死神武器職人専門学校―通称"死武専"


死神のための武器、デスサイズを作るべく


職人と武器はそれぞれパートナーを組んで
日夜悪人と戦い 魂を集めている





…しかし 死武専でも波長や巡り合わせのせいか


ペアやコンビを組めない者も存在する





「早いトコ正規のパートナー欲しいぜ…で
今回組むヤツどこにいんだ?」


「…すでに来てるんだけど」





すぐ隣に来ていた自分に驚く少年を見て


は、慣れた様子で小さくため息をついた







体力・持ち技・性格に波長…どれ一つ取っても
突き出た部分が無く、かといって特別劣っているわけでもない


相応の努力はすれど 目立たぬ自分に対して

あまり不満を持たずどこか納得している彼は


クラスメートや教師から見ても影の薄い存在である





ある日を境に 一部の相手にはそれなりに
存在を認識されるようにはなったものの





あー、いたのね ゴメンゴメン」


「お前って前夜祭パーティー参加してたっけ?」


「あの襲撃にドジ踏んで巻き込まれた人だよね?」





相変わらず印象は弱く、その点も災いしてか


"正式な"パートナーとして組んでくれる職人は
未だ現れていないようだ







「組んでくれる人、まだ見つからないんだ〜大変だね」


「探すヒマも中々なくてさ」


「バイトばっかりしてるからじゃねーの?」


「…リズさん それは言いっこなしだよ」





友人との会話に打ち興じつつも、雇われ庭師として
鋏化した手先を動かす事は忘れていない





―そんな少年に 一つの転機が訪れる












〜Status normale
"目立たずしぶとく強かに"〜












武器化したの、亜麻色の柄を片手で握り


頭上に持ち上げながら 不安げにヒーロが言う





「ハサミと組むの初めてだけど…よろしく


『…こちらこそよろしく、ヒーロ君』







たまたま お互いフリーで組む事になったヒーロは


整ったルックスと少年らしい野心、そして
見合わないヘッポコな実力の持ち主で


周囲からは パシリとして扱き使われる日常を
過ごす ある意味不遇のキャラである





組んだ直後からも、彼は他の生徒に小突かれていた





「おいヒーロ、ちょっと金貸してくれよ」


そのうち絶対ぇ返すって オラとっとと出せよ」


「わ、分かったよ…いくらで」


いつもなら、取り出された彼の財布から紙幣や
コインが消えて行くのだが





「って それカツアゲじゃん」


彼らの間に割って入ったツナギ少年が それを阻止する





あんだよ 横から口出しすんな つーかお前誰だよ」


「彼と組んでる魔武器だよ一応…てか
さすがに先生にバレたら、補習じゃすまないよ?」


「うるせんだよこの野郎!」





ミエミエな顔狙いの一撃を
かざした腕を鋏化させ、盾にして防ぐ





「痛ってぇ!」


「そりゃハサミ殴れば痛いって」





拳を抑えた少年が、怒りを込めて彼を睨む







だが刹那漂った 今にも決闘が起こりかねない
不穏で物騒な空気は





「生徒間の勝手な私闘は慎みなさい!」





駆けつけた梓の一声によって、不満ながらも
従った少年達と共に雲散霧消していった







「ケンカにならなかったからよかったけど…
君、結構無茶する方なんだね」


「んー、さすがにお金巻き上げんのはやりすぎかなって
思っただけなんだけど…メーワクだった?





金色の髪が、ゆっくりと左右に振られる





「…いや、助かったけどさ」


「そう それならよかった」





安心したように はにかんだ相手を不思議げに眺め





「顔隠れてるのに、意外と表情豊かなんだね」





おかしそうにヒーロもクスリと笑みを浮かべ…


その直後





唐突に、"軽いあせもに罹ったようなむず痒さ"
肌に走る感覚を覚えて





「隠れて!」


人が変わったように慌てだす少年に釣られて

両者が手近な物陰に隠れ





程なくして…キムとジャッキーの二人が現れる





アレ?ヒーロのヤツいないじゃん」


「せっかくジュースとパン買ってこさせようと
思ってたのに、どこ行ったのよ もう…」







不満そうな面持ちで、しばし辺りを見回して


けれども目当ての人物を見つけられずに
少女達は立ち去って行く





「どうやら、気付かれなかったみたいだ」


「…君すごいね あの二人が現れるのが
どーして分かったの?」


「なんとなく…かな」





説明するのも面倒で、なおかつ信じてもらえる
確証も根拠も全く無かったので


その辺りは曖昧にぼかすであった









…この日から、多少反発が出来るようになってか
ヒーロがパシられる回数が減り





武器としての性能も波長も悪くないとのペアで


お互いの力量が上手く釣り合って増幅され
魂狩りのノルマなどに好成績を挙げ始めていた





「僕ら、ひょっとしたらいいパートナーになれるかもしれないね」


『…そうなったらいいね』





若干 形状による扱い辛さなどはあれど
二人の言葉に偽りは無く


このまま すんなり鋏職人コンビが出来上がる





…かのように思われた







悪役の武器みたいなビジュアルだから
不安だったけど、意外と強いんだねって」





きっかけとなったのは、このたった一言





ヒーロとしては特に悪気無く口にしただけなのだが


密かにその辺気にしてた本人には
ささやかながらも余計で、ちょっとイラっと来て





―次の瞬間





「イタっ!」


短く叫んだ彼の手の平から 鋏が取り落とされた





『痛っ…ど、どうしたの?ケガ?


