空に夜の帳が落ちて、無数のきらめきが輝くが


馴染みの店で待つ彼女らがオレへと向ける
笑顔の眩さには到底及ばない…





「待っててリサちゃんアリサちゃんブレアちゃん
アナタのスピリットが今行くよぉ〜!!」



課外授業の当番のない日は、チュパキャブラス
思い切り疲れと心を癒すに限る!


エンジェル達の待つ園に想いを馳せれば 自然と足取りも軽く―





「ったくシケた店のクセして
お高く留まってんじゃねぇぞチクショーが!!






…通り道にある酒場から聞こえた品のねぇ罵声は


バラ色に染まってたせっかくの気分へ
十分水を差してくれた





程なく店から出てきたのは、顔が真っ赤で

足元もおぼついてねぇ典型的な酔っ払い





「酒が品切れってんなら造酒元にひとっ走りして
もってこいや!酒が切れててなんの酒場だぁ!!」






やおら口で無茶まくし立てて、平謝ってる
店員容赦なく小突いて タチ悪いなーありゃ







ひとしきり文句言うだけ言って





「もっと礼儀を勉強しとけ若造が!!」


「申し訳ありませんでした」





捨て台詞吐いて立ち去るオッサンの背中を
ひと睨みしてから、哀れな店員の兄ちゃん見やって





「…ってお前かよ」





オレに気付いた一瞬 鳶色の目を丸くしてから





「ええと…こ、こんばんはスピリット先生」


はワックスで固めた頭をペコリと下げる












〜Malevolenza tagliata
"見てる人はちゃーんと見ている"〜












「おう…にしてもお前も大変だな毎度毎度」


「仕事ですから…昔よりマシですけど、これでも」





社交辞令が上手くなっちまって まぁ可愛げのない


けど、昔に比べて大人を怖がる様子が減ったのは
教育者としても喜ばしいことだ





…まあ それはどうでもいい





「ああそう、じゃガンバレよ」


「あ、ありがとうございます」





気を取り直してオレは、マイエンジェル達の待つ楽園へと一直線!











……誤解なきよう言っておくが


オレは仕事とプライベートはキチンと切り替えて
働いている大人の男





だから死武専では至極真っ当に教師を務めている





…のだが、最近妙にマカの態度が冷たい気がする







やっぱり一度キチンと話し合うべきか けど
声かけても無視されるからなぁ〜…





「あのー…そんなトコロで何やってるんですか」


「うるさいこっちは忙し」


答えてからオレは廊下で一人歩くマカへ視線を戻…





「…よし、いいトコに来た手伝え


「へ!?」









"オレの悪いイメージを出来る限り払拭しておいてくれ"

頼み込んで送り出し


……ツナギ姿はたどたどしく近づいて声をかける





「あ…あのさーマカさん、最近スピリット先生を
邪険にしてるみたいだけど…なにかあった?」





途端に食いついた愛娘は





「聞いてくれる?何かあったドコロじゃ
無いわよもう!パパには呆れっぱなし!!」



ここぞとばかりに事実と誤解とを織り交ぜた
オレへの悪口をまくし立てる


うう…半ば事実なだけに心に刺さるぜ





「こないだだってキャバクラで飲んで騒いでたって
ブレアが言ってたのよ…もう最低!


「たしかに…女たらしでだらしない部分は
否定できそうにないんだけれども」





ちょっ!そこはマカの手前もう少しフォローしろよ!!





「でも スピリット先生って子供に対しては
優しいんだと思うよ、特に君には」


「妙にパパの肩を持つけど…どうして?


「初めてここへ来た時から、お世話になったから…
色々話を聞いてもらったりしたし」


「そうなんだ…昔パパと何かあったの?」





お、マカがオレに興味を持ち始めてくれている


GJだ そのまま上手いことオレの株を
持ち上げるんだ!ガンバレ!!








と応援してたのも束の間





「僕の口からじゃちょっと恥ずかしいから…
気になるなら本人から聞いてみて





照れたのかアイツは事もあろうにオレへ
質問丸投げ示唆しやがった


そんな状況でマカに聞かれても答えにくいっつーの!





とりあえずアイツの評価は後で下げるとして

何とか見つからんように離れないと…





「あにコソコソしてんだテメー」


「わっバカ!デカい声出すなソウル、見つか」


「…もう見つかってるけど?





ゆっくりと…ゆっくりと振り返れば


目の前には仁王立ちで佇む、笑顔のマカが


ああやっぱりカワイイわオレの娘…って

親バカ発揮してる場合じゃない





「いやあの誤解だマカこれは偶然通りかかって」


「白々しい…でもちょうどよかった
パパに聞きたいコトがあるんだけど」


「あ…ええと、じゃ僕はこれで」





気を利かせてるフリして離脱しようとしたって
そうは行かせるかぁぁ!!





「どこ行く気だ…って早っ!コラ待て」


「待つのはパパでしょ?」





愛娘にがっちり腕を掴まれて、逃亡も追跡も
両方しくじって進退窮まった





もちろんツナギ姿はとっくに見えなくなってる


あの野郎…ここぞという時の逃げ足を今 発揮してんじゃない!
タイミング間違ってねぇけど!





