前髪で顔の半分が隠れているが、その挙動だけで
不安そうな彼の様子が見て取れた





「あの、ちょっ…本当にやるの?


あったりめーだろ?
でなきゃ度胸試しの意味ねぇし」



ニヤリ、と意地悪く笑うソウルに呼応するように


あちこちボロボロなブラック☆スターが
背を強く叩いて発破をかける





「そーだぜ男ならドーンと行ってこい!」





軽くむせるツナギ姿へ やや罪悪感を募らせてキッドが言う


「…、オレが言うのもなんだが
あまり気が進まないなら引き返しても構わんぞ」





その一言に少しばかり 戸惑いを見せるが


やがて腹をくくったように顔を上げ





仕方ないよ…これはみんなで決めたんだから」





三人の視線に晒されながら
覚悟を決めて、相手の前へと進む







「あ、あのさ〜パティさん…よかったらそれ
もらってもいいかな?」





上ずった声でそう言われて





本当に?いいよ!!さー召し上がれ〜♪」


ニコニコと笑うパティが差し出したのは


…どう見てもこの世界に存在していいような
物体に見えないような"何か"だった













〜Cattivo amico
"男四人 寄ればやかまし"〜












きっかけは どこにでもあるような男達のやり取り


かつ、本気でくだらない駆け引きだった





「オレらの中で誰が一番肝が据わってるか
ちょっと確かめてみねーか?」






ふとソウルが呟いたその発言に


側にいたとキッドとが顔を見合わせて





「誰がって言われてもそれは…」


「ブラック☆スターじゃないのか?」


同時に視線が注がれ 名指しされた当人は
自信満々といった様子で胸を張る





「当然だな!」


「分かった悪かった、言い方を変えるわ…
じゃあ逆にチキンな奴は?」





問いかけに、こちらもすぐさま返答がよこされる





じゃねぇのか?」


「…否定は出来ないけど それちょっと
ヒドくない?ブラック☆スター君」





分かりやすくモノ申したげな表情を見せる彼を
尻目に、キッドは質問者へと問い返す





「それでソウル、その質問の意図は何なんだ?」





聞かれた瞬間"待ってました!"といいたそうに
ソウルは口の端のヨダレをすすって告げる





「オレらお互いヒマしてんだろ?だったら
ちっと退屈しのぎでもしようかと思ってな」


「…僕はバイトの時間調整してるだけで
ヒマってほどじゃないんだけど」





けれども手持ち無沙汰な事に関しては
他の三人と、条件は同じである







ちなみにそれぞれのパートナーは





図書館に用があって遅かったり


雑用を押し付けられて手間取ってたり


はたまた何だか用事があるらしく
調理室におもむいている…とかで教室にはいない







「具体的には何やんだ?」


「そーだなー…ちょっと度胸試しでもやってみねぇ?」


「度胸試し?」







言いだしっぺが言うには、試す相手へ
何かお題を出し それをクリアするか耐え切るか


…それの是非に関わらず、かかった時間を加味し


それを目安に"誰が一番のチキンかを決める"らしい







面白ぇ!まーオレが負けるなんて事は
ありえねぇけどな!ひゃはははははは!!」



「スゴい自信…それで順番はどうするの?」


ほう、お前がやる気になるのは珍しいな」


「あー…うん、たまにはいいかと思って」


カリカリと照れくさそうに亜麻色髪を掻く少年へ





「迷ったらまずは コイツだろ?」


笑いかけてソウルは、ポケットから
一枚のコインを取り出した







コイントスで決めた順位により、最初は
ブラック☆スターの出陣となったが…





「ひゃっ…はぁぁぁ…☆」





ボロボロになって戻ってきた彼の手の平には
タバコの吸い殻が握られていた





「…さすがにシュタイン博士の私物を盗るのは
無茶だったんじゃないかな?」


「コイツの場合はそれぐらいしねぇと簡単過ぎだろ」







ぐったりしつつもやり遂げた友人を放置しつつ
次はキッドの番となったが





「う…うがわぁぁぁぁぁ!


「オイオイ、まだ始まって30秒ぐれぇだろーが
これぐらいでギブとかすんなよな?」


「そそそそんなぁぁ!耐えられん、とてもオレには
こんな地獄は耐え切れぇぇん!!」



「そこまで!?」





"わざと非左右対称の絵を見つめ続ける"という
お題に対し、早くも音をあげていた







オィィ!これ明らかにおかしくねぇか!!」


「い〜や、言いだしっぺなんだから
これぐれぇしなきゃ度胸試しじゃねぇよな!ソウル!」


「全くだ」


「いやいやいやコレ下手したら死ぬって二人とも!!」





三番目のソウルは、先程までのやり取りのせいか
紐をつかって窓から逆さづりされていた







「…し、死ぬかと思った……よし、最後だな


「か、加減してもらえないかなー…僕バイトが」


「今更それは通らんだろう ある程度覚悟してもらうぞ」





圧されて萎縮する彼を囲み、どのような無理難題を
吹っかけようか考えていた三人の背後で





「ねー食べてよ〜お姉ちゃん!」


パティの声が響き渡った





四人が釣られて目を向ければ、そこには
戻ってきたらしいトンプソン姉妹の姿があり





「ところでさ…な、何ソレ?


皿の上に乗った物体を前に リズが身を
引き気味にしてたじろいでいた





ケーキだよ!この前お店で見かけて
おいしそうだったから、作ってみた!!」


え!?それケーキだったの!!?」


「そーだよ、だから食べてよ〜!」


「絶対ヤダっ!!てゆうかムリ!!!」





間髪入れずに指差して、ブラック☆スターは言った





「よし、はアレ食ってこい!


