KILLコーンカーンコーン、と
聞きなれたチャイムが死武専の廊下で鳴り響き


課外授業を張り出した掲示板では既に
何人かの生徒が群れとなって集まっている





「おい、昨日も行ったばっかなのに
また行くのかよ 課外授業」


「せっかく魂感知能力も身につけたんだし
目標の魂100個までまだまだ遠いんだから努力しなくっちゃ!」





やる気を見せる二括りの髪の女の子

マカ=アルバーンの隣で


銀髪をバンダナで掻き揚げた少年
ソウル=イーターはウンザリしたように返す





「ほんっとクソがつくほど真面目だな」


「ソウルが不真面目なだけで…キャッ


憤慨した彼女の肩に、通りすがった
生徒らしき人間がぶつかって





「あ、ごめんなさい…」





ぺこりと淡い色をした頭を下げてから

その人はすぐにまた駆け出していく





「オイオイ、どんくっせーなマカ」


何よぉ!
大体ソウルが茶化すからいけないんじゃない!」


呆れ交じりのソウルの言葉にマカが噛み付き

始まるのはいつもどおりの口ゲンカ







…そんな喧しい様子が背後で
起こっているのを耳にしながらも





「ヤバイヤバイ…急がないと遅刻だ…!」


"彼"は小さく呟きをもらす












〜Incontro di mezzanotte
"一寸先のオアシスでの驚き"〜












夜の帳が辺りを覆い、星や月が輝く頃合





「ふー、どうにか今日も無事魂が狩れたね」


「ああ…しっかし喉渇いたな」





魂を一つゲットしてきたらしいマカとソウルが
並んでデス・シティーの街路を歩いていた







階段を降りた先の通りを曲がった辺りで


煌々と灯りのきらめく建物が目に入る


あれ?デス・シティーのこの辺にも
新しく出来たんだ あのコンビニ」


「ちょーどいい、何か飲みモン買って帰ろーぜ」





"ヘブンイネブン"と書かれた看板がかけられた
空きっぱなしの戸口へ 二人は入り込んだ







「やっぱり色々そろってて便利〜」


「まー夜中ぶっ通しでやってねぇのが
残念なポイントだけどな」





壁面や室内にいくつか据え付けられた棚に

所狭しと並べられた商品を選び





お目当てのモノと、それから家で尽きかけていた
細々とした品物とを数点カゴに入れて


いよいよレジで精算しようと二人が

疎らに客のいる通路をすり抜ける途中





「ねぇ…あそこの店員の人、よくない?」


「うんうん、案外イケメンかも」





ヒソヒソと店内の客二人が、並んでいる
雑誌を読むフリをしてこっそりと


店のカウンターにいる一人の店員を
盗み見る光景が目に入って


つられてその店員へ顔を向ければ…







まず目に付くのは、クリっとした鳶色の瞳と
すっとした通りのいい鼻筋



あまり油気の無いながらも全体としては
それなりに均整の取れた顔立ちで

亜麻色の髪をオールバックに流している


着ている服がコンビニの制服なのを差し引いても





「ヒーロ…とまではいかないけど
たしかに結構カッコいいね、あの人」


「COOLな男はツラだけじゃ決まんねーよ」





微妙に不機嫌さを表すソウルへ小さく笑いかけ

彼女はカゴをカウンターへと乗せた







「いらっしゃいませ、商品お預かりします
こちらでよろしいでしょうか?」


マニュアル通りながらも丁寧な言葉に


そこそこ愛想のいい笑みと、慣れた手つきで
効率よく作業をこなす姿は


どこにでもいるコンビニ店員そのものだ







「…以上で5ドル50セントになります」





けれども、買った物を袋詰めしてもらい

値段を打ち込む合間こちらを見やる瞳に


或いはかけられる言葉の端々に





どこか冷めたような…素っ気無さが
混じっているように感じられて





「じゃあコレで」


「6ドルからお預かりします…50セントの、お返しになります」





不快、と言うほどではないにしろ


どこかマカの心に引っかかった





「ありがとうございましたー!」


支払いを済ませ、袋を受け取ったマカの
後についてソウルもレジに背を向ける







「……おつかれ
いや悪かったなー急な呼び出しで」


「いえいえ、お疲れ様です」


和やかに店長らしき人物と会話をする
店員へ、一度だけ振り返ったきり





マカは黙したまま脇目も振らず店を出て

自宅への帰路を歩いていく





そんな相棒を不審に思い、ソウルが訊ねる





「…どうかしたのか?マカ」


「あのバイトの人の名前、何かどっか
聞いたような気がして……」





眉をしかめるマカに次いで、彼も首を捻り





「そういやオレもアイツの声…何か
最近どっかで聞いた覚えがあるぞ?」







腕を組みながら、二人はここ最近までの記憶を必死で辿って…







「……あ!





