人気の無い、朽ちたプレハブ小屋に集い


アタッシェケースを差し出して彼女は言う





持ってきたわよ!!これで身体の中のヘビを
一匹とってくれるんでしょ?」


「そうね ご苦労様エルカ」





魔眼の男・フリーとクロナを脇に従えて
プロテクトを解除したメデューサは満足げに笑い







チラリと蛇に似た瞳を亜麻色髪の魔女へ向ける





「にしてもまさか…アナタがコンタクトを
取ってくるとは予想外だったわ、?」


「だぁってお姉さまみたいな素敵なお方を
忘れられないものぅv探しもするわぅあん♪」


パチン、と指を鳴らすと紙で出来た白い蝶が

エルカの髪の中から出ての肩へ止まる





ゲコ、魔道生命体で居所を…いつの間に!?」


割と最近かしらぅ?アンタがお姉さまと
ケンカしたの聞いて、心当たりで網張ったのよん」





そう答えて魔女は肩の蝶を摘み上げると


ルージュの目立つ唇へ運び…咀嚼しながら訊ねる





「そ・れ・よ・りぃ焦らさないで教えてお姉さまん
あの街で潜伏して、魔眼まで従えて…一体どんっな
面白いコトするのかしらぅ ベェ〜!


ヒィィッ、あの人気持ち悪いよラグナロク
僕こんな人とどう接したらいいか分かんないよ!」


「オレだって分かるかぁ!!」












Il secondo episodio Get down you











あからさまに周囲をドン引きさせる彼女へ


ため息を一つ落としてから、メデューサは
普段通りの冷徹さで、静かに告げる





ジャマにならない程度で協力してくれるコト
…それが今回の計画を教える条件よ?」


OK誓うわ!お姉さまにならタダ働きでも
踏まれてもズタズタにされてもイィイン

むしろ興奮するわぅあぁぁ〜!!あはぁんV





しかし、クネクネと悶えるように身体をねじり


恍惚の表情で熱っぽい視線を送られ


これには、雰囲気に飲まれまいと
踏ん張っていたメデューサも引いてしまった







…ともあれ 確認の意味合いも含めて
今夜の計画がおさらいされ





「フリー 魔眼の調子は?」


「ああ!!バッチリさぁ!!」







ケースの中にある注射器と、黒い液体


空間魔法を使うことの出来るフリーと


サポーターを勤めるメデューサとエルカ


それから 用心棒として…魔剣士のクロナ





「…、成り行きとはいえ
アナタにもちゃんと働いてもらうわよ?」


ベェ〜!任っせてお姉さま!楽しいコトと
お姉さまのためならな・ん・で・もするわぁv」





最後に、イレギュラーながらも協力者として
魔女をメンバーに加え





最悪の夜が 幕を明ける…







―――――――――――――――――――――





死武専の創立記念前夜祭だけあって


会場にはたくさんの人が正装で集まっていた





こういう場所って初めてだから緊張するなぁ
なんだか華やかでクラクラしそう…


コツコツ溜めたバイト代で買ったスーツだけど


まわりから浮いてない…よね?





…さっきから僕にチラチラ視線がくるのは
気のせいだよn


おぉい
なに端っこでモジモジしてんだぁ〜!!」



「うわひゃあ?!」





いきなり背中を叩かれて飛び上がりそうになる





「な、なんだブラック☆スター君か
脅かさないでよ」


「いやこっちのがビックリしたっつの
ビビり過ぎにも程があんだろ」





だ、だっていきなりだったし…不意打ちだったし





「にしても聞いたかさっきの?うわひゃあ!
だってよ、ぎゃははウケる〜」


「ひゃっはっは、まっ信者だからしょーがねぇな」


「やめなさいよもう…ゴメンね君」


「あ、あはは…大丈夫だよ」





あんまりあわてすぎるのもみっともないので
バクバク鳴る心臓をどうにか抑えて苦笑い







「あ、あそこにいるのキッド君たちだよ
みんなで挨拶しに行こっか」





マカさんに続く形で、僕らも壇上の側にいた
キッド君たちの元へと歩いていく





「いらっしゃーい!!」


「みんなおめかししちゃって、イカすじゃん」


「あ、ありがと…リズさんたちも似合ってるよ」


「ありがとー君!」





さすがに左右対称にこだわるだけあって


リズさんとパティさん それと真ん中の
キッド君の姿はピシッとしてた





けど…肝心の当人は浮かない顔をしていて





「キッド君どうしたの?元気ないね」


ああっ!!いや すまん」


指摘されて、どこか困ってるように見えた





…なにか不安でもあるのかな?