「ええええええええぇぇぇぇ!?」





こうして有無を言わさぬ雰囲気の中


彼は自らに課せられた"度胸試し"へと挑戦した







おそるおそるといった感じで、添えつけられた
フォークに刺さった一切れが口に運ばれ―





「…ぶぐっ!


ありり?大丈夫?顔青いよ〜?」


「……だ、大丈夫、だよ」


本当にか?無理しない方がいいんじゃ」


「お気づかいありがとうリズさん…でも
本当に大丈夫だから 気にしないで」





本人はやんわりと笑みを浮かべたつもりでも
口元が引きつっているのが、遠めでもバレバレだった





うげぇ…スゲェなアイツ マジで全部食う気か」


「オレなら一口目で吐いてるかもな〜…
流石は信者なだけあって、見上げた心がけだぜ」


「今更ながら それは関係ないんじゃないのか?」


などと口々に言いながら度胸試しを終えた男達が
成り行きを見守る中





筆舌に尽くしがたい"ケーキ"を全て平らげ







「ごちそうさま…お、おいしかったよ」


「本当!?」


「うん…あ、でも…ちょっと硬かったかな?」





顔色を変えながらも、勤めていつも通りを装いつつ
が感想を述べ


パティは満足した顔で笑みを保ち





「そっかー じゃあ今度作る時は気をつけるね♪
お姉ちゃん!君にほめられたよ〜!!」


「聞いてたから、よかったね」





笑いかけながら 目で彼女は"よくがんばった"
エールを送っていた







「……じゃあ僕、バイトあるからこれで」


おお また明日な


「なぁなぁ、マジでうまかったのかアレ?」


「…ノーコメントで」


「あー…スマナイ


「キッド君があやまるコトはないよ…もちろん
パティさんも悪くないし それじゃ」





よろよろと立ち去るツナギ姿と入れ替わりに





「待たせてゴメンねブラック☆スター」


「ねぇ、さっきヒドい顔色の君と
すれ違ったんだけど何かあったの?」





教室へ入ってきた椿とマカに対して
三人はどう説明したものかと顔を見合わせていた











…結論から言うと 全然大丈夫じゃなかった







徐々に襲い来る腹痛と戦いながら、どうにか
その日の勤務はこなしたのだが





帰り際と そしてアパートにたどり着いてから





「うっ…うぐうぅ…!はう!


内臓を内側から捻り切られて持っていかれるような


文字通り"地獄の苦しみ"が下半身中心に襲い掛かり

夜中じゅう苦しみ抜いた挙げ句…







「も…もしもし?スミマセン…」





バイト先と死武専両方へ連絡を入れ、大事をとって
彼は一日休養することとなった







しばらくはベッドとトイレとを往復し


夕方ぐらいになってようやく落ち着いては来たが





あー…なにか食べなきゃクスリも飲めない」





そう言ってみた所でロクな食べ物も調理する気力も
無いことを理解していたはただただ天井を見上げ







唐突に、アパートの呼び鈴とドアを叩く音がした





「おーい いるかー


「えっ…はーい!今出ます!!







クラスメートの声に驚いて、ドアを開ければ





よっ!食あたりだっつーからお見舞いに来てやったぜ!」





開口一番にブラック☆スターがそう言って

外にいた三人が 短く断りつつアパートへと入る





「あ、ありがとう…ええと…
どうして二人ともボロボロなの?」


「原因を作ったのがバレてマカに叩かれたんだ





キッドの説明に、合点が言って彼は苦笑い





「軽いモンなら食えるだろうから持ってきたぜ
あとコレ、椿が具合悪い時にいいってよ」


「あ、ありがと…ええと、なにコレ?


ウメボシっていうらしいぜ」





受け取りつつ、そうなんだと納得する横で





おー!オメェもカリスマジャスティス好きとは
分かってるじゃねぇか〜!!」


「ちょっ…なんでマンガ勝手に読んでるの!?


「かけてあるこのツナギをもう3cmほどズラして…」


いつの間に部屋に入ったの!?てゆうか
もしかして左右対称にしてるのキッド君!!」


既に奥へと進んだ二人が好き勝手やってるのを見て





「おいお前らちょっとは自重しろよ、お見舞い来たんだろうが」





ため息混じりに席へと着かせたソウルが目配せをして


苦笑の後には来客者達へと告げる





「…それじゃ、とりあえずコーヒー入れるね
わざわざ来てくれて ありがとう








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:男同士の友情…ってーか、アホらしくも
楽しそうなやり取りを目指して書きました


マカ:まったく男ってロクなことしないんだから


ソウル:あんだよ アイツだって納得して
やってんだからオレら悪くね(マカチョップ直撃)


椿:あんまり大勢で押しかけると悪いと思って
三人に頼んだけど…よかったのかしら?


狐狗狸:それで正解でしょうね、あんまり
来客が多くても彼が戸惑うだけだし


ブラック:初めてスゲーと思ったぜ
あと寝巻き姿とかのが普段よりマシだなアイツ


リズ:寝巻きはともかく…あの件については
私もちょっと見直したわ


パティ:ねーねー、トコロで
一番チキンだったのは誰になったの?キッド君


キッド:お…オレに聞くな!




男の子で集まってやるバカなチャレンジとかは
(見てるだけなら)大好きですw


様 読んでいただきありがとうございました!