特別指導室の中央で 椅子を傾けすぎて





「ふんぎゃ!」


ひっくり返り、したたかに頭を打った
シュタインが痛そうに顔を歪めて起き上がる





「痛てててて…ネジが緩んできてるのかな…
アレ?いつ来たの君」


「少し前からいたんですけど…あとコレ
貸していただいてありがとうございます」





下からの視線に、閉めたドアの側で
少年は曖昧に笑いながらケージを覆う布を外す


視界が開けた妖精は 立ち上がる白衣の男を

蒼い瞳で上から下までジロジロ眺めてこう言った





「この男がアンタの言ってた頼れる相手なワケ?」


しー!そんな大きい声でしゃべったら
他の人にバレるってば!!静かにっ」


はぁ?何よ全く、あのボロい住処だけじゃ
飽き足らずここでも静かにしろだのしゃべるなだの
強制するなんてアンタ本当に人でなしねアタシを何だと」







べらべらと忙しく口を動かす妖精を


じっくり見つめて、メガネを光らせ彼は訊ねる





「ヘラヘラ、こいつは面白そうな素体だね♪
バラしても構わないのかな?君」


「…やるなら本人の合意を取ってくださいね」





さらりと諦め混じりに言いつつ少年は
嬉々とした様子のシュタインへとケージを


渡そうとして、当然中にいるリーフェルが暴れだす












Il secondo episodio 実地訓練











ちょっとおぉぉ!明らか危険人物ってーか
まともな男じゃないじゃん!騙したのねっ!?」


「ウソじゃないさ、博士は頼りになる人だよ…多分」


今 多分て言った!絶対分かっててやってる

      この最低地味男っ死んだら恨んでやるんだからぁー!」





半泣きになりながら喚きたてる彼女を





「イキがいい子は好きだよ…バラしたくなる♪


一言で黙らせて、シュタインは表情を正して問う





「それで?オレへの用は
この妖精の処遇だけじゃないんだろう?」





亜麻色の頭が、決意を秘めて縦に揺れる





常日頃、自分を"信者"と断言してはばからない


友思いの 天上天下唯我独尊男の積極性と
向上心を少しばかり見習って





「僕の力について…博士ならなにか
分かるんじゃないかと思って、聞きに来ました」





まずは、うやむやにしていた自分の力を
正しく知るコトにしたようだ







一呼吸を置いて…シュタインは口を開く





「あの夜、魔女と向き合った時の君の波長は
退魔に酷似した性質を持っていた」


「退魔…っていうと、魔女狩りみたいな?」





彼の脳裏で、マカとソウルの姿が浮かんで消える





そう、あくまで似ているだけで
正確には同じじゃないようだけどね」







マカ達や当人から聞いた話を総合し





探知は自動式ながら、範囲に入れば
ソウルプロテクト関係なく発動しているコト


波長を帯びた攻撃が、魔女や魔術にのみ
高い効果が見られるコト


波長の効果の副作用なのか、探知も含め

何らかの"負担"が本人にかかるコト


魂に刻まれた"魔法陣"が波長の源であるコト





以上の推察を シュタインは語って聞かせた







「その波長って…訓練すれば、自在に
扱うコトができるようになりますか?」


「可能性はあるだろうね、ただ 君自身は
特に際立った力もない普通の魔武器だ」





真摯な視線に射抜かれて僅かに気圧されるも





「人の倍以上努力しても制御できないかも
しれない…それでも、鍛える覚悟はあるかい?





