悪魔の細長い両腕が ムチのようにしなって
左右からシュタインを襲うが
片側を避け もう片側を鋏で防御しつつ払いのけ
攻防を掻い潜って シュタインは開いた手で
波長の乗った一撃を繰り出す
手の平が胴体へ届く寸前で 両脚をたわめて
悪魔は上空へと舞い上がって回避し
ねじれたラッパをくわえて下へ狙いを定める
『ヤバいのが飛んできます、避けて!』
ラッパの口から飛び出した無数の細かな金の針が
地下聖堂内に降り注ぐ
とっさに範囲外へと逃れた彼ら二人以外は
大なり小なり、針の洗礼を受けていた
「ぐっ…何をしている悪魔よ!」
「貴様の力はこんなものか!?遊びは終わりだ
早くこの者達を滅ぼしてしまえ!!」
「ソレジャア・本気ヲ出サセテモラウオカナ」
着地した悪魔が、ラッパの旋律を変える
「―闘操金刺(パータイ デス ホルネス)」
クロナについていた"刻印"と
にかかっていた魔力の重圧が一瞬消えて
"結社"全員の身体に、再び色濃く浮き上がった
L'ultima storia 双剣
「貴様、何のつもりで…!」
「蘇ラセテクレタ恩ハ・十分シタロ?
今度ハボクノ踊リニ・付キ合ッテモラウヨ」
悪魔の指先が微かに動いて、操られた
男の一人が 儀式用の短剣を懐から出す
「…何をする、止めろ、やめろぉおおぉぉぉ」
必死で男は抵抗を試みるが 身体の自由は
髪の毛一筋ほどすらもままならず
短剣を突き立て自らの首を 掻き切って果てた
「再建ノ悲願モ・砕ケ散ッタ 仲間(ヨハン)ノ
仇討チモ果タセズ・"結社"ハ死武専ト相打チニ
ナッテシマイ・ボクハ主ノ元ヘ帰ルノデシタ♪」
「…そう上手く 筋書き通りに行くかな?」
軽口を叩くシュタインだが、対峙する悪魔へと
向ける気配は鋭く 隙が無い
「行クトモ…コウスレバ、ネ!」
さっと片手を上げた直後 先程の男のように
"結社"の残党達も短剣を携え すかさず一所へ固まる
そこへ秘密裏に活動していた彼らと同じように
変哲のない町民の姿を象った悪魔が混じり
間を置かず 突進した男達の群れが円状に彼らを囲んで
自ら作り出した円にそって素早く移動しながら
矢継ぎ早の剣撃を開始した
四方八方から唸る短剣をいなしても
僅かな時間差で次の短剣の切っ先が近づくため
中々反撃の機会が回ってこない
隙を縫って魂の波長を打ち込んでも
敵の動きは止まらず、人では成し得ない
反応速度で短剣を振るい続けてくる
「ボクノ人形ノ全力ニ・ツイテケルナンテ
頑丈ダネ・ケド無意味ダヨ?ワカルダロウ
マダ人形ハ・タクサンアルモノ」
取り囲む男達の残像から、悪魔の声が届く
「全員を片付けたトコロで 悪魔が生き残ったら
堂々巡り…いや、もっと悪くなるな」
最悪、"行方不明になった住人達"が
人質になりうる事態を暗に示され
踊りかかった一人を辛うじて両断し
眉をしかめ シュタインはへ呼びかける
「共鳴率を上げて "魔女狩り"辺りで一気に
ケリをつけるか…本体の位置は分かるね?」
『なんとか…けど移動が早すぎて正直
目で追うのが精一杯です』
「おやおや どうにも弱気な発言だね」
『弱気にもなりますよ!博士がついていると
言えど僕らだけでこの状況を突破するなんて…』
魔鋏は内心、今更ながら自らの火力不足と
武器としての形状や射程を恨めしく思い
クロナの復活や 援軍の到着などを願っていた
しかし職人は、笑ってその不安を否定する
「大丈夫 たった数十秒の説明でオレの意図を
汲んであれだけの行動が出来たんだ
自分で思うほど君は、弱くはないよ」
自信に満ちた励ましの言葉が
都合のよい助けを望む、少年の迷いを払う
「サテ・ソロソロ君ラニハ眠リヲアゲヨウ…
二度ト覚メナイ・深イ眠リヲネ!」
「よ、止せ!考え直せ悪魔よ…あぁぁあぁ!」
周囲を取り巻いていた"結社"の男達が
示し合わせたように
一斉に、シュタイン目がけて特攻をかける
