「…なんなんだろ」





目を開けた先には、見慣れた汚い天井


特に意識せずなんとなく、僕は窓へと目を向ける


うっすらと明るくなりつつある外の光が
さして広くもないボロアパートの中をうすく照らす





「昨夜、徹夜したからか…?」


もう少し夜勤をひかえた方がいいのかな…と
思いながら ただただ天井を見つめる





夢を見るのは、好きじゃない


いつだってイヤなものか

ワケの分からないものしか出ないから





…でも 今回のは様子が違ってた







途中まではあの女から聞かされた話と同じように


マガマガしく心を抉るような、おぞましい
魔女の顔と 泣いている子供の顔


そのうち不意に子供の顔が気持ち悪く歪んで…








けれど、伸ばされた"女の子"の手の平を
取ったその子は


普通の子供の顔に戻っていた…ような気がする





話しかけろって、コトなのかな…?」





一つ深呼吸をして 身を起こした僕は
ちょっとだけ気を重くして着替えを始める












〜Colpa per la quale e compensata
"案外二人は似たタイプ?"〜












…みんなでバスケをしたあの日





「あの…クロナ、君は」


「あぁ、あの子供ならちゃんと保護されてるよ
いずれ死武専に入学するだろ」





スピリット先生からそう聞いて、僕は少しだけ


怖いような 楽しみなような気持ちになった







"会えたら、どう声をかけようか"


仲良しになっただけあって、そんなコトを
話していたマカに感化されてか





徐々にだけどクロナ君と会えるのを楽しみにしてた









そしてある日





ウツにおちいってるキッド君をはげましてる
リズさんとパティーにアイサツして


教室に入ったら…予想もしなかったモノを見た







「えーと…みんな、そんなスミっこで
一体なにやってるの?」





マカとマリー先生とクロナ君とソウル


ついでブラック☆スターと死人先生までもが


スミで暗いオーラたれ流してひざ抱えて
うずくまるって
 かなりとんでもない光景を







おっくうそうに顔を上げたソウルが言う





「あー…ええとな、クロナのヤツが
マカにすすめられて書いたんだがよ」





ピラリ、と目の前に出されたのは
一枚のメモに書かれた文字


なんだろコレ…ポエム、かな?