「いや ケガじゃないんだけどイキナリ
手の平に刺されたみたいな痛みが…」





言いつつ両手を広げてみせたヒーロの言う通り


まっさらな肌色の、少年にしては造りの整った手の平には

傷口一つ 裂け目一筋 血液一滴たりとも見当たらない





ホントだ…でもまあ、気にするコトないよ』


「ふーん…そうだね」


納得したように、彼はを拾い上げる





…本当は一つだけ原因に心当たりがあったのだが


魔鋏は、敢えてそれに目を瞑った









派手な活躍こそ無いものの、にわか鋏職人コンビは
安定した実力を持って成長を続け


一気に三つ星…とまでは流石に行かないが


一つ星職人の間では中堅クラスとなるくらいには
妥当な成果を見せ そこそこ評価はされていた





…だがしかし、実力が認められてくると


徐々におごりが出てくるのが 人間である







「何だか月並みだなー、面白いコト言えないの?」


「よく言われるよ まあ僕なりに努力してみる」


「振り回すのが不便だと技出るの遅いよね
もうちょっとタイミング合わせてくんないかな」


『ゴメン、今度は素早くやってみるから』


「前髪ダサいから切ったら?ついでに言うと
ツナギでいるの止めてくんない カッコよくないし」


「そこはカンベンしてほしいな、一応こだわりあるんで」


毎度毎度、放課後どこに行ってるのさ
武器のクセに勝手に職人の側から離れないでよ」





次第にヒーロが増長を始め、パートナーに対し

性格や攻撃のダメ出しに口出し 転じて不満を吐き出し始める





それに紛れて 原因不明の"刺すような痛み"


時折から徐々に 加速度を増して頻度を高めていく





…けれども、どれだけ理不尽な物言いをされても


はパートナーへ謝りなだめすかし
ひたすら我慢を重ねていた







―魂の波長・性格としての波長が合わない職人と武器では


互いに"拒絶反応"を起こし 共鳴や通常の戦闘に
悪影響を及ぼす事が往々にして起こる





それは先天的なものばかりでなく、既に組んでいる
相手同士であっても 簡単に引き起こされたりする





今回の場合、我を押し通す職人に段々と
武器が辟易しつつあるのだが


組んで 早々打ち解けられると考えてはおらず


"固定のパートナー"を諦めきれる程 割り切った
性格をしているワケでもなかったので





ソリが合わずとも、決別を言い渡されるまでは


長い目で付き合う心積もりでいた









…そんな彼の小さな努力も空しく ある日





「おいヒーロ、ちょっと技の実験台になれ」


絶対ヤダ 前々からブラック☆スターの横暴に
つき合わされて…痛たたた!何すんだ!」


「ゴチャゴチャ言わず黙って付き合…ってオイ!
何逃げてんだゴラアァァァ〜!!


無理やりに技をかけようとするガキ大将から
必死に逃れたいじめられっ子が





「も、もう怒ったぞ!僕だってやられっぱなしじゃ
ないコトを証明してやる!決闘だ!!






バイトへ行こうとしていたツナギ少年を盾にして
精一杯の反抗を試みたので





「信者と二人がかりでオレに勝つつもりか?
ヒーロのクセにいい度胸だ!まとめてぶっ飛ばーす!!


「やっ…やれるものならやればいいさ!」


「ちょっ、僕を巻きこまないでよ二人とも!





非難の声も、聞く耳持たない両者には届かず





あっという間に死武専敷地の適当なエリアで


立会いの教師つきの、決闘のお膳立てが整ってしまった







「ひゃっはあぁぁ〜☆一丁もんでやるから
どっからでもかかってきやがれ小物どもぉ!!」






既にやる気満々のブラック☆スターが上下に
軽く飛び跳ねながら挑発し


踏み込むタイミングを伺うヒーロへ 武器化した彼は


未だ必死に説得を続けている





今からでも二人であやまろう!
僕ケガするのヤだし、君だってそうだろ?』


「今更後に引けるもんかっ、自分だけさっさと
逃げようとするなよパートナーだろ!?


『僕にだって都合があるんだってば!』





むろん、恐れているのは怪我<バイトへの支障 なのだが


原則禁止の校則違反を 大っぴらに口には出来ず


武闘派で名高い相手に正面きって戦う、という

負け確定のバトルと その無謀に敢えて挑戦する者を
見物しようと集まったそれなりの観客に





精神的にも時間的にも は追い詰められていく







「来ねぇならこっちから行くぞオラぁ!」





一呼吸で間合いを詰め、急接近した拳を紙一重で
かわすものの 反撃はやすやすと避けられてしまう





『戦いたいなら明日付き合うから、今日はホント
カンベンしてよ 頼むよ…!


