―両手の爪をかじり…ほくそ笑んで小鬼はいう





「バカな奴め…リードするのはオイラさ」





日常が破綻し 誰も彼もが狂気にまみれた
この空間で、時の流れは意味を成さない―…








通路中にばら撒かれた おたまボムを凝視するうち





いかん…気分が悪くなってきた…」


「ほれ見たことか…お前あの牢獄ん時でも
同じような失敗してたじゃねぇかよ…」





アンバランスさに負け、キッドは
その場にへたり込む


しまいには敵を追う意欲まで失いかけた彼を





「みんな必死に戦ってるんだよ、あの地味な
だって上でガンバッてんだ


ここで諦めたら鬼神が復活しちゃうんだぞ
死神のお前が行かなきゃ誰がやるんだよ





懸命に励ますリズだが、相変わらず
ネガティブな返答しか帰ってこなかったので


最終手段としてパティが"鶴の一声"を放った





「さっさと進めよヘタレ」


「…うわぁぁああん!!





結果 浮いていた複数のボムも、風景に
カモフラージュした"紙"に隠れていたボムも


一切合財関係なく突っ切り



爆風を利用して 泣きながらキッドは加速する







鬼神の封じられた社まで、あと少しの距離


崩れた遺跡の広間らしき地点で フリーが
接近する相手の存在を嗅ぎつける


「ものスゴい勢いでこっちに向かってる…
追いつかれるぞ…」





それを耳にし、へばった使い魔の上で
エルカが半ベソ気味に呟く





「ゲロッ…アレだけおたまボム貸したのに
全然役立ってないじゃんの奴ぅ!」



「…あの派手な女は強いのか?」


「知らない、てゆうか関わりたくないもの
蹴飛ばしてもふっ飛ばしてもしぶとく
すり寄ってきて気持ち悪いし!」





彼女の関心は 気まぐれすぎる魔女よりも


鬼神に注入するための"黒血"の入った
ケース…とそれを護るコト、である












Sesto episodio because I am the Jabberwocky











そんな状況の中 フリーはボンヤリと考える


頭に不意に過ぎるのは…先程のエルカのグチ
示していた過去の行動





それだけのボムを使う必要があるの?
三分の一ぐらいで十分じゃない!』


普通ならねぅえ、でもあの"弟"の場合は
これっぐらいしないと止まらないからぁん♪』





上手く上にひきつけるけれど、と
付け足してはいたが


彼女はいくつか地下に仕掛けを施していた





『ケプストゴート、ベェトゴトー…ミメシスゴート


特に 風景に紛れた"紙"包みの爆弾







(魔法をカモフラージュか…いいコト閃いた
ああ!そりゃあナイスアイディアさ!





触発されてか、自らの実力の自信も加わって





「…まぁココはオレに任せろ

ちょいとエルカの乗っているおたまじゃくし
オレに貸してくれ」





彼は使い魔の"オタマ=ジャクソン"と自らの
魔眼の能力を使い


広い空間を利用しての"足止めの策"を実行する







―――――――――――――――――――――





が断続的に白いムチを振るうたび


下僕が、拳を、爪を振るい上げるたび





自分の身体に傷がつき 血が辺りに飛び散る





ガハッ…ゴホ…ぐ…!」


「いいっ加減諦めて楽になっちゃったらぁ?」





遠慮もクソもない力加減でヒールの先が
頭にめりこみ、割れるような痛みをもたらす





狂気に身を任せるって素っ敵なコトよぉう
あの二人だってそうしてるじゃなぁうぃv」


「うるさい…!」


「あの男の子クンも黒血に感染してたんなら
受け入れればイイのにおバカよねぃうぇん」


「…自分で戦いもしねぇ…弱虫野郎が…
ソウルを、バカにすんな…!


「その弱いよわぁいアタシに好き放題
ヤられてるのはどこの誰かしらぅ?」






どれだけ殺意を抱いても、今の状況じゃ
悪態ついてニラむぐらいしか出来ない


口の中は鉄と土と胃液でヒドい味がしている


かきむしって剥がしてしまいたくなるぐらい

肌のあちこちが痛くて痛くてたまらない


頭痛はいよいよ凶悪さを増して


考えるコトすら…目を開けているコトすら
一切やめてしまいたくなる





―もう…これが"現実"の痛みなのか


"違和感"の痛みかすらも 分からない






「誰がどうガンバったって、鬼神ちゃんが
復活するのは決定事っ項なんだから
こ・れ・以上!退屈させないでちょうだぅいぃ」


「なにもしてねぇクセに威張るな無能バカ…
ぐっ、あぁぁあぁ!


