轟々と渦巻く磁場の真ん中へと足を踏み入れ





ぷあ もう〜二人とも早…」





中へと突入した七人は、予想だにしなかった
目の前の光景に立ち尽くす





あれ?磁場の外から見た時は建物全部
壊れてたのに 直ってる…」


森林豊かな遺跡の奥にある巨大なピラミッドを
見据えながらも マカは二人の魂反応を探る







「オイッ…空を見てみろ」





ブラック☆スターの一言で上空を仰いだ七人が





『…あれは!』


「外には出られないはずでは?」


いるはずの無い人物の姿を見つけて目を見開く





「死神様!?」





黒衣にドクロの仮面をかぶった横顔の 七人がよく
見慣れているその横顔


けれど…その仮面の形も 雰囲気もどこか猛々しい





「でも何か 感じ違くない?」


「あれは話で聞くイカツイ頃の父上…
死武専が出来る前の姿」





マカへ答えるように呟き、キッドはこう続ける





「この磁場の中…どうなっている」












Cinque episodio 狙ったものは必ず貫く











不可解さを抱きながらも、マカチームは
堂々と見えているピラミッドへと進み始める





そんな彼らの背後から様子を伺い


暗闇から…数匹のネズミが目立たぬように
物陰から物陰へと這い出し始めた





――――――――――――――――――――







雪上の廃墟を飛び移りながらの、死人とミフネの
一騎打ちは熾烈を極め


再び雪へと潜った彼めがけ 侍の刀が降り注ぐ





「外したか…」





円柱に佇むミフネから身を隠し、様子を伺う
死人の腹に刻まれた傷に 梓が気づく





『死人さんッ大丈夫ですか?』


「かすり傷だ ナイグスとの合流ポイントまで
もう一ふんばりだ」







――――――――――――――――――――





魔道具開発施設の大事故で生じた強力な磁場に
刻まれた 当時の状況を眺めるマカ達の前に





『アラクネ様』


『モスキート様が馬車でお待ちです』


「あれがアラクノフォビアのボスか」





現れた過去の蜘蛛の魔女・アラクネが
ピラミッドを見据えたまま不敵にこう言う





『死神も上手くおびきよせた…あとは
"BREW"ごとこの施設を爆破させるだけですわ



「何てことを…」







ババ・ヤガーの城内にて 一進一退となっている
争奪戦の行方を見守る現在のアラクネは座して望む





「何としてでも手に入れなさい」





あの程度の爆発でも壊れない最高傑作、
確信しているからこそ 施設ごと爆破し


必ず手中に収めたいからこそ、死神の目を
欺き通すためだけにその存在を世間から消した





ワイングラスを片手に 彼女は不遜に呟く





「800年を経て"BREW"を手にするのは
魔女たちでも死武専でもない…私(わたくし)









呟きを拾い、興奮しきった
こらえきれずに腕を振り上げ 荒い息と共に叫ぶ





さっすがメデューサお姉様のお姉っ様!
なぁんて素敵にイカれてるのかしらぅあぁ〜」





その一言で"エイボンの全てが詰まった魔道具"
対しての興味が彼女の中で強まるも


油断なく磁場の内部と…そして"外"とを視て





「予想っ外に消耗が激しいぃわう…これなら
もうちょっと予備持ってくればよかったわん」


気だるげにぼやき、意識を本命へと集中させる





――――――――――――――――――――





群がる茨と、アラクノフォビアの兵隊達を退け


背中合わせに三人と固まったままオックスが言う





「まもなく予定の20分になります、キム
退却の合図を出して 援護します」


「しっかり守ってよね」


「何かやる気だ 娘を狙え!!」





キムを標的として一斉に兵士が突っ込んでゆくが


紙の茨を断ち続けていたの足刃払いが
その動きをけん制させた一瞬をついて





『CHANGE「PIXY」!
(チェンジ ピクシー)』






細長いトンボのような形状に変化した
ジャクリーンが吐き出した炎を推進力に


彼女は、空高く舞い上がる





阻止すべく飛び上がった二人をオックスが
間髪いれずに叩き落すが


キムの背後からゴーレムが右腕を突き出してくる





「させるかよ オックス!


