十月は、季節のせいなのか夕暮れくらいになると
ひょっこり月が顔を出し始める


ツナギでいても冷えこむようになってくる


カボチャの売れ行きやお菓子の売れ行きが増えて

子供はどことなくウキウキした顔つきになる





「…って、僕も子供だっけ」


「何ブツブツ言ってやがんだ
とっとと荷物運んじまえ!!


「分かりました!」





けど忙しさが増してくる以外に 僕の生活には
取り立てて変わりはなく


そんな現状に、特別満足も不満もないまま一日が終わる





―けど 今日は少しだけ変化があった







「相変わらずクソ真面目に労働にはげんでんなお前
教室いる時とギャップありすぎだろ」


「…外でそーいうコト言わないでよ ソウル」





一応文句は口にするけど、彼はいつものように
少しイタズラっぽく笑いながらこう返す





あん?オレならマシな方だろ、ブラック☆スターに
見つかってみ?大声で騒ぎ立ててくるぞ」


「そう言われればそうだけどさ」





程度の問題じゃないんだって





「つか今更隠す必要あんのか?死神様から
許可もらってんなら バレても大してお咎めないだろ」


「でも規則は規則なワケだし困るんだってば
…で、ソウルはどうしてここに?」





なんの気なしにたずねてみると、茶化すように
にやけてた顔が若干ひきしまった





「まーちっと考えゴトがあってな、気分転換に
外ブラついてたんだよ」


「それって…マカのコト?


「…特にそう言った覚えはねぇハズだけどな」


「気にさわったならあやまるさ…だけど
あながち間違いでもないんでしょ?」


ソウルは頭をかいて、ため息を一つ落として黙った












〜Lungo per divertimento
"ランタンのように灯る些細なきっかけ"〜












普段、そっけない言い方や悪ふざけが多いトコが原因で
よくケンカが耐えない二人だけど


なんだかんだ言いながらも パートナーのコトを

彼は自分のコトのように気にかけてる





チェコでの授業から戻って来た時だって


保健室のベッドで寝たきりのマカを 始終付きっ切りで
メンドウみてあげてたくらいだ





側にいる分、彼女になにかあったら真っ先に
行動を起こすに決まってる







…とはいえ最近は、ハタから見てる分じゃ
特に深刻な悩みを抱えてる風でもなかった気はするけど





「なあ、ヒマが取れるんなら
少しグチに付き合ってくれよ」


「え、いいの?」


白々しいヤツだなお前、どーせオレが何を
考えてるか聞きてぇんだろ?バレバレだっつの」


「ははは…」





苦笑いしながらも、ちょっとだけホッとした


ソウルは言いたくないコトや言われたくないと
思うコトを 簡単に口にはしない男だから











ひと段落して休憩をもらって


近くのベンチに人一人分の空間を開けて座った僕は





聞いたばかりの"悩み"をそっくりそのまま言い返す





「ハロウィンにうってつけの、イカす仮装?」


「おうよ、マカの奴が今年のハロウィンは
やたら乗り気で張り切っててよぉ」


「ふーん そうなんだ」


「でだ、ウチでパーティー開いてバカ騒ぎをするから
オレも参加する仮装考えとけって言いやがった」





両足を投げ出して、呆れまじりにソウルが吐き出す





「おまけにこっちの意思まるで聞かねぇで飾りつけだの
なんだの手伝わせようとしてくるから フケてきた」


「…ハロウィン、キライなの?」





重めのため息と共に、言葉が返ってきた





「気がノりゃ騒がしいのもアリだが、菓子を強請ったり
化け物のマネすんのがいまいちガキくせぇんだよな…」


「そりゃまた珍しい」


お前、ガキならみんなハロウィンが
無条件で好きだとか思ってるのか?」



「ご、ゴメン 仕事の合間とかでそーいう子供を
よく見かけるコト多くってさ」





言えば、やや濃くなった不機嫌さがちょっと和らいだ







感謝祭のある十一月の最初の日は、"聖人"と
呼ばれてる人や そう呼ばれてた人をまつる祝日


その前夜祭みたいなモノが"ハロウィン"だと聞いた





中身をくり抜いて火を灯したカボチャが飾られて


カボチャのある家に、変なカッコした子供が

ドアを叩いては呪文みたいに みんなこう言う





"Trick or treat!(お菓子くれないとイタズラするぞ!)"