どんな内容なんだろう?と並んだ文章を
読もうとジッと目を通し





………めをとおし……………







―ひざを抱えずにはいられないくらいに
とても 暗い気分になった






「普通でごめんなさい…」





あ、なんか今キッド君の気持ちが分かった気がする







「おーい、も皆も一体何やってんだよ?」





結局のトコロ クロナ君のポエムは
一通りの犠牲者を出しまくった









ついでにその時は体験入学だってコトで当人と
アイサツすら出来ずに別れ


…それからロクに話すコトすら出来てない





クロナ君自身とても人見知りがはげしくて
内気な性格のせいか 部屋からほとんど出てこず


僕もまた、バイトを優先していたから





うわわっ!黒い!泡立ってる!!僕こんな
黒くてシュワシュワした飲み物とどう接したら」


飲めよ!つーかオレに全部よこせぇ!!」


「コラだめラグナロク!まずはクロナが
先に一口飲まなくちゃ!!」





マカとソウルに連れられたバイト先のカフェで
注文したコーラにあたふたしてた姿は見ても


声をかける機会にめぐり合うコトはなかった







……いい加減、待っているだけは疲れたので





「僕も クロナ君と話しに行くの付き合っていい?」


「…いいよ♪」





行動を起こすコトにした











「もー、またそんなトコに座って〜」





マカは慣れた様子で、おとまり室のドアのスミ
ひざを抱えるクロナ君の手を取るけれど





覚悟を決めたハズの僕は、出鼻をくじかれた心地がした





「な、なんでそんなスミっこにいるの?」


「へ…ヘヤノスミスにいると落ち着くんだ」


「そっ…そっか」





こうして顔を合わせたはいいんだけど…


なんて声をかければいいのか、分からない





「は、初めまして…僕はって言うんだ」


「あ…うん、初めまして」





アイサツは上手くいった…みたいだけど


会話が 続いてくれない





「ひょっとして僕…嫌われてるかな?」


「そんなコトないって、クロナはちょっと
引っ込み思案なだけだから!」


そうなのかな…でも、目を合わせてくれないし







…やっぱり止せばよかったかな、と
ため息を吐いたトコロで





「おいクロナ、メシは食ったか?」


「い、いや…まだだけど…」





ポンと軽く肩を叩いて ソウルが言った





「ちょーどよかった、と二人で
軽く食ってこいよ」


「「えぇぇぇぇっ!?」」





エンリョしたいと思った僕らの意見は





「せっかく自分で志願してきたんだし
たまにゃ任せてみればいいんじゃねーの?」


「そ、そうかな…」





悪乗りした彼に、力一杯押し切られた





…本当 友達ってスバラシイ







「ぼっ僕どうやって食堂と接したらいいか
わかんないよぉ〜…」


「ムズかしくないから、僕がやるのを
マネていくといいよ まずトレーを取る」


「こ、ここここれ?」


「そう、で、皿を取って その上に
食べたいものをのっける」


言いつつ、今日のメニューとサイフ具合を
比べながらテキトーにチョイス


味はまあ悪くないけど、コストがかかるから
毎度利用が出来ないのが弱みだ


他の死武専生はまあまあとかイマイチって言ってるけど

マトモに食べれるのがどれだけマシか…


あ、でもコーヒーはもうちょっとおいしくなってほしい





余計なコトを考えながら、チラリと
隣へ目を向けてみたら


クロナ君のトレーには 正にみたいに
積み上げられたカレーライスがあった





「え…それ、一人で食べきれるの!?





叫び声に驚いてか、ビクっと肩が震えて


水音を立てて 黒服の背からにょっきり
ラグナロクが飛び出してきた





コイツに食えるワケねぇーだろダサ男!
オレが全部食うんだよコラ!」



うわっ!ああビックリした」


「ダメだよラグナロク…ご、ごめんね…」





ビクビクしながら、上目づかいにあやまる相手へ





「あ、いや気にしないでよ」


僕は手を軽く振りながら続ける





「それで…最後にレジでお金を払うんだけど」


「お、お金?」


えっ…なにその顔?まさか





「あんだい、まさか無一文でメシ食おうってんじゃ
ないだろーね!?」


ひいぃっ!!ごごごごめんな「うるせーババア!
テメェの魂喰ってやろうか!!」






や…やっぱりか…


よくよく考えてみれば、お金持ってる方が
おかしいって話だよね…







ラグナロクがレジのオバちゃんにケンカ売ってたので


面倒になる前に 僕が二人分の代金を払った





…クソ、痛いぞこの出費は





「ごっごめんね君!


「あーいいよ、気にしないで」





軽く手を振ってみせれば ちょっとだけ
ほっとしたように息を吐いたのが見えた





そ、そんなに怖い顔してたかな?僕…









クロナ君がスミっこに座ったので
対角線くらいの位置の席で、料理を食べる





会話は さっきと変わらず少ないけれど





「…スゴい食べっぷりだね ラグナロク」


「うん…結構よく食べるんだ」


「クロナ君はその…食べないの?」


「た、食べてるよ…」





静かなお互いの沈黙は、山盛りライスが
くり抜かれてトンネル開通


山を徐々に崩されていく擬音が埋めている







なんか、気まずいなー…相変わらず
うつむき気味だから対応に困る


積極的に行くのは苦手だけど、ここで黙ってたら
今までと変わらないし







…しかし よくよく思うんだけどクロナ君って





性別 どっちなんだろう?





いやまあ多分男の子なんだろうけれども


妙に内向的っていうか、おとなしめと言うか
小動物的なトコロがあるし


肌も白くて顔もキレーで 身体なんかも
ちゃんと食べてるのか不安なくらい細いし





もし"女の子"だって言われたら


なんか…納得しちゃいそうなんですけど僕







内心下らないコト考えつつカップに口をつけ







「おい何こっち見てんだよ?
ひょっとしてアレか?クロナに一目惚れか?