マカの脳裏に 一つの光景が甦った









次の日 通常授業が終わった放課後の死武専で


同じクラスのある席に座る人物を眼前に、ソウルは隣へ訊ねる





「オイオイ…ウソだろマカ?
あのダッセーのが昨日のヤツだってのか?」


「う、うん…でも名前は間違いないし
髪の色だって一緒だし」


確認はしたものの、彼女の自信は少しばかり
揺らいでいるようだ







気を抜けば周囲の雰囲気に溶け込んで
見落としそうな亜麻色の髪

まさに昨日間近で見ていたモノと同色だが


目の前にいる少年の顔と姿に

昨日の店員と重なる面影は全く見られない





…それもそのはず





無造作に伸びた野暮ったい亜麻色の髪が、顔の半分を覆い隠し


着ているのは清潔ではあるが明らかに
"ツナギ"と呼ばれる作業服


全体的にダサい印象は否めないものの

そのダサさは特に際立つことも無く
すんなりと周囲に馴染んでいる





平たく言えば"影の薄いタイプ"
間違いなく認定されるであろう彼と


"あの店員"が同一であるだなどと


誰も思わないし、気付きもしないだろう







彼が席を立ちかけ 慌てて近寄るマカ





「ね、ねぇ 君」







呼ばれて彼―はビクっと肩を震わせた





うわっ…な、なに?ええと…マカさん」





やや上擦ったように訊ねるその声は

よく聞けば"あのコンビニ店員"と同じ声音だと気がつく





視線だけで問われ、頷くソウルを確認し

マカは肩越しから中腰姿勢の相手へ顔を戻す





「あのさ…間違ってたら謝るけど
昨日の夜、ひょっとしてヘブンイネブンで」


「うわちょっと待って!」





途中で遮った言葉の大きさに驚き


いくつかの目が三人…特に発言者のへ向けられるが





硬直した三人からのアクションが無かったため


早々に興味をなくして、次々視線が逸れる







辺りの様子が治まるのを待ってから

ソウルは声のトーンを落として呟く





「やっぱ昨日レジにいたの、お前だったのか」


未だに"信じらんねぇ"と言いたげな
彼の視線に、答えるように頷いて





「……ゴメン、出来ればそれ
ナイショにしといてもらえないかな?」





辺りを気にしてか口に手を当て
空いた手で拝みつつ小さくささやく





「死武専はバイト禁止のハズでしょ?
仮に許可もらってたってあんな遅くまで働いてたら


「しーっ!!」


口に指を当てた彼に圧されて

マカは、思わず黙り込んだ





気が気じゃないと言わんばかりの様子で
辺りへ視線を配ってから





「生活かかってるんだ、仕方ないじゃないか」


弁明染みた焦りを滲ませは言う







…が彼女は不満げな顔で、踵を返して歩き出す





「おいマカ、死神様にチクりにいくのか?」


「事情はどうあれ規則違反は見過ごせないって」


「ったく お前ホントーに真面目ちゃんだな」





共に歩きながら言うものの、ソウルには

相棒を止めるつもりも彼を庇う気も更々ない





強く踏みしめた足が廊下との境を越しかけて







「言ってもいいけど…多分ムダだと思うよ


「何で?」


ため息混じりの彼の呟きが背にぶつけられて
二人は思わず振り返る





席を中立ちになった姿勢を保ったまま


首を向けた拍子に僅かに流れたらしい
髪の隙間からチラリと





「死神様、とっくの当にご存知だから
…てゆうか黙認されてるからね」



彼女達を見据える鳶色の瞳が覗いていた









「あー君のバイト?
うん、特例で見逃してあげてるよー」





沢山の鳥居を潜った先にあるフロアにて


普段通りの軽いノリであっさり言い放った
死神様の台詞にマカの目が丸くなる