死武祭もあって、世界中からの注目を集めるから


デス・シティーでは大人も子供も盛大かつ
大っぴらに 仮装やこの行事を楽しんでいる


その光景は見慣れたけれども いまだになじみはない







「そーいう台詞が出るってコトは、どうせ
ハロウィンに参加した記憶はねぇんだろ?お前は」


「時期が時期だから…それでソウルは
どうするつもりでいるの?」





銀色の頭が、ゆるく左右に振られてうな垂れる





「同じアパートにいる以上、断んのは余計に面倒だ
多数決じゃ女二人に勝ち目もねぇしな」





文句は言うけど、結局参加はするつもりらしい


だったら僕はこういう場合 彼が仮装するカッコを
一応提案しておくべきなんだろうか





なんて、ぼんやり考えてたのが伝わったのか





、お前だったらこういう事態に
例えばどういう仮装をする?」



向こうから話題を振ってこられた





「うーん…カボチャの飾りモノを頭にかぶって
マントをはおってみるってのは」


「んな使い古したダセェカッコはゴメンだ
ついでにカボチャ関連はダウトな 全面的に」





即効で却下された上に カボチャをダメ出しされるとは





「イヤな思い出でもあるの?カボチャに」


「カボチャはなー…ブレアの魔法を連想すんだよ」





げ、よりによってあのエロメス猫かよ


どんな魔法かは想像出来ないし、したくない


むしろ想像した分だけカボチャに殺意抱きそう





「どんだけ魔女キライなんだお前は」


「え?」


「今さっき、モロ顔に出てた


「…マジで?」


「ああ、マジ」


気付いてなかった…注意しとかないと
まだ仕事残ってるんだし





「ついでに聞くけどさ、ハロウィンパーティーって
…ブレアも参加するの?もしかして」


「いや、ブレアの奴はキャバクラで働くんだと
これからの時期は稼ぎ時らしいからな」





抜け目がないヤツ…けどまあ、その辺りはどうでもいいか







息を吐き出して、改めて仮装について考えてみる





化け物のカッコで思いつきそうなのって ドラキュラとか
道化とかシーツお化け、くらいか





「話を戻すけどさ…無難なトコでドラキュラなんてどう?
君スーツ似合うし」


悪くはねぇけどヒネリもねーな、前の授業で
出くわしたバーテンのがまだパンチ効いてたぜぇ?」


「それってたしか…事故で死んでもなお
自分の店でカクテル作ってたゴーストだよね」


「そーそー ガイコツみてぇなツラしてボロい店で
陰気なブルース流しながらシェイカー振ってたからな
並のガキならチビるなありゃ」





僕らにとって今更ゴーストは珍しくもないけど


実際目の当たりにしたら、それはちょっとコワそうだ







…ふと、なんとなくソレをたずねてみたくなったのは


連想と気まぐれから来た好奇心のタマモノだろう





「ソウルってさー…音楽には詳しいの?」





たまにリズさんとレコードの話してるトコロを
見かけるコトもあったから 本当になんとなく





唐突な質問に赤い目が丸くなって


それから、少しだけうれしそうな笑顔に変わる





それなりにはな、ファンクとかもいけるが
オレのオススメはジャズだな お前何聞くよ?」


「僕は…特には」


「つまんねぇヤツだな、気になるなら
今度レコード一曲貸してやろうか?」


「あー…うれしいけど、僕のアパートには
蓄音機ないんだよね」





主にお金と、防音の関係上





「しみったれてんな…だったらウチに聞きに来るか?
マカがいる時にゃ大きい音じゃ聞けねぇけど」


「じゃ、ヒマがあったら立ち寄るよ」


「ないなら作ればいいじゃねぇか」





ごもっともな意見に、苦笑いしか返せないので
早々に話を戻す方へつとめる





「ともかく、仮装のカッコならさ ガイコツとか
バーテンのゴーストでも問題ないんじゃない?」


ほーぉ、そこまで言うならお前が責任とって
カクテルのレシピ教えてくれんだろーな?」


「悪いけどそれは本職でないとムリだって」





掃除と給仕だけしかやらない下っ端には
シェーカーを振らせてはもらえな…


「てか、飲むつもりあんの?


