B・Jとが顔を会わせる少し手前


死武専の女子トイレにて、梓とマリーが
狂気に陥ったシュタインの容態を話し合い





「シュタインさんを陥れたのも
スパイの仕業かもしれない…午後から
"内部調査"も始まるみたいだし」


「エ?"内部調査"?


「元彼のB・J(ぶったたき)さん
もういらしてますよ」






途端にコックをひねる力加減を間違えて
梓を水浸しにしたマリーは


いそいそと鏡に顔を向けて化粧を始める





何やってるんですか?急に
B・Jさんには捨てら…別れたんですよね」





内心呆れながらの問いかけに、彼女は化粧を
止めないままでキッパリと言った





「オウヨ!!別れた女がきれいになってたら
どうよ!?くやしいでしょうが!?
くやしがらせたいのよ!!悪い!?



「もっと前進してください」





鏡でなく自分自身を見てくれ と思う梓だが


マリーは構わず服装に気合を入れていた












L'ultima storia これから起こることを
[what lies ahead]












…その頃、当のB・Jはコーヒーをすする
スピリットと 調査の話に入っている





「死武専(ここ)に潜りこんだスパイ
アラクノフォビアの手の者と考えてよろしいのですか?
第3勢力の可能性は?」


「オレも死神様もアラクノフォビアの線が
こいと思っている」







来る前に資料をいくつか見ていた彼は


創立記念の前夜祭にて
"鬼神復活"を成功させた メデューサ一派を疑う






それを否定しようとするスピリットへ


待ったをかけたB・Jが、
へやったように彼の胸へ拳を当てる





「どうぞ」


「あ…ああ…」





メデューサをシュタインとでとどめを刺し
その消滅までもを確認した事実と


彼女を失ったチームが統率を失っており


故にその線が薄い、と彼は推測を口にする







言葉と魂を吟味し終えて 拳が降ろされ


スピリットは、ほっと息をつく





「わかりました 第3勢力の先は残しつつ
アラクノフォビアで洗っていきます」






言ってコーヒーをすすって顔をしかめ


取り繕ったような笑みで、B・Jは言う





「先輩…このコーヒーなかなかうまいっスよ」


またまた〜そんなウソ
死武専(ココ)の者なら誰でも見破れるよ」


それこそでもな、と付け加え


スピリットが部屋のドアを開ける





「内部調査を始めてくれ
"嘘発見能力" 期待している」








――――――――――――――――――――







盛大な快気祝いをするよう、呼び出した
ブラック☆スターに言われて頭と財布を痛め


保健室に向かってたは椿とかち合い


廊下で並んで歩きがてら マカ達に大したケガや
磁場の影響などが見られない事と


彼の検査がもうすぐ終わりそうだ、とも聞いた





妖刀を使うなって言われたの?」


「うん、強引な制御でブラック☆スターの
魂がボロボロだから もう無理させるなって」


「そっか…無茶したらなんにもならないし
ナイグス先生の判断は正しいと思うよ?」





"そうね"とやわらかく彼女が微笑んだので


目が隠れた少年の顔が、うっすら赤くなる





君も平気そうで安心した
きっと、ブラック☆スターも喜ぶわよ」


「どうかな…久々に筋肉痛が少し来たから
プロレス技はカンベンだけどね」





