前フリ無しに手の平を返され、彼らは一様に
呆気に取られた表情を浮かべる





「だって…アナタ 元いた森に帰りたいんでしょ?」





マリーの指摘に 彼女はばつが悪そうに顔をしかめる





アンタ達くらい強ければ アタシをさらおうとした
ロクデナシくらいどってコトないって思ってたの!


けど その結社?って連中どう聞いてもヤバそうじゃない
そんなヤツらがうろつくトコにい続けるなんて…」


けっ!ハエみてーにやかましかった女が
しおらしく振舞ったって似合うモンかよ!」





小バカにしたようなラグナロクの態度が癪に障ってか
リーフェルのまなじりが鋭く釣り上がる





「何よ下品チビ、アンタなんかに恐怖からがら
逃げ出してきた可憐でか弱いアタシの気持ちなんて
分かるワケないでしょ!」



       「ウソくせぇ つーかロクに襲ったヤツのツラすら
     覚えてねぇクセにメソメソウゼェよアンモニア女ぁ!」



「言いすぎだよラグナロク」


「…まあ言い分はわかった、しかしオレの仮説が
当たっていても外れていても 部外者の君を
デス・シティーに連れて行く理由にはならない」


「それにほら、私達の側にいるのが結果的に
安全だと思うし…仲良くしましょうよ?ねっ」





友好の証として 笑顔で差し出したマリーの手へ







ツバを吐きかけて、彼女は怒鳴り散らす





「イヤよ!触らないで近寄らないでっ
アタシもうあんな目に合うの絶対イヤなの!!」



「ちょっ…待ってリーフェル!





その場からすっ飛んで行く妖精を追って、反射的に
も駆け出して行く












Quarto episodio 四人一組











散発的にうめき声の聞こえる 人気のない路地を


わき目も振らずに、人形のような小さな身体が
突っ切っていく





「……ここから ここから逃げないと





青くなりながら呟く彼女の脳裏を占めるのは


耳にこびり付いた悲鳴と怒号、まぶたに
焼き付いて消えない苦悶の表情と×××××


鼻に染み付いた×と×と×臭





狂イキッタ集団ト 共ニヤッテキタ―






「今度はあんなカンオケの下なんかじゃなく
ちゃんとした船の荷物にでも隠れて…







「逃ゲラレルト・思ッテタノカイ?」







大きな蒼い瞳が 唐突に現れた相手を捕らえ





悲鳴を上げるよりも早く 数百単位でいても
おかしくない数の虫
に包囲されて





「…っううぅ!


羽音のあまりの喧しさに、妖精は耳を塞いで呻く





妖精と対峙しているのは 人間大の"何か"





ゆったりとした薄茶のローブから突き出た手足は


針金細工のように細く 剛毛にびっしり覆われており


頭部は艶かしい白さを持ったアリのそれに
酷似しておりながら


よく覗き込めば複眼の一つ一つに目玉がある





怪物は…奇妙に折れ曲がったラッパを手の中で
器用に回転させ 一歩ずつ彼女へと迫る





「ひいぃっ…い、イヤぁ!こないでっ!!


「オヤオヤ・ヒドイナァ…ボクハ君ノコトヲ
助ケテアゲヨウ・ト思ッテイルノニ」



ウソつき!アンタさえいなければ…
近寄らないでっ、この…悪魔っ!!





必死に羽を動かして まとわりつく虫の包囲から
逃げようとするリーフェルを見つめた"悪魔"