クロスタックルでその一撃を防ぎ、キリクの
一声で オックスが槍を低く構えて地を蹴った





「共鳴連鎖 雷王穿!!」


下から突き上げる雷撃がゴーレムの片腕を
吹き飛ばしたタイミングを見逃さず





「電光石火 サンダーコンビネーション


宙へと舞ったキリクの、雷を帯びたチョップと

雷槍のもう一撃とが直撃し ゴーレムを粉砕した






強い…さすが選抜された精鋭チーム!」


「それほどでも、さあ今ですキム!」


「サンキュー 行くわよジャッキー」


『エエッ…なっ!?







雲をつき抜け上昇を続ける彼女達の進路を阻むように


巨大な紫の怪鳥が、つがいでドリルのような
クチバシと研ぎ澄まされた刃に似た翼をはためかせ


同型の小鳥を引き連れて群がってくる





きゃあぁぁっ!ちょっ、何このウザい鳥っ!!」





空中で旋回しながら焼き払うキムだが、燃え落ちる
小鳥は怪鳥から次々と生み出され


怪鳥自体は炎に炙られても焦げ跡ひとつつかない





上空の二人の援護へ回ろうとするオックス達を

アラクネの兵隊としつこく生える茨が許さない





「くそっ、邪魔だぜこの茨…!」





毒づくキリクの元へ、茨と兵士とをかいくぐり
がどうにかたどり着く





「キリク君!僕をあの鳥に投げてっ、早く!!


「よくわかんねぇが…しくじんなよ
うおぉりゃぁぁ!





頼みに答え、彼は武器化した魔鋏を高く放った





「ちょっ、何でアンタが…!?」





瞬時に人へと具現したが、周囲で舞う
紙の小鳥の一群を踏み台にして


片刃に変えた腕をひらめかせる





「罰殺っ!」


波長を帯びた一撃が放たれ 目の前の一体が
散り散りに裂かれて落ちていく





直後、キムを追い回していたもう一体があっさり
目標を少年へと変えて 迎撃に入るが





「こんの腐れ鳥が…たやすく俺たちの前に
立ちはだかってんじゃねぇぇぇ!」






喉元狙いのクチバシを左腕でかろうじて防ぎ


無数の切り傷を受けながら、交差させた彼の右腕が
怪鳥の胴へと突き刺さって


刃が青白く輝き…鳥の巨体が大量の紙屑へと戻る





束の間 その光景を見ていた三人が呆気に取られ







「ってヤベ、この後のコト忘れ…あぁぁぁ!





当人はそのまま落下し、受身を取り損ねて
雪上に転がり 紙の茨ツルに巻きつかれた





が オックスによってツルが切り払われ


キリクの腕が倒れていた身体を無理やり引き起こす





「しまらねーなお前…あの鳥モドキ片付けた
意外な俊敏性あんのに、そのド下手くそな着地て」


「イッテテ…苦手なんだって着地は」


「同情しますが鍛錬不足なんじゃないですか?
それより、大丈夫ですかキム!