軽口を叩いて笑い合っていたその矢先


何かが折れるような派手な音が外から響き





「死武専のシンメトリーをよくも崩したな!!
たわけ!!絶対に許さん!!」



間髪入れずキッドの叫び声が二人の耳に届く







「ブラック☆スターったら、なにかしたのかしら?」


「さあ…とにかく行ってみよう」





頷き合い、椿とは早足で廊下を進んでゆく





――――――――――――――――――――







コーヒーショップの前でクロナと別れ





「特に磁場の影響もないみたいだし
他のみんなも大丈夫かな?」





訊ねるマカへ、ソウルは"気にするなよ"
言いたげな顔つきで答える





「オレたち以上に丈夫な奴らばっかだからな
だってなんだかんだで平気そうだし」


「うん…私たちよりシュタイン博士が心配―…





不安げに呟く彼女は、しかし次の瞬間


慌てたように鞄の中を探って こう言った





「教室にマカノート忘れた…」


「…もう明日でいいじゃん?」


「帰って復習しないとみんなにあわせる顔がない」





根が真面目な彼女は頭に乗っていたブレアを
彼に預け、先に帰っているように伝えて駆け出す







だが少しでも近い道を行こう、と
細い路地裏を走りぬけていたマカは





「わかったわね じゃあ任務を遂行して





曲がり角で、別れたハズのクロナの後ろ姿
しゃべるカエルを目撃し


思わず元来た方の壁へと身を隠す





彼女の存在に構わないかのように


シュタインをハメる策を言付かっていた
魔女は、佇むクロナへこう言った







「メデューサも期待しているわ」







その一言で"死んだはずのメデューサの生存"


そして、クロナが彼女と繋がっている事を
悟ってしまい ショックを隠しきれず


その場から…クロナから離れるマカが





途中で小さな少女とぶつかり、転ばせてしまう





「ゴメン…大丈夫!?」


うん ぜんぜん平気よ」





ホコリを払って立ち上がった少女を見て
もう一度だけ謝ってから、マカは立ち去る


自我がショートしそうになるのをこらえながら





見送る"彼女"の視線と意図に気づかぬまま










…この少女とぶつかったのが、もしも
マカでなくだったならば


この後の"悲劇"は防げていたのかもしれない





――――――――――――――――――――







自宅謹慎中のシュタインも含めての、作戦に
参加した教師の取調べを一通り終え


マリーの体内に仕掛けられていた"盗聴器"
本人の発電により焼き殺されて吐き出されたのを確認し


死武専にスパイがいる疑いを強めたB・Jは





情報管理室にて、デス・シティーに入ってから
続いている奇妙な"感覚"を知覚して





「またか…」







上がっている自分の魂感知能力と共に
それらについて考えを巡らす一方で、


廊下で出会った少年…の"魂"に
ついても考える





"普通"と自称した彼の言葉は少し震えていたが

魂には、微塵の揺れも偽りもなかった


そして成績の面でも 相対した物腰や波長を
見る限りでもあの少年は


入学からずっと可も不可も変哲もない生徒だ





…だからこそ魂の端に 意識しないと
見えぬほどうっすらとした小さな魔法陣


そこから洩れる"波長"の異質さだけが
浮いている事に違和感を覚え





「ん?"入学から、ずっと"?