前髪の奥の鳶色の瞳は 真っ直ぐ相手を見返していた





「あります」







前向きな返答に、彼の口の端がニッと持ち上がった





「いい返事だ…君の力には未知の点も多いから
しばらく調査に協力してもらえるとありがたいね♪」


「わ、分かりましt「アンタの力なんて正直
どうでもいいのよっ、それよりアタシを森に帰すのが
先でしょっ!何しに来てんのよもう!!」






憤慨するリーフェルへ謝ってから、

本題と妖精の現状を洗いざらい話した





「近くの街から人が消える…か、そう言えば」


「心当たりがあるんですか?」


「実はつい先日、ドイツの郊外の街から
住人が消えた事件が起こってね」





マカが負傷したチェコでの一件から間を置かず


近隣している国で、"街規模の神隠し"
引き起こされたのだと言う


詳しい原因はいまだ不明とのコト





「アラクネの復活や近辺での事件も鑑みて
オレとマリーが調査に繰り出す予定になってるよ」


「じゃあ、その街の近くにある森が
リーフェルの住んでいた森かもしれませんね」





事件に関する不安はあれど、希望が見えて

彼は肩の荷が下りたような心地がした











…そして翌日、事件の起きた街から
さほど離れていない村の前で





「どうしてこうなったんだろ…」


新たな荷を背負って、ツナギ少年は

"ガックリ"とあからさまに肩を下ろす





「ゴーメンね、私ら調査に忙しいし
これもクロナのためだと思って諦めてちょ?」





手を合わせて済まなさそうに笑うマリーに対し


曖昧に笑うしか、彼には術が無かった









当人としては、妖精を元の住処へ戻す話を
持って行った時点でシュタインへ丸投げする気
満々だったのだが





調査如何で下手をしたら、アラクネの軍勢と
一戦交えるかもしれない教師二人にその余裕はなく


さりとて帰る気になった妖精も引き下がらず





そこでマリーが、こんな提案をしたのだ





「いい機会だからさ、クロナの実地訓練がてら
二人で妖精さんの願いを叶えてみたら?」







…要するに任務を利用して付き添うついでで


軽い事件を解決させて、引っ込み思案なクロナに
少しでも自信をつけさせようと言うモノである





妖精の話を言い出した張本人で


戦いもなく、性格的にも特に反発が無さそうな
に拒否権などある筈もなく…現在に到る







ふよふよと宙を舞うリーフェルを度々チラ見し





「ねぇ もう帰ろうよぉ〜僕もうムリだよ…」





ツナギの袖を小さく引きつつクロナが呟く





「まだ来たばかりだよ、大丈夫だって
僕ら戦わないし リーフェル帰すまでの辛抱だよ」


「そうそう、何事も若いうちにやっといた方が
いいって!そーいう事なら簡単に済みそうだし!!」


「で、ででででも僕妖精とどう接していいか…」


ぴぎぃえぇぇ!地味ネクラどもと小うるせぇ
ちんちくりん送迎なんて萎えるっつーの!!」


背中から液体の音と同時に飛び出た
ラグナロクのセリフに


声のトーンを上げてリーフェルが応戦する





「うるさいわね!あったま悪そうで下品な顔して
乙女を罵るんじゃないわよ、顔と中身入れ替えて
出直して来たらぁ?このキモチビ!!」



あん!?テメェだってチビじゃねぇか!!」





ブンブンと腕を振るラグナロクだが、妖精は
あっさりと拳の範囲外から回避して舌を出す





アンタの短小な腕なんか届かないよーんだ!
悔しかったら殴ってみなさいよ乙女の敵っ!!」


ムガー!むかつくぜあのメスチビ!!
テメェのせいだぞクロナコラ!」


やぁ〜やめてよラグナロク…イタたた」


「パートナーに八つ当たりは止めな、デっ!





クロナの髪を引っ張りまわす魔剣の裏拳を
顔面にもらって、は涙目で鼻を押さえる





「こらこらケンカしない、二人は妖精を帰したら
約束通り死武専に帰ること いいね?