予想を超えた発言に、口に含んでいたコーヒー
思い切りふいてしまった



もちろんはす向かいのクロナ君も

コーヒーまみれになってポカンとしてる





むせる僕などお構いナシにラグナロクは続ける





「お?図星か!どうせならダセェモン同士
付き合っちゃどうだグピャピャピャピャ


ええっ!?ぼぼぼぼ僕そんなっ、そんな
どう接していいか分かんないよぉ〜」


「いやいやいやちょっ、ちょっと待とう!
二人とも本当にちょっと待とう!!





今のはわざとだ、絶対わざとだ!


こっちがコーヒー飲むタイミング狙ってたもん


明らかに一種のテロだよコレっ!!





「ええと、ゴメン クロナ君熱くなかった?
これよかったら使って」


とりあえずコーヒー塗れの件にあやまりつつ
手持ちのハンカチをクロナ君へ差し出す





「おーおー本格的にゾッコンかよ?おアツイなぁオイ」


無責任なラグナロクのヤジは無視





「平気だけど…あの、これ、使っていいの?」


「いいよ」





それでも、こわごわと相手がハンカチを受け取るまで


僕は腕を伸ばしっぱなしにしていなきゃならなくて
地味に辛かった







顔を拭いて ハンカチを返しながらクロナ君は言う





「あの…ゴメンね、君」


「どうして君があやまるの?」





むしろコーヒーかけた僕の方があやまんなきゃ
いけない気がするんだけれども


…いや、悪いのはラグナロクだけど





大イバりしてる元凶を背負った剣士は
胸の前で手を組んで、縮こまって続ける





「僕…優しくしてくれる人に
どう接していいか、分かんないんだ」





本当に困ったように眉を下げるその姿は


とてもカワイソウで不幸で、"狂気"から
連れ出してもらったはずなのにどこか危うくて





…どうしてか胸の辺りがモヤモヤした







「だから、僕にはもう構わなくても「僕だって
分かんないコトだらけだよ」



ワザと遮って "だからさ"と僕は続ける


なるべく優しく見えるように微笑んで





「出来るコトからはじめていこうよ?
こうやって 普通に話をするとか…ね?」


「え…う、うん…」


「テメェらオレを無視してんじゃねぇぇ!
地味でダメな二人組の分際でームガー!!






本気でうるさいなコイツ…けど、対処法が
全くないワケじゃない





「…後でアメ一袋おごるから、ちょっと黙ってて」


マジか?ウソだったら殴るからな!!」


「本当だって 味はなんでもいいんだね?」


念押しすれば、ソレきり相手は黙った





教えてくれて本当ありがと、マカ









食事も済んだので 部屋までの道を戻ろうとして





立ち止まったそのままで、クロナ君が


とても震えながら右手を伸ばしてきた





「こ…こここ、これからもよろしく…君」





その精一杯の歩み寄りを目の当たりにして
決意を新たに抱えたくなった


マカみたく、上手くはいかないだろうけど


せめて…僕なりのやり方で、この子と
仲良く話せるようになれれば





うん よろしくクロナ君」





伸ばされた手を握るコトは出来なかったけど


触れた指先は 同じように温かくて








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:クロナは男の娘(こ)と信じて
微塵も疑ってません!以上!!


ソウル:少しは疑ってやれよ!!


狐狗狸:だってあんなカワイイ子が女の子のハズなry


マカ:(無視)でもちょっと意外だったな 
普通だから、てっきりスグ打ち解けられると思ってたんだけど


クロナ:む…無理だよぉ〜前髪で顔が半分
隠れてるし ちょっと怖いし…


ラグナロク:どこがだよ!あんなヘナチョコ!!


狐狗狸:同属意識…いや、嫌悪かなぁ?(ボソ)




時期は大体クロナが死武専にいる頃で(ザ・適当)
若干某方との共演夢ネタも混ざってます(ザ・謝罪)


様 読んでいただきありがとうございました!