足を止め、アギトを鳴らすように口角を動かし







「…逃ゲラレナイヨ?分カッテルダロ・リーフェル」





不釣合いな優しい声色でささやいた…











人一人入れぬ壁と壁の隙間の脱出口をどうにか
先回りしたけれども、そこに妖精の姿はなく





「一体 どこまで行ったんだろリーフェル…」





ことさら大きくため息をついたの肩を


追いついたシュタインが叩く





「こらこら、勝手な行動をするなと
約束していただろう?」


「ゴメンなさい!つい…マリー先生とクロナ君は?」


「反対の通りを探している 見つからなければ
一旦合流して 今後の行動を話し合おう」





物陰などを注視しつつ、二人は路地を進んでゆく







「それにしても…この事件を起こした連中は
一体なにが目的なんでしょうね?」


「少なくともマトモな目的(モノ)じゃないな
…それより、君はあの妖精についてどう思う?」


「リーフェルですか?うーん…少し前からなんか
様子がおかしかったみたいですけど…」





唐突な質問に、意図をつかめず唸っていた彼は


とある一つの"可能性"を閃いて 前髪に隠された
眼を見開いてシュタインへ顔を向ける





「まさか、まだ解剖をあきらめてないとか…?」


「そういう意味で聞いたわけじゃないよ、それに
対象は他にもいるからね ヘラヘラ♪」


「…え?あの それどういう意」





奇妙な不審と かなりの恐れを表しつつ言い差して







少し先の角から現れたマリーとクロナの姿に
反射的に引きつつ、は後の言葉を飲み込む





どうだった?あの子見つかった?」


「こっちには来ていないみたいだね…さてと」





メガネの奥の真摯な眼差しに射すくめられ


なんとはなしに並んだ死武専生二人は、ビクっ
肩を震わせて姿勢を正す





「捜索という形にはなったが 妖精については
こちらで処理することに変わりはない…
君たちは 予定通りデス・シティーへ戻りなさい


「で、ででででもっ また犬とか出てきたら」


男の子でしょ?ガマンガマン、ねっ?
それにも一緒なんだから大丈夫だって」


「あんのこ生意気なメスガキやテメーらならまだしも
こんなしょぼ男が付き添いで安心できっかよぉ!」



「あのさ、さすがに僕でもそろそろ怒るよラグナロ」





微妙な不満と それなりの呆れを表しつつ言いかけて







 雑音とも呼べない不快音を引き連れた怖気が


周囲と足元から、一糸乱れずに迫ってくるのを
少年は"感覚"で理解した






「…博士っ!」

敵からの援軍といったトコロだね…
数は少ないが周囲から来る、油断するな」





同タイミングで魂を感知したシュタインの助言に違わず


通路のあちこちから、紫の刻印が額や腕に刻まれた
人々が 数人単位で姿を現し 四人は身構える





「二人ともちょーっと下がっててね、私達が
この人達をちゃっちゃと気絶…「待って先生!」





足元の嫌悪感がより強く、より数を増して
人ならざる速さで来るのを感じ取って


の言葉に留まった マリーのつま先まで





意志の無い人々の足の間をすり抜けて、大量の
ネズミの群れが先行してきた






いやあぁぁっ!ちょっとよじのぼんな
痛い痛い痛い…痛いっつってんでしょぉー!!







まとわりつくネズミに対処を追われて
大人二人の出足が 鈍った隙を突き


残った数人が床を蹴り、一気に距離を詰め





ひぃいぃっ!こっ、こないでよっ!!」





全員で クロナを押さえ込もうと腕を伸ばす





「げっヤベ…おい地味!換われコラ!!





