素早くツナギに着替えて、打ち合わせた場所へ
降りれば店長と従業員の人がもう積荷を運んでた





「よーし、そっち持て落とすなよ!


「わ…分かりました店長…」





前夜祭の注文を請け負ってたコトにかこつけて


サプライズとして秘蔵のワインを会場に振舞う


…って言えばすごく聞こえはいいんだけど





実質はさばききれなくて維持が面倒になった
在庫過多品の一斉格安処分





店の裏事情は、ある程度目をつぶるけど


バイトだからって参加者をこき使うのは
本当カンベンしてほし…てか、重い…!


「こ…これ、シャレじゃなく重いです…」


「絶対落とすなよ!一つでも台無しにしたら
給料から差っ引くからな!!」






言われなくても 十分理解してる


たとえ格安処分だとしても僕の給料じゃ
一本だけでも大赤字確実だし…





階段へ足をかけ、会場へと取って返しながら


どうにか みんなにバレないようこっそりと
ワインを置く段取りを頭に思い浮かべ…







―まったくなんの前触れもなく





突き刺さる…なんて言葉じゃ足りないほどの
"痛み"を肌が感じ取った













Terzo episodio Failing festival











「うぐあぁっ…!」


うぉあ危ね!おい何やってんだ!」





放り出した商品も 怒鳴りつける相手にも

気を回すコトなんて出来ない


立ってるのさえ辛いほどの急なめまいと
頭の重みも、痛みと一緒にやってくる





いままでのなによりも強いこの"痛み"


まるで…そうまるでアイツが側にいる時の
"違和感"と、どこか似ていて








「おい、大丈夫か…って待て!
お前どこ行く気だ!?





そう考えた直後 気付けば僕は駆け出していた







―――――――――――――――――――――





「施錠(ロック)!!」





死武専の一角が 空間ごと魔術で隔離され
脱出不能の空間と化す





「あらぁ〜ん、フリーちゃんって
見かけよりもっとスッゴイのねぅえぇん♪」


「言うほどじゃないさ…ちなみにリミットは
『1時間』!!!それ以上はもたないぞ」





死武専の上空へ集う彼女らの元へ





「ぴぎェエエエエ!!!!」





けたたましい悲鳴をあげ、黒い翼を広げた
ラグナロクを使役したクロナと


五人の魔女…"ミズネファミリー"が合流する





「ミズネ〜!!」


「チチチ」





親しげに呼ぶエルカへ一瞬微笑みかけて


彼女らは飛行しながら"ビーム髭"で死武専の
一角を破壊し デス・シティー内を目指す





その様子を満足げに眺めて、メデューサは言う





「後は頼んだわ デス・シティーを潰しておしまい
、アナタも行きなさい」


わかりましたわぅあんお姉さま!
じゃあみんな、鬼神復活がんばってぇえん♪」







ニコリと笑い 彼女は紙で出来た箒を操り

地下を目指すメデューサ達を見送りながら
適当な路地へと着地する





「さぁて…言いつけ通り、面っ白おかしく
破壊と足止めサポートし・な・い・とぉ〜ん」





小さく微笑むと、ほんの数瞬"魔女"へ戻り





「ケプストゴート ベェトゴトー…」


唱えられた呪文に反応し 
周囲へ白い紙が徐々にわだかまって行く…







―――――――――――――――――――――





頭を直接殴られてるような"痛み"
引きずられるように会場へ戻る途中







「…8つも!?それに魔剣もか!!」





声が聞こえて、廊下を曲がれば


マカさんたちが集まっていた





「…え?!みんな、上の会場にいたんじゃ…」


君こそどうしてここに!?」


「え、あのー僕は…」


「どうせバイトかなんかで早抜けしたんだろ?」


「…その通り」


なにぃ!いつの間にフケてやがったんだ?」


「全然気付かなかったよ〜」


…ちょっぴり切なくなった





けど、そんなコトを気にしている場合じゃない





みんながどうしてここにいるのかを聞こうとして


ものすごい音と揺れが廊下で起こる





「うわっ!?」


「うおっ!!」


「…デス・シティーはどうなってるの!?」


「緊急事態です みなさん落ち着いて
聞いてください」






戸惑う僕らへ、シュタイン博士は静かに告げる







死武専の地下に"初代鬼神"が眠っているコト


メデューサ先生は、その鬼神を復活させるため
保険医として忍び込んでいた魔女


鬼神の復活を止めなければならない…







「メデューサ先生が魔女なの!!?」


「死武専の地下にそんなモノが眠ってんのか!?」


「確かなようだ オレも父上から聞いたよ

父上はその鬼神の封印のために
この場所から離れられなかった…」





死神様が、鬼神を封印?


デス・シティーを動けなくなった…?





思わぬ情報ばかりで頭が混乱しそうになりながら


同時に僕は 理解する





これは…冗談なんかじゃないんだ





「地下へつながる入り口へ案内しましょう
みなさん ついてきてください!!」






シュタイン博士の先導に従って


礼服を着替え みんなで死武専の地下へ
通じる入り口へと案内される







…その道中、会場で起きたコトを説明されがてら





君、ついて来ていいのかい?


