鬼神の復活により、蔓延した狂気に反応し
動き出した存在は多かった


顕著かつ大々的な者は死武専


魔女・アラクネが率いる組織 アラクノフォビア





されど、影響を受け暗躍するモノ達は

彼らと関係し、或いは無関係に行動を開始する





その一つが 全ての輪から解れ
外された結社の一塊







「許さんぞ…見ていろ、愚かなる者どもよ…」


「我らを追いやった死神、それに与する者ども
…裏切った者どもへ…制裁を!





陰に潜み忘れ去られていたモノ達が





「"伯爵"を探せ!あの恥知らずな男を!!」





輪から解れた、行方知れずの裏切り者を探し







「…気にしすぎだろ、この所 妙な事件が
近くの国で相次いでっから」


本当だって!今、何かが…!」





不穏な空気が とある郊外の街を包んで―












Primo episodio おしゃべり妖精











「ったく、やーっと起きたの?アンタ」


「…え?」





身を起こし、外着を選び出した


背後からの声に振り返って硬直した





もう本当お腹空きすぎて餓死一直線よ!
こーんなカワイイアタシにこんなヒドい仕打ちとか
ヒドくない?それでもアンタ男なワケ!?」





いつもならば自分しかいないはずの
アパートの一室に、見慣れない妖精が浮かんでいる





全くもって予想だにしない状況で面食らうも


上下する羽が差し込む朝日に光ってキレイで


怒り顔でまくし立てる妖精の顔立ちも
それなりに整っているため





しばしの間 驚き半分で見惚れてから、彼は問う





「あの…どちら様、ですか?」


はぁ?そんなのアタシが聞きたいわよ!!」





途端に逆切れして眼を吊り上げた彼女を見て


"マズイ"と思ったけれども手遅れで


「やっとの思いで逃げてくれば全然知らない場所だし
惨めったらしくゴミ箱漁るのもヤだから我慢して
こんなオンボロなトコに入り込んだってのにほとんど
食べ物無くて水しか飲めてないし、大体」






吐き出される文句の音量が、更にヒートアップした


おまけに涙目になっているので始末が悪い





うわ!ええと、ちょっと静かにしてくれない?
近所メーワクだし てゆうか妖精であっても
これって立派に不法侵入ってヤツじゃないのか」


「あのねぇ!アタシにはリーフェルっていう
キュートな名前があるんだから!!」



OKわかった、悪かったから
落ち着いてよリーフェル」


「うるさいわね馴れ馴れしいのよ!
アタシはお腹空いて機嫌悪いんだからね!!」



わーかったよ!なにか作るから静かにして!」





ほとんどヤケに近い形でが言うと





ウソのように声量がトーンダウンした


本当でしょーね?マズかったら許さないからね
さあ、早くおいしいゴハン作って」


「わかった、着替えるから部屋出てて」







手で目元を拭いながら、ふよふよと狭い部屋から
居間へ移っていくリーフェルを見送って


現状も経緯も全く心当たりの無い彼は





一つだけ、強く確信を持った





「Io divenni fastidioso…
(メンドくさいコトになった…)」










そろそろ授業復帰が間近になり


変わらず見舞いに来てくれる友との会話を
楽しげに聞いていたマカは





「イキナリすごい状況だね…その妖精ってさ
なんで君のトコにいたの?」





異常事態に巻き込まれた彼の話に
ベッドの上で いまだ動けぬまま訊ねる


マカの周囲には、一人を除いて
いつもの面々が揃っている





「住処の森で捕まって、売られそうになったトコロを
逃げてきた って本人は言ってたけどね」


「うっさんくせー」


「…僕もソウルと同意見」


「そんな…疑っちゃかわいそうよ」


「まあそうかも知れないね、相手はか弱い女の子だし」


「ちょい待て お前手の平返し早すぎだろ!





