波長を合わせなければ、目の前の敵に勝てない





「黒血がマカに…それに今回は
チームの皆にも伝染るんじゃないか?」


「チームでの「魂の共鳴」は間接的なつながり
マカとは強く強く共鳴しなければ伝染らないさ」



そう言って小鬼は、狂気の促進と引き換えの
提案を口にして部屋へと誘い





己が裡で葛藤を続け―ソウルは決意する





『みんな聞いてくれ』


満身創痍の中、モスキートへ必死に抵抗する
最中の仲間へ彼は呼びかけた





『これからチームの波長を「音」で伝える』


「「音」でって そんなコトー…できるの?ソウル」


『ああ 「対抗授業」を繰り返しているうちに
やれると思ったんだ』





「魂感知」に長けるマカと共にいたからこそ

彼女を通してソウルにも皆の波長が伝わって来る





『だけど どうやって伝えるの?』


魂でピアノを弾く…「音」もお前らの魂に
直で伝わるコトになるな』





ほんの少し 六人が呆気に取られた表情となり


次の瞬間…とても楽しそうに笑い出す





「何だよ…?何がおかしい?」


いぶかしむソウルへ マカ達はいつも通りの
軽いノリで口々に言った





「だって みんなで作戦練ってたんだよ
嫌がるソウルにどうやってピアノ弾かそうか」


「もったいぶってんじゃねェよ」


「磁場にいられる時間はもう5分とない
ゆっくり聞けないのは残念だね」


『聴かせてくれる?ソウル君』


『楽しみにしてたんだぜ』


『うん♪後で君たちにも自慢するよ』





心待ちに望む仲間を見やり、小鬼の案内で
"部屋"へと足を踏み入れたソウルは





「いい客だ」


漆黒のスーツを身にまとって微笑む





スポットライトに照らされたグランドピアノの
フタを持ち上げ、席に腰かけ


小鬼の期待も悪い夢に続く不安をも取りこんで







魂のまま指を鍵盤へと叩きつけて「音」を奏でた












Settimo episodio 魂の共鳴











言葉よりも、もっとずっと強い 確かな響きが


全員の魂の波長をまとめてゆく






「す……すごい!!


「みんなの波長が伝わってくる」







微動だにしない三人へ好機とばかりに
モスキートは拳を振りかぶって迫る





「死ねぃ!!」





だが 次の一瞬で


降ろされた拳を瞬時にブラック☆スターが受け止め

マカとキッドは床を蹴って飛び退く


退いた反動を利用して、マカが突貫する


打ち下ろされた鎌はガードされるも、右拳が
届く前に彼女が頭を下げ 間を置かず

ブラック☆スターの一撃が老人の横面を叩く





何ィ…先程までと動きが全々ちがー…」


息つく間もなく背後からのキッドの追撃が
撃ちこまれ バランスを崩すモスキートへ


七人は最適な連携で 的確に攻撃を加えてゆく







――――――――――――――――――――





磁場内部へ突入した後発三人も、800年前の
光景に戸惑い 通路に棒立ちしていた





何だコリャ?ここの周りの建物って 全部
オレらのいる島の、あの崩れてた廃墟だよな?」


「ええ、壊滅していたハズの施設のようですね
一体この磁場の内部は どういう仕組みでしょう」


『さあ?トコロで君 顔色が悪いよ』


「はは…ちょっと、寒さがこたえてるのかも」


「やっぱお前 外で残ってた方がよくね?」


「大丈夫だって、これくら」







磁場のもたらす"耳鳴り"に満たされ
掻き乱される思考に流されないように


どうにか必死で踏ん張り続けていた少年の耳に





鼓膜にこびりつくような気色の悪い蚊の羽音と


魂が震えるほどの、ピアノの演奏が届いた






聞こえる…そこに…いるのか!」


「本当に平気ですk…あ!ちょっと!!


問いかけるオックスに答えるどころか

ロクに目も合わさず は通路を駆け出す





「ってオイ待てよ!どこ行くんだ!」





無論、彼らも慌てて追いかけるが


道中の横合いから 行く手を阻むようにして
数匹のいびつな白い巨人が現れた





「なっ…こいつら、前夜祭ん時の!