何かに気づきかけていた彼の思考を


背後からのノックが中断した





「マリー」


「色々悩んでるみたいね、ご苦労様





手ずから入れたコーヒーを渡されて


苦笑いしながらも、彼はカップを傾ける


おいしそうに細い目をさらに細める元カレを
見つめて 不意にマリーが言った





「相変わらずね どんな時でも短パンサンダル

覚えてる?私が今みたいに
薄着をしてて外が肌寒くなってさ…」





懐かしげに思い出話をする彼女へ


B・Jは手をバタつかせて言葉を紡ぐ





「いや…あれは必死で…今はあんなコト…


「必死ね」


「あんな発想ですまん」







謝ってから、彼は本心を打ち明ける





自分の"魂感知能力"は未だに成長しており


魔女のソウルプロテクトを打ち破る
初の職人として期待されている反面


仲間を疑う嫌な仕事しか出来ない事に憂い


力が強まり、マリーの全てまで見透かす
可能性と恐怖にとらわれて





愛していたけど 距離を置いたのだ





「でも 今は後悔している…
もう恐れていないよ…








仕事が終わったら、と定番でためらいがちな
ディナーの誘いに 彼女はレストランの名
言い当てて嬉しそうに笑う





「いいわ あそこのスフレ好きなの
じゃあ…今夜ね」


「あ…待ってマリー もう一つ


立ち止まるマリーへB・Jは


取り調べで今のシュタインが常軌を逸している
感じた、と警告する





「身近にいる君が一番危ない だから
しっかりシュタインを見守ってやってくれ」



「うん 約束する」







安心したような笑みを浮かべる彼を見て


レストランで、大好きな生徒達との話や

ツギハギ研究所でのシュタインとの生活


シュタインの元へ鍛錬に通うの事


この間のクロナとの話などをしようと思い





「それじゃ積もる話は、レストランで
会った時にでもしよっか また後でね


「ああ、また後で」





手を振り合い、マリーは 彼と笑顔で別れた







――――――――――――――――――――





正門前の決闘を立会人付きで再開させて


激しい攻防を潜り抜けキッドに掌底打を喰らわせるも
波長が発動せず、ブラック☆スターは戸惑う


それは見学していたリズ達も同じだが





死人だけは、その原因に見当がついていた





自信喪失
そいつが魂の波長の放出を妨げている」


「えー?そんなコトで?」


「おもしろいもんだろ?「魂の波長」は
ちょいとしたコトで変化してしまう」








赤子の頃からブラック☆スターを知る死人は


才能もあり、魂も強く、努力も怠らず
誰であろうと片っ端からなぎ倒し


勝ち続けていた人生の真っ直中で彼は


初めて連敗を味わい それでも前にしか
進めずにもがいているのだ
と語る





大人は過去にすがり 子供は未来に
逃げたがる
…あいつは今を生きている」







憂う言葉の合間にも、死神体術を駆使するキッドに
肉弾戦で力任せに挑み続ける彼だが


差は歴然と現れ始めている







そんなパートナーを見かねて椿が叫ぶが





もういいでしょブラック☆スター!
次に備えて休まないと、もう身体が」


黙れよ!次につながる?クソくらえだね
ふがいなくちんたらしようが生きてたら
次が来るに決まってんだろッ」






彼女を黙らせるその声も、波長も瞳も


普段のブラック☆スターのものではなかった





ホワイト☆スター…父の道を追うのか?
鬼神の道だぞ」



「先生、それどういう…っ!


問おうとするが、狂気の星が灯る瞳
射抜かれ 一瞬で口を封じられる







自らの闇にとらわれてゆく友の姿を見て





「折ったツノのコトはもういい!!

もう止まれ!!






呼びかけるキッドへ、いつにない必死な顔で
ブラック☆スターが嘆願する





「じゃあ殺してくれよ!!お前死神だろ!!」







―その直後、激高したキッドが怒涛の攻撃を叩きこみ


抵抗する彼の頭へ、踏み潰すような
カカト落としの一撃を与えて沈める





地面に半ば埋めこまれても拳を立てるが


二度目の衝撃に耐え切れず、ついに
ブラック☆スターは意識を失った








「どうしてしまったんだブラック☆スター」


失望と悲しみをにじませた顔つきで





「お前―…神を超えるんだろ」


キッドは彼の側に屈みこんで問いかける







「ねえ…ブラック☆スター動かないよ?」


「彼に限ってそれはないよ、きっとすぐまた
いつもみたいに、起き上がるって」





パティへぎこちなく答えるの肩を
叩いて、死人が首を振る





「信じたくない気持ちは分かる、オレも同じだ
だがな…これは現実なんだ





正門前の決闘を眺めていた者達は


残酷すぎる事実に、ただただ言葉を失っていた








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:次に繋げるつもりで詰めつつ、ここで
BREW争奪戦終わらせますが…後味がー


ブラック:よりによってオレ様のだっせぇ
敗北シーンを信者に見せてんじゃねーよ!


キッド:戯け、戦いをけしかけたのはお前だろう


狐狗狸:ええまあ次回以降で色々と起死回生
図るから暴れないでよ?


リズ:つーかシュタイン博士のやり取りは
ばっさりカットかよ


椿:(管理人の顔色見て)そ、そこは10巻を
読んでもらうってコトでいいんじゃない?


パティ:きゃはは、10巻買えコノヤロー!


ソウル:露骨なステマじゃねーか
どこの回しモンだよ


狐狗狸:"布教"と言い換えてもヨシ




長編拝読ありがとうございました、次回
アラクノ行く前に捏造挟む…予定です


様 読んでいただきありがとうございました!