寸分の狂いの無い同時攻撃に
やや離れた死角から 悪魔も加わり突っ込んでくる
攻撃範囲の狭い鋏では、防ぎきれないと判断し
"実験霊体"を囮に回避してからの行動を
瞬時に頭に描きながら彼は 呼吸を整え…
「行くぞ!」
『はい!』
「『魂の共鳴!!』」
互いの魂へ、電流にも似た波長の光が走る
強く大きく膨れ上がる力に反応して
の"魔法陣"が、一際強い輝きを帯び
そこからも強い波長が流れ出す
狂気とは違う 奇妙なざわめきが押し寄せる
感覚に違和感を覚えながらも
留めていたタガが、外れた事を感覚的に
理解してシュタインは…両腕を広げた
すると片刃の鋏が それぞれ一振りずつに分かれ
―波長をまとって巨大な"両刃"へと変化する
「何だと…!まさか…
まさか、あの小僧こそが"双剣"の…!?」
誰ともつかぬ声は 驚きと不審に彩られていた
振るわれた二本の刃で短剣の乱舞を弾き
男達の動きが止まった一瞬を 彼は逃さない
「『魔女狩り!』」
閃いたいくつもの線と交差が残党どもを捕らえ
断ち切られた身体は すぐに消滅して
複数の魂へと変わっていく
そんな中、シュタインと魂を挟んで
大きな切り傷を追った一人の男が
奇妙な悪魔の姿へと戻って 苦しげによろめく
「トッサニ盾ヲ作ラナキャ・危ナカッタ…」
肩を上下させながら 悪魔がラッパをかき鳴らす
鋏へ戻ったのみが苦しげにうめいて
生まれたわずかな波長のズレにより、彼の攻撃は
紙一重のトコロで跳んでかわされ
金の針が数本刺さり シュタインの動きが鈍る
「くっ…!」
「紫骸蝶ハ出ナイカ…マア・イイヤ
アト一歩ダッタノニ・残念ダネ・バイバイ」
彼らに背を向け、悪魔は地下聖堂から
逃げ出さんと一歩踏み出し
「逃がしはしません、罪深き者よ…
神の裁きを受けなさい」
眼前に割って入った黒衣の僧侶に驚き
複眼中の目玉を、大きく見開く
全ては…瞬きほどの合間に終わった
足のバネを駆使してすり抜けようとした
悪魔の両腕と頭を頑丈な拘束具に固定して
「法を守る銀の銃!
(ロウ・アバイディング・シルバーガン)」
十字の輝きを放つギロチンの刃を降ろして
駆けつけ様にジャスティンは 断罪を完遂させた
胸の前で十字を切った彼へ 身体の自由を
取り戻したシュタインが言う
「いいタイミングで来てくれて助かったよ…
協力ありがとう、ジャスティン君」
けれども相手は反応を示さず、イヤホンから
もれる壮大な重低音が空気を振るわせている
「あのー…ジャスティンさん?もしもーし」
幾度かも呼びかけ、それでようやく
ジャスティンは思い出したように口を開く…が
「ああ失礼、皆さんご無事で何よりです
助力が遅くなって申し訳ありませんでした」
「いやそんな 助かりました…あの、トコロで
マリー先生の方は大丈夫ですか?」
「さぁ さらわれた街の人々を助けましょう!」
微妙に噛み合わない台詞を吐きながら
あくまでマイペースに行動を始めるのであった
……図らずも元凶を掃討した事により
神隠しにあった住人の術は解け、全員の保護は
滞りなく無事に終了した
その際 修道院内にて囚われの身になっていた
妖精達の生き残りも、元の住処へと解放され
内部に残されていた"医者"の調合書類により
粉薬の解毒方法も、無事に判明した為
ドイツでの一件は 完全に決着がついた
そして…全員が外へと脱出し 粗方コトが収まって
「ゴメンなさい…本当に反省してます
後悔してます キチンと償います、みんなに
ちゃんと謝ります だから…許してください」
黙っていたリーフェルが、思い立ったように頭を下げる
最大の被害者(クロナ)はジャスティンによって
先に死武専へと戻されたため不在で
話を聞いただけのマリーは混乱しながらも
ハラハラと涙を流す妖精をなだめていて
白髪を軽く掻き シュタインは軽く隣を見やる
