童話のように うっそうとした木々が取り囲む
人気の無い街道に立ち尽くすの肩へ


ちょこんと座りこんで、足を無意味に
パタつかせながら 彼女は欠伸と言葉を繰り返す





「ついてないわー こんっな辛気臭い街の側で
ジメジメ二人組と延々待たされるなんて、アタシ
本当についてないったらありゃしない」


「ずっと似たような文句ばっか言って飽きないの?」


「いいじゃないの別に、乙女のささやかな呟きに
逐一文句つけるなんて小さいわねアンタって」


「ええー 今の、真っ当な訴えじゃ…?」





呆れ半分に困惑する彼を上目遣いに見つめつつ


「ま、マカもそうだけど、君もよく
会ったばかりの相手と 話せるね」





言葉を詰まらせながらクロナが呟く





「慣れれば みんな出来るコトだよ、もちろん君もね」


「そっ そう…か、な?」


テキトーなコト言いやがって、クロナが
まともに話せるのはオレぐらいだろーがよぉ」


「だったらラグナロクが練習相手になってあげなよ
ただ、なるべくイジメない方向でね」





指図すんな地味、と変わらずの悪態に小さく笑い







傍らの妖精の様子に気付いて彼は問う





「どーしたのリーフェル?そわそわして」


「べ、別に何でもないわよ アタシがカワイイからって
一々ジロジロ見ないでくれる?うっとおしいのよ」


「どーせションベンでもガマンしてんだろ」


「…お下品だよラグナロク」





減らず口に反応がなく、所か不安そうな面持ちを
覗かせているリーフェルに違和感を感じて


更に問いを重ねようとした





不意に口を閉ざし、辺りを見回す












Terzo episodio 狂信者の影











「ん…今、なにか聞こえなかった?」


あふぇ〜…何も聞こえなかったけど」


「気のせいなんじゃないの?」





きょとんとした面持ちで返す彼らに流され
そうかもしれない、と納得し







―耳の奥で何匹ものハエが飛び回っているような
耐え難い"嫌悪感"を背筋から感じて








彼は勢いよく振り返り、身構える





振り落とされかけ 羽ばたいて宙へ舞い上がった
リーフェルが文句を飛ばす前に


低い唸り声と共に草が揺れ…犬が群れを成して現れた





「い…犬っ…?!







あからさまに野良と分かる汚れた毛並みのモノから
立派な首輪をつけたのまで、犬達は大きさも毛の色も
種類すらもバラバラだったが


ヨダレを垂らし 虚ろな瞳で三人を威嚇する姿と


額や背や腹に刻まれた、紫色に発光する奇妙な印
一様に共通しており 異様さをかもしだしている







「この犬たち 様子がおかしい…って二人とも
なんで僕の後ろに隠れてるの!?





にじり寄るタイミングを伺う犬の群れに
盾にされて、彼は視線を向けつつ叫ぶ





「ぼっぼぼ僕こんなたくさんのワンちゃんに
どう接したらいいか分かんないモン!モン!」


「アンタ男でしょ!か弱い女の子が怯えてんだから
あんな犬っころどもどっかに追っ払っ…きゃあ!?



けしかけるリーフェルを狙って 黒い鳥が突進し


彼女は突き出された黄色いクチバシを
スレスレの所で回避する





それを皮切りに、爆ぜるような声を上げて


四肢を蹴り犬達が彼らへと飛びかかってきた





散って!固まっちゃダメだ!」





言いながら、ハサミの片刃に変わった腕で
数匹弾き飛ばしつつが言い


三人はバラバラに距離を取るけれど


鳥や犬の群れは 意にも介さず彼らへ
狙いを定めて追撃を繰り返す







「いやあぁぁぁぁー!!」





涙目になりながら、妖精は空中で鳥を回避し続け





「ひっ!」


んだコラー!なに突っかかってきてやがる
こんの畜生どもがぁぁ!喰うぞゴラァ!!」






屈んだクロナ目がけて牙やツメを剥き出す獣へ
ラグナロクがパンチをお見舞いし


吹っ飛ばされたモノ達は地面や側の木々へ
叩きつけられ、動かなくなる





「共鳴しなくてもあの強さって…うわっ!?





