地響きがデス・シティー全体を揺らし





オイ!何だよアレ?」


「何か下から出てきたぞ」





ガレキを突き抜け、地下から飛び出した鬼神へ
人々の視線が集中する






マカ!!…ッ!!」


空中で振り落とされ、ついに力尽きたマカを


ソウルは身を挺して庇い 共に雑貨屋の
積荷を下敷きにする形で落下する






「鬼神を…止め…な…きゃ」







宙を見つめ、手を伸ばして意識を失った相方へ





「すごいよ…お前は…」





心からの賛辞を送った次の瞬間、二人の
側の路面が盛り上がって





「FUUUUUUU」





ドクロのついた、蛇のような四つの"封印"
凄まじい勢いで上空へと伸び


浮かんでいた鬼神の四肢をしばし絡め取る





あまりの光景に ソウルは勿論、外にいた
町の人々も夜空へ釘付けとなる







「……何なの…アレ…」


キャットファイトに熱中していたはずの
ブレアとミズネも例外ではなかった





と、前触れ無く通路一帯へ

魔女猫を中心として白い紙吹雪が吹き荒れる





ウニャッ!?何コレ!!」





人々の悲鳴など構うことなく、派手な魔女
彼女へと近寄って告げる





「ミズネちゃっあぁうん、今のうちに
退散の準っ備しておきなさぃうぃぃ?」


「どういう事よ?


「来るのよ、超特大急のア・ラ・シ・が!












L'ottavo episodio World end dominator











…一方、ようやくよじ登り切ったフリーが
封印に絡め取られている鬼神の姿を認める





「大丈夫なの?」


「あんな古い封印では
復活した鬼神は止められない」





鬼神が右腕を動かせば、それを証明するように

巻きついた封印がいとも容易く引きちぎられていく





だが、彼の肩に乗った蛙姿のエルカは


直後にあらぬ方へ視線を向け…目と口を
最大限まで開いて震え出す





それに気がつき、振り返ったフリーもまた

驚きを露にする





「フリーの魔法…一時間もつって言ったじゃない
…まだ40分もたってないわよ…」


「時間を少し長く言ってしまったようだな…

オレも男だ…そりゃ見栄もはるさ!!」







住人達と、彼らの様子と…特有の波長に気付き





顔にまとっていた皮膚へ切り込みを入れ


鬼神―阿修羅は、本来の顔を
虚空にて対峙する死神へとさらして睨む






―――――――――――――――――――――







ようやく屋外へと出た死武専生達も天を仰ぎ





「おかげで早く結界を破壊できたとはいえ
あの現象は、何だったんだ?」


オックスは誰にとも無く口走る







…彼らを閉じ込めていた結界は時と共に
徐々に弱まりつつはあったのだが


一刻も早く死神を脱出させよう、

内部では様々な手段が講じられていた





それが実ったのは、つい先程


まるで何かに"力が断ち切られた"かのように
結界が急激に弱体化したのを契機に


彼らが畳み掛けるように破壊を試みて





結果 結界の消滅は少しばかり早まった







「死人先生!オレたちはどうしたら!?」


敵の攻撃がまだあるかもしれない!!
緊急事態に備えておけ!!」





逸る気持ちを抱える生徒達を抑え、死人は
周囲に気を配りながらその場に待機する







暗雲の立ち込める空、大勢の観衆の中





ども〜ッ久しぶりだねぇ〜大丈夫?
ヒョロヒョロじゃない いつも厚着してた君が
そんな薄着だと落ち着かないでしょ?」


「あなたこそ何です?そのふざけた面は?」





普段通りの軽い口調と、地の底から響くような
低い声音が絡まりあう





「お目覚めのトコ申し訳無いケド」


世間話のノリで会話をしながらも片腕を硬質化させ





「もっかい死のうよ」





トーンを落として言い切った死神が


間髪入れずに横殴りのチョップで相手の横面を
殴り、その勢いで遥か下の路面へと叩きつける








―――――――――――――――――――――







―風を感じて…ぼんやりと顔をあげると





「思い出させてみろッ!!」





夜空に浮かんだ死神様に…鋭いひも状のモノ
一斉に迫っているのが、見えた


けれど…身を仰け反らせて





「渇ッ!!!!!」


叫んだその一言によって、それらは全て
ぐしゃぐしゃに燃え落ちて…衝撃を伝える





……視線を辿れば…鬼神が死神様へ
飛びかかっていくのが、見えた





僕は…僕は、一体どこにいるのだろう?







痛みでボーっとする頭が状況を理解するより早く





『ヴァジュラ!!!』


顔から突っ込んだ鬼神の技と、死神様の
衝突によって強い衝撃が生まれて…





吹きつける風に押されるように僕の身体が
バランスを崩して


どこかから…"何か"から落ちていく





遠くから聞こえる悲鳴と派手な物音に紛れて





自分の口から出たハズの声だけ聞こえなかった







息がし辛くて…それでも、うす目を開けて
もう一度だけ夜空を見上げてみれば





死神様の左側が 鬼神に貫かれるのが見えた







「この下衆なブタが!!!