「…は 彼女のコトを許せるかい?」
前髪越しに視線を交わして…彼は答える
「タイドを改めたのなら…考えとく」
「だとさ 反省しているようだし、オレも
特に君を責めるつもりはないよ」
その言葉を聞いて、彼女はぎこちなくも
…ようやく笑顔を取り戻す
マカが授業へと復帰した日 シュタインは
朝のホームルームでの宣言を実現する
アラクネ率いる巨大組織"アラクノフォビア"
「これから学んでもらうのは…
それに対する "対抗授業"だ」
"チームでの魂の共鳴"を学ばせる練習で
オックスとハーバー、マカとソウル
ブラック☆スターの五人と一戦を交えたのだが
「ら〜い オ〜ウ」
「「オックス君テメェエ!!」」
「予想以上にひどいですね」
彼らの波長は全くと言っていいほどに合わず
その後 怒りだしたブラック☆スターが
決闘をしかけて オックスを殴り飛ばしてしまい
「やれやれ…チームプレイを学ぶ授業で
仲間をぶっ飛ばしちゃって…」
唖然とする生徒達を横目に、彼はため息をつく
マカ達を席へと戻し 先程の例を元に
これからの授業の流れを改めて語る最中
頭の片隅でシュタインは…教室の隅に座る
=と"伯爵"の繋がりをも思考していた
"医師"の手記・"結社"残党の会話や修道院内で
見つけた資料…それとこれまでの情報を総合すれば
"伯爵"の正体と 彼との繋がりは容易に推測できる
…けれど"伯爵"本人や彼の研究と目的については
依然として、謎に包まれたままである
「それでは 本日の授業はここまで」
教室を立ち去る間際、意図して合わせた
視線の先で 真剣な面持ちのが小さく頷き
シュタインは……口の端を柔らかに持ち上げた
放課後、今日の分の調査への協力と
波長の訓練をどうにかこなして
「遅くなってゴメン、改めて退院おめでと」
「ありがとう君♪」
招待客で賑わう死刑台邸へ駆けつけた
私服姿の少年へ マカは嬉しそうに話しかけた
「博士に鍛えてもらって ちったぁ強くなれそうか?」
「どうかな…トコロで、クロナ君は?」
「壁の方でキッドとダベってるハズ…あ」
ソウルが指差した先で 当のクロナは
ブラック☆スターに肩を抱かれて思い切り震えていた
即座にマカが彼を殴り 周囲にみんなが集まって
更に肩を掴まれて余計に怯えるも
「お前をいじめる奴がいたら遠慮なく言えよ
オレ様がぶっとばしてやる」
「どうしてみんな…」
「当たり前でしょ みんな友達だもん」
二人のその言葉を皮切りに、周りに笑顔が溢れたのを
眺めるうちに緊張がほぐれて
釣られるようにして クロナは笑った
輪に加わりながら それを見守り続け
他の面々が散ったのを見計らっても話しかける
「あの時は本当ゴメン、思い切り
蹴飛ばしたりしたから アザになってるかも」
「え き、気にしないでよ…僕の方こそ
操られてたせいで君にケガさせたし」
「じゃあ 僕ら"おあいこ"ってコトで」
「…うん」
はにかむクロナを見て 安堵したへ
次の瞬間、背後に回ったブラック☆スターが
頭をホールドして技をキメていた
「なぁーにこそこそ内緒話してんだよ!
二人で隠しゴトかぁ?吐けコノヤロ!!」
「大したコトは言ってないから…てか
痛いってブラック☆スター!ギブギブっ!」
「や、止めてあげてよ 君の頭が
ヘコんじゃったら僕どう接したらいいか」
「心配すんな、オレの信者はこれくらいで
ダメになるほどヤワじゃねーよ」
すぐにクロナからのすがるような視線を受け
キッドは苦笑して 軽く肩をすくめて見せる
「まあ いつものコトだし、も毎度
アイツに振り回されているから大丈夫だろう」
「いやキッド君っ 僕にそこまで
期待されても困るから!?」
「きゃはは♪ガンバレく〜ん!」
「ムリ!てゆうか助けてよパティ!!」
どうにか椿によって解放され、ひとしきり
気を揉んでいたクロナを落ち着かせる傍ら