あとで声をかけてみようかな、ダメもとで









やがて、時間が来てスピリット先生を側に
鏡から出た死神様が 壇上に立つ







「ちゅす!!うすっ!!うい〜す!!
どもども ほいさ!!おつかれさ〜ん!!」






相変わらずのどこか抜けた軽い声音に
安心しつつ、僕もみんなと同じように拍手する





「そんじゃこのへんで私からの挨拶は
終わりますわぁ〜♪」





あまりの短さにちょっと驚いたけど


死神様らしいな、と少しだけ思った





代わって壇上へ立ったキッド君がセキ払いして
背筋を伸ばして話し始める





「本日はお忙しい中 死武専創立記念前夜祭に
ご出席していただき誠にありがとうございます

せんえつながら私 死神の息子…」



「ま…マジメだなぁ…」


「だよな てーかお前髪上げてると
ホント別人だから見違えるよな」


「そかな…みんなこそ、今日はなんだか
大人っぽくて見違えちゃったよ」


「アレもか?」


と、ソウル君が指差した先へ目を向ければ





「ひゃっはぁあ!!」





キッド君が演説してるにも関わらず


垂れ幕にしがみついて騒いでいる
だらしないスーツ姿のブラック☆スター君


「オレだぁ!!オレ様だ!!
いわゆるひとつのブラック☆スターだ!!」



「…ゴメン、ブラック☆スター君は論外かも」





いくらそこが目立つからって…大事なアイサツ
さえぎってまでやんなくてもいいのに


てゆうか一応声かけて止めるべきかな…





止まるといいけど、と思いながら

呼びかけようと息を吸い込んだけど





「虫酸ダッシュ!!!!」


「ぐびェ」





間に合わず、とうとう耐え切れなくなった
キッド君がとび蹴り入れて ケンカが始まった







「二人とも、せっかくのお祭りなんだから
あまりケンカはよくないわよ…」





オロオロと椿さんがとまどう間も
取っ組み合いが続いて


死神様の仲裁でなんとか止まったけど





「クソ…ウツだ…死のう…」


「まったく…!!
誰の祭りだと思ってんだよ!!」


「少なくともお前のじゃねェーぞ」





こんな始まりで本当にいいのかな…







―――――――――――――――――――――







賑やかな死武専へと銀色の目を向けて





「お姉さま…楽しんでるかしらぅ?
あぁ待ち遠しいわぁんハァハァハァ!


質素な服に身を包んだ彼女は、頬を赤らめ
くねるようにして身悶えする





その様子さえなければ…どこをとっても
一般人にしか見えない辺りが残念である







「ゲロッ…ちょっと静かにしてよね?
それにしても なんでアンタが先に街入ったの」





フードを被った二人組のうち、一人が
厳しい声色を彼女へと向ける





「すぐ戻ったんだからいいじゃなぅいv
念のため確認しにいっただ・ぁ・け」


「確認?」





図抜けて高い、もう一人のフード姿が訊ねれば


その口がニィっと釣りあがり





が、あそこにいるかどうか」


僅かに瞳孔が…横へ細くなった







―――――――――――――――――――――





小気味よい音楽が流れる中、みんなは
ダンスをしたり会話を楽しんだり


はたまた立食のバイキングを取りに行ったり


思い思いに楽しんでいた





「…ぷは」





僕はというと人からなるべく離れた場所で


こっそりシャンパン一杯を失敬して飲み干す





本当はマズいんだけど、このあとのコトを
考えると飲まなきゃやってらんない


一杯くらいなら 多分大丈夫だろうし







…あ、キッド君たちのダンス面白そう


せっかくの機会だから僕も混ざろうかな







「ねぇ君」





呼び止められて、危うく僕は目的を
見失いかけてたコトに気づく





「な、なに?」


「あのさ…昨日のコト、なんだけど」





あの悲鳴の一件を聞かれると気づいて


マカさんが言葉を放つより先に、僕は訊ねる





「逆に聞いていいかな…メデューサ先生から
ソウル君についてなにか聞かされたの?」


「うん…なにか悩んでるみたいって」


「あのさ、この際だから言っちゃうけど
メデューサ先生の言葉は…」





信用しない方がいい、と言いかけて





すんでのトコロでその一言を飲み込んで
代わりの言葉を口にする


「あまり気にしなくていいんじゃないかな?」


「…そうかな?」


「そうだよ、今日は楽しいパーティーなんだし
食べて踊って二人でみんなで楽しまないと!


「テンション高いね君…ひょっとして酔ってる?」


「あ、バレた?…ゴメン見逃して」





手を合わせて拝むと、彼女は小さく笑って

テラスに身を持たせるソウル君を見やる





「そうかもね…じゃ、おせっかいしに行きますか」





立食の皿を手に取り いくつかの食べ物を
乗せてマカさんはテラスへ向かう









「肩並べて悩んでくれるパートナーがいるだけ
うらやましいよ、ソウル君も」





窓際に並び始めた二人を眺めて 人込みを抜ける





幸いブラック☆スター君は料理に夢中だし


他の人たちや先生もダンスや
中のいい人たちとの会話を楽しんでる





「…もう少しいたかったな」





楽しそうな会場の雰囲気に背を向けて


人目につかないように、ドアを潜る







…メデューサ先生の姿が見えないコトが
どうにも不安だったけれど


咎められないだけよかったのかもしれない





今だけは…この時だけは、会いたくなかった







あの白くキレイで冷たい手も、優しいのに
どこか恐ろしい笑顔も


夢で見た禍々しい姿と重なって見えるから





「そんなワケ…ない…」





せわしない心臓を押さえて、階段を降りる








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:伏線モドキを張りつつ前夜祭スタート
(編の方じゃなく祭りの方)


フリー:しかしあの変な魔女から何か教わったのか


メデューサ:基礎的な部分だけ少しね…最も
私は純粋に魔力だけで生み出したけれど


エルカ:ゲコ…厄介なモノ教えてくれたわね
あの変態山羊女…てゆかなんで私をマークしたのよ


狐狗狸:そりゃ本人がガード固いのとか、中々
イタリアから動けないのとかあったからでない?


マカ:ちなみに君は私と先生との
やり取り、いつ聞いてたの?


狐狗狸:パーティー内で会話してる間に
昨日の騒ぎの大まかな流れを椿辺りに
聞いたと思ってください


ソウル:死神様の挨拶並に適当だな




次回、彼が会場を抜けたワケが明らかに!


様 読んでいただきありがとうございました!