出会い頭に一体返り討ちにされたため
少年の突破こそを許してしまうも


残りの巨人は いまだ二人の眼前に立ちはだかる







――――――――――――――――――――





七人の怒涛の連撃に防戦一方を強いられながら


自らの装甲を当てに反撃の期を狙って老人が浮く


だが椿と魂を共鳴させたブラック☆スターの影が

下から伸び上がるように彼の巨体を捕縛し


動きが止まった一瞬を見計らって、引き寄せる





「影☆星 寄せ斬り」





ガードをしても ピアノによって共鳴率が更に
高まったすれ違いざまの一撃には耐え切れず


モスキートの両腕から勢いよく血がしぶく





「ぐぁぁあああ」


「ひゃははどうだ…椿 妖刀モード解除だ」





すぐに共鳴は解かれるも、やってくる反動は重く
さしもの彼も息が上がり胸を押さえる


その僅かな隙に乗じて 敵が鼻先を鋭く突き出す


気づいたものの、この後の段取りと高い"耳鳴り"に
マカのアシストがほんの数瞬遅れる





しかし それを肩代わりするかのように


駆けつけたが 腕を片刃へ変えながら跳んで





「オイ、なにナメ腐った真似しようとしてんだ


老人の顔面を叩き潰すつもりで切りかかる





生憎、体格差もあってか彼の奇襲攻撃は身体ごと
弾かれるように押し返されたけれど





お〜の〜〜〜れェ〜い 生意気なガキめ!」


『共鳴率安定―ノイズ2.4%―』


「お前の鋼の肉体に亀裂が入ったようだな」


新たな闖入者を認めた事で 彼らから少し距離を
取ったモスキートへ照準を合わせ





「デスキャノン!!」





キッドが 必殺の一撃をお見舞いした


けた違いの威力を誇る波長は、ガードした
腕の亀裂をより深めてゆき


すさまじい爆煙が その場に立ち上った







「いつもちまちましてて忘れてたけど さすが死神…」





一通り感心するマカへ、が訊ねる





「ねぇマカ あのジジイはアラクネの手先の
悪魔かなにかなのか?」


「アラクネの手先には間違いなさそうだけど…
てゆうか君、一人でここに?」


「いや「信者なんかどうだっていいだろ
ジジイが先だ」



「だな すまんが説明は後回しだ」





少年は首を縦に振って、三人に習い身構えつつ
周囲に感覚を集中して警戒する





煙が収まった先には 両腕が吹き飛ばされて失せ

足と床に差した鼻で体を支える老人がいた





「ぐぬう…私の腕が…バランスが保てん…」


「よし ガードは解けた、帽子の中の
魔道具をいただこう」







形勢逆転し、目的を達成しようとした六人へ







『いや…もう終わりだ』





演奏を止めたソウルが タイムアップを告げる





「どうしてソウル!!まだ1分ある
相手はあの状態!!時間はかからないよ」



「フフフ…一人冷静な者がいるようだ」


『忘れたか?このジィさん変身する前「400年
…100年で十分」
…そんなコト言ってやがった

まだまだ変身を残してるってことだろ』





"敵も味方も10分しかいられない"磁場の制約を


変身によって片方だけ伸ばされたなら、どちらが
破滅に近づくのかは 言うまでもないだろう





「そろそろ体が映像化し始めるぞ
健闘に免じて今回は見逃してやろう…


さあ何もできず引き返すがいい 無念を背にな」






瀬戸際まで敵を追い詰めた三人は悔しげに
顔を歪め 思い思いに言葉を吐いたが


映像化し始める体と体力の限界はどうしようもない


歯を食いしばり、各々が踵を返し始める







……そんな中 いまだ一人だけ





「だったら俺がテメェだけでもブチ殺ってやる
魔女も魔女の仲間もみんなみんな死刑決定確定執行





髪の隙間からこれ以上ないほどギラついた
鳶色の三白眼を覗かせて敵を睨み


怨嗟の言葉をまくし立てて 少年が両腕を武器化し―





止めろお前はオレたちを巻きこむ気か」





キッドの一声が、彼の蛮行をすんでで止める





っ!…ゴメン そうだね、僕らは "チーム"だ」





激情を "耳鳴り"を 半ば無理やり押さえつけ





少年も三人同様 急いでその場から離れてゆく







「急げ急げ時間がないぞ フフフ…私は
200年前の姿に戻り悠々と帰らせてもらおう」






はやし立てるように彼らの背へ言葉をぶつける
モスキートも 自らの姿を変えて退散し


小鬼がげんなりとした顔つきで、ソウルへ言った





「とんだポテンツ様だな…がっかりだぜ









通路の先から戻った八人と、巨人を蹴散らした
オックスとキリクが無事に合流する





「何でこんなトコロに 二人も外にいたんじゃ」


「お前らが心配で様子見に来たんだけどよ…
ったく救護班一人で勝手に進んでどーすんだ!