「は、はいっ…分かりました…」


「それじゃはぐれないように着いて来てね
村の人が怯えちゃうから、ラグナロクは戻んなさい」


「ちっ…しゃーねぇな…」





ギロリと妖精をひと睨みしてラグナロクが
黒い服に溶け込むように引っ込んで





「全くイヤんなるわね、アタシがこんな狭いトコに
隠れなくっちゃならないなんて…」


「ガマンしてよ 君も目立つんだから」





ややゆとりを持たせたツナギの内側へ妖精も匿われ


大人二人に従って、魔剣士と魔鋏も村へと入る







「すみません、死武専の者ですけど…」





かくして聞き込みが始まったのだが





「さ、さーねぇ…一夜明けたら、街が
もぬけのカラになってたモンだからなー」





大半は彼らを警戒し、言葉を濁らせる





「ここ最近ゴーストタウンになる所が増えてっから
ほら、バルト海の辺りでも起きたらしいし!」


「物騒な世の中になったもんだよね」





そのセリフに、申し訳なさそうに眉を下げて
うつむいてしまうクロナを





「…気にしすぎる事は無いのよ」


「少なくとも、今回は君のせいじゃないだろ」





二人がなだめつつ村中を回ってみるも
大した情報はなく


近隣にある別の村へも足を運んでみたが





特に有益な情報ナシ、か…何かやりにくいわね」


口をへの字に曲げてマリーはぼやく





顔を合わせた彼らの様子は、"何かを隠してる"と
言うよりも "何かに怯えてる"ようであり


相手が話を早く切り上げようとしている為


余計に情報を聞き出しにくい状態となっていた







村外れに住む偏屈木こりの小屋を指し、シュタインが
後ろで眺めていた子供二人へささやく





「さて、情報収集の訓練として今から君ら二人で
木こりから街の話を聞いてきてもらいます」


ええっ!?で、でも僕知らない人から
話を聞きだすやり方なんて分かんないよっ」


「主なリードは彼に任せるといいよ」


「ちょっ シュタイン博士!?







子供の方が警戒心が薄れるだろう、との見込みを
含めてのスパルタであったが





「…見かけねェツラだ、どこのガキだ





小屋の扉から顔を出した、濃いヒゲ&悪人面の
おっさんによるダミ声は


並みの子供をチビらすには十分な威力を持っていた





ガタガタとツナギの背をつかんで絶賛萎縮中
クロナに代わり、意を決してが訊ねる





「実は、僕の友人があの街に住んでたんですけど
神隠しに巻きこまれたって聞いて…なにがあったか
近くの人にたずねて回ってるんです」





片眉を跳ね上げ、木こりが重々しく口を開く





「お前、あの街に行くつもりか?」


「ええ…友人が心配ですし」


「忠告するぞ…それだけは止めておけ


「どうして、ですか?」







声量を落として 木こりが言うには





ゴーストタウンになった街には、怪しげな医者
住んでいたとされる空き家があり


以前は奇妙な連中が屯していたものの、ある日

それがふつりと消えうせ、人々の記憶からも
忘れ去られかけていたのだが…





神隠しが起こる ほんの数日前


彼は見知らぬ者達が 空き家の方へと
入って行くのを目撃したらしい








「なんでもこの国じゃ、悪魔と契約した医者だ
有名らしくて よくないコトは全部その医者の
呼んだ悪魔のせいだから 近寄るなと言われました」





報告を聞き、納得したようなマリーの視線を
受けて やや憮然とした顔でシュタインは頷く





なるほど、ご苦労様…
それと君、意外と嘘が上手いね」


「まあ…人並みにはつけますよ」







事件との関与が高いと考え、その空き家を調べるべく





「少ししたら戻るから ここで待っていなさい
くれぐれも勝手に行動しないコト」


「分かりました、お二人とも気をつけて」





街へと入っていく二人を、クロナと
リーフェルは入り口で見送った








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:博士とのやり取りと、現場までの流れを
作り出すのに時間かかりすぎて 正直この長編
止めちゃおうかと思いました


マリー:そんな無責任な!?


狐狗狸:まあ、悩んだおかげでクロナや博士と
いい絡みが出来た…と信じたい


博士:かならずしも死武専の人間に協力的な
住人ばかりじゃないとはいえ…アレ
同一視されるとはね(へらへら)


狐狗狸:その笑顔怖いデス、ついでに知ってても
ネタバレはしないでくださいね?


クロナ:でも…君てスゴいね、あんな
よくしゃべる妖精や怖い人と話出来るなんて…


ラグナロク:けっ!大方あの眼帯ネーちゃんに
いいカッコしたいだけじゃねぇの?


狐狗狸:ラグ自重しろww




ケージ拝借→アパート→こっそり移動で往復して
妖精運んでます 見つかると面倒が起きるし(特に★)


様 読んでいただきありがとうございました!