前夜祭での一件を契機に、死武専に変化が訪れた


一番大きなモノが 死神の命による
各地のデスサイズ達の招集である





スピリットを含め8人のデスサイズが
死武専と死神のサポートに回る



…ハズだったのだが





「もう一人のヨーロッパ担当とか残り4人はどうなってるの?」


「ヨーロッパ担当と西アジア担当は
任務中で来れないみたいです」


「じゃあ 南アメリカ担当は?」


「「ガウガウ」言ってて言葉が通じません」


「アフリカは?」


「着拒されました」


こんな感じで、結果的に半数だけの集まりとなった





やってきた三人も かつての卒業生でもあってか


半ば兼任の形で死武専生の課外授業の補佐や
教鞭を取り、日々生徒への親交と信頼を深めている





……ハズなのだが







「なにやってるんですか…ええと、マリー先生」





夕暮れのデス・シティーの通路にへたり込み


手を地面に這わせてうろたえる姿を見て





若干ながらは、彼女が本当
"デスサイズ"なのかを疑ってしまった





ゆるくウェーブのかかったセミロングの金髪が

振り返った際に、軽く風になびく





アレ…?アナタ死武専の生徒よね?」


「はい あの、以前にも顔を合わせてると思うんですけど」


ああ!そう言えばバスケの時にもいたっけ
すっかり忘れてた ゴメンね!


「いいですよ、気にしてませんし」


「それでえっと…何て名前だっけ?キミ





謝りがてらのマリーのその台詞に


苦笑ってしまった彼を、一体誰が責められよう





です」












〜Esistenza per puntare a
"心拍数バックバク上昇中!"〜












黒い服に身を包んだ この女性は
デスサイズの一人"マリー=ミョルニル"


現時点ではスピリットに代わってシュタインと
パートナーを組み、実質同居している魔槌である





人や場を和ませる"波長"を持っているからか


当人のあけすけな性格によるものなのか
割合 他者と打ち解けやすく


反面、世話を焼くタイプでもあるので


彼女自身が積極的に行動を起こす事も少なくない





だからこそその性質と結果が、さっきのへたり込んでいた姿に繋がる







「何だか、悪いわね つき合わせちゃって…」


「いいんですよ、暗くなってきてると
一人だと見つけにくいですし」





脇に避けられていたマリーの荷物を持ちながら

隣を歩きつつは言う


中身は、少し大目の食料品と生活必需品





「同居も中々大変みたいですね」


慣れれば楽しいモンよ?相変わらずシュタインは
好奇心優先で、自分と身の回りは二の次だから
放っておくと食事も睡眠も偏ってっちゃうケド」


「あー…それはなんか分かるかもしれません」


「けど、昔に比べれば大分マシにはなったみたい」


「そうなんですか?」


「まーそれでも付き合わされてたスピリットが一番
苦労してたケドね、何回か人体実験されたらしいし」





その頃の光景が容易に想像できてしまったので


少年は 微妙な顔つきで何も言わずに
角を曲がる彼女へ付いて行く







街灯やゴミ箱などの影を注意深く探りつつ


ひとしきり辺りを見回してから、ため息をつき
再び両者は歩き出す





「けど、デス・シティーもしばらく見ないうちに
変わったわね もうビックリよ」


「…あんな事件がありましたからね」


違う違う!そーいうのじゃなくて
こう、店とか増えたってハナシだって!!」






ブンブンと両手を振って訂正する彼女の姿に
ああ、とは再度納得する





以前 この街で過ごした思い出があるからこそ


買出しを行おうと路地を行くうちマリーは


懐かしさと目新しさに誘われ、ついつい
あちこち足を伸ばしたのだと







「なにかいいお店ありました?」





……浮き足立った帰り道で財布を落とし


気づいて来た道を逆戻りするハメになった
事実を、敢えて触れずに訊ねる





「そうね、そこそこはあったかな?
特にあの"ヘブンイネブン"ってお店が色々揃ってて便利だったし」


え、ああ、そうなんですか」


「夜に長く開いてるらしいから、これからも
ちょくちょく利用しようかな…どうかした?





立ち止まり、彼女は戸惑った様子の少年へ問う





「あ、いやその、なんでも…」


そう?なんだか顔色が悪いみたいだけど」







覗き込まれ、言葉に窮して彼は辺りへ
視線を泳がせて…気付く





「もしかして…サイフって、これですか?