ええっ!ど、どうしてですか!?」


「いやー死武専は原則バイト禁止だけど あくまで"原則"だし
彼たった一人で生活費と学費やりくりしてるからねぇ」


「テキトーだな…」





デス・シティーを収める頂点でありながら

軽くいい加減なノリを持つのが
死神様だと、理解してはいるものの


ついついそう言わざるを得ないソウルへ

彼はあっけらかんとこう返す





「ま、"授業に支障を来たさない"って条件で
お目こぼししてあげてるから大丈夫よ〜ん」









死神様のフロアを出て、少し進んだ通路で







「……本当に言ってきたの?」


二人の前に、が姿を現した





前髪に隠れていて半分表情が分からないものの


彼の声と様子に不安と呆れが滲んでいるのは
傍目からでも見て取れる





「ああ、つーかお前一人暮らししてんのか」


「まあね 特に聞く人もいなかったし
知らなくて当たり前だろうけど」





確かに…とマカとソウルは思った





意識して探してどうにか
クラスにいることを見つけたくらいだ


その位"普通"な彼はアクの強い者揃いの
死武専の中じゃ、モブと同じような扱いだろう





「…いつもコンビニで遅くまで働いてるの?」


「毎日ってワケでもないさ、シフトもあるし
いくつか かけ持ちもしてるから」


「コンビニの他にもあんのか?仕事」


「選ばなきゃね…まぁ死神様もおっしゃった通り
授業に差し支えるから ほどほどには調整してる」





淡々とした口調は全く変わらないものの

その口振りには どこか余裕が感じられる





「あの、誤解なきよう言っとくけど
いかがわしい仕事はしてないよ?





唐突にそう付け加えたのは、いつの間にか
やぶ睨みになってるマカに気付いたからだろう


「…本当?」


「じゃなきゃ死神様に目をつぶってて
いただけないって、未成年だし」


「それもそーだな」





軽いノリを持ちいい加減ではあるものの

締める所は、ビシッと締める


だからこそ死神様はこの町や
死武専の頂点として存在するのだ







納得したらしい両者へ畏まり





「あの…改めて二人にお願いがあるんだけど」





彼は、両手を合わせて頭を下げる


「知っての通り死武専は原則バイト禁止だから
みんなにはこのコト、言わないで下さい





マカとソウルはしばし目を合わせたまま黙り


…やがて、くすりと小さく笑った


「仕方ないなぁ…いいよ」


「あ…ありがとう…!」


「そーいやお前、職人?武器?」


「あー…武器だよ ハサミ」


「「ハサミぃ?本当に?」」


本当だよ、と言いつつピースした右手の

二本の指を瞬間的にハサミの刃に変え

シャキシャキと擦り合わせてみせた





彼女達にとって普通の…モブ程度としか
認識していなかったクラスメートとの縁は


こんな"普通じゃない出会い"から始まった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:魂喰話…初っ端はマカ&ソウル組からの
スタートとなりました


ソウル:オレの口調はアレでいーのかよ?


狐狗狸:…やや定まってない感があるかも、ゴメン


マカ:それよりコンビニがある設定で大丈夫なの?
いや、あってくれれば助かるけども


狐狗狸:発祥がアメリカだし、どっちかというと
"よろず雑貨店"的な印象だからOKでないかと


ソウル:あと、所々セリフや展開に脈絡がねぇのは
どーいうワケだ?


狐狗狸:…そこは私の通常営業だから仕方ないじゃん


マカ:何ソレ 大人のクセにいー加減過ぎ!




初っ端なのに妙に長めで失礼しました!


様 読んでいただいてありがとうございました!