残っていた小鳥どもを炎で焼ききって撃退すると





当然!アンタらは大人しくそこで待ってなさい」


強気な笑みを浮かべ、今度こそキムは空高く翔ける





――――――――――――――――――――







打ち合わせ通り、廃墟に仕掛けたトラップエリアへ
ミフネをおびき寄せた死人達は


地上と地中を駆使して強烈な一撃を食らわせる





「ナイグス」





新たに出来た肩の負傷に構わずパートナーを呼び


吹っ飛んだ相手へ死人はナイフごと突進する





迫った彼の猛攻を右腕で受け、空いた手による
手刀を自らがつけた肩の傷口へ突き入れ


そして互いにヒザを顔面へ打ち込んで


吹き飛びざまに距離をおいたミフネが、担いでた
刀の一振りを携えながら言う





なるほど…お前を見ていたら
ブラック☆スターの様な子が育つのも納得できる」


「あんたはプロフェッショナルだ
嫌いじゃないぞ…殺すには惜しい」





死武専に、との誘いを無言のうちに断られ
身構えた二人の間の空へ割り込むように


死武専のマークがジャクリーンの炎で描かれた





「あれは…退却命令」





油断なくナイフを向けたまま、死人は言う


「これでこちらはお前と戦う理由が
なくなったわけだ 刀をおさめるか好きにしろ





ミフネは、自らが狙われる可能性をも承知で
刀を納めて答える


「おもしろい 行け」





全軍へ撤退を命じながら立ち去ってゆく死人達を

侍はただ、静かに佇んだまま見つめていた









ほぼ同時刻 空のマークを同じように見つめ





「うぅーん ちょっと遊びすぎたかしらん
今からヤって間に合えばい・い・け・ど…」





どこか物足りなさそうな
"隠れ蓑"代わりの紙ドームを解いて空へ舞う





スレスレでドームへ刺さる刃の雨をかわし





いたぞ!アラクネ様が仰られていた通りだ!」


「アラクネ様を邪魔する者は死すべし」


武器を手にしたアラクノフォビアの一群に
睨みつけられ 派手な魔女は素直に驚く





あぁんv見つかっちゃった…」





敵を見くびっていた自分を心の中で反省し


艶っぽいため息を一つつき、彼女は一枚の紙を
濃いルージュの引かれた唇へと持っていく





「もうちょい荒っれるかと思ってたのにぃん
仕方ないから諦めてあ・げ・る…今回はねぅえ?





数人の兵隊を前に 余裕のにじむ口調を崩さず


紙を食べて生み出した術で は彼らを
赤と白のいびつな残骸へと変えていった





――――――――――――――――――――







抗い続けるも、進行していく狂気に目がくらんで


息も絶え絶えにシュタインがその場にくず折れる





「あなたの中で…何が起こっているの?」


「わから…ない…だが、気を抜くと
思わぬ行動を起こしてしまいそうだ






額を押さえる彼の言葉と視線に、側で支える
マリーが僅かに恐怖を覚える





そこへ彼らを見つけたマカ達が駆け寄った





「博士 マリー先生、大丈夫ですか?」


あなた達!どうしてこんな所に」





三人の声に反応し、シュタインは身を起こすと
厳しい口調でこう言った





「何をやっている 命令違反だぞ」


「磁場へ入ってもう20分になります
早く外へ 体が崩壊しちゃいます」


案じたマカが言って間もなく、マリーの腕が
風景に溶け込むようにぶれ始めた





「外の戦況はどうなってるの?」


「そっちはオックスたちのチームと
任せてありますから心配ありませんが…」


「魔道具は?」





訊ねるブラック☆スターだが、二人がいまだ
魔道具を入手していない事は一目瞭然で





「オレたちはまだ10分以上残っているので
魔道具を探します」



「行くぞ」


「早く避難を」


ちょっと!!待ちなさい!!」





返事を待たずに走り出した三人を追いたくとも


映像化し続ける体と いまだ満足に動けない
シュタインとを放っておけず





「あの悪ガキども 後ではっ倒す!!」





歯噛みして、彼を担いだマリーは外を目指す








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ギリギリなんとか争奪戦進展です、一応
夢主のサポ部分とか描写できて一安心


キム:あっそう それよりアイツ本当なんなの?


オックス:奇妙な茨が出てきてから、どうも少し
彼の態度というか 様子が変わったように思えます


狐狗狸:そいつはまー…今後分かりますよ(多分)


キリク:しかしいまいち分かんねーヤツだけど
思ったよりは役に立ってんだよな アイツ


狐狗狸:それが彼の"普通"たる所以ですから


アラクネ:…少し好きに泳がせておいたけど
目に余るなら潰そうかしら?


狐狗狸:何故ここに出てきたし、そしてそれは
どっちのことを言ってるんですか(汗)




アラクノフォビアの刺客との一戦!果たして
BREWを手にするのは…?


様 読んでいただきありがとうございました!