その言葉、アンタにそっくり返してあげるぅ」





連続したヒールのストンピングが肩を直撃する





それでもガマンを続ける俺へ





「まだ諦めないんなら…本腰入れてお友達
みぃんな消しちゃおうかしらぅあ?」






いけ好かない笑みを浮かべて、コイツは言った





「お姉さまはデス・シティーの破壊も目論んでるし
協力ぐらいならしてくれるかもねぅえ?」







認めたくないけど 一時期、側にいたから





その冷たい声色で、少なからず
本気であることが理解できた





こいつだけでなくメデューサや…他の魔女が
一斉に、みんなへ襲いかかったら





普段だったらまだしも、こんな状況で


こんな…異常で切羽詰った状況で







最悪の想像が 一気に脳内を駆けめぐる中


ぐ、と無理やり下僕が髪をつかんで
頭が持ち上げられていく





「アンタが下僕に逆戻るならあの子達
今・度・は助けてあげてもいいけどぅ?」






余裕をかまして、絶対的な圧力を
見せ付けるかのような姿は…正に"魔女"


初めてあの城に連れて来られた時と


全く同じように こちらの無力さを
完璧に思い知らせる構図―






痛みよりも強い感情が、頭を満たした







「た…くだ…ね…、が…、お…」


「聞こえなぁいのぅ、ねぇ
もっとハッキリイッちゃってぅええぇえぇ







息をひとつ、大きく吸いこんで





お望み通り……俺は応える







「―くだらねぇセリフは それだけか?」





同時に 背や身体から鋭い二本の刃を
素早く突き出し、引っ込めて


自らを押さえつける下僕どもを刻む


散り散りになって倒れ、白い紙片が舞う


キズ口からも そうでないトコロからも
吹き出た血が転がるソレを赤く染める





けれど、構わず俺は立ち上がる





「これ以上、黙って奪われ続けてる俺だと
思い上がってんじゃねぇ ドスベが!」








冗談であって欲しかった、普通でいたかった


けど、現実はザンコクで無情で
イヤになるくらい非現実を叩きつけてくれる


こんなにあっさり日常がうばわれていいのか?





―いいわけねぇだろ!







「"普通"の鋏の底力、見せてやるよ」





耳鳴りと頭痛が交互に入り乱れるけれど関係ない


ただただ溢れてこぼれて止まらない感情に
突き動かされるように





襲いかかる術や巨人をブチ裂いて


飛び上がった魔女へ、紙クズに戻りゆく
敵を踏み台にして追いすがり


術で作られたムチを身体に受けながら






「完魂総殺!!」





奴の分身を…ボロ雑巾よりもヒドく
ズタズタにブチ刻む








―――――――――――――――――――――





ぁん…壊されちゃったv」





僅かに頬を紅潮させたは、呟くと
地上の空を仰いでため息





「でも、思ったよりも成長してて安心したわぅ

…鬼神復活するまで下手に手出しできないのが
残念だけど 仕っ方ないわねぇうえぇ」


お姉さまの邪魔は出来ないしぃ、と付け加え





白い箒に座り込んだまま 彼女は適当な
民家の影から路地にわだかまる男達の歓声と…


中心で取っ組み合う魔女二人を眺める







いや…出会い頭では魔法を使い、対峙していた
一匹と五人組だったのだが





ミズネ達が"合体"して一体の魔女に化けた事と


彼女に誘惑される周囲に対抗して、ブレアが
ヒトの姿へと化けた事により





「なによ、ムダにデカい胸さらしやがって
趣味悪いんだよこの負け猫!


「悔しかったら背だけじゃなくソコも
大きくしたらぁ?ちょっとどこ掴んでんの!


いつの間にか魔法ではなくガチでの
嫌味とキャットファイトへ発展していた





あぁん楽っしそう!混ざりたうぃいぃんvV
…でも、仕事はしなくっちゃぅあ」





クネクネと一通り悶えてから、呪文を唱えれば





白い巨人が また一体辺りを闊歩し始める







―――――――――――――――――――――





あの、罠だらけの通路から抜け出して


近くから聞こえた 派手な物音だけ頼りに


責めさいなむ痛みをこらえながら階段を上ると





本当に…マカさんと"クロナ"が戦ってた







なにが起きてるのか分からなかった、なにが
起こってるのかも分からなかった


かすみかけた目じゃ、よくは見えないけど


時折散る血が黒いのと 二人がためらいなく
身体を武器でキズつけあって


それでも平然と…むしろ笑って戦っている





それだけは よく分かった





「アレが…狂気の世界…?」





止めるコトも声すらも届きそうにない

絶望的で絶対的な"狂気"と"力"






壁にもたれ、細切れになる意識の中


黒血の狂気に囚われ 普通じゃなくなった二人を


止めたくて、否定したくて、でもどうにもできず
ただただ眺めるコトしか出来なくて…







「まぁあァアああああァアアあァあぁ」





けれど戦いの終わりは 唐突にやって来た







耳が痛くなるような絶叫が、"魔剣士"の口から
確実にこぼれ落ち あたりの空気を震わせて







「クロナは!」





ケラケラ笑ってたたずんでたマカさんが


―気持ち悪い雰囲気をただよわせていた女の子が


いつもの見知ったクラスメートに"戻った"