ゴン、と頭を叩かれ、亜麻色の前髪で隠れた
目が軽く涙目になっていた





「いやまあゴメンつい…そう言えば椿さん
ブラック☆スターがいないみたいだけど、また…?」


ええ…また一人で決闘に行ったみたいなの」


「戻ってきてから、ずっとじゃないか
…よくそれで身体が持つものだな」





ため息交じりのキッドの台詞に 他の者達も
似たような心持ちを抱いている







ゴーレムの村でマカ達が襲われ、怪我をして
保健室へ戻って来た直後





梓により判明したアラクノフォビアの施設へ

魔道具を破壊するための潜入任務を受けた
死人とナイグスの後をつけ


行き掛かり上、因縁の用心棒・ミフネに
椿と二人がかりで挑んだにも関わらず
敗北を喫してしまい





一矢報いれなかった悔しさからか


ブラック☆スターは頻繁に 一人で決闘を
挑むようになっていた








「元々ケンカっぱやいトコあったけどさ
ちょっとやりすぎじゃない?ねぇ、椿ちゃん」


「うん…けど、ブラック☆スターは
武に生きる者だし 仕方ないのかも…」





少しうな垂れたように椿が呟いて







漂う若干の気まずさを払拭すべく、話題が遡った





「それで、話を戻すが
居候している妖精はどうするつもりなんだ?」


「あーうん…そこなんだよねぇ、問題は」


「いっそお前ん家で飼っちゃうのはどーよ?」


「飼うってリズさん…ペットじゃないんだから」


「お姉ちゃんのアイディア、ダメ?じゃーさ
ジャングルに返してくるのはどう?きゃはは」


「お前適当に言ってんだろ?そもそも
ジャングルはって言えんのか?」







ある程度の議論はかわされるものの、妖精自身
住処の場所もうろ覚えで


文句は多いし昼夜構わず騒がしいのだが

行く当ても無いようなので無下には放り出せず





「こーなりゃ困った時は博士だろ」


「うーん、やっぱりそれしかないかな…」


「だからさー、なんでみんなして
そこまで博士依存の方針なワケ?」





結局、手っ取り早い意見と提案に落ち着いていく





だが 本格的に方針を決めようとする前に


彼は刻限に気がついてしまった





「…あ、ゴメンみんな 僕そろそろ」


「バイトか ご苦労さーん」





退室しようとするツナギ少年の腕を







思い出したように引っ張り、パティは訊ねる





待って!あのさ〜君はさ
ウチでのパーティー来るよね?ねっ?


「言っとくけどバイトとか入れたら
マジで承知しねーからな?


「こらお前達…気持ちは分かるがもう少し
聞くタイミングを考えてやらんか」





困ったように諌めるキッドと、姉妹二人へ


苦笑を返しては答える





「分かってますって、今度の予定
ちゃんと空けとくよ…それまでお大事にね


「うん、ありがとっ」





マカの笑顔と返事に満足し、彼は保健室を後にした











―と、友の前では普段通りを装っていたものの





「食べれるけど物足りない味ねー塩かけてよ
ねぇ、聞いてんの?ちょっとー」


「え、あ、ゴメンゴメン」





ワガママな妖精の要望に応える彼の表情は
どことなく虚ろであった







マカにまとわりついた魔術の力が弱まり
薄れていくのを、皮膚と体調に与えられる
"不快"で感知していた


三度深手を負った友との見舞いに足を運ぶ都度


当人へそのコトを伝えて、せめてもの
安心と後押しをしている…つもりであった





「けどそんなの…僕じゃなくたってなあ…」


あーっ!塩かけすぎ!止めて止めてったら
止めなさいよ地味男っ!!