もう一度生皮ぶち剥いでやる!!」






今まで聞いたコトが無いくらい恐ろしい声も


飛び去ろうとする鬼神を追って死神様が
放った黒いモノが弾かれるのも






目に入ってるのになにもかもが…現実味のない
夢の中の出来ゴトのようだった







ああ、そうか、そうだよコレは夢ナンダ…


バイトデ疲レテテ、コンナ奇妙ナ夢見テルンダ

…起キレバキットイツモノ教室ニイルンダ





もうそれ以上 僕はあらがえず目を閉じた―









―――――――――――――――――――――







ジリジリと…フィルターの辺りまで短くなった
タバコを、シュタインは無造作に捨てて呟く





「どうやら、終わりましたね」


『そうか…つか、ちょっとだけした
あの耳鳴りは一体何だったんだろうな…』





の顔が"心当たり"として浮かんではいたが


確証も無く、口に出すのも億劫であってか





「さあね 上じゃ死神様と鬼神がやりあってた
みたいだけど…「狂気」が薄れていく…逃げたか」


曖昧にごまかし 彼は虚空を見つめる







トレードマークの白衣はメデューサの血に染まり


メデューサ自身は…"鬼神の復活"を遂げた
達成感の隙を突かれて胴を両断され


虚ろな顔で、床に転がっている





結局 オレが死神様の所を離れなければ
止められたかもな
……やだな〜〜…』





グチ交じりに深くため息をつくスピリットへ
特に関心も示さぬまま、彼は言う





「たられば言っても仕方ないですよ

まだ終わったわけじゃない これから
解決策をねらないと世界は大変なことになる」





言い終えて、一歩足を踏み出し







数瞬後…背へ感じた重みに視線を向けると





最後の力を振り絞って負ぶさるメデューサが


不意をつかれたシュタインの喉元へ噛み付いた






「ぐあ!!」


『シュタイン!!』


「…くそ!!」





右腕で髪を掴み、無理やり引き剥がして
彼女を床へ叩き付け





"愛"をうそぶく頭部へ彼が鎌の刃を突き立てれば





「アハハハハハハハハハハハハハハハハハ♪」


高く響く笑い声を上げ―残った身体全てが
黒い蛇と化して今度こそ魔女は絶命する






なんて女だ…魂ごと消滅したか…』







しばらくの間、床を睨みつけていたシュタインは


やがて顔を上げ…キッパリと口にする





「行きましょう先輩…子供たちを救出しないと」


『ああ…無事でいてくれ、マカ…!







―――――――――――――――――――――







ドサクサに紛れて逃亡したエルカ達は





「ここまでくれば安心ね」


俄かに騒がしくなり出したデス・シティーを
遠くに望む荒野の高台で、ようやく一息つく







よかったのか?あの小僧を放ったままで」





訊ねるフリーへ は至極
残念そうな面持ちで色っぽいため息を吐く





「仕っ方ないじゃなぃうぃ…グズグズしてたら
狩られちゃうし、連れてったらバレちゃうモノぅ」


クネクネするな気持ちの悪い…」


腰の動きにブレアを連想してか、あからさまに
眉をしかめるミズネと対照的に エルカは笑う





メデューサの魔力は感じられない…

これでせいせいしたわ あの女の死に様を
見れなかったのは残念だけどね♪」


「ずいっぶんキラわれちゃって…かわいそーな
お姉さまぅ、せめて一回は踏まれたかったわぁ」


ゲロアンタの価値観は全然分かんないけど
でも一応 尊敬はしていたのよ」







ひとしきり雑談を終えて、彼女らは動き始める





「さて…これからオレたちはどうすればいい?」


「私はこのまま帰るつもりだ、エルカ
また何かあったら連絡をちょうだい」


「わかった、ありがとね〜ミズネ


合体を解き 五人に戻ったミズネ達が飛び去り





間を置かずにも、白いホウキで宙に浮く





「じゃ アタシもおいとまするわねぅえ〜
縁があったら呼ぉんでぇ?の捕獲とかん♪」


ゲコっ、頼まれてもイヤよ…あのツナギ男
近くにいると耳鳴りうるさいし怖かったもん」


「あらぁあ連れないわねぅえもぉおぅ〜…
フリーちゃん、イク当てないならアタシと来ない?」


「生憎だか ソリが合わなさそうだから断っておく
ああ!自由にさせてもらうさ!!


「残念ぅ…それじゃ、arrivederci(さようなら)♪









別れをかわし…古巣へと戻って行く途中で





「…エルカったらおバカさんねぅえん、お姉さまが
アレっくらいで大人しくイくハズないのにvV






どこか"確信"に近いモノを感じ、眼を細めて笑う
彼女の顔は…気味が悪いくらい妖艶だった











…―こうして、数々の不安と爪痕を残して


人により長く感じられた夜は 終わりを告げた








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:前夜祭の一件が終了しました…展開上
已む無く夢主の名前が作中で一番少なく…


ミズネ:どうでもいいけど、
どうやって死神の出現を知ったのかしら?


狐狗狸:たまたま死武専の近くにいたか
先に死神様の波長を感じたか、のどっちかで


フリー:しかし…あの小僧から離れた途端に
キンキンうるさい耳鳴りも消えたな


狐狗狸:まー魔力が強ければ強いほど
近ければ近いほど反応する仕組みだから
……のあの魔法陣は


阿修羅:ほぅ…師匠も面白い者を見つけたな


狐狗狸:ぶふぉっ?!なんでいるのアンタ!
つーかここにいたら死神様g


死神:貴様っ性懲りも無く出没しおって!
(超巨大死神チョップ)


狐狗狸:うぶっ!?(鬼神と巻き添え)




…狂気の一夜が明けた後に 訪れるのは


様 読んでいただきありがとうございました!