「…え?」





博士が、僕へと問いかけてくる





「敵の魔術を逃れた理由はともあれ
死武専に残っている方が、安全なハズだ」


「博士の言う事も最もだ 職人もいない以上
一人では限界がある…残った方がいい」


「私らと違って、はたまたま
ここに居合わせただけで関係ないもんな」





三人の言ってるコトは正しくて


ほとんど成り行きで行動していたけど





ここまで来て、見てみぬフリなんて器用なマネ
今更 僕には出来っこない







「力はないけども…関係なくなんかないよ」





確証なんか全然なかったけど…それでも





「ソウル君を襲った鬼神の卵って…
"クロナ"って名前の、黒い剣士の子でしょ?」


「え…どうして知ってるの!?


会ったんだ、昨日 殺されかけたけど」





僕の中ですでに結論は出ていたから







昨日の夜の出来事の全てと


今までと…今もまだ感じている"違和感"を





黙ってた全部を言葉にして、みんなへと話した







「それじゃあ…君には
身近な魔女や魔法を察知できる力があるってコト?」





信じられない、と言いたげな椿さんへ一つ頷く





考えてみれば…簡単なコトだったんだ


それらが近づく直前には、必ず身体に


不快な"違和感"が襲いかかってきてたんだから





「こんなコトになって、やっと気付いたけどね
…言えなくてゴメン」


なぁーにしょげてんだ!よかったじゃねぇか
地味なお前にも特技が出来て!!」


「そういう問題じゃねぇだろ…だとしても
ついて来る必要はねーだろうが」


「なかったら仲間に協力しちゃいけないの?」





そう返せば、ソウル君は呆れたように
小さくため息ついて口を閉ざして


誰にも、それ以上"戻れ"とは言われなかった







―――――――――――――――――――――





古びた遺跡の入り口が、暗い闇を奥へと
たたえて眼前へそびえていた





相手は強力 生半可な覚悟で先へ進むと
命を落とす可能性がある






「引き返したければそうすればいい…」


くわえたタバコへ火をつけ、一呼吸置き





「"恐怖"と戦う準備があるか オレと
来るか来ないか―君たちの魂が決めろ






訊ねるシュタインだが…彼らの答えは決まっていた





「行きます!!」





決意を固めた生徒達を目の当たりにして





「そう!!」


嬉しそうにヘラヘラと笑ってから、彼は

亜麻色の髪の少年へと目を向ける





「さて、君はこの先単独じゃ危ないから
暫定的にオレとパートナーを組むように」


「はい 分かりました博士…


「どうしたの、く」


言いかけて マカの言葉が止まる





魂に魔法陣…!
しかも、前の時よりハッキリしてる!)







ほぼ同時に、九人の来た道からコツコツと
ブーツを鳴らして一人の女性が現れる





「あの〜ちょっとお聞きしたいんですけど」


「あれれ?おネーさんだーれ?」


「悪いが 今は取り込み中だ」


「いえ、お時間は取らせませんよぉ
ちょーっと私に付き合って欲しいだけでぇ」


言いながら、彼女が一歩踏み出して





「罰殺!!」





片腕をハサミの刃に変えた

顔面目がけて突きを繰り出す


が間に舞い込んだ無数の白い蝶
壁のように固まって彼の刃を押しとどめ


次の瞬間、バラバラに切り裂かれて砕ける





「あらあらぁ〜ご挨拶ねぅえんv」


「どんだけ地味に化けようがテメェの本性
バレバレなんだよ…!!


「あせってがっつかな・い・でぇ?
今プロテクト解くわよぉ〜う」





自慢げに指を一つ鳴らしたその途端





ソウルプロテクトが解除され―


一人の魔女の魂反応が現れた







魔女として本性を表した相手へ
マカとキッドが表情を険しくして身構える





それすら楽しいと言った様子で


は妖艶な笑みを浮かべて言う





「せっかくのプロテクトも変装も
一発で即バレじゃ台無しねぅえんvV


「知るかどっから沸きやがった変態クソ女!
スグ死ね今死ね速やかに死ねっ!!」



すかさず気性も荒くクラスメートが噛み付き


初見の暗殺者コンビと博士が目を丸くする





おぉう!ハッスルしてんな〜」


「落ち着きなさい、激情に身を任せたら
相手の思うツボだよ」





諌められ 彼は歯軋りして相手を睨むだけに止めるも

魔女の方は黙らない





ベェ〜視線が絡っみ付いて堪らないわぅV

でもゴメンねぇん、今すっごく忙しいからぁ
本気で相手してあげられな・い・のぉ〜」





周りが引くほど身をくねらせながら


ちゃっかりしっかり呪文を唱える





「ケプストゴート ベェトゴトー!」







途端、九人の周りに白い紙吹雪の渦が
舞い散って視界を遮り





「くっ…」


「わぷっ!」





収まると そこには入り口を背にして

二体の白い巨人が行く手を阻んでいた








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:お祭り終了のお知らせ…そして
長い夜の戦いが始まりました!


ブラック:おい待てテメェェ!
オレより目立ってるヤツ多いじゃねぇか!!



椿:落ち着いて、次からは活躍できるわよ


パティ:逆に全然出番なかったりして〜


キッド:着目点はそこじゃないだろう!
全く…しかし性格はともかくとして、あの魔女
それなりに実力はあるようだな


リズ:堂々と私らの目の前に現れたもんな
…妙に変態っぽかったけど


博士:彼も中々頑固だね…それにしても
あの魔法陣、まだ謎がありそうだなぁ


狐狗狸:ありますとも!




彼の決断、彼らの行動に地上と地下が騒ぐ


様 読んでいただきありがとうございました!