやかさを見習ってほしい
特にジャクリーン(黒髪と武器つながりで)
「てゆうかさ…オックス君は、キムのどこが好きなの?」
聞けば彼は、いっそ誇らしげに胸を張って答えた
「全部に決まっています!
けれど一番は、やはり笑った顔でしょうね」
「そっか…それは見てみたいかも」
イジワルとかで笑うんでなく、女の子らしく
楽しそうにキレイに笑った顔なら 見てみたい
もっとも、キムとジャクリーンの二人が
僕の前でそんな風に笑ってくれる日がくるなんて
到底思えないけれども
「き…君っ、やっぱりキムを狙って」
「いないから」
「ですよね…まあ、君がライバルとなったトコロで
愛情の強さで負ける気はしないしありませんが」
なにげに失礼だけど、真剣に迷いなく愛を口に出せて
行動できるオックス君も ハッキリ言って変わってる
マカやキッド君とは また違ったマジメさだけど
独特のヘアスタイル同様、一本芯が通って見える
だけど…立派な"死武専ならでは"の変わり者だ
ちょっと前なら テキトーに返事して逃げてた
でも…今は、変わり者と付き合うのも悪くないと
思っている自分がいる
「そっか それじゃ僕はこの辺で」
―けどそれは、時間に余裕があったらの話!
ダッシュで廊下を駆け抜ければ、怒られはするが
なんとか間に合う と一歩踏み出しかけて
オックス君がまたしても行く手を阻んだ
「お待ちなさい君」
「いや、僕は行くトコロがあるから
悪いけど用事ならまたの機会にしてもらえないかな」
「いいえ、用ならすぐ終わりますよ
先程のキムに対しての暴言を撤回していただきます」
「って まだ覚えてたのかよソレ!」
反射的につい声に出せば、彼はメガネを指で
押し上げつつ"知将雷王ですから"、としたり顔
いや、そんなムダなトコロでカッコつけられても…
「分かったよ、僕が悪かったです…これでいい?」
「今ひとつ誠意が伝わりませんが、まあいいでしょう
…それにしても 一体どうしてそんなに急ぐんです?」
逆に訊ねられて 僕は口ごもってしまった
遅れたらシュタイン先生平気で訓練のノルマ増やすし
バイトにも差し支えてくるのが理由なんだけど
その辺りを彼に説明するのは、ちょっと…
どうごまかすか、と ちらちら泳がせていた視線が
いつの間にかオックス君の後ろにいた
ハーバー君のそれと合った
「彼にも事情があるんだろう?オックス君」
「ハーバー君…それもそうですね
引き止めてしまってすみませんでした、君」
「あ、ううん 気にしないで」
二人に軽くあやまって、隣をすり抜けて
すれ違いざまに、ハーバー君と再び目が合う
オックス君のパートナーで、真面目だけどすごく冷静
でも彼が感情を面に表したトコロを見たことがない
ましてや普段からバイザーつけてるから
表情なんて余計に分からないはずなのに
ハーバー君のソレは、はっきりと僕に…いや
僕の現状を理解して同情しているように 見えた
気のせい…だよな、と思いながら
振り返らずに シュタイン博士の元へと駆けた
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:一応原作準拠なんで、キムとジャッキーの
ポジションは何気に険悪…てか何でケンカすんの?
キム:何ていうか、ショボそうだし地味だし
見ててこう…なんっかイライラするのよアイツ
ジャッキー:顔半分隠してスカしたツラしてんのが
気に入らないのよねーそいつとか
ハーバー:大きなお世話だ
オックス:それにしても…彼はいつもどうして
あんなに忙しなく移動するんでしょうね
狐狗狸:若人には色々あるのだよ
マカ達とはまた違ったやり取りをさせてみました
意外と香ばしいキャラしてますよね?オックス君
様 読んでいただきありがとうございました!