気が緩んだ一瞬を突かれ、二体の犬に飛びかかられ


押し倒された少年は すんでの所で武器化した
腕を挟みこんで噛みつきを防ぐ





「グピぇ、だっせーなハサミ野郎ぉ!
犬のウンコ避けてドブにハマるぐれぇだせぇ!」



ガキじゃあるまいし汚い例えとかやめてよね!
そこのツナギ男がダサいのはホントだけどっ!!」


「君ら実は仲良しじゃない?!」





犬が一端退いた隙に何とか身体を起こして
律儀にも彼はツッコミを入れる







一筋縄じゃいかないと気付いてか 獣達の動きが
幾分か慎重になってはいるが


いまだに彼らを諦める気配は無さそうだ





「これじゃキリが無いよぉ〜…」


「一体この犬たちの目的はなんなんだ…?」





訝しげに眉を潜めた亜麻色髪の少年は


死角からの"違和感"に反応して、迎撃せんと
振り返り様に腕を上げる





「…え、木こりのおじさ」


が迫ってきたのが見覚えのある相手だったので

攻撃を 刹那ためらってしまった






の喉元をゴツゴツとした大きい手が掴む





「っぐ…!


君!」





助けに入ろうと思わず駆け寄りかけるクロナを
犬と鳥の猛攻が阻む





そのまま彼の身体を片腕で持ち上げる男の顔に
感情は無く、目は焦点を結んでいない


さらされた首筋には…紫色に光る、"ドクロ"とも
"蝶"ともつかない複雑な刻印があった





気管を握り潰さんばかりの尋常じゃない力が


必死で抵抗する彼の呼吸と意識を、急速に奪う








「魂威!」





駆けつけ様のシュタインの 波長を帯びた掌底が
掬い上げるように横腹に叩きつけられ


木こりは僅かに宙に浮き…白目を剥いて崩れ落ちた







その拍子に手の力が緩み、は地面に
倒れこむような形で解放され


喉元を押さえて やって来たシュタインを見る





「ごほっ…は、博士!


「遅くなってすまない、事情が変わってね
説明をするから 君達も街へ来てもらうよ」


この状況でかぁ?
お前の目玉腐ってんだろネジメガネ!」





猛攻は止んでいるものの、犬と鳥の包囲網は
依然として油断なく四人の前にあり


気絶していたハズの獣も 身を起こしつつ加わって


一斉攻撃に備えている





「ちょっ…さっきまで倒れてたヤツらが何で…!?


「まー見ての通り、全滅には意味も時間もない
しかし逃亡の時間を攻撃で稼ぐことは出来る」


君ならね、と添えてメガネの奥の瞳を向けられ





意図を何となく察して オドオドとクロナが答える





「や…やってみます…」


無視かよ!とりあえずここは手ぇ貸すが
いつか殺してやっからなテメェー!」






苛立ちを露にしたラグナロクが、水音と共に
細身の黒い剣へと変化して彼の片手に収まり


同時に 獣の群れが足並み揃えて距離をつめる





「行くよ ラグナロク」


『ぴぎぃえええぇぇぇぇえぇえぇぇ!!』





柄の継ぎ目から現れた口が 妖精が耳を塞ぐほどの
けたたましい悲鳴を上げた直後に





「スクリーチα!」





地面へ横一線に薙ぎ払われた黒剣の斬撃は
巨大な波状を生み出して大地を穿つ境となり


運悪く直撃した数匹を跡形も無く消し飛ばす







ついで巻き上がった土ボコリに紛れて





「走れ!」





全員は、街の中へと駆け込んでいった









「ねぇ何よあのクロナっての…メチャメチャ
強いじゃない!アンタと大違いね」


「…そうだね」





幾分複雑そうな顔つきで、は答える


その背には冷や汗が伝っているのだが

気付いているのは本人のみ





白衣の肩越しにシュタインが訊ねた





「さて君 何かが近づいてくる
気配はありそうかい?」


「いえ特には…って、どうしてソレを?」





驚く相手を見やり "自身の推測"の正しさを
確信してから彼は続ける





「先程の君達同様、オレとマリーも例の空き家の
調査途中で襲撃を受けたんだ」





"医者の住んでいた空き家"に辿りつくまでと


到着して、内部を探査する作業の合間


…そして三人の元まで引き返す道中に





刻印つきの人間が、両者へと襲いかかったらしい





「ってマリー先生は大丈夫なんですか!?





分かりやすく焦るへ、へらへらと
笑いながらシュタインは言う





「心配には及びませんよ 彼女はあれでも
優秀なデスサイズですからね♪」







進む内 彼らはその言葉の意味を理解した





辺りの路面や壁に、ひび割れや大きな抉れが目立ち


あちこちで縄打たれ 転がっている人々や
落とされた獣がくったりと深く沈んでいる光景





そして 辿りついた"空き家"の前では


シュタインに勝るとも劣らぬ体術を駆使し


トンファーのように変えた己の腕を的確に
身体へ当て撃者達を昏倒させるマリーの姿を見て







「あふぇ〜強い…」


「さ、さすがはデスサイズ…!」





唖然としているクロナととリーフェルに
気付いて、彼女は明るい笑顔で駆け寄る





「よかった〜みんな無事ね!ケガは無い!?