咄嗟にラグナロクが側にいたの袖をつかみ
勢いよく引いて 互いの位置を入れ替えたため


一旦は彼が床に押さえ込まれたのだが





ぶべっ…ちょっ、ラグナロク!なにす…!」


文句を吐きつつどうにか振りほどこうともがいた
少年の拘束はあっさりと解かれ





虚ろな人々は再びクロナへと突進していく





「クロナ君を狙ってる…!?」


「マリー!」





呼び声に呼応し、小槌へと武器化した彼女を

片手に握り締め シュタインが一歩踏みこむ





「『魂の共鳴!』」







マリーを通して送られた電気信号によって


足止めを目論むネズミ達を置き去りにした彼は
開いた拳を構えて


―次々に振りぬく





キレイに急所へと打ち込まれた一発ずつで


人々はその場に崩れ落ち、床へと倒れて動きを止めた







…が、ネズミは倒れた身体を乗り越え 構わず
四人を押し包み 牙を突き出してくる





ネズ公の分際でジャマなんだよ!クロナ!
ボサっとしてねぇで切り刻んじまえ!!」



「だ…ダメだよぉ、人に当たっちゃうよ…」


『とにかく ここから離れた方がいいわね』







何とか張り付いたネズミの群れを振り払って





路地を右へ左へ折れて、手近な民家へと駆け込み
二階へ上がる彼らだが





敵の進軍は 未だに収まっていないようだ







「マズイ…この状況でクロナを帰すのは危険だわ
せめて敵の本体か本拠地が叩ければいいんだけど…」


「ぼ…僕 ネズミとどう接したらいいか分からないよぉ」


「そうだね…てか痛いから、はなして…」





階下から上がろうとしてくるネズミに震えるクロナに
ツナギの片腕を力一杯握られ、少年は顔を歪める





「…どっちかが囮に敵の「カンベンしてください」





即答されたので、"冗談だ"と返してから





「じゃ、この状況を逆手にとりましょう」


ニッと笑ったシュタインが手短に作戦を指示する







マリーに街の住人の保護を任せつつ援軍を頼み


狙われているクロナと、代わりのパートナーとして
を引きつれた自らで街の周辺を探る





敵が尻尾を出せば万々歳 仮に成果が無くとも
陽動として敵側の戦力を削るには十分意味がある


それに、時間を稼いで援軍が到着したなら


行動範囲や攻撃手段の幅も広げられるだろう





分かった、そー言うコトなら任しといて!
シュタインは二人を解剖しようとしちゃダメよ?」


「言われなくてもそれくらいのTPOは弁えてるって」





軽快ながらどこかシャレにならない発言をかわし


両者は二手に分かれて 行動を開始する









屋根を伝って、時折飛来してくる鳥を撃退し
どうにか街を抜けた三人は


手がかりを求め、辺りの散策を始めていた





「魂の反応は今のところ無いようだが…
そっちはどうだい?」


「あ、僕も特には…わぷっ!?


言いかけて、辺りを見回すの顔に何かが衝突し

側にいたクロナが反射で悲鳴を上げかける





だが 一拍置いてぶつかったものの正体が


涙目になったリーフェルだと判明した





やっと会えた!アンタ達どこ行ってたのよ!!」


「それはこっちの台詞だベンジョコオロギ妖精ぃ!」





浴びせられた悪口へ睨みを返し、クロナを怯えさせるも


息を一つ吐いて 彼女は改めて気を取り直す





「…さっきはガラにもなく取り乱して悪かったわよ

無我夢中で街から抜け出しちゃって、隠れてたけど
やっぱ思い直して アンタ達探しに行こうとしてたの」


「僕らを…どうして?」


思い出したの!捕まりかけた時に誰かが言ってた
そう、"修道院での儀式に間に合わせろ"…って!」


「…確かに、この街の近隣にある森には以前
使われていた修道院の跡地が残っているね」





さり気なく地図を取り出し、二人に示すシュタイン





「ほ、ホントだ…」


「もしアンタ達の言う危険なヤツがいるとしたら
そこかもしれないじゃない?追い出してもらえたら
安心して森に帰れるから…だから…





そこで、思い切ったように妖精は 三人へ頭を下げた



     お願い!アンタ達で危険なヤツら全員追い出して!
        じゃないと…アタシ、怖くて…!」






オロオロとうろたえた彼らと、ついでに魔剣の視線が







やがて同時に"唯一の大人"である博士へと向く





ナニかな?その目は…」


うるせぇな、こういう時にゃビシっと決めろよ
今こいつらの保護者はテメーだろネジメガネ」


「…調べてみる価値はありそうだ 二人とも
ここからは、気を引き締めてついてくるように」


「「はい!」」





小気味よい返事を受け取り、微笑んだ彼の先導で


一行は森の中の修道院を目指し…始めたのだが







「え、な…ななな なんでついてくるのさ…」


「コワいんじゃなかったの?君」


「怖いけど…あ、アンタ達が本当に危険なヤツらを
追っ払ってくれるかこの目で見るまで安心なんて
出来ないじゃない!言っとくけど絶対護ってよね!


「ケッ!この女マジウゼェー」





何故か妖精までも同行する事になり


教師一人と魔剣士・魔鋏の死武専生二人、ついで
妖精一匹の奇妙な行軍が出来上がったのだった








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:今回の敵の登場と、リーフェルの行動と
街中でのやり取り…そしてマリー先生の退場に
頭を使わされまくって遅れました


マリー:人のせいにしない!(鉄拳)


狐狗狸:ゴメンなさい!その代わり雷綱(イズナ)や
見せ場作ったので許してください!


シュタイン:しかし彼女も、拉致を目論む相手が
いるかもしれない住処によく戻る気になれたものだ


狐狗狸:まあ故郷だし、リーフェル自体が
捕まえたヤツをそこらのチンピラ程度でしか
考えてないと も適当に納得してたんでしょう


ラグナロク:ったく、あんな地味なツナギ
ハサミ男に懐いてんじゃねーぞクロナこら!


クロナ:別にそういうつもりじゃ…


狐狗狸:それひょっとしてヤキモチ…痛だだだ!




"結社"次回には出ますスイマセン…そして
本拠地でのバトルやら 謎の核心に迫るつもりです


様 読んでいただきありがとうございました!