「何マジになってんだ、言葉のアヤだ言葉のアヤ」





からかうような軽口で言われると、かえって
うさんくさいのは なんでだろう





飲んだらマカがうるせぇだろ だから飲まねぇよ」


「そこまで念を押さなくても」


「疑わしげなツラしてこっち見てたろ、バレてんだよ」





…自分はここまで分かりやすいリアクション
取るタイプだったっけ?と思いながらも


ビミョーに眉間にシワよせたソウルへ
ついついフォローを入れてしまう





「ゴメンゴメン、僕らが大人だったら堂々と酒場で
ワインとかリモンチェッロが飲めるんだろうケドね」


「まあな…しかしワインって 案外気取ってんな
ビールやウィスキー辺りが定番だろ?そーいうのは」


「え、そう?…ああ そうだよね」





ごまかして笑ってみせるけれども





つい頭を掠めた光景が、口をついて出た拍子に


押しこんでたイメージと一緒になって 連想に引きずられて
頭の奥底から……這い出してくる







スーツ姿のガラの悪い男がたむろする酒場の

ホコリくさく薄汚れた床 こぼれた酒や油のシミ


顔を蹴り 踏み抜くクツ 節くれだった固い拳を
浴びながら見上げた カビで黒ずむ安手のテーブルに椅子


すえたニオイ つんと鼻を刺すようなアルコールのニオイ


辺りに飛び散る赤い血 肌にこびりついた赤茶けた汚れ
痛みと共に噛みしめた砂の感触





棚に並んだ安ワインのビンを抱えて、スミでひたすら飲んでた


チョビひげで目のクマの濃いガリガリの男…






『こんなトコで油売ってんじゃねぇぞ !』









ガッ、と肩に腕を回されて 僕の意識はようやく

故郷での思い出からこっちへ帰ってきた





「話振っといてボーっとしてんじゃねぇよ


「あ、ご、ゴメン…つい休憩の残り時間とか考えてて」





我ながらヒドいウソだったけど、彼は分かってて
あえてソレに乗っかってくれた





「仕事熱心なのはいいがダチの相談ぐれぇ
マジメに乗れよ じゃねぇと仕事先の店に顔出すぞ」


なにそれ脅し?カンベンしてよ」


「客の要望を邪険にするのはいただけねーな」


「ハロウィンの仮装なんて個人の自由じゃん…
君がカワイイ女の子だってなら逆に毎日来ても
大カンゲイなんだけどね」





なーんちゃって と言おうとしたら







思ったよりも真剣にドン引きされた





「お…オレにその気はねぇからな?


「ちょ、なんで引いてんの?ジョークだから
ゴカイなきよう言うけど僕だってないからね!?





たしかにいるけどさ、その手の人たち


本人の好き好きだし別に悪いとかは思わないけど
自分としては…ないかな、うん





「ったく悪趣味なジョーク飛ばすなよ…てコトはお前
マカだったらよろこんで相談に乗るってワケか」


「うーん…マカは、ちょっとカタいし暴力がねー…
いや頼まれたら協力するけどね」


だよな、おしとやかってガラじゃねぇなら
せめて色気がありゃ少しはマシだろうに」


「えー?色気は年と経験重ねればどうとでもなるでしょ
中身は本当ミリョク的なんだから 足りないのはガマンだよ」


「言うじゃねぇか〜それ、今度本人に言ってみろよ?


「いやいやいやいや」





さすがにソレはカンベン 面と向かっては恥ずかしい





首をブンブンと左右に振ってたら、ソウルは
いやらしい笑い顔して 僕のヒタイを軽くこづく





ジョークに決まってんだろ お前にんな度胸が
あるなんて思ってねぇよバーカ ギャハハ!」


「ひどっ、そんなイジワルばっかり言うなら…
イタズラしにやってきちゃうんだからね」


へっ!受けて立つぜ〜COOLによぉ
なんなら菓子でも用意して待っててやろうか?」







ちょうど休憩がそこで終わったから


返事は、お互いが別れた拍子にしそびれた







「さっきの銀髪の子、お友達?


「え…まあ、そんなトコロですかね」


「へぇ〜珍しいわね 君にあんな
カッコいいお友達がいるなんてねぇ」





テキトーにバイト先の相手へ答えながら
仕事をこなして、スケジュールを確認すると





ハロウィンが休みであるコトに改めて気付いた











―他の子供が口にしてたのは、ずっと見かけてたけど


…僕が口にするのは 初めてかもしれない





アパートのドアの手前で、ノックする前にキチンと確認





ジャコランタン、よし ブレアの気配…なし


仮装は ポピュラーなシーツお化けで許してもらおう







目を閉じて 深呼吸をくり返し 拳を打ちつける





「とっ…トリックオアトr





言い切る前に勢いよくドアが開いて、それが
デコと鼻にぶつかってスゴい痛かった


そのまま弾かれるようにして しりもちまでつく





『Happy halloween!!』





変わりに開いた入り口から、思い思いのカッコした
マカたちが顔を覗かせていた





「マジで来るとはな…よく来たな、大丈夫か?鼻


スーツにマントをはおったソウルが
そう言って、こっちに手を差し伸べてくれたので





周囲の笑い声や心配そうな視線を受けつつ





「まあね…なんてコトないさ」





手を借りて立ち上がり、笑ってシーツをかぶり直す








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ソウル単体は意外と難産だった…あと
仮装の姿は多分ドラキュラだと思います


ソウル:ハロウィン捻じ込んだ割りに、話が
出来あがったのが当日ってどんだけ時間かけてんだ
おまけにまた妙な伏線張りやがって


狐狗狸:あの"過去"についてはそっちと共通点が
無いわけじゃ無いんだから見逃してよ


ソウル:お前それネタバレだろ?いいのかよ


狐狗狸:いいのいいの!むしろ兄弟みたいな
仲のよさを発揮しなさい君達は〜!


ソウル:うわ酒くせぇっ、何飲んでんだよ!?


狐狗狸:原産国から取り寄せたリモンチェッロ〜
度数高めだけどおーいしーよー 飲め!


ソウル:ちょっ来んな酔っ払い!




狼男はフリーを連想するため お互い話題に
しなかったんだと思います 魔女は言わずもがな


様 読んでいただきありがとうございました!