「だだっ…だだだ大丈夫ですよ」


「そう、よかった♪でもあんまり無茶しちゃダメよ?
もし何かあったらすぐに私かシュタインに言うのよ」


「そこまで大げさにしていただかなくても…
あの、それで博士 さっきの話なんですけど」





問われて、シュタインは中断していた説明を再開する





「結論から言うなら、彼らはどうやら
何者かによって操られた 神隠しの被害者達だ」





襲撃者の装いや顔つき、一貫して
意志が感じられない動きと 謎の刻印


そして何よりも "魂"の状態が刻印から
発せられる紫のモヤに包まれていた





以上の事柄から、彼の洞察力は次の答えを導き出す





魔法 もしくは魔道具によって
人々や獣を操作し、事件を起こした存在がいる」


「あ、操られて…」


「それは 魔女(アラクネ)の仕業ですか?
それとも、あの悪魔の時みたいな"呪い"とか…」





"カッツェル"の一件を思い出し、前髪に
隠れた瞳がやや鋭さを増す





「関与や暗躍の可能性は否定できないが…
それを踏まえても、敵は複数いるようだよ」







シュタインの根拠は、"神隠し"が起こされた方法が
安直で杜撰にも関わらず 梓の千里眼にも
近隣の住人からも 目撃がされていない点


更には 身近な街で起こった事件だというのに


村人達が示したのは関心でも不安でもなく
"何か"に対する怯えであること





それとマリーが取り出して見せた数枚の羊皮紙だ





「ほとんどの資料が持ち出されていたけれど…
"医者"の隠していた手記を、偶然見つけたの」





それらは、年月により色あせ 虫食いなのか
欠損が多かったが所々解読が可能で





呼び出した"悪魔"との対話の一部や、"魔術"と
"医学"の融合について友人と語らった記述


人体実験に関する書きかけの報告書や


何らかの儀式に必要な材料のリストなどが連ねてあり





最後のページには…とある"結社"の名前

それを裏切る"誰か"へ当てた罵詈雑言が記されていた







「この"結社"自体は表向きは死武専(ウチ)の働きで
解体されているが…ヨーロッパ地方では残党が
影ながら活動しているとの報告を受けている」





更に、ともう一度リストを示しながら彼は言う





「この材料の中に、"妖精"という単語があった」





全員の視線が 揃ってリーフェルへと向けられる


当人は…可愛らしい顔つきを強張らせていた





事件が起こった日と前後して起きた妖精の捕獲…
偶然で片付けるにしては、少し気にならない?」


「オイオイそれってこの腐れ妖精とっ捕まえたのも
あの畜生どもけしかけたのも、その"結社"っつー
ヤツらの仕業だってのかぁ?」





釈然としない様子を ラグナロクが率先して表す





「あくまで可能性だけどね…さて、妖精の処遇は
オレ達が引き受けるから 君らは戻りなさい」


「「は…はい」」





妥当な判断に口を挟めるハズも無く、無関係と
なった二人は声を揃えて頷き







「…冗談じゃないわ!アタシも一緒に
アンタ達のトコに連れてってちょうだい!!」






突如、それまで黙っていたリーフェルが叫んだ








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:今回は名前を明記しない存在やら
キャラが多いですがご了承


ラグナロク:出来るかぁ!おいクロナ
てめぇのせいだぞコノコノコノコノ!


クロナ:痛い痛い痛い〜止めてよラグナロクっ


マリー:こーら八つ当たりしないの


ラグナロク:チッ…トコロでよー、なんで
街の連中縛ってあったんだ?後で殺るのか?


マリー:違う違う、あの印がついてる人や動物達は
気絶させても しばらくすると自動で復活するのよ


シュタイン:だから余計な怪我や混乱を防ぐ為
やむを得ず拘束してあるのさ


クロナ:そうなんだ…


狐狗狸:にしては手際が良過ぎる気m「何か?」
イエナンデモ ちなみに"医者"の手記はドコに?


マリー:あー…空き家でバトった際に、私が
叩き壊したチェストに隠されてたみたいでさー


シュタイン:少し取り出すのに苦労したな




彼女の心変わりの理由、そして"結社"の狙いは…?


様 読んでいただきありがとうございました!