「ご、ゴメン マカたちが心配でつい」


「…もしかして いきなり走りだしたとか?」


「ええ、まるで何かに引きつけられてでも
いるようでしたね…彼の独断と途中の邪魔が
無ければ三人で皆さんと合流する手筈でした」





オックスの発言に、平身低頭謝る少年を


マカチーム六人は納得した面持ちで眺める





一人距離を取り 息を切らせている
ブラック☆スターに気づいたキリクが





「どうしたブラ☆スター らしくねぇな」


「うっせぇ…だまって肩かせ、じゃ
弱っちすぎてこっちまで倒れちまわぁ」


「ああ そのタメに来たんだ」


肩を組みつつ ニッと口の端を持ち上げた直後





十人の目の前でピラミッドが爆発した


「うわわわわわわわわっ!?」


「な…!!!何だコレ!!!やべぇ!!


「もうダメだ!!間に合わない!!キムー!!!






目を剥き大口開けて慌てふためく三人を見やり





大丈夫 これは800年前の映像
この磁場の中で起きた大爆発を見ているだけよ」


チームを代表してマカが冷静にそう告げる





それでもあわてる三人と落ち着いてる七人の身体を


映像の爆風と衝撃とが、通り過ぎていく





「す すごい ホントだ…」


「スペクタクル…って、君!大丈夫!?


「あーうん平…っごめウソ、正直吐きそう」


『ここ出るまでもうちっとガマンしとけ、後で
背中ぐらいさすってやっから』





真っ青な顔をしてへたり込んだ少年へ
側にいた二人が手を貸すかたわら





「オイこらキリク、今オレ様を盾にしたろ?


「いやブラ☆スターならアレぐらいじゃ
くたばんねーだろが もろとも死ぬよかマシだ」


武闘派コンビが先程のやり取りで口ゲンカを交わす





賑やかな周囲をよそに、収まらぬ爆発から
視線をそらす事無く キッドは呟く





「帰ろう…」





あの時ふらりと現れた"魔術師エイボン"の存在


彼の思考は、その一事で占められていた





――――――――――――――――――――







物陰に寄りかかるシュタインと共に待っていた
マリーが、磁場から戻った十人を目にして駆け寄る





戻った生徒達のうち、マカチームの全員は
一様にボロボロで 表情は暗く沈んでいる





「申し訳ありません…魔道具を奪われました…」


キッドの報告に、しばしの沈黙が降りる





「勝手なことを」


マリーの右手が高々と振り上げられて


生徒達は全員、受けるであろう痛みを
覚悟して目をつぶり 身をこわばらせる







けれども 痛みはやってこなかった





彼女は両手を目一杯広げ、戻ってきた生徒達を
まとめて力の限り抱きしめたから






…もっとも人数が多すぎたせいで端にいた
は 耳や鼻の辺りをしたたかにぶつけ


ブラック☆スターは何故か首に腕が
クリーンヒットして苦しんでいたけれども





「マリー先生…ッ」


学校に戻ったら全員「呼び出し」よ
覚悟しなさい
……無事でよかった」





目に涙を溜めて、それでも怒ったように告げ


そうして 安心したように笑った彼女を見て





「心配させてゴメンなさい…先生」


謝りながら は強く思った





"この人を一人にしないようになりたい"と








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ピアノでの波長共鳴には文字通り
割り込む隙間はありませんでした、けど今後の
夢主の根幹にも関わるので無理くりねじ込んでます


マカ:今更だけど、磁場の中でも魔力が
分かるのって かなり強い能力だよね


キッド:ああ、そうかもしれんな…だが
いかんせん制御し切れていない分 危なっかしいな


椿:…それでも、助けに来てくれたのよね


ブラック:ったく信者といい、アイツらといい
お節介な小物ばっかだぜ


リズ:とか言って本当はちょっと嬉しいくせに


小鬼:おいコラ管理人、前回のあの言葉は嘘か?
結局オイラほとんどしゃべってねーじゃねぇか


ソウル:ムダに尺食うからだろ、ざまぁ


パティ:けどあの巨人 何のために出てきたの?


狐狗狸:悪あがきと…後は次回に説明しますよ




激しい争奪戦が終わり 勝者も敗者も島を発つ


様 読んでいただきありがとうございました!