言いながら、壊れた植木鉢の側に屈んで
ポツンと置いてあった財布を取り上げたので


すかさず受け取って、マリーは顔を明るくする





そうそうコレよコレ!こんなトコにあったのか!
ありがとう、おかげで路頭に迷わずすんだ〜」


大げさですよ…それじゃ博士のトコロまで戻りましょうか」


「そーしよっと、シュタインも今頃お腹空かせて
いるだろうし 早く帰ってご飯作るぞー♪





意気揚々と進み始めた彼女は





荷物を抱えて側をついていく彼の
"どこか懐かしいものを見る視線"に気付かなかった







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この間はありがとね♪







後日、死武専の廊下にて会ったマリーからの
開口一番のその台詞に





「いえいえ お役に立てたなら幸いですよ」





思い出してから、若干頬を赤くしつつ
亜麻色髪の少年は笑んで返す





「でも、どうせならあの後立ち寄って
お茶くらい飲んでってもよかったのに」


「大したコトしてないですし 迷惑になると
いけないかと思いまして…」


「私もシュタインも気にしないけどなぁ…
ひょっとして、意外とシャイなのかな?」





言いつつずい、と彼女が顔を寄せたので


左眼の雷マークの眼帯と イタズラっ子に似た
黄色い右眼とがよく見えて


焦ったはやや眼を逸らす





そ、それはまあ…だって、マリー先生は
美人で強いデスサイズですし」


「そう…そうなのよねー…」


「え?」


深いため息を吐き、途端に憂鬱そうな顔をされ

彼は間の抜けた返事をしてしまった





「私ったらこれだけ美人で尽くすタイプなのに
どーしていまだに結婚できないのかしら?」


「あの、落ちこむことないですよ
マリー先生だったらきっといい人が…


「そう思って恋も仕事も張り切ってがんばったのよ
だけどね?いつも相手に逃げられて、こんな年まで
引退もできずに独身て不安になるじゃない」


「こんなトシって…先生まだ若いじゃないですか」


うれしいけどいいからお世辞は!
なんだか悲しくなっちゃうから!!」





落ち込んで唐突に涙ぐみ始めた彼女を放って置く事もできず


その場でオタオタと慌てる







そこへ、オカッパに近しい散切り黒髪の
凛とした女性が通りかかる





何やってるんですかマリー先輩…と」


「こ…こんにちは梓先生」


「こんにちは君…この状況はどういうコトなのか
よろしければ説明いただけますか?」


「いえ、僕にもなにがなんだか…」





口ごもるその様子を、メガネの奥の瞳が
冷静かつ冷ややかに見つめており


彼は何故か、追い詰められている心地を味わう







彼女もデスサイズの一人"弓 梓(ユミ アズサ)"


冷静沈着な魔弓であり、極めて真面目

それ故にマリーと比べて取っつき辛いトコロはあるが


同時に死武専内では 混乱した事態の収拾をつけられる
貴重な人材として認識されている





「ねぇ梓、私このまま仕事してて本当にいいのかしら?
生涯デスサイズのままオバーちゃんになったらどうしよう」



「…とにかく、落ち着いてくださいマリーさん
生徒の前で示しがつきませんよ」





何となく事情を察した梓の静かな言葉により


縋るような眼差しを向けていた彼女は
ハッ、と我に返った





そ、そうよね 今は私 先生なんだから
しっかりしなきゃ…ゴメンね


「いえ、気にしないで下さい」


「マリーさんに何を言われたかは知りませんが
今度から聞き流して構いませんから」


「ちょっと、それヒドくない?」





マリーが少し唇を尖らせて不満を吐いた直後


"KILLコーン、カーンコーン"
お馴染みのチャイムが廊下に響き渡る





「あ、授業が始まるので僕はこれで!」


「廊下は走らない!」





叱責を受け、一端足を止めてから





「スイマセン!」


頭を下げたが廊下の奥へと消えて行く







「あんまり厳しく言っちゃ可哀想じゃない」


「何言ってるんです、死武専の生徒である以上
規律は遵守すべきでしょう」





背後のその言葉を耳に受けながら





…已む無く校則違反を犯している彼は、背中に
冷や汗を掻き続けていた







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デス・シティーにも教会というか
礼拝堂といった施設が存在しており


定期的に行われる清掃には


場所の規模や回数によって、外部の人間に
協力を要請されることもある







静かな空気に包まれた、神聖な空間には


数人の人が掃除に励むささやかな物音と


片隅で、真逆に耳障りなノイズとが響く





イヤホンからの爆音を垂れ流しながら


雑巾片手に清々しい笑顔で窓を拭く
"いかにも聖職者"と言った金髪の男性を





横目に机を拭くは、力一杯挙動不審だった







僅かながらの善意の給金を当てに
休みを捨てて仕事を選んだ魔鋏の少年は


無償で清掃を志願してきた魔ギロチンのデスサイズ


"ジャスティン=ロウ"とのまさかの邂逅と
労働に色々な意味で驚き戸惑い


…そして気まずさを隠せずにいる







それでも、仕事なので黙々と手を動かし





彼は自らの区分を終えると 深呼吸して

ジャスティンへと声をかけた





「あの…終わりましたので、手伝いましょうか?」





けれども聞こえてくるのはイヤホンからもれる
大音量のビートのみ





依然として拭き掃除を続ける相手の視界に
映る位置に回りこみ、彼はもう一度続ける





「終わりましたので手伝いましょうか?」







しかしまたもや反応は無く


少年はちょっとだけ声を張り上げる





「あのー!音量を下げていただけませ」





叫びを止めたのは、唇に突きつけられた
ジャスティンの人差し指だった





いけませんよ君?私語は慎まなくては」


「う…す、スミマセン」





頭を下げた様子に、ニコリと微笑み


彼の掃除していた区分を見回して
ジャスティンは一言付け加える





「お気持ちは受け取っておきますが、雑念で
神への奉仕を疎かにしないように」





……無論ながら


言われた当人は再び掃除へ取りかかった







訪れたデスサイズ三人がもたらす変化
大なり小なり、街と死武専に影響が及んでくるが


それに関しては"普通"の彼も例外じゃないらしい








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:マリーさん達とのフラグを出来心で
建設してみましたが…見事にグッダグダです


梓:一人一人別に話を組み立てても
構わなかったのではないですか?



狐狗狸:そうですね…気が向いたらそれぞれ
別にリベンジするかもです、スイマセンでした


マリー:出番が多いのはいいんだけどさ
なんか情けないトコばっか見せてない?!


狐狗狸:そこも含めてアナタの魅力です


ジャスティン:それにしても…あの少年は何故
懺悔の表情を浮かべていたのか(ジャカジャカ)


狐狗狸:そりゃ体裁というか後ろめたさというか
…てか、死武専の生徒だと気付いてます?


ジャスティン:?(ジャカジャカ)


狐狗狸:ちょっ、ボリューム絞って!!




これもまた、殺伐ウキウキ日常ライフ
一つだと…思ってもらえたら幸せです


様 読んでいただきありがとうございました!