「オレがいねぇ間に何があったんだよ?」


「ちょっとパパのグチ聞いてもらってたの…
それより、何を聞かれるかは分かってるよね?」





興味津々(片方はちょっぴり怖いオーラありで)の
二対の眼に挟まれて、ため息混じりに腹をくくる





「アイツ昔さ…路上で浮浪児同然の生活してたんだよ」









切羽詰っていたのか通行人のカバンへ、鋏の片刃に
変えた腕で切込みを入れていたのを偶然見かけて


呼び止めりゃ 薄汚れた顔に怯えを浮かべて逃げ出して





どうにか追い詰めると、その場でいきなり謝りだした





『ゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさい!殺さないで!』


『未遂でそこまでしねぇよ…お前、武器なんだろ?』





顔を上げさせて、オレが"デスサイズ"だと教えて
ひとまず安心させようとしたら





『…本当ですか!?
本当に、デスサイズなんですか!!?





死に物狂いに近い様子でしがみついて、死神様に
会わせてもらえる様に頼み込んできたから


ため息が思わず零れたのも…あの時と同じだった







「そん時のアイツの必死さは見てらんなかったな
…ある意味今も、似たようなモンだけど」



「それってやっぱり、あの魔女の…」





頷いて オレは記憶をさかのぼっていく







『ね〜君…お腹すいてない?』


『……すきました』


『それじゃ、まずゴハン食べてからにしよっか♪』





死神様は迷うコトなくガキの処遇を決めて

いつもの調子でオレへとこう言った





『そうそうスピリット君 あとでこの子の服
買いに行ってくれない?』


えぇっ!オレっすか!?』


『だーって私、子供の服の趣味分かんないし〜』


『いやいや立派な息子さんいるでしょ!』


『それとこれとは別ってヤツだよ〜時々でいーから
この子の面倒も見てあげてね〜』







そこまで話すと、ソウルが腹の立つ笑みを浮かべ





「ふーん、死神様の命令があったにしても
テメェが子守りたぁな」


「笑うんじゃねぇクソガキ、今だって似たようなモンだ
女の子様は本望だがな」


「まごうコトなくエロ親父全開かよ」


「今更でしょ」


うぐ…突き刺さる視線が痛い


が、どうにかこらえてオレは話を戻す





「で、時々様子見に行ってたワケだが…昔に比べりゃ
今は大分マシになったもんだぞーアイツ」


へ?そうなの?」





最近仲良くなったマカが知らないのも無理ないが





「友達どころか話し相手もほっとんどいなくて
オレもよくビビられてたんだよな」


「女ったらしのテメーにビビるとか
どんだけチキンだったんだ、昔の


「やかまし スーツ見てるとマフィアを思い出すんだと」


「…マフィアに何か嫌な思い出でもあるのかな?」





実は一度だけ、理由を語ってくれちゃいるが


本人もいない手前…流石にそれを言うのは勘弁しておいた


アイツだって やなコトは思い出したくないだろうし







「何にせよ、今はそれなりにクラスの連中と
仲良くやってるみたいで一安心だけどな」





間違いなく本心からの言葉を告げれば





「…そっか」


ニコリとマカが優しい笑みを返してくれた





おお、今ちょっと親子の絆が深まったかも…!?





「だ、だからマカも遠慮なくパパを頼


「そう言えばふと気になったんだけど
君って、昔からあの髪型だったの?」


う゛!そ、それはー…そのぉ…」





答えにくい質問にしどろもどろしていると

横から余計な茶々が挟まれた





「大方コイツが目ぇ隠しとけって言ったんじゃねーの
髪上げりゃそれなりに見れるツラしてっし」


「悪いか!万が一マカが気に入ったら困るだろ!!」


「図星かよ!」


「それにアイツ"顔隠れてた方が落ち着く"って
言ってたし、いーんだよそれで!!」





事実を言っただけなのに、愛娘の目が見る見る
尊敬から呆れの色に変わっていくのが分かる


こ、ここはパパらしくビシっと決めねば!





「とにかくだ、とは友達として仲良くしろよ
何かあったらパパに気軽に相談―


「おいスピリット…死人が探していたぞ」


おぉナイグス!今日も見事なプロポーションだよ
どうだい今晩辺り食事にでも」


条件反射で口説き文句を並べて歩み寄って





我に返れば既に時遅く、頭に辞書の角を食らってた





「……ホンットに最低!!」








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:何だかんだ言いつつも教師してるけど
親バカ色ボケなパパ目指し…て墜落しました


マカ:ちょっとは見直そうかと思ったのに…パパのバカ、大バカ!


ソウル:見事にワンパターンだな、オチが


スピリット:つーかの奴、マカがどれだけ
自慢の娘か語ったのに何でそれ言わねぇんだ!


マカ:へ…まさか色々してた話って私のこと!?


狐狗狸:そう、あと奥さんの話かな…でそっから
彼の母親の話をガッツリ聞いたりね


ソウル:ガチでマザコンかよアイツ…


狐狗狸:イタリアはカカア天下だから自然とそうなるの
それにたった一人の肉親だったし


スピリット:育ちの違いを理由に、周囲から理不尽な目にあっても
明るく乗り切ってた勤勉で優しい女性だったんだそうな

ぜひとも一度お会いしてみたかったなぁ〜…ハッ


(角で制裁中につき、描写できないよ!)




ナンパで情けないけど時折親っぽい所を見せる
それがマカ父スタンスだと思ってます


様 読んでいただきありがとうございました!