リーフェルが投げた椅子代わりの消しゴムが
額に当たって腕を止めれば


ビンのフタへ盛られている、適温に冷まされた
リゾットの上に白い粉の山が出来ていた





「…あ、ご、ゴメン」


ったくもう!ホントどこ見てんのよアンタ
食べらんないから中身そっちと取り替えてよ」





プリプリと怒る彼女へ謝りながら

皿とフタの中身を取替えつつ、彼は思う







前夜祭の一件以来、少しばかり何かが
変わったような気がしていたけれど


あの時 戦いに加わっていた友人達と比べて





自分は ほとんど変わっていない…







「何よ、割り増しでとぼけた顔して
悩みとかあるワケ?それとも体調悪いの?」


「んー…ちょっと色々思うところあってね」


「そう?ならいいけど地味な上にネガティブな
顔をあんまりアタシに見せないでよね
ゴハンが余計にマズくなっちゃうから」





初対面から万事この調子の妖精に


曖昧な苦笑いで返しつつも、は少し
苛立ちを募らせていた





「それにしてもオンボロで狭いトコよねここ
外の空気も吸いたいし、どっかいいトコ
案内してもらえないかしら?この辺不慣れなのよ」


悠久の洞窟ってトコロにも妖精がいるから
行ってみる?入り口までなら案内するけど」


「冗談でしょ、そこウザい聖剣がいるトコで
仲間内じゃ有名じゃない絶対イヤだからね」






きっぱり言い切られて深く息を吐き出し







彼は真剣な面持ちで 問いを変えた





「…ねぇリーフェル、君はさ
元いた場所に帰りたいとか思わないの?」


「言ったでしょ?捕まって逃げるのに必死で
帰りたくても帰り方なんて覚えてないんだって」


本当に、なに一つ手がかりはないの?
僕の目を見て言える?」


「アンタの目って隠れてるじゃない」


「真面目に答えて」


「何よぉ、アタシがこのオンボロアパートに
居座ってると迷惑だっていうの?」



ぺたっとテーブルへ座り込み、上目遣いで

ややワザとらしく涙目混じりに訴える彼女へ





分かっていつつも少年は少し動揺する





「え、あ、その泣かないで…もし帰りたいなら
手伝ってあげようかなと思ったんだよ」





"四六時中の大声やワガママ、騒音ぶり"
辟易している本音も勿論あるけれども


その発言に、嘘は無い







伝わったらしく 妖精も真剣に答える





「……実は、ちょっとだけ覚えてるわ」





住んでいた 広く暗い森で、捕まる少し前


"近くの街から突然人が消えた"話を耳にした、と





「でも、こんなの手がかりにすらなんないわよ」


「かもね…けど僕の知り合いで頼りになる人
いるから、試しにその人へ相談してみるよ」


「本当に?…ま、そこまで言うんなら任せるわ
こんな小汚いトコに比べれば古巣の方が
羽を伸ばせるだけよっぽどマシだものね」





歯に衣着せぬ物言いをどうにか我慢しつつ


明日、シュタインへリーフェルの今後
相談する腹を決めた





ある決意も 一つ心に据える





「…出来るコトから、選んでいくかな」


「何か言った?」


「いいや こっちの話さ」





友人達の才能も努力も ついでに
自分の実力も理解していて尚


近しい相手に置き去りにされて開く差


少しでも、僅かでも埋めるために








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:冒頭については次回に関わるので
敢えて何も言いません!


マカ:って、原作かなり進んじゃってるのに
オリジナルの話入れて間に合うの?


狐狗狸:短くまとめれば追いつく…ハズ
まーのんびりやるし、ダメならそれまでで


パティ:きゃははは いー加減のダメ人間だー


リズ:指差すなパティ、今更 可哀想だろ?


椿:ええと…元気出してください


ソウル:下手ななぐさめはよくねぇぜ?
つか、マカが保健室に運ばれた直後の見舞いで
アイツいたっけか?


狐狗狸:いたよ、ブラック☆スターと入れ違いで
来た上、キッドに薬品保管庫の整理整頓
手伝わされてたからねー記憶に薄いのよ


キッド:うむ!おかげできっちりかっちり
バランスよく整った室内が出来て満足だ!




時系列はマカの復帰手前の数日間…のつもり

次には博士も出るのでお許しください


様 読んでいただきありがとうございました!