少なくとも、僕にはそう見えた







そして武器化しているソウル君を柱へ置いて

マカさんは…一歩ずつ歩き出す





「来るなァ!!」





"クロナ"の身体から生える、鋭くて
黒い針のような棘が身体を掠めても






怯むコトなく進んで…彼女は相手を抱きしめる





「今ならわかるよ…君の波長―…


君は接し方がわからないんじゃない
誰も君に接してこなかっただけ






消え入りそうなか細い声で呟く"クロナ"へ


持っていた本で、軽くチョップをかまして





「友達になって下さい、お願いします」





ニッコリ笑ってマカさんは…片手を


可哀想で不幸な、一人ぼっちの魔剣士に
差し出してそう言った








……泣き声が 静かな空間に響いた







―――――――――――――――――――――





不死の特性と"立体映像"の魔法による
フリーの足止めに引っかかった分を取り戻すべく


キッドとブラック☆スターは歩を進める





クソ!奴らに先んじられてしまうとは…」


「ったくしっかりしろよな〜ホントあんな所で
なーにやってたんだよお前ダッセェー」


「戯け!お前だって魔女の浅はかな罠に
引っかかって大幅に時間を食っていただろう!」






どうやら遅くなった理由も、本人と椿から
すでに聴取済みらしい





「しかし…過ぎたコトとはいえ、
置いて来たのは正解だったかもな」


「まぁ、鬼神の復活止めんのにはアイツじゃ
全然役者不足だからな!うひゃっはははは!」






清々しいまでに自信満々な彼の隣で


キッドは割合真剣な面持ちのまま続ける





「そうかもな…何より、あの"魔眼"を前にしたら
返り討ち前提で飛びかかりかねん」







―――――――――――――――――――――





血が抜けたからかしばらくボーっとしてたけど





正気に戻った"クロナ"が、武器の"ラグナロク"
反発して争ってる辺りでようやく意識が定まり







急ごう!
キッド君とブラック☆スターに追いつかなきゃ」





自分の武器を抑える…てか、武器に
もてあそばれてる魔剣士を背に二人がこっちに





「…って、うわわわ!







勢いよく駆けて来たから よけられずぶつかった





「イタタ…って君!?上に行ったんじゃ
…それより、そのケガ!!」


「気にしないでよ 普通の大ケガなだけだから」


『ツナギ血塗れがか?』





とりあえず俺…いや、僕らは、お互いの状況を
簡単に取りまとめて話し合った


こんな状況で妙な話だけれど こうして二人と
会話ができるコトに少しだけホッとする





どうやら博士と、抜け出してたスピリット先生が
先陣切って出てきたメデューサを引き受け


キッド君は 一番先に鬼神の封印された社へ
スケボーで向かって行ったらしい





で、お前はいつから盗み聞きしてやがった』


「人聞きが悪いよ…あいにく、ほとんどなにも
聞こえなかったさ 遠かったし」





いぶかしげなソウル君へ正直に言って





「聞いてもいい…?アレは結局…なにが」


起きてたの、とおしまいまで言えずに口ごもる







けれどマカさんは、気を悪くした風でもなく
小さく笑って答えてくれた





「説明はまた今度するけど…でも
きっかけは君からも、もらったかな?」





なんだよそれ…そんなコトない、全然ない


同じ立場でも、僕にもダレにもあんなコト出来ない





逆だよ ソレを言うなら僕だって」







一瞬、世界がアメ細工のように歪んでヒザを突く





「どうしたの!?」


「大丈夫…なんでも、ない」







…身体もキズだらけで、頭もうまく働かなくて

気分も気持ち悪さのせいでいまだに最悪





だけど結局僕は 先に行った二人を追う
マカさんの側を離れず着いていく





…お前ケガしてんだし、クロナと
残ってた方がいいんじゃねぇの?いっそ』


言ったろ?あのバカ女が罠しかけてるって」


"戦力になれなくても、せめて鬼神のトコまでは
サポートするから"
と説き伏せて





が吐き出した あのタワゴトを


二度と、現実にしないために








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:どこまでも長文のターン!もうなんか
開き直っちゃおうと思いますkb的にも!


小鬼:オイラ出番少ねぇな…でもっていい具合に
話の順列は無視してんなぁ〜♪


狐狗狸:文章でも狂気を表してみようかなと


キッド:ウソをつけ、書き出したい所だけ
好き勝手に抜粋しただけだろうが


ブラック:オレ様のスンバらしい戦闘シーンを
なに勝手に抜かしてやがんだぁ!



ソウル:前回バッチリ目立ってたじゃねーかお前


ブレア:ブーたんも目立ちた〜い♪


狐狗狸:どこまでも自由だなお前ら…つか
ブレアちゃんはもう少し後の方でゴニョゴニョ




差し迫る刻限…そしていよいよ鬼神が…!?


様 読んでいただきありがとうございました!