「武器なら黙って協力するもんだろ!」







ハンデのつもりか あちらの攻撃はいつもより格段弱い


にもかかわらず、挑戦者は翻弄されて防戦一方





それが戦いたがらないパートナーへの苛立ち

より一層 拍車をかけてしまった





「もう使いづらい…君と組んだのは間違いだった!
コレならあのウザイ聖剣の方がよっぽどマシだよ!!







普段の彼ならば、我慢出来たハズのその悪口は


つもりつもった不満と、差し迫った状況の狭間で
踏ん張ってた精神へ限界を感じさせるに


十分すぎる 追い討ちだった







「いっ…たあぁぁぁ!?」


非じゃないほどの激痛が走り、ヒーロは思わず
握っていた柄から手を離す


間髪いれずにブラック☆スターの蹴りがキレイに入り


職人が吹っ飛ぶと同時に、反動で武器も中空を舞う





蹴り飛ばされたヒーロが、少し離れた地面に転がって


呻きながら辛うじて立ち上がったトコロで





半開きの魔鋏が 刃をにして落下し





「うわあぁっ!?」





光の軌跡を縦一文字に刻んで地面に突き刺さる







目と鼻の先スレスレに落ちた武器から後退りながら

ヒーロは文句を吐き出す





「どっ…どこに着地してんだよ下手クソ!
もう君とはパートナー解消」



だ、と言い終わると同時に小さな線が縦に走り





彼の着ていた服が はらりと左右に分かれた


「なっ…ななななななぁぁぁ!?





鋏から元の姿に戻ったが、周囲に散った
衣服の残骸をかき集めて パンいちのまま戸惑うヒーロへ渡す





「ゴメンね僕が悪かった…君が別れたいなら
それも仕方ないけど 最後にひとコト「何さっ」


真っ赤な顔で睨む、相手の耳元へ口を寄せ





…彼はボソッと呟いた







「別れギワにパンツが残っちまって
君の祖○ンさらせなかったのがザンネンだよ」






必死に身体を隠そうとしていた動きが 固まる







……あの落下の数瞬、彼は意図的にコッソリと


自らの技を 職人の服に向けて行使していたようだ





「君、あれ…わざ「そのままだとカゼ引くよ?」





起伏無く遮って 浮かべたの笑みに


どこか背筋を薄ら寒くさせる冷たさを垣間見てしまい





青ざめた顔で、ヒーロはあたふたと逃げ出した







特に呼び止めないでその姿を見守り


"相方であった"魔鋏は、ため息を一つ





ハハッ、ヒーロの奴パンいちが恥ずくて
あわてて逃げてきやがった!」


「ヘタレヒーロじゃ当然か!!」





一拍遅れて、逃げ出したヘッポコ職人を
笑い出す周囲のギャラリーは


彼の呟きも、満足そうな顔にも気付かない







三々五々に散っていくギャラリーに紛れ

バイト先へ急ごうとしたの肩へ





腕を回して抱きつき、空色ツンツンヘア少年は
ニヤケ面で覗き込む





「えーと、決着はついたよね?ブラック☆スター
もしかして 泣いてあやまんなきゃいけないとか?」


「オレ様が敗者を必要以上にいじめる小せぇヤツだと
思ってんのか?信者のクセに」



「思わないけどさ じゃあなんで笑ってるの?」


「…地味なりにいい捨てゼリフ言うじゃねぇか
あとお前、案外サドだな!」





亜麻色の前髪で半分隠れた顔が、イタズラっぽく笑む





「…なんのコト?僕は平凡な一般人だけど」








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:若干パラワ混じりにヒーロとの掛け合い
やらかしてみました…時期は元ネタの聖剣伝説2話
前後のつもりで適当に書いてます


ヒーロ:納得いかないよ、何で僕がこんな役割なのさ


狐狗狸:別に憎くてやったんじゃないよ、私の中で
実力つけたら調子乗るくらいには普通に野心家

…ってのが君のイメージだと思っただけだから!


ヒーロ:いいじゃないかちょっとくらい!大体
彼の取っつきづらい態度とか隠し事多いトコだって
問題だと思わないの?


ブラック:そこに関しちゃオレ様も同感だぜ!


狐狗狸:…まあ、ソレがスタンダードであり
固定パートナーが未だにいない要因の一つでもあるね


ブラック:地味な信者はどーでもいいとして
ヒーロ テメェ負けたんだから実験台付き合いやがれ!


ヒーロ:それはイヤ…ぎゃあああぁぁ〜!!




いつか"本音"でぶつかれる"相手"が、彼らにも…?


様 読んでいただきありがとうございました!